ザックさんがやってきた!
「あ!おっさん!悪い!急ぎだ!」
本当に珍しいな。何事?トワ君の慌てようと言ったら。
「珍しいな。緊急事態?何があったの?」
「ザックさんが来た!しかも獣人の子を連れて。」
「へ?ザックさん?騎士団クビになったかぁ?わははははは!」
「笑いごっちゃねぇぞ。ビンゴだ!」
「な!と、とりあえず会おう。」
マジか!…。
「ようこそ。ザック殿。それと?」
間違いないな。そして…5人の子供達。成人の子もいるかな。
「あ、この子たちは…家族だ.」
ほう。そう言えるのか…
「…そうか。で?そちらの…お方は?」
ムキムキマッチョの御老体は?ん?大きな体を縮こませて。おいらの足もとに縋り、泣く。
「お、お初にお目にかかります。”使徒”様。私は、”原初の神々”の信徒。ドルトンと申します。ありがたいことに加護も得ています…お声も一回…ありがたい…ありがたい…」
号泣のドルトン老…
ザックさんもびっくりだ。
「ドルトン老?」
「じいちゃん?」
「さぁ、立ってください。まだ、悪戯はされていないようで何より。後程、廟に案内しましょう。」
「は、ははぁ。ありがとうございます…悪戯?ですか。」
いぶかし気なご老体。
「は、ははは。後程。ようこそ。わが家へ。君たちもよく来たね。」
さてさて。どうなることやら。
「”勇者”様って、神様?」
小さい虎人の子?が興味深げに聞いて来る。おいらも観察…猫人じゃぁないな。骨太将来、ゴリゴリが確約されている。白い毛と黒い毛…白と言っても白髪ではなく艶のある…白虎か?かわいいな。
ザックさんが好きなんだろうなぁ。同じように槍を背負って。ふふふ
「ん?違うよ。両方。ただ、魔力の多いだけのおっさんだよ。でも。たまに神様が見ててくれるんだ。」
「ふ~ん。むずかしいや。」
「そうだね。悪いことをしても神様はどこからでも見てるってことだね。だから悪いことはしちゃだめだよ。」
「はい!わかった!」
素直で良い子だこと。セツナっち、鼻血コースか?
「父ちゃんきれいだね!」
うちの庭…別世界だものな。ん?父ちゃん?
「ああ。そうだね。」
「父ちゃん?」
「どうやら、ミツル殿の後ろを歩いているそうです…」?
「ふ~ん。君は、ザックさん好きかい?}
「あったりまえだろう!父ちゃんだ!」
ふふふ。だよなぁ。ザックさん、父性爆上がりだ。
…。
「ビルック、悪いね。この子たちに簡単…いやガッツリ食わせてやってくれ。」
「了解、父さん。」
台所から出てきたビルック。
その姿を見て、顔色が青く変わるザックさん処の子供達?
「ふ…鎧熊より怖え…」
「あ、ああ。」
皆固まる。うん?
「父ちゃん…」
あ、ああ。ビルックの威圧か…うちのは皆慣れてるからね。
しかし、感じたのだなぁ。格?それとも、魔力の訓練をして感じやすくいなってるのか…
「大丈夫…だ。」
「あ?ごめん、ごめん。寝るとき以外は魔法の鍛錬をしてるんだよ。魔力を体の中に巡らせているんだ。君たちも修練に取り入れるといいよ。」
「ふふふ。すぐに慣れるよ。ビルックは優しいから大丈夫だよ。彼が、うちの中でも一番、魔力の扱いに長けていてね。すべては料理のため…ただの料理馬鹿だよ。」
「酷いな。父さん。じゃ、作っちゃおうか」
頼むよビルック。
「さぁ、食え。遠慮するな。」
テーブルの上に果物、焼き菓子、果汁、大人には紅茶。てんこ盛りだ。ご飯迄のつなぎだ。
「良いの?”勇者”様?」
よだれ出てるぞ。
「ああ食え。うまいぞ!」
{いただきます}
「う、美味い!」
「おいしい!」
「これイチゴ?でか!」
概ね好評のようだ。
「で、ザックさん、どうなっちまったんだ?クビなんて。それにこの子たち…」
「ミツル殿!」
ドルトン老が立ち上がる。ああ。いい勘だ。
「大丈夫。”悪魔”だけど、仲間…娘みたいなものだ。で。ルカちゃんどうしたのよ?」
「私がいないと始まらないわよ。ねぇ?ザックさん、無事に到着。おつかれ様。」
「”悪魔”…め、」
「あら、酷いわね。」
「父ちゃんのいぢめるな!突くぞ!」
勇敢だな!ラディ君だっけ?
