そうだ。先約があったな。
いらっしゃいませ!
「いらっしゃ~い」
’ちょこ’に案内されてリビングに入ってきたエルザさん、ミツゥーヤさん。
「突然の…」
うん?
「エルザさん?」
「し、失礼しました!」
「アルス、マーレン…顔怖いから…」
「だな。」
「「使徒様…」」
「どうぞ。そちらへ。」
「茶淹れるわ」
「して、本日のご用件は?町長も村長もいるから話は早いよ?」
「…では。早速。中層部の薬草を卸していただけないかと。数種類あると助かります。」
「種類は何がいいの?乾燥したもの?」
「先日拝見したフクトウ草、マシカ草、トウチの実…」
「ようわからん…アルスわかる?」
「腹痛の薬でしょうか?」
「先生に聞くか…’ちょこ’悪いけど先生の手が空いてたら呼んできて、あ、商談ぽいから、ナディアも。」
「へい!合点!でさぁ!」
「…あの、湯場の薬湯の成分なども…」
「あれは出せないよ…騒ぎになるし…戦の手段にも成り得るからね。」
「…そうですか。」
「なんだい?使徒様…これは、お偉いさんが集まって…」
「先生だって創始者のひとりなんだから…」
「あれ?そうかい?まぁいいさね。で、何の用だい?」
「薬草について話が聞きたくて。まず、お茶どうぞ。」
「いただくよ。」
「お待たせしました。」
「ナディア悪いね。交渉立ち会いお願いね。」
「はい。エルザ様、ミツゥーヤおじ様お手柔らかに。」
「こ、こちらこそ。」
…。
「大体の話は分ったさね…使徒様の言う通り、”薬湯”は非公開さね。特殊な薬草もだが、魔素の濃度も関係してるんだ。ここじゃないと十全な効果は期待できないね。」
「そうですか…」
「あとは…フクトウ草と効果の高い回復系の草、数種だねぇ出せても。マシカ草なんざ流したら…どうなるかわかってるかい?」
「…ええ。けが人や病人の多くの命が助かります。」
「…そりゃ、表の事情さね。一般の薬草位市場にあればね…。裏は違うさ。一握りの者が買い占め…毒に使われたら?」
「毒?」
穏やかじゃないなぁ。
「ああ、使徒様、マシカ草ってのは増強剤みたいなものさね。治療にも、毒にもね。」
「なるほど…」
「それは…」
「実際問題、中層部深部から深層部にしかない貴重な薬草さ。出荷量もしれてるさ。ものすごい値が付くねぇ。どうせ貴族や、怪しいギルドに行くんだ。出さない方が良いね。」
「…」
「まぁ、ポーション…すでに薬剤になったものなら、出荷もできるかもしれないねぇ。」
「そ、それでも!」
「まぁ、その辺は…ナディアに聞いておくれ。じゃ、いいかね?」
「リリルはどう?」
「ああ、まじめな子だよぉ~。今は、ドクターノインたちと研究してるよ。何でも使徒様が教えたという”血の流れ”の検証だと。」
「…そう…」
「今の建物、研究棟として残してもいいかい?」
「…ええ。賛成です。防音にした方が?」
「そうだねぇ…まぁおいおいだねぇ。じゃ、失礼するよ。」
「ありがとうございました。…後はなにかあります?」
「あ、あの…」
エルザさんが言葉を発しようとしたとき、
「ただいま戻り…いらっしゃいませ。大人数ですね、茶菓子だしましょう。」
「おう、戻ったか!ビルック。どうだった?」
「はい!スパイスの妙技…堪能できました。ラザック師の技も多く見せていただきました。本当に勉強になりました。」
「今まで外の世界を知らなかったんだ。これからバンバン覚えるといいさ。」
「はい!父さん、ありがとう!」
「ああ。」
「そうだ…一品作っても?」
”がたり!”
「是非に!!!」
エルザさん?
