閑話 お菓子屋のオヤジおかしいや。
閑話です。洋菓子屋のオヤジの未来は!
閑話 お菓子屋のオヤジおかしいや。なんてな!
「最初に言っておくが…試作は厳しいぞ。卵は今繁殖中。ミルクは需要に追い付かん。子供たち優先だからね。勿論解読の手伝いはするし、知識のすり合わせもしよう。」
此処はミミルの工房。一段落付いたから、依頼のあった”解読”にきた。
ミミルたちも今日は朝から”実習”として参加している。
「充分でございます。”勇者”様」
「ミッツと。ビルックと…ミミル。ラグも?ほら出てきなさい…。鹿娘達も参加するが良いか?」
「もちろんでございます。おそらく、ゆ…ミッツ様はこれらの文献が無くとも…」
「まぁね。特に鹿娘達には将来的に洋菓子屋をやらせたいと思っている。カフェスタイルでな。まぁ、基本を押さえれば、後はどれだけ手を掛けられるか。素材にこだわるのも良い。アイデア次第だしな。」
「はい。ですが、ここの素材で作ったら…果物等も見せていただきました。」
「まぁ。実際、ここの素材は最高だ。ジャム一つとっても別物だ。とにかく、いくら最高でも材料がない。”型”は作ったのだが…焼き菓子とパンケーキ位がやっとってところだ。オヤジさんの所は卵、牛乳はどうしてるんだ?」
「はい。卵は契約して決まった所から卸してもらっています。牛につきましても、委託飼育搾乳を。どうしても、乳製品が安定しませんから、自分の処で牛を準備しております。特に生菓子は売値も高価になりますので、ほとんどが貴族様方の宴用の受注生産となります。店頭でも数種類カットしての販売。どうしても焼き菓子類が主ですね。」
「だよねぇ。材料が高すぎるんだよな。一般向けじゃないよね。」
「はい。特に卵は信用の有るところ以外では…病気も心配ですし。」
「むしろ、焼き菓子で攻めた方が良いんじゃね?」
「父さん。僕も知りたいです。」
「パンケーキとは違うの?」
「…甘味…至高…」「…至高」
あら、ハルちゃん、いたんだ…
「むむむ。じゃ、解読とおいらの知識のすり合わせくらいはするか…試作は最低限…な。」
この日は、文献、日本語の物を預かり、とりあえず、ジャムづくりとなった。
農場に赴き、イチゴ、レモンなどを収穫し、厨房にて料理。
仕上げのレモンに驚いていたな。ここの世界の人はレモン使わないからな。
「ビルック君、手際が良いですな…」
「僕は料理が好きなんですよ。将来、自分の店を持ちたいと思って。」
「今でも…あ、ああ…愚かなことだ…このような才能が…」
「大丈夫ですよ。文句が言われないくらい、高みに立ってみせますよ。」
「ビルック君なら叶うでしょう…」
うんうん。その意気だ。おいらはというと、ただいま、飴の大量生産。べっこう飴かな?うちのはサトウダイコンから取った糖だからなぁ。雑味も味のうちだね。チョコレートの型みたいのも欲しいな…ハルはできた飴を”収納”へ…こら。
「…お姉。あんまり入らない…」
「…ハルよ。鍛練あるのみ…」
…まぁいいか。
畑地区に、水車小屋も建ち。毎日休みなく小麦が挽かれている。石臼方式ではなく、胴突き、石臼に入った穀物を、石の杵で突く方法だ。効率が悪いが、上質の粉が取れる。
”ぎぃぎぃ””トントントン””ぎぃぎぃ”
古き良き原風景がここにある。良いなぁ。これ。一日中見てても飽きないぞ。
まだ試験的な運用の為、一基しかないが、水車の増築要請が役所に多く寄せられてるそうだ。胴突きの粉は熱の影響が少ないからとてもうまい。パン屋の頭領も絶賛だ。そうだ。誰かうどん屋やんないかなぁ…後で聞いてみようか。
おっと横道。拡張終了後には10基は設置できるだろう。”捏ね”についても検討が必要だな。いっそ。パン工場建てちゃう?