「ラディ、大丈夫だ。おいで。ミツル殿、あの後、”悪魔”とこの子たちの話…」
「ああ。聞かせてもらおうか。」
あの後…決別の日のその後…小物の台頭、無理難題、そして騎士団を追われる。で世話焼きルカちゃんのお節介。いや、善行としておこうか。ルカちゃん、そんなに徳を重ねて…天使にでもなるつもりかね。(閑話ザックの冒険で)
「予想通りというか…それで、王様が引きこもって、新たな暴君が登場?」
「そんな大した玉じゃないわよ。食い散らかして逃げる…ゴキブリ程度。」
「ルカちゃん、何やってんのよ…ザック殿も災難だったな。」
「い、いえ…」
「…そうだったんだ…」
「…父ちゃん…」
そうだよな…少なからずショックだわな。自分の部下の命の交換条件…子供たちの表情に影がさす。
「どうせ、放っておいても戦乱で死んじゃうか、騎士崩れの盗賊でしょう?おじ様だって、狩ったクビの中にザックさんがいたらショックでしょう?」
…おぅ…トラウマクラスかも…。う…想像しちまった…。
「ま、まぁね。で、どうする?うちで引き取るよ。ザック殿。」
「…はい。家族のように思っていましたが…わが身可愛さに大切なことを伏せていました…不誠実…だったんだろう。子供らのため…そう良いように自分に言い聞かせて…」
「そうね。ただ利用してたって言われてもしょうがないわね。」
「おいおい。クソ悪魔、言い過ぎだろう。」
「はいはい。それも含めての、ルカちゃんの計略だろう?ザック殿との関係修復のために。騎士団も見事にクビになってわだかまりもなくなったし。子供達の命も救える。このぉツンデレちゃんめ!」
ふふふ。
「ち、違うわよ!ばかみたい!オウンが呼んでるわ。失礼!」
愛い奴じゃ!
「で、どうする?」
子供たちの顔を見回す。うんうん。大丈夫そうだな。
「は、はい…」
「父ちゃん!一緒にいるんだろ!出ていくならラディも一緒だぞ!」
「仕方ねぇなぁ。付き合うぜおっさん。」
「私も。今更ね。冒険者としてやっていけそうだし。知らない人にわざわざ世話にならなくても自立できるわ」
「だね。まだ、ディフェン騎士団流拷問術の秘伝教えてもらっていないしな。」
そんなの子供に教えんなよ…
「…あ、私も…」
…。だね。
「しかし…ここなら、苦労せずに、 「俺たちが邪魔か?」 …」
そうだ!いけ!
「あの時、家族って言ったのうそ?」
そうだ!そうだ!
「経緯なんか関係ないよ。そりゃ、さっきの”悪魔”さんにはきっかけくれたから感謝はするよ。あのままじゃ死んでたし。それに実際手を貸したのはおじさん…父さんだろう?」
おおお!
「だな。おやじ。」
うんうん。”ずびぃ”。
「父ちゃん!」
”ずびぃ”いいのぉ。
「お前たち…」
ザックさんも号泣だ。そりゃ、あんたを父と慕い、同じ格好の子たちだぞ!
「ザック、おぬしの負けじゃな。素直に許しを請うのじゃな。」
ナイスだ!爺さん!”ずびぃ”よっ!年の功!
「邪魔なものか!すまない、すまない…すまない…ありがとう…ありがとぅ…」
「あ~あ。最初のころの赤ちゃんに戻っちゃったよ。」
「まぁ、しかたなしだな。」
「父ちゃん!」
ラディ君が抱き着く。うんうん。
「うんうん。皆、良い子だな。”ずびび”うんうん。”ずびぃ”」
良かったな!ザックさん!これで本当の家族に成れただろうさ!
「…おっさん…まぁ、しょうがねぇか。」
そうだ!仕方のないことだ!君は心が動かんのかぁ!
「ん?…なんで、おじさま二人、大泣きしてるのよ?賑やか…おおお!」
な!セツナっち?感動に打ち振るえてるところを!な!やばい!ロックオーーーーン!
もちろん白虎小僧だ!
「姉貴!うちの子じゃないから!ステイ!ステイ!」
ナイストワ君!
「めっちゃ可愛い!猫…いや、虎人ね!白虎!すごーーーーい!」
身に危険を感じたのか、盾を構えるラディ君。
ふははは。セツナっちぃ!いい加減にしないと嫌われるぞ!
