ロランさんのお母さんを迎えに。
いらっしゃいまし!
食後トワ君を誘い、獣人の居住区へ。皆食後なのか、のんびりしている。間もなく学校が始まる頃だろう。
「使徒様!」「勇者様!」
「トワ様よ!」
…トワ君の声援の方が多い…
「なんだよ…邪神様…オーラが黒いぞ」
「ふん…呪いじゃ!もげろ!」
「おいおい…お!ここみたいだ」…
「おはよう!昨日はすいません…放置しちゃって…」
フィールズ一家の割り当てられた店舗に。
「いや、大丈夫ですよ。私どもも直ぐに休めましたし。寝具もほら。」
「ええ、ミッツ様、ご活躍だったと…あ、使徒様とお呼びしないとですわね。」
「勘弁してよ…ナナイさん…で、住むのここで良いの?住宅は別途用意するよ?」
「いえいえ!十分です…それに、獣人の方達の中で暮らしたいと。」
「そうですか…ですが、加工所も考えると些か手狭ですね…隣も空いていますし…そうだ!隣も進呈しましょう。思う存分腕を振るってください。」
「で、ですが…」
「冷蔵庫を設置したら…住むとこ無いですよ?」
「あ…」
「そう言えば、家ごと持ってきてるんですよね…」
「あ…あまりの事にすっかり忘れていましたわ。」
「まぁ、普通、家置いてきますものね…そうだ、ご家族で検討してみてください。配置は任せます。明日…まぁ、いつでも良いですよ。簡単な図面ください。敷地は隣も併せて。地下は無いので。それと排水も考えなくていいですよ」
「ありがとうございます…」
「道具もその時で良いですね。日用品。何処に出しましょうか…」
日用品を引き渡し、穀物類も置き店舗を出る。本当は長居したかったが…スルガさんとの約束があるからね。
商店街…と言ってもまだ開店休業だな…まだ何もないしな。
「もしかして…大浴場…営業してたり?」
「…あり得るな…って、後だ後。おっさんじゃ、入ったら最後、今日のお勤めが終了してしまう!」
「…了解ぃ…」
「泣くなよ…今度皆で、ゆっくり、だらだらしようぜ!」
「おう!そうだな!おばあさん迎えに行かんとな。」
「良し、予定は…先ずはお婆さんとこ。エルザさんとこ、マシューさんとこ…他は?」
「鶏馬車!」
「あったな…鶏…どうなってんだ?…野営用家も注文すっか。」
「ドワーフのおっちゃん…は、姉貴と一緒か…」
「だね。そんなとこか…人員はと…ライ、カイおいで。カイエンはここの代表として見てくれ」
「はい」
「雹はゆっくり…」
「町中の情報を拾ってみるよ。町に出る許可を。」
「…わかった。気をつけろ。後の始末は父ちゃんがみる。やってみなさい」
「はい」
「ハセも来い。」
「応!」
「回れるだけ回ろう…ここもみなけりゃな…」
「スルガさんいくぞ!」
「…おーう!」
馬を曳いてロランさんとこへ向かう。
「で、どんな人?」
「う~ん…今は、足腰が悪くてな。しかも友人亡くしてふさぎ気味だ…昔は元気溌剌婆さんだったんだけどな…悪さしちゃ、良く怒鳴られたっけ?」
「ふ~ん。近所に一人は欲しい…ってな人だね。」
「まぁなぁ。良く、近所の年頃の娘が花嫁修業に行ってたっけ。」
「そりゃいいな!家のやんちゃどもを…なによ?おっさん?」
「その中に君も入ってもらおう!」
「ふっ…俺には”使命”があるのさ!そんな暇はない!」
「なんだい?、その使命って?」
「面白楽しく長生きに!だ。」
「ふ~ん。がんば!ライ、カイ。欲しいものあるか?」「…」
「トワ兄?」「父ちゃん、トワ兄放置で良いのか?」
「いいの。」
「それじゃ、一緒に…飯食いたい。」「久しぶりに…屋台とかで」
「…そうか。…王都までいくか?」
…スキンシップが足りないのぉ…
「「いいの?」」
「ああ。」
「旦那、もうすぐ着くぞ~」
「了解」
”こんこん”
ノッカーを叩く…椅子を引く音…しばらくして
『はいはい…ちょっと待っておくれ…足がねぇ。』
…”がちゃがちゃり”
「ん?どなたかね?」
ロランさんのお母さん。とても上品な印象だ。物腰も柔らかい。貴族出?いや庄家、商家かな?
