閑話 夢の炉端焼き店オープン!(一日限り!)
閑話です。
”ぎぃ!””からんから”
「いらっしゃい!」
「い、いらっしゃい…ませ。」
そこにはミッツ殿と、ちょっとはにかみ気味の…たしか、ビルック君だったな…が、カウンターの奥に…本日招待を受け来たのだが…
勇者様の様式なのだろうか…変わった食事処だな。
「ミッツ殿…ご招待感謝いたします…が…」
どうすりゃいいんだ?作法がわからん…。しかし、そのカウンターの上には山海の食材が所狭しと並べられている。エルザもミツゥーヤも…いや、アルスたちも唖然としてる。身内だろうに…。
「おじ様、ご招待ありがとう!」
慣れた様子で椅子に腰かける少女…大悪魔…ルカ様だ。
「さぁさぁ、座って!ビルック!」
「は、はい!」
「飲み物はビアで良いかな!」
「…おっさん。本当に店…”夢”だったんだな?」
「ああ。頭領殿も座ってくんな!」
「は…ははは…おっさん…ノリノリ…」
少々引き気味のトワ様…我らのみならず、トワ様の予想の上も行ったようだ。
みなが席に座ると、ビアのジョッキが配膳される。金属製のゴブレット…ドワーフたちが好んで使うものだ。表面にうっすら氷が張っている。
白い上品な器…磁器か?そこには貝類か?火を通したものだろうか…
「頭領。」
ミッツ殿がトワ君に挨拶を促したのであろう。機転の利く御仁だ。
「あ、ああ。本日はお忙しいところ、おいで下さりありがとうございます。ヴァートリー商会会頭殿。これからも良き関係を続けたいと希望します。歓迎します」
応えねばな…偽りなき…
「ありがとう、トワ殿。我らのほうこそ。輸送隊”蒼”の設立を承認するとともに、今後とも協力関係を強化しようではないか。此度の依頼の輸送、付随する功績。誠に見事でした。それに、裸の付き合いもしたしな!」
「お父様!」
「それじゃ、お互いの健康、発展を願って、乾杯!」
{かんぱ~い}
”ごきゅり…”
むむ…む、むむむ…
”ぷはぁ~~~~~”
あ、ああ…一気に飲んでしまった…先ほどまで、食前酒と称して、トワ殿と飲んでたのだが…良く冷えたビアが胃袋をつかんだな。
「お、美味しい…」
「むぅ。」
「使徒様お替わり!」
「おれも!」
「へい!」
手元を見ると、魔法?ゴブレットが凍結していく?そこに新たにビアを注ぎ供される。ビルック君も同様に?
「さて、なににしましょう!」
…ノリノリのミッツ殿だ。
しかし…様式が…どうすれば?
「おじ様、その大きなエビは?」
…ルカ様。なるほど、食べたいものを食べたいように調理してくれるシステムか?料理人にベストな調理方法を聞くのも理にかなっているな…ふむ。
「塩焼き…かな。フライでも良いが…今日は天ぷらを用意してるから、焼きだな。」
「ください!」
「あ、私も!」
エルザがつづく…
好きなものをいえばいいのだろうか…だされた貝を摘まみながら…うぉ!美味いなこれ!ビルック君がおもむろに串焼き、分厚い肉を焼き始める。良い匂いが支配する。煙が全く来ないな…
見事な手さばきでエビを処理し、炭火であぶっていく。
「ミッツさん、この大きな、赤い魚は?」
「そうだねぇ~刺身も良いが…生ものはダメだろう?煮つけかな?」
「おっさん!俺は!刺身‼」
「はいよ。」…。
器用だな…あっという間に魚が解体…いや、”おろす”と言うそうだな。エルフ国産の醤油に砂糖か?しょうがを入れて…むむ?…甘い香りが…
「お、美味しそう…」
エルザよ…ちゃんと座りなさい…。
その間にも”刺身”が作られていく…皮をまたも魔法か?あぶり、氷魔法で冷却、薄く切っていく。
「おまち!塩と、果汁で行ってくれ」
「やった!すげぇ…本格的じゃん…」
トワ様大喜びだな…本物の勇者様の国の作法なのか?
