お墓参りにやってまいりました!
いらっしゃい!
その日の”宴”は中止になった。いたし方あるまい。
事務所に搬入された沢山のお菓子、果実、飲み物を”収納”する。もちろんお代は現金で。お供え借金じゃねぇ。
食材を提供し夕食をとる。厨房の大きい冷蔵庫……魔道具なのだろうか? エビ入るかな? 入るようなら……とも思ったが、今度の楽しみにしておこう。どうせ、すぐに来ることになるだろうし。
……
早朝、体を軽く動かす。型は大事。いざって時に無意識無双で……なんて、漫画みたいな一撃が出せるとは思わないけどねぇ。ハハハ。
せっせと今日は木剣を振るう。
「おっさんの魔剣は”勝手に剛剣”だから、斬り下しだけでいいんじゃね? ということで! 素振りひゃっか~い!」
「うぇえ! そういや、トワ君の魔剣みたいに魔力注いだりしないでいいのかな?」
「ドワーフのおっちゃんいるときにしとけよ! 爆発したらえらいことだぞ!」
「……うん。そうだね。そうするわ」
自分だけならいいが……子供たち巻き込んだらシャレにならんものな。もちろん、おいらもまだ死にたくないけどね!
朝食をモリモリ食って、出すものもモリモリっとだす。
スライム君も、もうすっかり友人――いや! それ以上だな。笑。
そう言えば、町で初めて”飼い犬”を見たよ。それも小型犬。あ、猟犬? というより、猟オオカミはいるよ。愛玩動物って意味のね。”飼い猫”はあちこちで見るんだけどね。
野犬も見ないものだから”犬”っていないと思ったよ。即オオカミってね。
うちでもペット飼った方が良いのかな? 教育のために……まぁ、馬やら鹿やら鶏がいるからいいか。家畜だけどね。さて、お墓参りいこうか。
「さて、お墓参りに行くぞ~」
「おう!」
すくっと!挙手のハセル。
「はい!ハセル君!」
「はい!食肉ギルドには寄らないの?」
「むむむ。いくか!」
{応!}
……気合が違うな……おい。
まずは食肉ギルド。トワ君も火鶏の燻製やらを大量購入。ライ、カイ。店内で食うな! 試食だけにしなさい。ハセルは慣れたもの……って、片っ端から試食すんなよ……。
ルカちゃん……ビア片手に試食はダメよ。それぞれ小遣いで買い物してギルドの直営店を出る。
”ちゅくちゅく”と豚足をしゃぶってるのは通例事項だ。気になる……さっさと食え!
あっちふらふら、こっちふらふら。屋台、露店を覗きながら領主城へ。もちろん、ルカちゃんは退避だわ。いつの間にかに消えていた。
「こんにちは。ミッツと申します。お参りにました。許可いただけませんか?」
城主館を守る門衛に声をかける……うん。不審者だよなぁ……
「お参り? 貴様はなにを 「まて。ミッツ様。失礼しました。どうぞこちらへ」 衛士長?」
「良いのだ、下がれ」
「はっ!」
「すまないね。叱らないでやってくれ。十分不審者ですから。ハハハ」
「…はい」
勝手知ったる何とやら。聖地に向けて歩いて行く。お! 参道に草花が植えられている? 大きな鉢植え、プランターなども置かれている。此方はまだ芽が出たばかりだな。
領主殿、なかなかの気配りだ。
「ふ~ん。良いな。綺麗にしてるし……草花も」
「ああ。領主様もお気にしてたからね。弔う気持ちも……」
鎮魂碑、祭壇らしきものも見えてきた。
「本物のようだね」
「そうだな」
聖域はロープで囲まれ中に入れないようになっているようだ。あの日以来、足跡一つない。
その手前。石板が置かれ、石板には良く解からないがこちらの鎮魂の詩が掘られていた。その背面には、前領主の愚行の数々(もちろん人食い以外よ)がしっかりと刻まれていた。ふむ。後世に残すか。やるなテクス殿! 祭壇には何も置かれてはいなかったが清められていた。清掃はいつも行われているのであろう。
さて。”収納”から、お菓子、果実、飲み物、子供用の食器それと……ファムや他の子どもたちの手紙……泣かせるじゃないか。ああ、泣いてるさ。今も。問題ある?
