…覚悟…
いらっしゃいませ。
町に向かい疾走中。うう…こひがいたい(腰が痛い)中腰でマンドラゴラ採ってたからな…
「おっさん、う〇こか?”げらげら”」
下品な奴め~
「違がわい!腰が痛い…でも…トイレ行くか…」
「くぷぷ…休憩!おっさんのう〇こタイムだ!」
{おう!}俺も!」
…休憩をとり、用を足す。もちろん、周囲の探査はトワ君にしてもらっている。だってう〇こ中に襲われたら…一番無防備だもんな。
「ふぃぃいいい~スッキリ!快便!」
「お帰り。」
「探査ありがとうな!」
「父ちゃん!俺も、もりもりだ!」
カイィ!
「そ、そうか?よかったな、カイ…」
「今までこんなに食えなかったからな。毎日もりもりで…嬉しいよ!父ちゃん、ありがとう!」
カイぃ…
「…お、おう…これ”ずびぃ”から…」
「あ~あ、また泣いてるじゃん…面倒くさいから泣かすなよ」
うっさいわ!…しょうがないじゃん!
「トワ兄!雹兄!」
「どうした、ライ!」
一気に雰囲気が変わる。
「たぶん…この先に襲われた所がある」
「雹!」
「俺にはわからない。トワ兄。カイは?」
「…ちょっと待って…ああ…火の匂い…肉の焼ける匂い…焼き討ちされている?」
「おっさん、泣いていないで行くぞ!」
「ああ!」
鼻水垂らしながら、皆に魔力を込める…
「気を付けていくぞ!安全第一だ!」
{応!}
…ライ達、狼牙族の鼻の出来は良いらしい…10km位走ったか…
「こっちだ!」
街道から少し入ったところにその場所はあった。丸太でぐるりと囲み、入り口には逆茂木が。ところどころ白煙が上がっている…
基礎?白煙が上がっている場所は家があったのだろう…家の数は100軒くらいはあるか…開拓村にしては大きい部類だろう…ライが言っていた肉の焼ける匂い…
「ライ、カイ、雹お前達は…」
「大丈夫だぞ。父ちゃん…俺ら、父ちゃんより鼻がいいんだ…」
「うん、父さん…それにこっちの世界は俺の方が長く生きている…」
「…トワ君…」
「情けない顔すんなって…ライ達は俺らより過酷な世界で生きてきたんだ。まぁ、その世界に来ちまった。いよいよ覚悟決めないとな。」
「ああ…そ、そうだな。」
「”探査”…気配は無いな…行くぞ。」
…覚悟…人の死…殺す…
村に入る…
「うぐぅぅ…」
強烈な肉の焼ける匂いと、臓腑の…異臭…”おぐえぇ…”
「お、おっさん、気を強く持て!負けるな!」
「うぐぅ…う…あ、ああ…少し時間をくれ…」…
「ふぅ…大丈夫、大丈夫だ…と、弔ってあげよう…」
「そうだな。」
「お、お前たちは外で待ってなさい…」
「だい 「待ってなさい!」 …」
「おっさん、落ち着け。気持ちはわかるが。これは現実。皆の覚悟がいるんだ。これから生きていくためにね。引きこもるならそれも良いだろうさ…だがな。」
「トワ君…そうだね…大きい声を出してごめんね。せめて、埋めてあげよう…”充填”…穴…」
地面に穴が開き、せり上がるように広がっていく。
その穴に、死体を次々に放っていく。大部分は人族のようだ。無残に殺された遺体の数々…女子供も混ざる…全滅なんだろう…同じような穴を3つ作ったところで埋葬は終わった…ふぅ…穴に放って、魔法で土を盛っただけだが…盛土の上に石を置く。墓碑の代わりだ。
「おっさん、大丈夫か?」
「あ、ああ。大丈夫だ。ふぅ、落ち着いたよ…町に着いたらギルドに報告しておこう。」
「場所を変えよう…今日はもう寝よう。」
「そうだね…あ、トワ君、聖言を…」
「今でなくとも…」
「いや、終わらせよう。」
「わかった。」
廃材を集め、簡素だが祭壇とする。お供えの酒と菓子を置き、トワ君が祈りを捧げる。祈りが歌になり、辺りに響き渡る…その歌に魔力を乗せる。あちらこちらから、蒼い炎が立ち上がる。順に天へと上がっていく…おいらも祈る。次があるのなら…再び生を受けるのであれば…いや…犯人への報復無しに…
「おっさん、終わったぞ…落ち着け。おっさんの怒りに惹かれてしまうよ。折角天に還ったのに。」
「あ、ああ…そうだね。せっかく送ったんだ。」
「そうだよ。おっさん。さぁ。行こうか」
多くの死…普通の死ではなく、惨殺だ。これほどの数…一方的な暴力…同じ人族の仕業。平和に暮らしているもの、己の欲のために”奪う”もの。
盗賊、貴族…自分より立場の弱い者を人とも思わない。物のように扱い、奪い、壊す…許せるか?いや、許せるわけ無ぇーだろぉがぁ!
