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閑話。とある職人一家 1

いらっしゃいませ!

「オヤジ、ダメだ…やっぱり、売れないね…」

 「ん?あ、ああ…いっそのこと屋台でも出してみるか…仕込みも、もう樽レべルだしな…何でも勇者様は、串焼きにこれを付けたものを好んだと聞く…そいつに賭けてみるか…」

 

 アッシはショーと申しやす。以前は、森林国に接する、衛星村に生まれ、人工にんくとして森林国に出稼ぎに。力仕事にと、周辺の村に求人依頼が来るんで。こいつがまた給金がいい。人気の求人なんだ。

 エルフ族はそういった力仕事には手を出さねぇからな。アッシはそこで”醤油””味噌”という勇者様由来という調味料を作る工場に配属されたんだ。

 エルフ族は何かと勇者様のモノを好むようだ。着るものもなんかひらひらしたものだし。下着は布一枚だそうな?食器も二本の棒…箸っていうもので摂るそうだし。何回か見かけたが、まぁ、器用に御使いなさるわ。

 そこでの力仕事…主に大豆という豆の運搬作業。乾燥したモノ、水を吸って重くなったヤツ、ゆでたのやらな。”仕込み””麹”などの作業はエルフ族の秘術と、公開されていなかったが…そこはほれ、15年もいればな。地位も上がるし、伝手もできる、仕組みもわかるってもんでさ。

 そういうことも見越してか、15年務めるともう働くことはできねぇ。で、自家製で…ってわけだ。

 コレがなかなかに面白い。塩と大豆、小麦そして、菌?目に見えないのだが、無数の細かい生き物だそうだ。仕込みの準備などをやらされていた女房の記憶も大いに役に立ったもんだ。

 …工場…なんてのは無理だから、大型の箱馬車を改造したものを作業場として仕込んでる。

 まぁ、森林国にバレても問題ないが、ちとバツが悪い…ってことで、女房子供を連れて、ノリナ国境の町に引っ越し、研究の日々。

 約5年やっと満足いくものができたんだが…売れないんだよ…これが。全然…困った…貯蓄と言っても直に尽きるだろう…

 

 「ああ、ワタル様の[勇者グルメ~やったぜ!異世界!~]に載っていたヤツ?」

 こいつはハヤ。アッシの長男だ。一緒に醤油を研究している。

 「そう、それだ!」

  「でも、本もないし、レシピもないよ?」

 で、こいつがマサ。次男坊だ。

  「どこかにないか…」

  「そうはいっても…おれら、料理人じゃないし…普通に塩の代わりでいいんじゃない?」

 「そうだな…」

 確かにうまいが…

  「和食を看板にしてる店にも、もっていったけど、使い方わからんって…ただ、掛けてるだけだったわ…」

 「本当か?おいおい…」

  「オヤジ、俺も味噌汁出すとこに行ったんだけど…だめだな…混ぜ物だ…黄豆やら、青豆の塩漬けかなんかが混ざってる…きっと、仕入れが嵩増してんだろうな」

 「…本当か?驚きばかりだな…和食屋って何出してんだ?」

  「妙な串焼きだった…」

 「真っ当な和食屋も無いのか…」

  「そういうところは森林国から直接購入してるんじゃない?」

 「…そうだな…そりゃそうだ。よく考えれば…ほかのイネやらサケやらもあるしな…」

  「鳥焼きの研究しようよ。」

 「…ああ…そうだな…」

 …やばいぞ…鳥焼きにしても、これがまた難しい…焼いて出せばいいと思っていたが…周りの屋台に大きさを合わせると鶏肉に火が通らない…長く焼けば醤油が焦げる…で、大きさを半分に。焼いたものに刷毛で塗る。

 後、塩のモノを用意したが…売り上げの8割は塩だ。香ばしい匂いで人は集まるが…皆食べては首を傾げる。しっかりした味が付いていないからなぁ…二度塗りにしてみるか…

 