「すごい畑ですね。大きな実が、こぼれんばかりに実って…」
「ええ。”魔の森”の中域相当の魔力量だそうですよ。生育に大きな影響を与えています。」
「うちにも卸していただくことは…」
「構いませんよ。古とはいえ、勇者繋がりですし。ただ、運賃が問題ですね。王都でしょう?」
「そ、そうですね…つい。こちらの輸送隊での単価を出していただければ…検討したいと思います。」
「定期便になるようなものがあれば、お安くなるでしょう。何かあの辺りで特産ありますか?」
「そうですな…北の方は、農業地帯ですが…此処の物と比較になりませんし…考えておきます。」
「思い立ったら吉日という訳で、お昼は、おうどんにします。」
「いいですね。じゃ、僕たちはうどん造りますね。」
「ああ。任せた。汁は…魚介にするか…いや、鳥系にしようか。野菜入れて。」
子供たち皆で捏ね捏ねオヤジも混ざる。塩水の分量は、ビルックにおまかせだ。
鶏のガラスープ。ガラが溜まったら大きな寸胴で作っておいて収納に。いろんな鳥が入ってるので美味い。勿論昆布だしも常備だ。”無限収納”万歳!である。
そこから、ガラスープ、昆布だしを中寸胴に移し、トリ肉、大量の野菜。今日は塩で良いな。隠し味で醤油と砂糖を少々。つけ麺スタイルにしようか。濃いめに調整。うん、こんなものか…
「ハルは初めてか?」
「…うん。楽しみ」
「私も初めてです。塩味しかついていませんよね…」
「う~ん…主食にもなる。茹でパンみたいな?まぁ、すぐにできるよ。もうちょい寝かせてから切るんだ。」
実食タイム。うちの子達は箸になれてるから器用にちゅるちゅるやってる。
「うま!」「うま!」
「おいしいね~」
おいらの分はビルックが作ってくれていた。気が利くのぉ。
「うん。美味い!流石だな。本当に。皆の出来はどうだい?」
「茹でるときに味見したけど、一番はラグだな。父さん、力は関係ないと判ったよ。」
「…うむ。えらい?」
「マジか?味見。味見。うん。優しい感じだな…これはこれで行けるな…」
そういや、山奥のうどん屋なんか、ばあちゃんがやってるもんな。
「次点は、キョンだな。腰が凄い。」
「お!本当か?おいらバリ腰好きなんだよねぇ。どれ…おお!すごいな!煮込みうどんにもできるな。キョン、うどん屋やらん?」
「う~ん。私たち三人でお菓子屋さん…かふぇ?やりたいし…」
「残念。振られたか。ビルックの料理仲間で、うどん屋やりたいヤツっていない?」
「そうだね…声かけてみるよ。面白い料理だし。」
ふとオヤジを見るとブルブルと震えている…どうしたんじゃ?