「どうぞ」
そう言って私の前にも。白い皿に良く映える…白い…透き通る身に皮の赤…。美しい。
実際の所…刺身というものはあまり好きではないんだが…。腹壊しそうで。何回か貴族邸で食したが…しかし…これは別物。くたびれた感じは全くしない…変な水や血?も出てないな…。
どれ…塩をちょい摘みかけ口に運ぶ…な…生臭さは一切無し…歯ごたえもいい。
程よい弾力だ。上品な甘みが…これが”刺身”か?
「父様?」
「…食べてみなさい…」
「?はい…!、美味しい…」
「今まで海洋国に行っても手を出さなんだ!帝都で食べたものもパサパサだった…何が違うのか…」
「こちらだと、適した魚の種類、運搬も難しいですものね。切り方も違う。」
「切り方…そんなことで…」…
「焼きあがりました。こちらの…鶏の肝。ご賞味ください。」
ビルック君が皆の前に置いてある角皿に串焼きを置いていく。…香ばしく甘い香りが…ぬぅ…肝…溶ける…あ…無くなった…脂と甘くなった口をビアで清める…至福…ふぅ。
「次は、胸肉です」
今度は塩か?噛み応えのある、旨味多き肉だな。なるほど、これならキモの後でも十分に楽しめる。一口分というのも嬉しい。もっともアルス殿たちには物足りないだろうが…
「おまち。エビに、っと、エルザさん、煮魚ね。骨注意ね。ルカちゃんも食べる?」
「うん!」
「う…わぁ…同じ魚ですよね…美味しい…とろけそう…」
「エルザ、父さんにも…」
…睨むなよ…刺身上げたじゃん。何とか一口強奪に成功す!
「美味いな…あれだけ砂糖入れたのに…」
「おまちど~アルスさんたちはこれでしのいでてね」
「「ありがとうございますビルック様」」
「かたじけない」
ああ、なるほど、あの分厚い肉は彼ら用か…おれも…そう思ってたら、切り分けられた肉が…
「ラッシュボアの上肉です。塩でどうぞ」
これはこれは…ビアが足りない!ミッツ様にお替わりをもらい余韻を楽しむ…むふふふふ。
「お父様、随分と楽しそうですね」
「この晩餐。楽しくないのかな?エルザは。どこに行っても…たぶん、森林国に行っても味わえないぞ。」
「そ、そう?そうよね…。」
「”勇者”ワタル様の料理…”和食”というものかもしれない。我々の料理と根底が違う…繊細…というか」
「そうですよ。ただイネ…コメが無いのが残念ですが。米を食べる食文化。私の故郷の様式です。まあ、尤も、普段はこんなに豪勢じゃありませんよ。」
「それはそうでしょう!食費で身代つぶれますよ。」
「ははは。次はと、揚げ物も出しましょうか」
大きな鍋に油がなみなみと。獣脂…じゃぁないな。”収納”から、下処理された魚やエビ、野菜等が出され、並べられる。これまたショーを見ているようだ。
「こちらを摘まんでください」
そう、ビルック君がキノコの焼き物を皿に置く…むふ。笑いがこみ上げてくる…この肉汁…キノコに肉汁はどうかと思うが…これしか言い表しようがない。仕方なかろうが。
おいおい。エルザよ…嫁入り前なのだから…
「お嬢様…はしたないですぞ…」
ナイス。ミツゥーヤ。
「し、仕方ないじゃない!」
「誰も取りませぬ…」
「それではもう一品。キノコを」
ビルック君がそう言うと、違うキノコが添えられる…キノコ?真四角にカットされた…2cm角の立方体…が二つ。どれ…
「なんと…」
「これは…」
美味い…いや、旨いな。旨味の塊だ。こちらにはたぶん醤油…ほほほ…なるほどな…火が完全に通っているのに形跡がみられない…余程大きい物から中心部を切り出したのかもしれない…なんと贅沢な。」
「良くお分かりに。さすがですね!」
嬉しそうに話すビルック君。
「あ?あ。」
「父様、思考が漏れておりましたよ。なるほど。そのような料理方法で」
「ええ。一抱えあるキノコなんですよ。それを時間を掛けて焼き上げて、その中心部を切り出しました。歯ごたえも良いでしょう?」
「おっと。次は”勇者”料理の定番?天ぷらを食べてもらいましょう。」
いつの間にかに、大鍋の中で揚げられている。
”しゅわしゅわ”
と油の中で踊る食材たち。
「先ずは野草…ヤマゼリの新芽で。塩でどうぞ。」
親指大の緑の塊にうっすらと衣が。
天ぷらか。確かに勇者伝来の料理として有名だ。が、こちらは本物だろう。何せ”勇者”様が御手ずから料理なさっているのだ。以前、食ったものはぶ厚い衣で中身など全く見えなかったが…しかも獣脂のせいか、一つで胸焼けだったな…。
”さしゃく”
ほほぅ…甘みの中に苦みが。大人の味だな。ビアでは…
「ミッツ殿…ここはやはり、”酒”なのであろうか…」
「そうですね。今回は手に入りませんでしたが、蒸留酒の匂いの少ない物の水割りでも行けますよ…まぁ、魚介にいけばビアでも楽しめますよ。はい、ニンジン。」
そう言うと、磁器の丸皿に置かれる。
「ニンジン…か。」
ごく普通の食材…が、細く切られ、奇麗にまとまっている。甘い…美味い…
簡単な感想だぁ?それしか言えるか!