 「オヤジ!聞いたか!」

 「ん?どうした、マサ?」

  「隣の国、ノリナに”勇者様の村”ができたって!」

 「な!ほんとうか!」

  「ああ、商業ギルドじゃその話で持ちっきりだ。」

 「しかし…そんな情報…眉唾だな…機密事項だろうが…」

  「オヤジあそこには…」

 「ああ!アホのニノがいたな!」

  「ああ、あいつベラベラしゃべりやがった。そろそろクビになるんじゃね?まぁ、みんなも都合がいいから証言はしないけど。」

 「他には?金髪勇者じゃだめだぞ?ワタル様と同郷、黒目黒髪じゃねぇと。」

  「さすがにそこまでの情報はないよ。町の城壁を吹っ飛ばしたそうだが…」

 「…すげぇな…しかし…行ってみるか…」

  「俺も賛成。食へのこだわりすごいんだろう?」

 「ワタル様の書籍によるとなぁ。何せ、未だに伝わってるんだ。よし!わが家の命運をかけていくぞ!」

  {おう!}

 

 

 「ここが…」

 正確な場所もわからない。しかも”魔の森”中層部?しかもノリナじゃないそうだ…それなのに…まだ村開きもまだなのに、こんなにも人が集まって。

 「皆さんはなぜここに?」

  「ん?貴殿も仕入れじゃないのかね?この町は”魔の森”中層部”の素材が手に入ると聞く。」

 「なるほどねぇ。アッシは、勇者様に用がありやして。」

  「”勇者”様か…苛烈な方とも聞く。注意されよ。」

 「ありがとうごぜぇやす」…


 「次、仕入れかな?」

 「いえぇ、”勇者”様にご面会を…」

  「はぁ?会えんぞ。この村は獣人族のザルバック様が代官として治められている。勇者様は本拠地にお帰りになられた。」

 「!ほ、本拠地?そ、それはどこに?」

  「知らん。知っていても言えるわけあるまい。どこの国に行っても極秘扱いだろうよ。」

 「あ…そうですね…当たり前でやした…」

 はぁ…なんてこった…

  「どうする?引き返すかね?」

 「い、いえ、いれてくだせぇ。できれば商売を…」

  「”鑑定”をするが?」

 「ええ、ええ。問題ありやせん。お願いしやす」

 門を通してもらったが、村までまだ少しあるそうだ。整備された道を進む。

 「あ~あ。まさかいらっしゃらんとは…」

  「まぁ、普通に会えるとは思わなかったけどねぇ」

  「そりゃなぁ、で、オヤジどうすんだ?」

 「ここで少し商売をしよう。香ばしい香りを嗅ぎつけていらっしゃるかもしれん。あと村長に文と醤油を届けておこうと思う。」

  「犬か!ははは。」

  「村長に渡しておくのはいい考えと思うよ。」

 「着いたら、奇麗な小瓶か壺買って届けよう。」

 ふぅ…どうしたもんか…まぁ、ここに住み着いてもいいかな…

 

 村に到着。新しい村…多くの丸太家が奇麗に並んでいる。屋根の高さがまちまちだが…それと獣人族、ドワーフ族が多く目につくな。人族は我々商売人だな…ここは獣人族の村だ。

 広場の監視をしてる獣人に話しかける。

 「こんにちは、ここで商売したいのですが…串焼き屋です」

  「ちょっと待ってね…ああ、大丈夫。3カ所空いてるわ。選んで。」

 そういって簡易の地図が示される。

 「では、20番で。」

  「はい。案内は要ります?札は立っていますが。」

 「大丈夫です。あのぉ~場所代は?それと、冒険者ギルド、商業ギルドの位置をおしえてくださいやし。仕入れを…」

  「場所代、税金も今は無し。ギルドはまだないの。仕入れとかだったら鍛冶師ギルドに行ってみて。そうそう、場所に不当に人が居たり、隣が線を越えていたら言って。で、これが注意書きね。決まられた区画から出ないでね。売り場も同じ。あまりひどいと追放になるわ。」

 「へぇ。わかりやした。では」

 

 「ふあああ。すげぇな…オヤジ」

 「ああ。皆きっちり。奇麗にならんでる…それに…」

  「ん?」

 「ゴロツキがいねぇ。」

  「ああ~。」

  「”鑑定”してるし、冒険者ギルド無いからね。小さい子も自由に遊んでるね。」

 「それだけ安全に商売ができるってことだな。」

 20の場所に行く。きっちりロープと石が土に埋められ、区切られている。どこも同じ大きさだな。

  「すごいね、本当に…平等…なんだろうな。ああ、食べるところが別に準備されてるからいいのか…」

  「お!新顔さんだね!何売るんだい?」

 「へぇ。よろしくお願いしやす。串焼きを少々。」

  「うちは汁物だ。仕入れは聞いたかい?鍛冶師ギルドで出来るぞ。格安で卸してくれる。その分、お安く売ってくれってことだ。まぁ、お互い頑張ろう。」

 「へぇ。ありがとうございやす」

 今日のところは設置のみかなぁ。馬車は、ほぼ”醤油蔵”だから、テントを張らんといかんな。

 

