閑話 とある日の商会(トラヴィス編)4
「さてと…本番だ。気を引き締めて行こうか。」
「「はい。」」
会議室に通されるのは私、セル、クリッカの三人。ひざを突き合わせて協議するには丁度よい部屋だ。
机の奥(上座)には宰相殿、アルビフロラ殿下、手前(下座)に2名の文官1名の武官…アクレ将軍か。。勿論王はいない。こうした場所では”お願い”ができないからな。”命令”になってしまう。最も頭を下げるわけにもいくまい。
対面には知らぬ顔が並ぶ。こういった会議だとマネイン子爵が出張ってきてレベンス会長、クラグラ副会長と相場が決まっているのだが…さて。
「お初にお目にかかる。この件で臨時代表を務めることになりましたホビーと申します。迷宮監察官をしております」
なるほど。レベンスらは失脚した…か。イモのツルでも最初の方にぶら下がっていた俗物。
「皆そろったようなので今日の会合を開きたく思う。ヴァートリー商会には物資の購入、搬入に多大な協力を…」宰相殿の挨拶で会議が始まった…。
「と、私の耳に入ってきた情報では、我が”蒼”隊は功績は大。一切譲歩する必要はないと思われます。とはいえ、この国の宝。ダンジョンでありますから。条件としては、S級採掘ポイントから産出される希少金属の権利、40%で如何でしょう。金子ではなく、産出品の物納で。」
「むぅ。40%か。」
「ヴァートリー殿それは…」「40%!そんな横暴では!」
「残念ながらこの場に”迷宮協会”の発言権はないと思われます。要請のありました地図につきましてもお応えできかねますな。責任の一つでも感じておられるのかな?長が変わったといえ罪無しとはいえませんぞ。」
「うぐぅ。そ、そうは言ってもだな…」
「降って湧いたような話。国としても60%もあれば良いと思いますが?しかも、二部屋。その他のダンジョンの遺構、休憩所として使える隠し部屋、さらには、不良クランの排斥。危険な罠、オーク云々の情報。これらの事を加味すれば十分お安いと存じますが?もちろん国との取引。国へと譲渡となりましょう。協会の手数料などは一切含まれません。きっかり40%いただきましょう。そうすれば採掘権、占有権を譲渡しましょう。」
「なるほど。商会の言うこともわかる…な。今までは何一つ変わることが無かった。隠し部屋一つとっても新発見はいかほどぶりだ。ホビー殿。」
「はい…100年は…」
「私は貴協会を全く信用しておりません。とくにオークの不祥事。あのような深部に娼婦やら、非戦闘員の工夫を送ることを認めていたのだから。下手をすれば”溢れる”原因にもなったでしょうに。いや、これが予兆かもしれぬな。これから新体制となるそうですね。健全な運営をし”有用”であることを証明されるとを期待しておりますよ」
「はい。」「…」
「…結論は出たようだな…40%が妥当…か。」
「王…」
やはりいらっしゃったか。衝立の陰で成り行きを見ていたのであろう。宰相が下がり場を王に譲る。
「して、ジョルジュよ。地図はどうにかならんか?」
「さて。まだ会っていませんし。本当に持っているかも不明でございますれば。私からは何とも。その前にこちらであるだけの地図を重ねて見られれば?より精度の良いものができるかと」
「それよな。恥ずかしいことに”攻略者”を締め出しておってな。全くと言っていい程に無いのだ。」
「な、なんと…そのようなことあり得ますまい?…ホビー殿?誠でしょうか?」
「え、ええ…一つのパーティしか…階層の”占有”も確認されておりますれば…ある階層以降…通さなかったなど…」
「…考えられない愚行ですね。そのような状態を許していた組織、国に提出はされないかと。きっとこれだけの不祥事。彼らも不快な思いをしたのでしょう。先ず無理と思ってくだされ。」
「…き、貴商会のダンジョンへの立ち入りを禁止…」
…ふん。何様だ?法衣貴族なのかもしれんが…馬鹿の発言を手で制す。
「まだ貴公らは事の重要性すら気づいていないのかね?なんと愚かな…どうせ、現執行部、ホビー殿以外の方は追われるか責任を取ることとなるから教えましょうか。別に彼らはダンジョンなんかに潜らなくとも十分以上に生活ができております。今回も海洋国への用事のついで。貴方達のようにダンジョンが全てではありませんよ。それにこれだけの功績の者を出入り禁止に?大変興味深い話でございますな。この話を聞いた冒険者、商人たちがどのような行動に出るか…試してご覧にいれましょうか。」
