魔戦将と呼ばれた男
いらっしゃい!
結果、公爵急逝。用心棒、執事は騒乱罪で死罪。付き人3人も拘束、抗議文付きで国元へ強制送還となるそうだ。なんでも当事者の伯爵様、自ら国境まで赴くらしい。
「ご苦労様です。」
「…その笑顔が気にはなるが…貴殿もどうだね?」
「いえいえ。早急に配送せねばならぬ案件がありまして。いそがし!忙しい!」
「…まぁ、被害者側を拘束するわけにもいかぬが。本当に被害者か?貴殿らは?」
「これはまた異なことを。最初からご一緒してたではないですか?ふふふふふ」
「ははははは…些事はともかく、面倒な…」
「今日の御馳走を力に変えて頑張ってくださいませ。」
「…。…そうせん事には割に合わんな。期待しているぞ?」
「ええ。ご期待ください。そういえば、こちらの”元奴隷”の方々の処遇は?」
「一緒に送り返す他あるまい…」
足元に縋りつくように大きな身を縮める。奴隷、二人。
「た、助けてください…送り返されたら…」
「な、何でもします。ですので…」
「…」
帰れない…ってやつか。
「そういわれてもな…偽造書類、不法入国扱いになる。」
すくと打擲をうけていた男が立ち上がる。
「…俺は…魔族だ…」
良く通る声での告白。この世界の人類にとっては…
「鬼人族だ。人族国内では待遇も変わらぬし、今更魔国にも帰れぬ…いっそのこと殺してくれると助かる…もう、疲れた…もう闘うこともできぬ。」
無い右腕を上げる。
「その方、よもや、前戦争の虜囚か?」ん?
「ああ。あれから200余年…ゴミのように扱われてきた…。もういいだろう?人族よ…」
「一振りの刃を献上するが?」
「ふっ、おかしな話だが、我らは自害ができぬ…信じる”原初の神”の教え故な…そうだ、我が体、良い素材になろう。対価に…斬ってはくれぬか…」
じっとトワ君を見る。その瞳に一切邪念は無く正体を悟っている風でもある。その瞳を真正面から見返し
「解ったよ。」
と。覚悟を決めるトワ君。
解っちゃいけんて。もったいない。
「ステイ!トワ君!…最後が屑の奴隷?好き勝手されて?…勿体ない!死など許さん。」
「おっさん…まだ苦しめと?」
「違う!おいらの執事にする。若干一名いるが…ありゃ使えん!金勘定ばっかだわ。どうだ?鬼人族の戦士殿。おいらの所に就職しない?きっと神もお喜びになるよ。」
「…貴殿の言葉、嬉しく思う…が、軽々と神の心情を語るのはいかがかと <許す…カイエンよ…其の方も残りの人生、その男と楽しむがよい…祝福を…加護を…力をくれてやろう…> ……な!…神?…な、なんと…ああ…私はこの日のために…生き延びていたのでしょう…神よ」
いつもの神気…が満ち重厚な声が響く。カイエンと呼ばれた男の全身を光が包み、欠損していた角と右腕が生えてくる…なんとまぁ。牛魔王みたいな角だな…
「ありがとうございます。マイゴッド!」
五体投地を行い全身で感謝を。身内の者はみな膝を突き祈る。伯爵様は神気にあてられ、尻を突いている…多くの者も同様…中には泣きながら祈りを捧げる者もいる…静謐な気配が薄れ、皆一斉に息を吐く…
「い、今のは…」
「神の奇跡の何物でもないでしょう。」
「み、ミッツど…いや、ミッツ様…そ、それは?」
「ミッツで良いですよ。この世界の神の1柱でしょう。教会の神と同一視しないでくださいね。むしろ鬼人殿の言った”原初の神”に近しいのでしょう。」
「そ、そうなのですか…」
「ええ。以前ノリナで今回同様ご降臨されたことがありまして…その時、教会の神を否定されておられました。」
「そうか…皆の者、聞いたであろう。教会への報告は無用。天罰を恐れるならば!」
{はい}
{わかりました}
すっと、おいらの前に跪く牛魔王…
「ミッツ様、先ほどは失礼しました。私は鬼人族のカイエン・パギュラド・スノーホワイト。カイエンとお呼びください。執事をご所望の事。私、多少の心得があります。どうぞお使いください。」