 肉は話通り、鍛冶師ギルドで解体、販売を行っていた。しかも、魔物肉が格安で…獣人の方々が狩りにいくようだ。

 多くは魔猪だが、鳥も多い。なんでも鳥は子供たちが狩ってくるという。成人前の子供は学校も開放されている。驚くことに無料。うちの末っ子も今日から通ってる。午前中のみだが読み書きの習得には十分だろう。本当にここに住もうか…。

 商売の方もぼちぼち。何とかなりそうだ。うちの醤油味の串焼きをドワーフ族の方々が気に入ってくれたからだ。今夜、宴会があるということで大量の注文を頂いた。

 …そして、この街について15日。運命の日…。

 

 今日もいつも通り、昼過ぎから焼き始める。朝、猟に行ってた方々が戻ってくるからだ。

 「醤油かぁ!オヤジ!醤油か!」

 中年の男性が血相を変えて駆け込んできた。

 「へ、へぇ…良くお分かりで…自家製ですが…む、昔、国境の村で仕込みの仕事をしとりまして。」

 「どれ!皿に少しくれ!」へ?

 「へぇ…しょっぱいですぜ?」

 ひったくるように皿を取り、舐める…しばし…

 「うむ…旨い。」

 「だ、旦那?」

 「オヤジ…味噌も行けるか?」

 み、味噌ぉ!

 「へぇ。勿論でさぁ。屋台で売る分…あまり人気がねぇんで…隠し味程度でしょうか。」

 「うむ。どうだい?オヤジさん。うちにこないか!その腕買い上げよう!醤油作ってくれ。」

 「へ?」

 もしや…

 「おいらが家も工場も…材料だって用意する。そして…ここに来るのなら獣人忌避はあるまい?」

 「そ、そりゃ、エルフんとこで仕事しとったからな…ないよ。」

 黒目黒髪…

 「それじゃ、弟子…うちの…孤児たちにも教えてやってほしい。」

 「はぁ?」

 周りには何事だと人が集まり、マサも唖然としている。

 「それに…適した”麹”も持っているのだろう?」

 「!」

 コウジ!コウジを知ってるのか!

 「秘伝か?」

 間違いねぇ!

 「い、いや…あ、あんた…貴方様は、ゆ、”勇者”様かい…」”ごくり”

 「うん?…まぁ、似たようなもんだ。同郷の者だ。勿論、”勇者”様もいる。」

 「ど、道理で…わかりやした…私も、”勇者”様ならこの腕買い上げてくれるだろうと、ここまで来やした…”勇者”様のおわす村へ…」

 やはり、しかも黒目黒髪…決まりだ。

 「ん?じゃぁ、まんまと引っ掛かったってことかぁ。ははは」

 「へぇ。この香ばしい匂いで釣れればと…私らの技術も大切にしてくださるでしょう?」

 「ああ勿論だとも。ちと、奥を借りるぞ。」


 そういうと奥の厨房へ。何もないところから、大きなまな板と、真っ赤な魚が現れる…魔法も使いながら手際よく下ろしていく。”無限収納”…?これが勇者様のスキル…

 「さてと…オヤジ!醤油!…どれどれ…ああ…旨い…」

 アッシらが作った醤油をじっくりと味わってくださっている。

  「”使徒”様?」

 あ…目じりに涙?

 「ん?ああ?…望郷の念…ってやつかなぁ…ああ…懐かしい…おいら達が生まれたときから慣れ親しんでいる調味料だからなぁ」

 遠くから…ほかの世界から来るという…アッシの作ったもので…この御方の平安の一端を担えるのか?そう思うと俄然やる気が湧いてくる!