「ふっふっふ。そんな盾… ”ばしゃ!” …やるわね… 「ステイ!セツナっち!嫌われるぞ!」 …はっ!私は一体…失礼したわね…ごめんね。」
時々無意識?記憶が良く飛ぶのぉ、お主は…まったく。
しかしぃ!すげぇな!あの盾!変形したぞ!セツナっちの気に当てられたのか、昔のオタク勇者の功績か!
「正気に戻ったか。やれやれ。しかし…かっこいいなそれ。ロマンだ…」
「…姉貴…。おっさん。…まぁ、いいや。この人はザックさん。召喚されたとき、世話になった。で、こっちが姉貴のセツナね。一応”勇者”?」
「”勇者”様!ですと!召喚陣は破壊され、もはや、召喚は…」
「”ほかの世界”の”勇者”だったんだ。勝手にこっちに来た。」
「話は聞いていました。トワがお世話になったようね。姉のセツナです。よろしく。こんな形でもいい年ですの。」
「も、申し遅れました、ザックと申します。よろしくお願いします。」
子供達の紹介もし、お茶を飲みながらここに来るまでの冒険譚を聞く。出会いから盗賊退治や熊退治。中々の冒険だな!
なんでも、人族の鍛冶屋一家と行動を共にしていたようだ。彼らは、鍛冶師ギルド預かりとなり。後でギルド長と相談、どこに住むかを決めるらしい。
「ご飯食べてから行ってよ。」
おお。忘れてたよビルック!しっかし良い匂いだな!ぜんぜんしなかったが…
{うわぁああああぁぁぁぁ!}
”ぐぉおおおぅきゅるるるるぅぅぅ…”
子供達の歓声とともに、腹の虫も歓声を上げてる。ふふふ。
「今まで全くしなかったが…」
ザックさん、御老体も驚いている。おいらもな!
「話に集中できないでしょう?風魔法の疑似結界で隔離していました。」
「疑似結界?なんと…」
おいらもびっくりだ!エアカーテン知ってるわけないもんな。この料理馬鹿は…どこまで進化するんだ?
「さぁさぁ、どうぞ召し上がってください。」
「あ、ああ。いただこうか。」
紆余曲折あったが、これでまとまるだろう。いろいろ言ってきたが、ザックさんは最初の理解者だったものなぁ。あ!ディフェンの商隊、ザックさんに行かせよう!
…。
食後、町を案内する。住居提供しないとな。なんでも時間停止はないが、かなりの容量のマジックバッグを所有していると。ナイスだザック!夜にでも一杯やりながら話してみるか。
{うわぁああああああ…}
「なんだここは…」
「父ちゃん!町がでた!」
「すごい…な。」
「きれい…」
「ここの決まりで、成人前の子は”学校”に行くことになってる。冒険者になるクラスもあるから通ってみてくれ。」
「”勇者”様!ラディはもう冒険者だぞ!」
そう誇らしげに証を見せてくる、白虎小僧。可愛いな、おい!
「おお!すごいな!本物だな!じゃぁ、違うクラスに行くといい。友達もたくさんできるぞ。」
「良くわからんけど、行く!」
「勉強かぁ。」
「一応、文字計算はできるけど…」
「まぁ。せっかくだから、行くといいさ。タダだし。昼めしも出るぞ。友人もできるだろうさ。明日から行くか?」
一軒の家をザック一家に進呈。後の対応をマーレンに任せる。どうやら顔見知りのようだ。
「まさか、ザックさん、本当にクビに成っちゃうとはねぇ。びっくりだわ。真面目だかんなぁ。あのおっさん。」
「ああ。ほんと、ボロボロだろうなぁ。あの国。おいらたちが出会った連中、王様以外皆死んじゃったんじゃない?」
「あ!それは言えるかも…うわぁ!大変だ!げらげらげら!ざまぁ!」
ふふふ、そうだね。
「そうだ、例の御令嬢はどうなったんだ?ザックさんの嫁にくるとか?」
「そりゃ無いだろう?年上の浪人…いまじゃ、只の冒険者だぞ?騎士団長ならともかく。子爵家御令嬢が来るわけないよ。無い無い。」
「じゃ、”責任”だけできたのか?あのおっさん…ご苦労なこった。」
全くだ。が、それが良い。
「そうだろうなぁ。損な性格だわな。」
美点なんだろうがなぁ。お人よしともいう。だれだ?おいらと同類と言ったのは!