「ロラン殿の御母堂様ですね。初めまして。ミッツと申します。で、トワと息子たち…」
「あらあら。どうぞ中に入ってくださいな。あら、スルガさん。ご無沙汰ねぇ。」
「ええ、無沙汰してます。馬いるんで外にいます。」…
「お茶を淹れようかねぇ」
ロランさんのお母さんはカーレイラさんと言うそうだ。カーラ夫人と呼ばれてるとか。
「あ、こちらで用意しますよ。趣味ですので。トワ君お願い」
「こちらの茶器をお借りしても?」
「ええ…お願いします。」
…部屋の中も奇麗に、上品にされている。趣味の良さがうかがえる。落ち着くな。…お茶を人数分用意し。焼き菓子を出す。ビルックお手製のシナモンクッキーだ。
「ふぁ。美味しいわねぇ。お茶との相性もばっちり…御点前も見事で。」
「ええ。自家製ですよ。うちの子が持たせてくれるんです。」
「…それで、ミッツ様、このようなむさ苦しいところへ、何の御用に?」
「ええ。先日来、ロラン殿、スルガ殿両氏に懇願されましてね。うちに入れてくれないかと。」
「…ご迷惑でしたでしょう?先方の都合もわきまえずに…親一人子一人、少々甘やかしてしまったようです。」
「いえいえ、ご子息なら当然。少しの不安も取り除きたいでしょう。話はお聞きに?」
「…ええ”悪魔”襲来の気があるとか…ロランに付いていければ良いのですが…足腰が悪く…長旅にも耐えられぬ身…周りに心配、迷惑ばかり…」
「少々、看ましょうか?回復魔法に心得がありますので。」
「恐れ多い…”勇者”様の御力…このようなところで…」
「ふふふ。ご安心を。勇者はそちらで茶を淹れてるトワ君。私はおまけですよ。では、失礼。”鑑定”…」
「え、ええ…?」
膝関節…コンドロイ…じゃないね。後は…重度のヘルニアと…骨折?
「手を貸すので、そこにうつぶせに。ライ、カイ手伝って」
「「はい」」
「骨折して歪んで癒着してるようです。少し我慢を」
「骨折?す、すまないねぇ…ぐ…」
「少々、堪えてください…」
背に手を置き、”修復””回復””修復”背骨を上から下、下から上へと撫でる。腰部を重点的に。
「”鑑定”ふぅ。完治かな?どうでしょう?」
「あ、ああ…ま、全く…い、痛くない?」
「次は膝。そこに座って。ライ」
「はい、ばあちゃん。痛くないかい?」
「ええ…すまないねぇ」
膝に手を置き、
「”修復”…もう一発”修復”…”回復”後は全体に…”回復”と…」
「あ…あああ…つ、杖なしで…た、立てる?」
「まだ、慣れるまで時間もかかるでしょう。筋力の回復もみなければなりませんね。」
跪こうとする身体をライが支え、止める。
「ばあちゃん、せっかく良くなったんだから…また悪くなるよ?」
「…優しい子ねぇ…」
涙を流しながら、ライの手を撫でる。
「そうですよ。ライの言う通り。ナイスだライ!お気になさらず。」
「いえ…しかし…ほ、本当にありがとうございます…。」
「とりあえず一服しましょう。トワ君お茶お願い」
「あいよ!」…
「それでは本題に。私どもの処にお迎えする準備はありますが…どうします?ロラン殿やスルガさんが一緒なら良いですが、自由に町にも出られなくなります。それに獣人が多い…」
ライ、カイの手を撫でながら…
「このようなお婆さんで良いのかしら…」
「ええ。家の子たち…孤児の子もいます。子守…というより”躾”をお願いしたいですね。私はどうも甘々でして…出会った頃の様子が中々拭えずに…。」
「そうですか…この子達も…」
「ええ。獣人族の子は、素直で、本能的にか、”指導者に従う”種族特性?みたいなのがあるので今のところ問題は無いように見えるのですが…実際はどうかと」
「力になれるかわかりませんが…是非、居場所を頂けませんでしょうか?」
「ええ。解りました。早速行きましょう。ご近所にご挨拶とかあるのでしょうか?」
「いえ、親しくしてくれていた方も先日…」
「この家の所有権はどうなっています?」
「ここは、ロランの物になっております。」
「そうですか。では、建物はこのままに…持っていくものはどうしましょう?」
「準備に…そうですねぇ一週間くらい?タンスから出したり…」
「タンスごと運びますよ。寝台はあるので布団。テーブル。食器の悉く…”収納”ほら。」
大きなタンスを消す。
「あ、ああ?」
「壁にある思い出の品も。チェストも。大丈夫ですよ。”収納””収納”」
トワ君も
「”収納””収納”」
「あ…あ?」
がらんとなった一階部。残るは埃のみ。
「”洗浄”っと。これで良し。2階は?」
「に、二階はロランが使っておりますの…」
「なら、放置でいいか。鍵をかけてまいりましょう。私達は仕事があるので…ライ、カイ。悪いけど護衛についてくれ。埋め合わせは今度の仕事でな。」
「「応!!」」
「馬車にてスルガ殿が案内します。」
「何から何まで…」
「いえ。では参りましょう」
…バッグから出すように…トワ君が小ぶりの良さげな馬車を出し、スルガさんを呼ぶ。
「おまたせ。馬お願いします。」
「ああ。良かった。まとまったようだな。旦那。」
「ええ、先に帰ってください。ライ達付けますんで。自宅予定地を見せたら、孤児院が良いでしょうか?賑やかなところに。」
「ああ、解って…お、小母さん?…つ、杖は?…だ、旦那!」
「ああ、治療できたよ。」
「す、すまねぇ…ロランの奴の分も感謝させてくれ!」
「大げさな。しっかり頼むよ。スルガさん。」
「ああ。」…
ゆっくり走りだす馬車を見送る。
「ふぅー。人の良さそうなご婦人でよかったなぁ。」
「ああ。獣人に対する差別もなさそうだ。荷物も預かったし。さっさと仕事を終わらせるべ。」
「そうだね。次はエルザさんとこに行こう。」
本日もお付き合いありがとうございました。またのご来店をお待ちしております。




