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閑話 一方そのころマリアさん。下

いらっしゃいませ。

 「会頭、聞こえます?」

 『ん?ああ!マイハニー何のようだい?今、急いで準備してるよ!急いで行くからねぇ!』

 「…お父様…ダフリカ殿下、グラファド公爵家ライル様がここにいらっしゃるのですが。…まったく…ほんと、恥ずかしいわ…」

 『な!こほん…これは、失礼いたしました。お久しぶりです、ライル様。一週間もあればそちらに行けると思います』

 「その件だが…考え直してはいただけないか?もう、アホの任も解いた…マリア殿にも相応の謝罪をさせる。」

 『通商の妨害…これは多少は我慢できますが…当家が借り受けた”預かり物”を献上せよというのはいただけない…当家の所有する品でしたら、交渉もできましょうが…しかも、国指定の情報提供義務の案件…その品を私物化しようなどと…普通に考えて異常…王に唾する行為だと思います。』

 「そなたの言う通りである…その情報も聞けずじまい…まことに恥ずかしい、が、そこを何とか…。」

 『う~~ん… 『会頭のおじさん、これ渡してって。』 これは’みんと’様? 『会頭、聞こえるかぁ。公爵殿、お久ぁ~近くだったら、行くけど、もう国出ちゃったからな』 み、ミッツ殿?』

 「ミッツ殿?こ、これは久しく…我が国にいた…と?」

 『『ええ。ミディさんとこに用があってね。それにその”魔槍”うちで貸したものだったんだわ。なぁ、会頭も商人の矜持ってのもあるが、何処でもアホはいるし、排除したんだろう?国としても迅速に対応した方だと思うよ。ここはひとつ今までの付き合いってことで。鞘に納めん?』 …しかし… 『メンツもあるのはわかるが、落としどころに丁度いいべ。お国の王族、殿下も頭下げておられるのだろう?それに”魚村”に行けなくなると困る。死活問題だわ。それにライル殿には世話になってるしな。頼むよぉ、この通り!』 『おっさん、貸して。会頭!ビルックも海洋国に修業に出したからな!今更通行禁止なんて言われたらめっちゃ困るぞ!』 …トワ様…わかりました。今回は殿下とライル様の顔を立てましょう。カタリーン良いね?』

 「ミッツ殿ぉ…かたじけない。トワ様もお口添えありがとうございます。また遊びに来てくだされ…」

 「分かりましたわ。会頭。マリアも、無事でしたし。」

 『『ええ、近いうちにまた。マリアさん、なんか悪かったねぇ。虫が寄り付く代物だったわ。奇麗だものなぁ。本当に無事で何より。ライル様、後は頼むよ~ん。じゃ!』 ”ぷ”…そういうわけです…今後ともよろしくお願いします。殿下。グラファド公爵様。それでは失礼します。’みんと’様これは?…ええ。…こうですか?でも、カタリーンちゃんには会いたいな。用ないけど行っちゃおうかなぁ?トワ様に付いて行けばよかったなぁ…さてと、ちと早いが風呂でも行くか。…え?通話中…!…こ、これは失礼しました。”けらけらけら”』”ぷち”

 {……。}

 「…い、いやはや…支配人殿…今後ともよろしくお願いします。」

 「…はい。良い縁を結んでおられましたね。…しかし…お父様は…恥ずかしいぃ。ジョルジュ!マリア、中止ね!お店開けて。 「「はっ!」」 それではお茶を一服進ぜましょう。」…


 「ふぅぅう~良かったわい…何とか元の鞘に収まったわ。」

 「ええ。叔父上のおかげです。あの場に立ち会わず…審問会が開かれねば…」

 「知らずの内に、大ごとになっていたの。意味も解らず。2~3日もすれば、国民から問い合わせもあろうが…その時にはもう…まぁ、会頭が来てからの話となれば、より面倒であっただろう下手をすれば…本当に…」