「おっさん、落ち着けよ…」
「ふぅ、ふぅ…あ、ああ。」
興奮してたようだ…
「考え事してたわ。」
「おっさん…仮にここに盗賊共が戻ってきたらどうする。」
「どうする…とは?」
「おっさんが考えていた事だよ。」
「…どうするのだろうな?同じ目に合わせる…殺す…罪を償わせる?どうやって?鉱山?生ぬるい…死、死…」
”ドン”背中を叩かれる。
「”ごっふ”…酷いな。トワ君が聞いたんじゃん。」
「思い詰めるなよ…受け入れるしかないさ。敵対勢力には”死”あるのみ。速やかに…呼吸するが如く…ね。」
「”死”か…」
「まぁ、街中じゃ不味いな…腕でも斬って社会的に死んでもらおう。この世界片腕無けりゃ生活も覚束ないだろ。自棄になって暴れられても困るから、両手斬り落とすべ。」
「…トワ君。ドライだな…」
「ああ。死にたくないし。折角の”勇者”の力だ。”勇者”らしく仲間位は守りたいからな。雹、ライ、カイ…家にいるヤツや、ドワーフのおっさん。エルザさんにマシューさん。そして、戦友。ミツルさん。殺されてたまるか!国を敵に回してもな!幸い、ダンジョンという拠点もある。人族主義野郎どもに”魔王”って呼ばれるくらい誉だわ。」
「トワ君。…斬れるか?」
「斬れる?斬るんだよ。」
「愚問だったね。正論だね。だが…」
「おっさん、次から留守番だなぁ~スルガさんだって言ってただろう?殺せって。おっさんの情でルル達やビルック殺されちゃたまらんからなぁ。」
「あ!」
ガバリと顔を上げる…
「そういうことで。良いな?」
「…良くない…な。全然。楽しくない…そうだ…なぜ屑に情けを?…そんな必要ないじゃないか…償い?目には目を歯には歯を死には死を…」
「ほら、思い詰めるなって。ゴブリンと変わらないんだ。血が赤いくらいか?アホで臭い屑どもさ。」
「ふっ、ははははは!そうだな…」
「父さんは本当に平和なところにいたんだね…羨ましい…」
「雹?」
「俺は大丈夫だよ、全然、別に何とも。」
「雹?」
「父さん、お、俺たちは散々やられてきたんだ…見てる前で仲間を殺された時もあるんだよ。それに俺は!俺たちは…父さんごめんね。俺たちは”人族”じゃない!”獣人族”だ!昔から敵対してるんだよ…差別されてるんだよ。」
「雹…」
「俺も死にかけた」
「カイ…」
「と、父さん…。俺たちを嫌いに、嫌い、な、らないでね…」
そうだった…人族のエゴを…何より感じている子たちがいる。押し付けてるだけだ。お花畑の。頭の沸いた考えを。泣いている3人を抱き寄せる…
「嫌いになんかなるかぁ!”ずびびぃ”そうだったなぁ~。おいら、”ずびぃ”とぉ~い平和な国の考え方だなぁ~頭の中お花畑だよなぁ~剣向けられるんだぞ殺さないと殺られる!まだ、まだわかってなかったんだなぁ…」
悔しかっただろう。憎かっただろう。特にこの子たちは、散々蔑まれた人生を送ってきたんだ…いつも死にそうで、こんなに小さいのに。ギュウッと力を籠める
「ごめんなぁ~うううぅ…ごめんなぁ~お前たちの生きてきた道、わすれてたわぁ~飯を食わせて安心してた…守ってるつもりになってたぁ~うっぅ…まだ、父ちゃんて呼んでくれるかい?こんな卑怯なおっさんを…
「「「父さん 」父ちゃん」」
「雹、ライ、カイ!」
泣いた、泣いた。道の真ん中でおっさんがワンワン泣いた。…強くならんと…。少しは本当の”親子”になれたかな?あとは証明しないとな!!
本日もお付き合いいただきありがとうございました。またのご来店をお待ちしております。