「お嬢様…はしたない…」
「だって…」
「アルスたちにはしんどい料理だ、ディゴと交代だな。居れば。だけど。」
「トワ兄、魚…で挑戦してみたいんです。」
「おお!…おっさん、どういう魚が合うんだ?」
「おいらが知ってるのは…白身系だな…インドなんかじゃ、淡水系の白身なんかも使われたような…」
「白身な!おっけー」
”バタバタ…”
「騒がしくて失礼しました。」
「い、いえ…」
「お嬢様も同罪ですので。」
「焼き菓子、もらってきたぞ。茶も入れなおそうか。」
「と、話を戻しましょうか。エルザさん。他にご用はあります?」
「え?ええ…でも目的の半分以上は…」
「お嬢様?」
「お昼いただきに…」
「エルザ様?本気?ミツゥーヤ小父様?」
「仕方ないでしょ!ビルック君の料理…美味しすぎるんだもの!」
「…お嬢様」
「…エルザ様」
ミツゥーヤさんも、ナディア嬢も呆れ顔だわ。
「ははははは。コック冥利に尽きるってもんだ。いいですよ。じゃ、こっちからの商談と報告事項ね。」
「はい?」
「まず、ビルックの言っていたカレー屋さん。営業掛けておきました。まだだれも来てなかったので。」
「カレー屋ですか?独特の匂いの異国の料理?…あ!」
「そうですよ。勇者由来のスパイスの塊料理です。そこを抜きにスパイスは語れませんよ?」
「勇者由来…なのですか。」
「ええ。美味ですよ。獣人たちには刺激が強いようですが…」
「ビルック君は?」
「どうも料理となると、別感覚?なようで。よくわかりません。そういう訳でして。優遇お願いしますね。」
「は、はい。」
「トワ君、さっきの。」
「ん?魚か?」
「…違うわ。ハチミツ…」
「お?おお。これな。」
「で、これ。おいくらつけてくださいます?」
「ハチミツですか?」
「ええ。味も香りも最高級。薬にもなるかと。”甘露”と言われるものです。」
「”甘露”?あの?あ、味見しても…」
「ちょうどいい、焼き菓子につけて試食しましょう。」
もちろん鑑定済みだ。蜂蜜って”毒”が含まれる物もあるしね。
・甘露(高級ハチミツ)…マルオオミツバチの集めた蜜。唾液に強い殺菌解毒作用があるため安全。殺菌処理も不要。幽玄の地で集められたため、滋養強壮、若返り効果もあるかも? 美味だぞ。値段なぁ~同じ重さの金と同じくらいか?マジで。干しブドウ幾らでももらえるぞ!
「あ…」
「お嬢様?」
「…こ、これが…伝承にある…”甘露”…」
「美味いな。これ。」
「強い殺菌作用があるから一遍に沢山食べない方が良いようですね。ミツゥーヤさんもどうぞ。」
「遠慮しておきます…高価ですから…」
「そんなこと言わずに。査定ですよ、査定。」
「では…むふぅー…これが…極限に甘い…のですが、重みが全く感じない…くどさもない。身体に染みるような感じですな。以前「甘露」といわれるものが流通した折は同じ重さの金と同等とか…」
「これは…”本物”なのですね。」
「はい。勿論”鑑定”済み。うちの…精霊たちが暮らす階層で採れるものです。」
「精霊の世界…」
「鑑定書もつけましょうか?」
「…この瓶を…」
「新しいのをお売りしますよ。お代は…」
「同じ重さの金で…」
「ナディアいい?」
「そうですね。”最初”はそれでいいでしょう。」
「じゃ、それで干しブドウ…仕入れてください。」
「干しブドウ?ですか?」
「はい。妖精たちの好物ですので。妖精たちが蜂の世話をすることになっています。」
「…なるほど。量はどれほど…」
「どうでしょう…干しブドウが無くなれば?でしょうか。」
「…もっと出せません?」
「さて…今後の経過次第ですね。何せ気まぐれの妖精族ですし?その後はナディアに任せます。」
「はい。承りました。」
本日もお付き合いいただきありがとうございました。またのご来店をお待ちしております。