数点、野菜が続いたが、全く胃に来ない…しかも普段食ってる食材だがまるで別物…
「はい、エビね。」
大ぶりのエビが”でん!”と置かれる…これは…別格だな…うますぎるだろう!
「口直しに」
次はビルック君。野菜?しおれてる…?何かあるのか?
む!柑橘系の爽やかな香りと…程よい塩気…なるほどな。
「おっさん。本格的過ぎて…美味すぎて誰も会話にならんのだが?」
「知らんがな。そこはトワ君の腕次第だろう?」
「…どうしろと?」
「トワ殿の気持ちよくわかりますよ。ホストの立場でしょうから。ですが、ここは堪能させていただきましょう。」
「しょうがないか。」
俺でもどうにもならんよ…
「ほら。お嬢様…想像を超えた”優良物件”ではないですか!」
「む、むむむむむ…」
かたや、小声でミツゥーヤがアホな事を抜かして…エルザは胃袋つかまれたか?まぁ、エルザの反応を見るに…日常会話なのであろう…全く。
「はい、白身と赤身魚の天ぷらね。これで揚げ物は一通り。ご要望があればどうぞ。」
「エビを…あ、」
はっ!思わず言葉に…
「はいよ!御遠慮なく。」
「お父様…」
「貝の焼き物です。”サザエのつぼ焼き”というそうです。切ってありますのでそのままどうぞ。殻の中のスープは絶品ですよ」
軟らかく煮られた貝…貝殻を器になどと…ん?これは…黒くてくるんとした物体…
「この黒いのも?」
「ええ。肝になります。独特の風味が良いですよ。」
む!…苦いが…嫌いじゃないな…ほんのちょっとしかないのが悔やまれるが…スープといったな…反則だろう…ここにきて…旨味でしかないではないか…素材の味か。
「ビルック君…すごい腕だね…どう、店出さない?」
「ありがとうございます。ですが僕、修業に行きます。まだまだですので。」
「君がまだまだだったら…いや、よそう。人を満足させる道…終わりのない、果てしなく遠い道だろうからな」
「はい!」
「お父様?」
「人ってのは、次、次と要望だけはでかくなるものさ。一流といわれる料理人…いや、職人と呼ばれる人物はそれに応えることが出来た証。そう思うよ。しかし、君が修業に入る店…余程のコックがいるのだろうな…」
「はい。父さんがこの世界、一だと」
「ほう…ミッツ殿が?是非に行かねばならんな!」
「行くとビックリしますよ。違う意味で。ふふふ」
「?後程教えていただけませんか?」
「隣国ですよ?一応書いておきますね」
「おっさん、今日、天丼行ける?」
天丼?丼…
「ああ。大丈夫だぞ。100%麦だけど。」
「じゃ、エビ2本で!」
「はいよ!」
「あ!おじ様!私も。少なめ、エビ一本で」
「ルカ様が食べるなら…私も!」
「使徒様ぁ!こっちも!」
「はいよ!麦少な目で行くな。」
器に麦…あれは昼に食したものだな。本来はここでイネ(米)なのだろう。黒いソースをかけて…なんと揚げたてのエビを…そして再びのソース…丼…ぬ?思い出した。
…専用の蓋つきの器を手配したことがあったな…食べ方は…トワ殿を見るに豪快にエビにかぶりつき、麦を掻き込む?…”ごくり”美味そうだな…エルザも実に美味そうに食べるな…
「よろしかったらどうぞ。”魚村”特産、サーペント漬け焼き!」
「な!こ、ここで食えるだと!…本当か…」
伝説の食材、シーサーペント。”魚村”漁師村ならではの加工、一週間くらいしか持たぬと…そうだな、今日の晩餐は”無限収納”ありきのものだったわ。