 「旦那ぁ!私、アッシに任してくだせぇ!醤油、味噌はアッシに!」

 「ああ、頼むよオヤジさん。おいらは、ミッツだ。」

 その後、勇者様の3種の食材、醤油、味噌、イネの話に。数年前に手に入れた籾を渡したら大層喜んでくださった。ミッツ様の一声で、”勇者”様に面会がかなうことに。

 

 「セツナっち!いるか!お~~~~~い!」

 中央の一番大きな屋敷…そこには小さな少女が…あ…黒目黒髪…

 「何よ…おじさま…大騒ぎで。」

 「お!居た、居た!」

 「どうしたの。ん?そのご一家は?」

 「ふ…聞いて驚け!この、ショー殿一家は”醤油職人”だ!」

 唐突に紹介された。しかも、大げさに…

  「アッシは…」

 「え!今…なんと?おじさま?もう一回!ねぇ!おじ様!」

 挨拶しようとするも…

 「お、落ち着け…おかげでこっちがドン引きだ…ほれ。」

 ミッツ様が収納から、先ほどの刺身をだす

 「お造り?…で?」

 「これだ…ワサビもあるが…まだ貴重なんだ…勘弁な。」

 「良いわよ…どれ…あ…しょっぱ旨い…大豆の旨味が…ああ…美味しい…」

 ああ…”勇者”様達は欲しておられる…心から…

 するとおもむろにコンロを出し、料理を始めるミッツ様。むぅ!何とも言えぬ香りが…腹に来る!旨そうな匂いだ!やはり、ミッツ様は料理をされる!

 「お、おじさま!まさか!」

 女の勇者様も大興奮だ。

 「美味い!」

 「わ、私も!」

 「はい。お待たせ。」

 「はふぅ…醤油最強!ショー殿!何か欲しいものある!あ、とりあえず金貨1000枚でいい?金貨いくら持って行っても良いわよ!」

 え?ええー!

 「は?い、いえ、これから、お世話になろうと思っていやす。」

 そういうのがやっとだ…

 

 ……。


 …。

 

 「親方ぁ~!いきますよぉ!」

 「おお!慎重になぁ!油断すんなよぉ!」

 今日はここで仕込んだ初めての醤油を絞る日だ。設備は此方の言うこれ以上ないものが用意され、ミッツ様達の知識にある道具なども再現されている。

 これ以上の設備はたとえエルフ国でもないだろう。

 人手、弟子も多く来ている。材料にしたって、ここで取れた豆、麦は規格外、すさまじい品質だ。塩にしたって、高級の海洋塩や、ディフェンの岩塩が使い放題。温度管理にしたって、依頼すれば魔術師、下手すりゃ、ミッツ様がわざわざいらっしゃる。

 貯蔵庫の温度は常に一定…ダンジョン効果?だそうな。もちろん、馬車(移動蔵)の天井にこびりついた菌たちも引っ越し済みだ。ミッツ様は良く御理解なさってる。

 

 諸味を布袋にいれ、ゆっくりと重しをかけて絞っていく。

 「うむ。旨い…お前たちも舐めてみろ。」

  {はい!}

 弟子たちに声をかける。うちの長男ハヤが弟子頭だ。

 一番下は学校だ。次男は”焼き鳥屋”をやっている。

 

 「どうだい!親方!」

 「邪魔するぞ!」

 「これはミッツ様、トワ様。味を見てやってくだせぇ。」

 トワ様、当代の”勇者”様だ。

 「どらどら…良い色だな…”ずっ”う、旨い…旨いな!」

 「おっさん!すげぇぞ!めちゃ旨だわ!親方!いい仕事だ!ありがとう!」

 がっしりとトワ様に肩を抱かれる…

 「へ、へぃ…あ、ありがとうございやす。ありがとう…」

 「礼を言うのはこっちだ!今回は大樽で二つか…次は?」

 「多くの手がありやすので、10樽まででしたら、あと数回やれば、皆も慣れてさらに増やせるでしょう。」

 「じゃぁそれで頼む。火入れはこれからか?」

 「へぇ。火入れ、ビン詰めは明日になるでしょうな。」

 「なま醤油、すこしもらってくぞ!」

 ミッツ様、トワ様がワイン瓶に詰めていく。嬉しそうだな…ここから見てもわかる…って!

 「あ、ビンくらいじゃ、破裂しちまう!」

 「大丈夫だ親方!俺ら、無限収納だからな!」

 「あ!ああ、そうでした。どうぞお持ちくだせぇ」

 羨ましいことで…ん?一回入れてもらえば、火入れの代わりに?落ち着いたら相談してみようか…

 「やっほー!これで俺は最強!この世に怖いものはない!皆のおかげだぁ!」

 瓶を高々と捧げ上げ褒めてくださるトワ様。誰からとなく笑い声が上がる{ははははは}

 ここに来てよかったなぁ。    <完>


本日もお付き合いいただきありがとうございました。もう一本。閑話いきます

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