「おっさん……思い出し泣きか?」
「悪い?」
「良いけどさ……」
ハセルたちはっと、祭壇に豚足を積んでいる。商会のマジックバッグに入れてたようだ……豚足も皆の小遣いで買ったそうだ……ああ……涙腺崩壊だわ。でも、この後、テクスさん見たら、びっくりするだろうな。なんだ! この豚の足の山は! ってね。ははは。
「よし。これで良いか!」
「「「おう!」」」
「スゲエな……豚足。頭無いだけいいか……」
「豚の頭があったら、どこぞの怪しい部族の祭りみたいだわ。……じゃ、お参りしようか」
皆で跪いて冥福を祈る。元気? ってのも変だな……ファルよ。他の子もちゃんと転生してるかなぁ。また近くに来たら寄るからね。顔を上げると、お供え物が奇麗に消えていた……
「取りに来たのかな?」
「お! なくなった!」
「「どこいった?」」
「皆が取りに来たんだよ。良かったね」
<ハセ兄達、ありがと! 豚足>
{おお!}
<父様も……またね……>
……ああ、……ああ。
周りの草花が成長し、蕾があらわれ、花が咲く……。ああ……奇跡だ。
「ミッツ様、今……おお、こ、これは……?」
うん? 領主殿? 今忙しいだろうに。
「これは、これは。お忙しいところ……お供えを取りに来たようです。喜んでくれてるようで」
「そうですか……」
<俺には……無いのかよ?>
急に満ちる神気と重圧…
「ひっ!」
「くっ」「むぅ……」
「……しょうがないですね。いじけないで下さいよ……どうぞ」
ワインとビアを5樽ずつ。おつまみにシンケンハムを付けて。すぅっと消える……
「まったく」
「み、ミッツ様?」
「何でもないですよ。この辺りも奇麗に整備されて……碑文もみました。後世に伝える覚悟を?」
「え、ええ。あれを砕くものが出ぬよう、しっかりと伝えていくつもりです。今、問題になってるゴブリン村、早期発見ありがとうございました。今の戦力でどうにかなりそうなので。この後出兵しますよ」
「お気をつけて。キングもたぶん……」
「その辺りの対策も出来ていますよ」
「ああ、心配はいらねぇよ」
「そうですか。ああ、ここに木を植えていいですか? 桜の苗木を入手したもので」
「ええ。どうぞ……あ、あそこに植えよ……という事でしょうか?」
「え?」
祭壇の左右後方、聖域に少し入ったところに……光の柱が……
「そうみたいですね……2本植えろってことでしょうね」
「ええ」
収納より桜の苗木を2本出す。
「テクス様、親分どうぞ片方」
「な! ……私には資格が」
「いえ。十分にありますよ。さぁ」
「ほら、領主殿。お言葉に甘えましょう」
「あ、ありがたく……」
聖域に入り、手で砂を分け、苗を置く。すると自然に苗木が吸い込まれ、ずんずんと成長を始める。
「こ、これは?」
「凄い……」
あっという間に大木に。こうなれば……ちらほら……うすピンクの花びらが……そして、満開に……
「うわぁ……」
「「綺麗……だ。すげー」」
「なんと……」
「奇跡だな……」
「こりゃぁ、すげぇ……神の御業かぁ」
「花見ができるなぁ。なぁ、おっさん」
「懐かしいなぁ……サクラ」
そんなに経ってないのにな……
<まぁ、一杯やってけ。テクスといったか、アヴェル、其の方らもな>
祭壇に銀色のゴブレットが……人数分。あ、テクスさんの方は一個ね。お供の分は無し。
「また、いかがわしいものでは?」
<お前というヤツわ>
「み、ミッツ様ぁ!」
「最近、悪戯されて怒ってるんです!」
「ヤル気スイッチかぁ」げらげら
「どれ、心眼鑑定……」
・神酒アムリタ 不老不死は無いけど、ちょいとは若返るかも? よく効く栄養ドリンクくらいだな。高いユン〇ルみたいなもんだ。
・アムリタ発酵飲料。 まぁ、カル〇スみたいなもんだ。毛並みも良くなるさ。
おいおい……ユン〇ルやら、カ〇ピスやらって……
・湧水のゴブレット 水筒。魔力を水に変換。質で味が変わる。
……何気にとんでもアイテムじゃん……
「父ちゃん、飲んで良いの?」
「ああ。このゴブレットも貰っても良いみたいだな」
「み、ミッツ様?」
「中身は神酒……酒と言っても極く軽いものかと。日頃の疲れが取れるくらいだそうです」
「そ、そうですか」
「で、ゴブレットは湧水のゴブレット。魔力を水に変えるそうです。うちでは水筒代わりですが……貴重な魔道具かと」
「え、ええ……頂いても?」
「私も良いのかい? 家宝にでもしようかね」
「人数分、それぞれ。で。では頂きましょう! ”乾杯”」
{乾杯!}
「あんまり美味くねぇな……」
「こらこら」
「こっちは甘くておいしいよ!」
「「うん」」
「俺も、ジュースが良かったな」
「お、恐れおおい……」
「これが……神酒……」
「ん?」
「どした、おっさん?」
「むむむ……何だか、体の中から……ぐぅう! どう? 若返った?」
「変わんねぇぞ」
「あ、そう……ま、そうだよねぇ」
「お! ハセ凄いな……金獅子だ! ライ達は銀狼か! 似合ってるぞ!」
赤黄色ぽかった毛髪がシックなゴールドに。
「おお! カッコいい?」
ライ達も落ち着いたいぶし銀?シックなシルバーに
「「カッコいい?」」
「ああ。すごいな……」
「父ちゃん?」
「ほっとけ、いじけてるだけだ」
そこは構ってちょうだいよ! 痛んだハートに優しさを! トワ君も変化なし。まぁ、元々ぴちぴちイケメン勇者様だしな……もげろ。
親分も特には……本人曰く、体が軽くなったとか?
一番の変化はテクス様。今回の事件で刻まれた顔の皺がなくなった……頭髪は白髪のままだが、かなり若返ったように見える。最初に会った時とそう変わらんな。だが、目はより深く、老成している。お付きの人もびっくりしている。
「さぁ、お礼をして帰ろうか」
皆で跪いて祈りを捧げる。
「また来ます」
そう言って聖域を後にした。
「お忙しいところ、お邪魔しました。」
「いえいえ。何時でもお立ち寄りください。門はいつでも開いています」
「ありがとうございます。勝利をお祈りしています」
領主様と親分に別れを告げて門を目指す。お土産(干物セット)を渡すのも忘れない。
「いやぁ~良い墓参りになったね」
「だね~周りも奇麗だし。ちょっとは見直したよ。領主を」
「桜も毎年咲くだろう? 賑やかになるね」
「綺麗だね」
「「うん」」
伝え聞くところによると……一年中咲いているそうだ。流石、聖域の”奇跡の桜”だね。
本日もお付き合いありがとうございました。またのご来店をお待ちしております。