「ん?口に合わんかったか?」
「こ。ここまで…同じ材料、工程なのに違うものなのか…ワシが作ったのは、革の切れ端みたいにざらざらなのに…ビルック君のは、滑らか。そののど越し。快楽すら感じる…例えるのなら、ワシのは汚い親父の尻…ビルック君のは清らかな赤子のお尻…」
「なんちゅう例えだよ…まぁ、解らんでもないが…」
「わ、私がやりたいくらいです。いや、いっそのこと、引退して…」
「おいおい。これから洋菓子界を牽引するんじゃないのか?」
「い、いえ!それ以上の衝撃!スープを変えたり、トッピングを考えたり…十分人生を掛ける価値があります!」
「まぁ、奥が深いは深いな…捏ね方ひとつで変わるものな。粉と塩と水…これだけだ。」
「え、ええ!お嬢さま方のも一筋ずつ味見に…恵んでくれませぬか…」
「良いよ!おじさんのもちょうだい。」
わいのわいのと始まった。
「やはり…奥が深い。ビルック君は何回かに分けて作ったが、品質はほぼ一定…一定にすることは可能という事か…ふむふむ…」
「やべぇな。マジでうどん屋に転向しそうだぞ…このオヤジ。」
「ええ…菓子を楽しみにしている、セツナ姉になんと説明したものか…」
再び捏ねだすオヤジを視界に入れないようにビルックと今後について相談となった。
後日談。オヤジは…うどん屋となった…しかも蕎麦の魅力にも…おいらも、前の世界で2回くらいしか蕎麦打ちしたこと無かったんだけど…一応、オヤジと何十回か打ってそれなりの物になった。
”つゆ”についても、合わせ出汁の本格的なモノ(醤油がもろみに近いが)、みそ仕立て。こっちの世界のスープなど。いろいろ試作。
オヤジは暫くは修業に明け暮れるそうだ…。
オヤジがこんな調子だから、急遽、洋菓子の解明にと、オヤジの替わりに息子2人も呼ばれたが…何を間違ったのか彼らもうどん屋、蕎麦屋へと転身。
…おいおいおーーい!
「娘が継ぐ…というのは変でしょうか…ミッツ様…」
「いや、むしろ女性に人気の職業だぞ”パテシエール”になるがな。」
「上手く継承した暁にはその称号授けていただけますか?」
「う~ん。称号というよりは、職業なんだが…」
それからしばらくして店を弟子に預けてきた娘さんが来所…複雑だわな…
「父さん、兄さんたち…本気?」
「ああ。我が人生を掛けるに値する。」
「ああ。奥が深い…」「全く…」
「娘さんも、うどん屋はカンベンな。」
「父さん達の気持ち…解ったわ…」
数日かけてうどん、蕎麦を味わった娘さん。まさか…
「そうだろう!」
「お前にも分かるだろう?この奥深さが!」
「おいおいおい。煽ってどうする!娘さんもうどん屋になるって言ったら。」
「あ…」
「たたむか?店…」
「そうだな…」
「おいおい。」
「私が今のお店、引き継ぐわ。」
「「「おお!」」」
「但し、婿養子…になるのでしょう?ラルッカとの結婚認めてくれないと…御破算よ。兄さんのどっちかが、継げばいいわ。」
「な!」「ラルッカ…か?」
「うちの…」
「ええ。うちの使用人、孤児よ。彼ほど真面目にやってる人はいないわ。」
「し、しかし…」
「人物的に問題なければいいんじゃない?アンタらの我がまま押し付けるんだし。これから菓子屋の方も栄えるだろう?生まれ変わるんだし。」
「…解った…人物には問題ない。一回連れてきなさい…あ!こっちから行くか…」
「いや、ここに呼んでいいぞ。これからの付き合いもあるしな。」
「ありがとうございます…」
「ミッツ様、ありがとうございます!孤立無援でしたので。」
「母上は?」
「賛成してくれてるんですが頭の固い男どもが…家柄云々…」
「そいつはいかんな。うちの子達は皆孤児だぞ。」
「へへぇー。す、すいません!」
後日ラルッカ君と、アルタ(娘)さんが来所。”鑑定”しても問題なし。人柄も温厚。この家の普段の様子がうかがえる。家族のように接してきたのだろう。
なんでも姉弟のように育ったそうだ。
「だ、旦那様…どさくさに紛れてしまったようで…」
「いいさ。で、本当にアルタと一緒になる覚悟はあるのかね。」
「其れよりも…本当に旦那様は、職種替え…引退を?」
「うむ。暫くは口を出すと思うが。おいおい任せていきたい。それに…旦那さまではない。義父と呼んでくれ。婿殿。」
「は、はい!一緒に歩んでいこうと思います!だ、お、義父様」
「アルタを頼む…」
てなわけで、1組のカップルと、うどん屋と蕎麦屋が…おいおい…何でこうなった? <完>
本編もよろしこです!