 「?…。本当に?でしょうか?…しかし、利益も大事だろうに…何処の商会もこのような?」

 「ヴァートリーだけであろうな。信用ありき。利益よりもな。商売も実直。ちょろまかす輩もおらん。我が国より長い歴史を持つ商会ぞ?その信用たるや…」

 「なるほど…それと…ミッツ、トワと言う者共は?叔父上も親し気に…」

 「!控えよ。其の方は今のところ借りしかないのだぞ?彼らの口添えがなくばこんなにすんなり話も付かなかっただろう。」

 「はい…その正体は?」

 「…ディフェンの召喚んだ”勇者”様だ。知らせはなかったな…入国の審査の連中は…引き締めが要るのぉ」

 「ゆ、勇者様?」

 「ああ。機密事項であるが、もうお一人おられる。口外せぬように。」


 「おお!ライルどうであった?」

 「これは王…このようなところに。」

 「よい!して!」

 「人払いを…」…


 「そうであるか…ミッツ様の口添えで。事なきを得たか…」

 「はい。しかし肝を冷やしましたぞ…店に行ったら、閉店。中に入れてもらったら、撤退の準備…相変わらずの意思決定の速さ。すでに会頭も出立の準備を。」

  「ええ。叔父上の言うとおり…バタバタとしておりました…漏れ聞くだけで、かなりの国の事業などへ投資もしてるのですね…」

 「ああ。商人だからと言ってしまえばそれまでだがな…我が国政を支えてくれてると理解したか?」

  「はい。叔父上…」

 「どのみち一週間後、会頭が来れば、話はまとまるであろうが…」

  「はぁ?撤退…って?」

 「…当然であろうが。両方の頭が揃うて何も結果が出せなんだら、いい笑いものじゃ。ふふふ。変な顔をするな。それには王なりこの国の高官が公に膝を屈する必要があるのだ。それが、わしとお主の頭で済んだのじゃ。僥倖、僥倖。良い勉強になったであろう?」

  「は、はぁ…」

 「勿論、会頭殿が来るまでは経済、産業共に停止する…が、本気で撤退であれば、わざわざ来るわけがなかろうて。ダフよ。おぬし本気で、”今までありがとうございました。さらばです…”って挨拶に来ると思うてか?ふふふ。あれは、”うちの会頭呼ぶから、しっかり落とし前付けてください”ってことだ。此方からは行けぬしの。王が国を出て相手に膝を折るなどと、もう王ですらない…まぁ、親書くらいは送らねばなるまいな。」

  「はぁ…」

 

 「と、商会の方は元の鞘にとなりましたが、こっちの方は?」

 「いやな、義兄殿。でるわでるわ。恐喝、ゆすり、賄賂の要求…暴行の容疑まで。この短期間で…多少はあろうとは思ったが…あの、強欲のルテセンスですら、呆れてあんぐり口を開けておったわ。なかなかの見物であった。」

  「父上…笑い事ではありませぬぞ…で、この任にゴリ押しした者は?」

 「ゴリ押しした者はおらぬな。侯爵長子、であれば就く役職であろう?まぁ、今後より慎重を期す必要はあるな。其の方、やってみるか?」

  「私ですか?そうですね…」

 「それでは…」

 「うむ。毒酒を下賜することとなろう…な。あすこも確か下に二人いたな…当分はおとなしくしていよう。」

 「仕方なかろうな。反省も全くして居らなんだ。王よ其の方の子息たちも良く見ろよ。次代の争いに佞臣が跋扈しよる。」

 「そうだな…悪いうわさも聞く…引き締めよう」

 「頼む。この手で甥っ子を…なんて勘弁してほしいからな。それで、続いてだが、”魔槍の射手”については明日、改めて報告に参ると。」

 「分かった。義兄殿頼む。」

 「うむ。その足で休暇じゃな!マリア殿を送り届けてこよう。任せよ。」

 「…例の宿屋に行くつもりだな?」

 「ふふふ。最近混んでるようじゃ。泊まれるかはわからんがの。ふむ。離れを作るのもありじゃな…提案してみるかの。」

 「…ほどほどにな。」

  

 ・報告会。(ロウキ研究員)

 

 「これが、”魔槍”であるか…」

 なぜ…王が…このような報告会に?玉体を

 「で、ロウキ研究員、どう思う?」

 …ライル様…公爵家当主であり、大派閥の頭…

 「うん?いかがした?」

 「は!し、失礼しました。はい。資料院に保管しているモノと近しいもの、い、いえ、同じものと思われます!中空の構造。繊維の感じも。

 拡大鏡にて見ても差異は認められません。この、完品を見ると、まさに槍…返しも付いております。コレが高速で飛来しても全く見えないでしょう…マリア殿の証言によると、この槍尻に、糸が付いていたとか。私が調べたところ、同じような素材で直径、3mm程度の糸が繋がっていた事と確認できました。ここに断面があります。」

