閑話 真実を求めて(マシュー)2
らっしゃい!今日も閑話どす。
「う…ん…っ!」
目の前にあの子が…ひぃ。
「大丈夫だよ。具合は?」
「あまり…」
良い訳無いでしょう!キッと睨んで見るも…この世界の事。ミッツさんには関係ない…
「どうする?今ならまだ引き返せる。…それとも”進む”かい?」
全てを知らずとも…今まで通りに生きてはいける…甘美な言葉…でも!
「…進むわ。もちろん。”すべて”教えてくれるのでしょう?」
「知ってる限りは。ね。で。何が知りたい?」
これで日常から、非日常へ…深淵を覗く…とはこういう事なのかしら…
その後は前回のおさらい。聖王国の行いなどを予測と実績で整理した。魔界の秘密…ミッツさんの世界にも…他の数多の世界にもつながっている?しかも、同一の悪魔や、魔王が認識されている…あまつさえ、神と悪魔の線引きがとても曖昧だと…言われてみたらそうよね…対極の存在なのだし…しかも、私たちが信仰するゼクス教…ミッツ様に言わせるととても歪で、むしろ悪魔寄りでは…と。
創造神の話なのか?…その世界で生きる私たちにはどうすることもできない…これが真理というものなのだろう…
今回の事件…当初の”生皮”の件についても
「経営者は悪魔じゃないかしら?それか”契約”ってのもあるわ。望みを叶えよう!その代わり…まぁ、地位や、名誉、殺人なんかを餌に、忠誠を誓わせるのよ。魂を縛る”契約”ね。そういった”人族”を手足のように使ってるのよね。」…
「昔から、根深く…続けられてきたのだから。古くから続く王家や、老舗大店なんかはそうじゃないかしら。例えばこんな奴、何代も結婚もせずに養子をもらって世襲…とか?見かけは変わったけどクセが同じとか?」
…何人かの該当する人物が脳裏をよぎる…ギルドの長老衆にも…ね。何代も前から…この国の経済、戦争さえもコントロールしてきたのだろう…そう言った面では、貴族、大店、商業ギルドは良い隠れ蓑になろう…ふぅ…あまりにも多くの知識を得ることはできた…しかし…彼等の言うとおり。
そう、この中で生きていくしかない…力が無いものは…マシュー女史?ふふふ…それすら、彼ら…支配している、闇に蠢くモノたちの庇護なければ、ただの町娘…もう歯車の一つ…いらぬ知識を得て、違う動きをしたならば、直ぐに”破棄”そして”交換”されるのでしょう…ね。
…。
「で、何のようだい。わざわざこんな所まで来るとは。」
ミッツさん達が席を外した後。ここに来たもう一つの目的。
「最近ナハシに会った?」
「…ナハシ…かい?」
渋い顔のアヴェル…
「良い噂は聞かないねぇ。尤も…」
「なに?」
「…なんで、ナハシの話がでてくるんでぇ?」
「…最近…ディフェンから…ナ…アメリアが来て…」
「ん?生きていたのかい…そうかい…」
「嬉しくないの?」
「イヤ…ねぇ…散々な目に遭ってんだろう…意識はある…のかい?」
なんで?憐れむような眼…知っている!
「何を知ってるのよ!アヴェル!」
「落ち着きぃね…で?」
「…ピンピンしてるわよ!」
「へぇ?」
「ミッツさんが助け出したんだって…」
「旦那がぁ?神出鬼没とは旦那の事だねぇ…そうかい…」
「それでアヴェルの知ってること教えてよ!」
「知ってること?」
「ええ。」
「何が知りてぇんで?」
「ナハシのこと!ここで起きたこと!ディフェンの事!ミッツさんの事!」
「…話せるのは…ナハシの事だけさねぇ」
「そう…それ、聞かせてよ…」
「ああ、つまらん話だ…奴は、外面は良いがやることなすこと…」
「嘘…最近…よね…」
「いや…王都のギルドにいる頃から…それ以前からかなぁ。俺が知り合う前からじゃねぇか?根っからの”屑”だな。ありゃ…」
「うそ!うそ!それが何でギルマスなんて!」
「大店の推薦だなぁ。アスター商会の取引を一手に取り仕切っている。手数料だけでかなりの金が動くからねぇ…」
「アスター商会…そんな…そんな…」
「で…ナハシとアメリア…今回の件、話してくれるか?」
「アメリア…犯されて殺されかけたって…シア…知ってるでしょ?」
「ああ…熊人族の」
「家族皆殺しの上…生贄にされる一歩手前…多くの獣人の商人がディフェンに売られたって…ナハシに…」
「なんてこった…そこまで落ちたのか…多くの報告が奴から上がってはいたが…そういや、商人の死亡確認もヤツだったなぁ…誰も行きたがらないディフェンに行くなぞと…性根を入れ換えたと思ったが…そんな訳ないわなぁ…本当の正真の”外道”だったわけだ。」