獣肉のような見た目…火の通りも申し分ない。ホロホロと箸で崩れる…美味い…ビアが進む…ミッツ殿、ビルック君は、獣人勢の”追加”料理もあるので忙しく動いている。それでこの完成度。脱帽だな。
「こら、アルス!お前も野菜食え!」
「は、はぁ、種族的に…」
「先生曰く、食った方が良いって言ってたぞ!」
「…はい…使徒様…」
「うぷぷ。そうだぞ。アルス。体に良いぞ?」
「うるさいわ!」
「良いから、食え!」
「…はい…」
「どうも肉食系といいましょうか、野菜嫌いで。倅の雹なぞは、気配すら消しくさる。」
「ふふふ。そういうものでしょうな。」
「野菜には排出に関わる養分が多く含まれてるんだよ。毒素を出す作用もある。体にいいから、食べてもらいたいのですがね。」
「そうよ。美容にも大変良いのよ。」
「ほんとですかルカ様!」
「貴女に嘘ついても仕方ないでしょう?便秘、肌荒れ、髪質にだって…肉ばかり食べてると吹き出物バンバンよ」
「「ゔ…」」
エルザと、アメリア…ナディア嬢が固まる。
ミッツ殿といい、ルカ様といい…説得力があるなぁ。ふふふ。
腹も落ち着いてきたので、チビチビ飲やりながら、会話も弾む。
アルスたちの受難の話には大いに怒り、トワ殿の話す、海洋国での冒険譚には胸踊らされた。いや、大いに笑わされた…な。常識の違い。海に泳ぎに行くなどと…この世界の人間じゃ思いもよらぬな。
巨大な貝に追い回された話など…眉唾だったが、透明な骨?でできた槍を見せてもらった…いやはや…
途中途中摘まめる肴も出て、皆大いに飲んで、語らった。エルザたち女性陣はフルーツを食している…が、ルカ様を見習いなさい!はしたない…
注意しようとしたが…目が怖い!殺られる?
「駄目ですよ。女性が甘味食べてるときに手出しちゃ…死にますよ?」
「ぷぷぷ、そうだぞ。にしても、”練乳イチゴ”美味いな!」
「おじ様、さすがですわ。」
「「おかわりを!」」
「アナタ達それくらいにしておきなさいな…太るわよ?」
「「ゔ…」」
「淑女は何事にもほどほどに…社交界の豚にはなりたくないでしょう?」
「「…はい…」」
流石、大悪魔か。蘊蓄が違うな。あのエルザも言い返さぬとは…まぁ、逆立ちしても敵わぬがなぁ。
「さて、如何だったでしょうか。本日の料理はここまでとさせていただきますね。隣に談話スペースと”酒”と”乾き物”を用意していますのでよろしければそちらをご利用ください」
そう言うと頭を深々と下げるミッツ殿と、ビルック君
”ぱちぱちぱちぱち”
「いやぁ~すっかり堪能させていただいた…山海の味覚、珍味。素晴らしい技の数々…今まで有難がっていた”和食”はなんだったのであろうか…様式美と納得してきたが…まるで別物…本当の味が知れて感謝ですよ。」
「本当に美味しい料理の数々…忘れません」
「なんだ、最後の晩餐みたいに…これから関係強化を図るんだろうに…」
「あ、ああ。そうだねトワ殿の言う通りだな。」
{ははははは}
「おっさん、ビルック、ご苦労様。マジ美味かったわ。また頼むよぉ~」
「ああ。いずれは店出したいねぇ」
「トワ兄、お店の予行練習みたいで…楽しかったよ。」…。
晩餐が終わり、談話室に場所を移すことになった。心身共に満足。素晴らしいひと時だったなぁ。
ミッツさんの夢?のお店。また営業できるといいなぁ。またのご来店をお待ちしております。




