キャンプ村
いらっしゃい!
”がさがさ”獣道風の藪をかき分けて進む。
「トワ君~こっちで合ってんのかぁ~」
「ああ~ダイジョブだぁ~」
ほんとかよ…雹たちに留守を任せ、トワ君と魔の森を征く。
”がさがさがさ”
「ミッツの旦那!」
…ぬぅうっと現われる虎人族の戦士…怖いんだけどぉ!
「おお?!アルス!久しぶり!元気?」
「お陰様で。人族が森に現れたと聞いて。ご無事で何よりです。」
「ええ!偵察出てた?流石…全然わかんなかったよ。」
「ははは。森は我らの領域ですからな!」
「で、あれからどう?」
「その辺も含めて、キャンプ村で」
「おっけ~」
偵察も放ち、ここで採集生活してるんだよな…全く森が荒れていない。残るはおいらの足跡のみ。あれ?妖精?
「おい!アルス、妖精族かあれ?」
「ええ。最近妖精様をよくお見掛けします。キャンプ村の結界を行き来できなさるようで。村の中にも結構いらっしゃいますよ。」
「そうか。」
「ダンジョンから出てきたのかな?それとも新顔か?どう思うおっさん。」
「おい。トワ君。」
そりゃ、まだ、内緒の話だろうに。精霊様がいることは。
「トワ様?ダンジョンから?」
「あ!…わりぃ、おっさん。」
「…まぁいいさ。獣人達は信仰対象にしてるし。アルス、ここだけの話な。ダンジョン内に精霊様、妖精達が住む階層がある。」
「な!なんと!本当ですか!」
「ああ。許可無き者が入れない”聖域”としてね。そこから出てきているのか、新たに来たのかは判らないけどね。あとで聞いておくよ。」
「精霊様ですか…」
「おい!ちゃんと前みろよ!激突するぞ?」
「え、ええ。すいません。私どもの信仰の対象。神の如き存在です。皆にも知らせてあげたい…」
「おいおい。ここだけの話って言ったろう。落ち着いたら許可出せると思うよ。お互い今、ごちゃごちゃだろう?」
「え、ええ。はい。すいません。混乱してまして。」
余程のショック…まぁ、『神』いってたもんな。しかも…その頭上に住んでる…なんて言ったら皆、出て行っちゃうかな?
キャンプ村?に…すげぇ…この短期間に…グルリと丸太で囲まれ表面に、土壁?樹脂か?何やら塗られている。入り口は落とし門。堅牢な”砦”だな…。簡易ではあるが、物見櫓も見える。
その門を潜り、村の中に…。思ったより広いな。城壁の上にも人が通れる通路があり、猫人族の戦士が目を凝らしている。正にキャットウォーク、ぷくす。
物見櫓が5基…この村自体が五角形なのか?蜘蛛の巣のようにロープが渡されており、そこに、緑色の布?そして、木々の枝が、寄せられている。上空からの迷彩、対空防御になってそうだ…
「凄い…なぁ…アルス…凄いなぁ…凄い…この短時間で…」
まさに!秘密基地だ!
「ありがとうございます…ミッツ様…」
「あ、ああ凄い…」
「アルス様!その人族は!」
槍を持った虎人族の女戦士が駆け寄る。此方に穂先を向けて…。
いやん。しかし、自然美だな…しなやかで力強く。…美しい。
「下がれ!無礼者め!この方が、この村を治められている”勇者”様だ!」
「す、すいません。お、お許しを」
バッと跪く。
「いや、良いよ。ほら立って。しっかり警備の任を務めていたのだろう?ご苦労様」
「…ゆ、勇者様…」
…流石、イケメン。虎人のお嬢さんの目、キラキラしとるぞ…このチャラ男に神の裁きを!っと、本気にやりかねん!冗談ですぅ~!
「なんだよ…おっさん。邪なるオーラが出てるぞ?」
「ああ、危うく闇に落ちるところだったよ…」
「どこにスイッチあるか判んねぇーなぁ…やる気?スイッチはあったけど。ぷくす。」
「うっさいわ!」
忘れてたよ…すっかり。
「トワ様、ミッツの旦那よろしいでしょうか。」
「ああ、ごめん。ごめん。で?」
中央の大きなログハウス?に案内される。
「ほ~凄いなぁ、誰が建てたの?」
こういうの良いなぁ。憧れるわ…。虫とかバンバン入って来そうだけどぉ。
「いえ、ミッツ様に用意していただいた”居住区”と比べれば…」
「お!もう入植してるの?」
「はい。」
「ミッツ様!お帰りなさい!」
「お疲れ様だねぇ」
アメリアさん、マーレンさん、先生がやってきた。
「皆さん、お元気そうで。」
「そりゃ、ひと月程度、そう変わらないさね。」
…だな。先生の言う通りだな。
「…でした。いやぁ~色々ありすぎて…感傷的に」
「まぁ、あんたはそうだろうさ…」
もう、先生ったら。
再会の挨拶、皆卓を囲みお茶にする。
「それで、ここの状況は?」
「私から。」
アメリアさんが立つ
「只今、このキャンプで待機している入植者希望者は300人。最近は逃れてくる者もあまり見かけなくなってきました。落ち着いたものと思われます。ですが、暫くは監視を維持するつもりです。事変は続いているようですし」
「300人か…結構来たね…家足りる?」
「はい。延べではありませんので。家族単位。共同生活者単位、村で数棟と使っていますので、半分以上空いています。後々、婚姻などで埋まっていくと思われます。」
「なるほど…不都合な点は?」
「特には。都度都度、妖精様に相談させていただいております。」
妖精…’ここあ’たちなんだが…妖精族もいるし…紛らわしいなぁ…
「なら良いか。」
「それと…」
「ん?」
「耕作地、生育が早く…直に一回目の小麦の収穫が…」
「はぁ?なんぞ?」
「魔力濃度が濃いためか…魔の森でも確認されている現象ですが…後で視察をお願いします。」
もう収穫?はや!が、備蓄も無い状況。素直にありがたい!