「アメリアは…ミッツさんの治療で…い、今は…別人になっているわ…ミッツさんにお願いして…か、”神”が降臨され…ご加護と…」
「と?」
「ふ、復讐を成すための力を賜ったわ…」
「そうかい…あの”神”が…なら、手出し無用だねぇ。」
「ナハシ…」
「アメリアの本懐を果たさせてやればいいさね。”啓示”てなものだ…」
…啓示…神の意思…神もナディアの正当を支持していらっしゃるという事…そして、ナハシの死を願っている…そう。アヴェル、ミッツさんも…
「…今日来たのはもう一点…”人の生皮”」
「!見ちまったかい…」
「知ってたの?」
「ああ…一応、ギルドの闇だねぇ…ああ!そういう事で…ミッツ様はあの子を連れて来なさったんだね。」
「ええ…”悪魔”…よ…」
「ギルド内でも、昔から言われていることがある。長老衆のうち、3名…王都のギルド長…見かけは違うが…中身は…ってなぁ。で”生皮”だ…まぁお察しだな。」
「そんな…事が」
「ああ…一種の”伝統”…だなぁ…お貴族様や王族にもなぁ。」
「そんなの!」
「で、どうするんだい?」
「どう…とは?」
「一人一人摘発してまわるかい…」
「…」
「そういうこった。実際、不自由してない…むしろ、一つの意志の元、統一されてるのかも知んねぇなぁ」
「食料が”魂”としても?」
「…そいつは…ああ、そうか、召喚にも要るんだったなぁ。飯がそうだという方がしっくりくるなぁ…でも証拠がねぇな」
「さっき出たアスター商会…”悪魔の巣窟”…会頭は”魔王”だそうよ…」
「ほう…”魔王”ねぇ」
「魔族の”王”ではなく、悪魔の”王”だそうよ…”神”の対極の存在…」
「なるほどねぇ…」
「どうしたら…良いの…」
驚きもしない。…のね。
「さぁ、なぁ。一つ言えることっちゃ、アメリアの応援してやんなぁ。ナハシとの縁も知っちゃぁいるが…正義はアメリアだ。せめて邪魔すんじゃねぇぞ。」
「会談の 「女がぁ、力ずくで貞操を奪われるっちゃぁそんなに軽いんかい?俺には解んねぇが…アンタならわかるんじゃねぇか?」 …」
「話はそれだけでぇ。」
「アヴェルは…良いの…」
「さぁなぁ…人の世も、悪魔の世もそうそう変わらねぇんじゃねぇか?」
「そう…」
トワ君からゴブリンの集落の情報がもたらせられる。かなりの戦闘上位種も見られるそうだ。
トワ君達は我関せず…明日には発つという…良いのだろうか?その辺りも含めてギルドマスターの部屋でアヴェルの戻りを待つ。対策会議で戻るかはわからないが…
”ぎぃい”
「ん?どうしたね?マシュー?」
「お疲れ様…」
「帰る準備は終わったのかい?」
「…その件だけど、私に手伝えることは…」
「無ぇなぁ。とっとと帰んな。」
「っ!」
「…!…もしや、ミッツの旦那に残るから付き合えなんて言ったんじゃねえだろうなぁ」
「ええ。きっぱり断られたわ。」
「ふん、当り前さね。」
「何でよ!」
「お前さん、残って何する気だい?兵の先頭にでも立って剣でも振るうのかい?」
「それは…」
「じゃぁ、聞くが”何が出来んだい?”小娘が!」
「い…」
「言ってやろうかぁい、いざってぇ時に”勇者”の力をあてにしてるんだよ!心の奥底でなぁ。女って生き物の共通の思考だぁ。姫然り、あんたもなぁ。」
「そんなこと…」
「じゃぁ、何ができる?ここのギルド職員としての仕事などないぞ。十分足りている。荷運び人工位なら使ってやる。勇壮に”義軍”として冒険者ギルドに参加すんなら止めやしねぇ。精々頑張ってくんな。もちろん、ミッツの旦那は帰っちまうだろうがな。まぁ、一人で頑張るんだなぁ」
「…」
「そう言うこった。これは”国”の問題なんだ。”勇者”問題じゃねぇ。」
「…わかってるわ…」
「いや、解かっちゃいねぇ。今後”勇者”のところを”異邦人”と置き換えれば違う風景が見えてくんだろう。」
「”異邦人”…」
「ああ、お前がいくら、面倒を見て、貸しを作っている気でも、スタートの時点がマイナスだぁ。俺たち、この世界の罪だぁ。最初からの負債って奴だなぁ。」
「…それは」
「まぁ、甘々の旦那の事だぁ。ちゃんと”借り”としてくれてるだろうがなぁ。だが、”命”が関われば別だ。」
「…」
「解ったら、大人しく帰んなぁ。居てもいいが、やることねぇぞ。」
「…はい。話してくれてありがとう…アヴェル…」
…甘い…か… <完>