 で、私は、資料院、下っ端研究員のロウキ。子爵家の次男坊だ。この私が、このような大きな会議に出られるとは…

  「で、マリア殿。正体はこのちっぽけな貝だと?」

 と小馬鹿に対応する院長。もはや己の知識が全てな頭の固い老害だ。

 「マリア殿はおっしゃったではないですか、この10m級と!」

  「ふん。」

 「先にも言いましたが、ちっぽけではありません。10m以上の化け物。それに報告に来たのです。国指定案件ですので。この後の検証はそちらのお仕事でしょう?」

 マリア殿の言う通り…なのだが…このジジィのお陰でお蔵入り…かぁ。

  「ふん。必要はありませんな。貝が槍?ふん。忙しいので、引き返しても?」

 そうなるよなぁ…で、資料は寄こせと言うのだろう?どうにかなんないモノか…

 「ふむ。ロウキ。貴公はどう思う?」

 「は、はい。………私はもう少し聞き取りを。何よりの目撃情報、この槍の所在。その貝の生態観察も必要かと。」

  「必要ない!ロウキ。貴様も王の御前と思うて、調子に乗るなよ!」

 はぁ。…こりゃ、また、嫌味地獄かぁ。

 「院長…貴公も、もう年よな。引退せよ。資料院の重責。すでに果たせまい。」

  「は?王よ?今なんと?」

 へ?…王様?

 「ん?わかり辛かったか、頭の固い老害は要らぬ。クビだ。資料を変にいじられてはたまらぬ。私物はこちらで運び出す故、只今より立ち入りを禁止する。良いな!」 

  「んな!そんな!ご、ご再考を!お、お慈悲を…」

 な…院長が首ぃ?しかも、王命?文官らしき方が王に耳打ちを…影の者か?何か余罪が?

 …!わ、私は…何も無いな!うん!

 「どんな小さなことでも取り掛かろうと姿勢が見えぬ。そのようなものに重責は任せられぬな。ん…ふむそうか…副院長も拘束、別室に隔離しろ。調べのついてる子分共もな。」

  「はい」…。

 縄を打たれ、部屋を出ていく院長…それまでの事か?思い当たるのは…研究費の着服位だけど… 

「王、これは一体?」

 困惑顔のマリア殿。もちろん私も困惑している…

 「お恥ずかしい…平和が長かったのか、悪い噂があってなぁ。で、報告の続きをお願いしても?して、その考えに至った経緯は?」

 「はい。恐れながら…この情報は、ミッツと言う当商会に所属する者からもたらされました。一度、会敵したそうにございます。その者の知識で戦いは避け、撤退。その場に残されていたのがこの槍だそうです。複数本所持していました。当時は猛毒滴る”毒槍”だったそうにございます。その中空の構造は毒を注入されるためだと。」

 「ということは、検証方法はまずその小さい貝の生態観察が必要ですね。それで、そのミッツ殿の証言を得ることは?」

 「外国の者ですので。ただ、注意点として、猛毒を持っているので強力な毒消しや、治癒師を同行させよと。その大きさでも十分に人を殺傷するそうです。」

 「そうですか…漁村には伝わっているかもしれませんね。」

 「ええ。私どもも聞いてすぐに報告に参上しました。よって検証等もしておりません。」

 「それにしても、良くそのような知識を持っておられた…どこかの研究者の方でしょうか?機会があれば是非にお会いしたいものですね。」

 「…。」「…。」

 「…。」

 あれれ…聞いちゃいけなかったのだろうか?

 「その方は、”勇者”様だ。あちらの世界では常識なのかもしれぬ…」

 「いぃ!ゆ、”勇者”様!」

 「はい。大きさはこれくらいのが主流だそうですが…イモガイと言うそうですわ。天敵は同種の貝。大型の甲殻類…ただし、10m級だともはや敵はいないだろうと。育ったもの勝ちとおっしゃっていました。」

 「なんと…駆除は無理か…」

 「どうでしょう…”勇者”様達に依頼でも出します?まぁ、今まで通り、注意喚起でいいと思いますよ。あの海に無警戒で近づくなんてそもそもが自殺行為です。正体がわかれば漁村での警戒にもなりましょう」

 「そうであるな…急ぎ、検証をしてもらいたい。マリア殿のキャラバンにこの者も加えてはくれぬか?」

 へ?私ぃ?…まぁ、面白そうな研究材料ではあるし、”魔層の射手”の正体が知れれば。沿岸の村々でも備えが出来るだろう。

 「あら。お帰りは?」

 「…なんでも、公爵殿も行くそうだ…問題あるまい。」

 「あら…とても混雑してるわよ?あそこ。」

 「なぁに、貸し切りにせんでも。警備は万全であろう?」

 「そうですが…」

 「離れでも作ってもらおうかと思ってな。」

 「あらあら。」

 …何の話だ?公爵様と同行?調査…?大ごとだぞこりゃ!

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