「次は私ねぇ」
と先生。
「皆の健康状態はおおむね良好。私しゃぁ、廃業だよ。はっはっはっは!」
「いやはや、何とも…は、ははは。」
おいら、笑って、良いんだよな?
「悪い事じゃぁ、無いさね。ここは魔力が濃いから、我々獣人には住みやすいねぇ。魔力の親和性が良いから、力も増し、傷の治りも早いねぇ。良い環境さね。子供達も元気にやっとるよ。」
「次は俺だな。」
とマーレンさん。
「村の中での犯罪は無い。まだ配給制だが随時各々の得意分野に動くと思う。ミッツ様の提唱された講師についても名乗りがあった者の下、教育も始まっております。」
「おお!凄い!早く身になるといいね。しかし、穀物がバンバン穫れると良いな…生活が安定する…農家の教育が優先されるな…」
「父さんおかえり!」
「おお!ビルック!」
駆け寄る息子を抱きしめる。
「留守番ありがとうな。」
「いえ、なにも」
「いえ!ビルック様は先頭に立って調整を。美味しい料理も多く伝えてくださいました。」
「皆、ビルック様の料理で力が出ましたよ」
「良くやったな。我が息子。自慢の息子よ。」
「と、父さん…」
強く抱きしめ、膝の上に座らせる。涙腺が…
「と、父さん?は、恥ずかしいよ…」
「何も恥ずかしいことは無い。よし。」
皆の目が…ふん。
「で、では…次はこのキャンプ村。襲撃は無し。近くにバジリスクが3頭来たが…駆逐。被害なし。ゴブリンは見かけず…ってことくらいか?もちろん、人族の来訪は無しだな。
ああ、猪、鹿も豊富だ。たまに大きな蛇が出る…こいつは注意だな。肉は今のところ不足は無いな。ビルック殿その辺は?」
「ええ。食料自給率は高いですね。耕地の植物の収穫がどれほどあるかはわかりませんが、すぐに余剰…が…父さん?くすぐったいんだけど?」
「おっさん、離れろ!…鼻水拭けよ…」
「だって、だってぇ、ビルックがぁ”ずびいい”」
「やれやれ、相変わらずだねぇミッツの旦那は。」
「で、父さん。果樹の森とか作りたいんだけど」
「うん…ただ植えるだけじゃだめだぞ。受粉…まぁ植物の結婚だな…風や虫が力を貸している。そういったものも併せて考えてみなさい。養蜂の経験がある者を探すのも手だぞ。」
「はい。解りました。計画してみるよ。」
「ああ、がんばれ!」
「ビルック、姉貴は戻ったか?」
「セツナ姉?まだ帰ってきてないよ。…何でもあの町を半壊させたとか…」
「はぁ?なんでそうなる?視察だろう?何やってんだよぉー!クソ姉貴!」
「落ち着け…明日にでも情報収集しよう。捕まってはいないのだろう?」
「うん。旅を楽しんでるって。激怒したセツナ姉、誰も止められないよ…ほら、あの町って因縁あるし?」
「まぁな…。鶏買いに行ったときな。普通の町じゃないもんなぁ。あそこ」
「び、ビルック殿?」
「ほら、アルスさん、前に言っただろう、トワ君の実の姉が居るって。最強の”真・勇者”様だ。誰にも止められない…」”ごくり”
「まぁ、ここの守護神になってくれる存在さ。帰ってきたら紹介するよ」
「え、ええ」
「で、おいらからは、依頼の行程、後は王都方面で卸して終わる。まぁ一週間くらいか?セツナっちと合流すればもう少し伸びるかも。後、鹿角族、兎耳族タイプむっちりの総勢…60人くらいか?連れてきた。後、妖精10人。で、魔族の戦士二人?かな。」
「ま、魔族?」
「魔戦将だっけか?カイエンとディゴ。」
「な!伝説の」
「魔王の懐剣かい!」
「死んだのでは!」
「まぁ、流れで。家の執事みたいな位置づけだわ。ディゴは護衛兼武術師範?でいいか。そんな感じな。後…ビルック、兄弟が増える…」
「…そう。やっぱり。歓迎するよ」
撫でり。やっぱり?そ、そうなん?
「この後、ここに連れてくる予定だ。鑑定済みなので入植手続きは任せていいか?」
「はい。ミッツ様たちには…」
「ああ、300だったな…」
「オッケー関所でやろう。おっさんそれでいいな?」
「ああ。今日明日はここにいる。明後日には依頼で出立。そのつもりで。」
{はい!}
帰ってきた!が…思ったより大事になってるな…
本日もお付き合いありがとうございました。またのご来店をお待ちしております。