「…く」「…」
「そのような事とならば、この国から商人と冒険者が消える…な。」
「なぜでございましょう?父上?」
「簡単に言うとだな、どんな成果を上げても結局は良いように取り上げられるということだ。やる気などでまい?産出物が減れば商人も減る。もっともヴァートリーが引いた時点で我が国の信用は激減する。しかも多くの優良クランもヴァートリーから援助を受けていよう。皆、続くであろう。回復までかなりの年月が必要であろうな。採るべき手法としては下の下。下策以外の何ものでもなかろうな。そんな無謀な権限を振り回すような、不利益しか生まぬ協会…もういらぬか?」「…」「あ…ああ…」
「なるほど。小麦なんかの買い付けにも影響が出ますね。」
ほう。ただの脳筋殿下じゃないな。小麦に眼が行くだけでプラスだ。民の事を思っているのだろう。この国の自給率は低いからな。
「それともう一点。協会は冒険者あっての協会。勘違い召さるな。貴公じゃ鉱石ひとつ拾ってはこれまい。冒険者をサポートする…この点をお忘れなきよう。」「…」
もっともクビであろうがな。組織改正や刷新には”悪者”が必要だ。
「ジェルジュよ。S級採掘場の権利について採掘物の40%で合意としよう。周期はわからぬが都度交渉となろう。ご苦労であったな。”蒼”の隊の功績に対し、感謝状と少ないが金一封が出よう。引き続き物資の購入を任せたい。」
「はい。解りました。」
「「はい」」
「うむ。」
王が退場され、顔面蒼白な協会の現執行役員も掃ける。彼らの今後はなかろう。この場でも何一つ私から譲歩を引き出すことができなかったのだから。無能の誹りは逃れられまい。
「宰相殿。今後の運営は半民となるようですが…税収…発掘品に対する税はどうするおつもりか?」
「そこよな。ほとんどのクランがマジックバッグを使用している。頭が痛いところだ。中身を出させ都度査定…と行きたいが…まぁ無理であろう。会費を上げるくらいであろう?今まで通り。販売の方の税収になるだろうな。国外への持ち出しに税をかける案も出ておる。それらも迷宮に入る契約書に記載することとなろう。」
「”無限収納”、”収納”はいかがします?」
「…神のギフト。検めることはできぬな…これは致し方なかろう。良心に訴えるしかあるまい?」
「そうですね。まぁ、そのギフトを授かりし人物もそうそういないでしょうが。今代、5人もおりますまい?特殊な従魔の流通も最近は聞かぬし。最も魔物使いも珍しい職種です。」
「その”全て”を持った人物も存在るのだがな。”無限収納”に”マジックバッグ”、特殊なスライムの従魔…」え?
「それは…?」
「安心せよ。ホビーも存じているし、従魔にしたら協会では知られている。なにせ魔物の管理は重要だからな。」
…ミッツ殿…だろうか?魔獣使いも開眼されたと聞く。新たな従魔?一人一体では?ま、常識は通じぬか。
「当面は27階以降は封鎖となろう。もっとも”飢える”かは知らぬが…ある程度の数、指導者を狩ることができるまで続くだろう。それまでに協会規約の見直しも必要となろう。ヴァートリーとしても知恵を貸してほしい。ついては役員の椅子一つ用意するが?」
…役員に成ったら最後…情報提供を求められるな。
「いえ、外部の助言者という形であれば。国の行いに商会が深くかかわりますと何かと周りも煩いでしょう」
何を今更?勇者の国にだしてるって?そりゃ、私は商人だからな!
「ふっ。そこまで警戒せぬでも良かろう?まぁ。言いたいことはわかった。役員云々は忘れてくれ。遠路はるばるすまなかったな。」
「いえ。伝説のS級採掘点ですので。今更でございますがおめでとうございます。そうそう金の鶴嘴は?まだうちが持っているのでしょうか?」
「いや。国預かりとなっておる。その際に別の装備品もあってな。頭にかぶるものだが、立ち合い者がミッツ殿に聞いたところによるとセットだそうだ。我が国がもう少し関わっていれば…ま、後の祭りではあるがな。」
最初からぶん投げるつもりだったのかぁ。まぁ。うちにも文句はないがな。
「分かりました。今日中に締結を?」
「そのつもりだ。後で契約書を渡そう。」