「ああ、頼むよ。もう一人いるんだが…金勘定専門なんだわ…しかも…まぁいいわ。諫言、助言大いに結構。甘言、虚言は無しで頼む。悪いことがあればビシバシ言ってくれ。」
「はい。お任せを。」
「カイエン…バキュラ…魔戦将カイエン様か!」
「魔戦将?」
「ああ…3代前になるか?魔王の5振りの剣、その最強の一振り。最強の武人と聞いている。魔王と共に滅したと聞いていたが…今では伝説の武人として人族国でも伝わっております…まさか…いや、あの国。この男の家ならあり得るか…ご苦労されましたな。」
「今となっては既に遠い思い出…この者どもの責苦も先ほどの神の言葉、ミッツ様の身内になることへの苦の一つだったのでしょう。絶望しかなかった…が、全てが報われた気分ですよ。」
「そうですか…」
「ふ~ん。なら、武器の扱いもお手の物だろ?この子達の修練も見てくれる?」
「はい。ただ、新しい右腕…暫くは感覚を取り戻すのに尽力しようと思います。」
「うん。頼むね。」
「…ミッツ殿…魔戦将相手に…」
「うちの執事ですよ?元魔戦将でしょう?」
「違いない。それでは行きましょうか。ミッツ様」
「あ、っと、二人の獣人さんはどうする?家で働く?連れて行っていい?」
「…ミッツ殿…今日明日で証言を取り、まとめる、できるな?それ以降なら…どうするのだ?この男についていくか、国に戻るか」
「旦那!ぜひ使ってください!」
「腕力には自信があります!」
「よっしゃ!じゃぁ決定ね。ハレル様。書類の方もお願いします。」
「ミッツ殿…」
「ノリナ産の特級ワイン一樽付けますが…」
「…大樽か?」
「ええ。もちろん。澱も舞っていない極上品ですよ。」
「乗った!まかせてくれたまえ!速攻で用意しようではないか!ははははは」
「この二人の勾留時もしっかり食事をお願いします。」
「ああ。衛兵と同じものだが出す予定だ。罪人ではないのだから。」
「お願いします。おっと。雪達も限界か…戻りますね。」
「ああ。後程。」
「ええ。お待ちしています。」
「ミッツ様、よろしいか?」
「ん?おいら達の秘密?」
「それは後程。ミッツ様はどのような仕事、本日から今後の予定はどのように?」
「ああ。一応『輸送業』。商業ギルドに属しているが…後々はヴァ―トリーの専属になるだろうなぁ。」
「そうなん?おっさん。」
「この世界じゃ一番まともだろうさ。子供たちを託すことができるとこはね。で、今日はこの後、宴会。カイエンたちの書類ができるまでこの町で待機だな。明日、明後日か?ハレル様もワインパワーで早めに用意してくれるだろう。
そしてノリナまで帰還する。この派手な旅装が『ヴァ―トリー商会』の物ね。ヴァートリーって知ってる?」
「ええ。存じております。では馬車か、龍車で?」
「いや、この足で。走る。」
「…」
「まぁ。仕上げは御覧じろってね。」
「はい。解りました」
「後は…服か?得物は?他に必要なものがあれば揃えよう。」
「ありがとうございます。武器はなんでも。できればそこそこの品質のものを…」
「だな…出るときとりあえずの物を渡すわ。壊しても構わない。ドワーフのおっちゃんのとこで買おう。」
「後、ミッツ様。角が復活して喜ばしいのですが…大丈夫でしょうか?」
「今さらだろうさ。心配ないよ。うちは獣人多めだし。牛角人族とか?まぁ、不本意だろうが。かんべんな。」
「わかりました。魔族というだけであらぬ争いが起きる故。」
「でも…有名人みたいだし…その覇気。流石だねぇ。バレバレだろうなぁ。まぁ、何とかなるさ。それに…”悪魔”もいるし?」
「”悪魔”ですか?魔族ではなく?」
「ああ、”悪魔”だ。2柱な。そのうち紹介するよ。今何処かいってるみたいだし?」
「…危害を加えてくる者では?」
「その点は大丈夫。この世界を楽しんでる子と、盗賊の天敵だ。」
「…はぁ?」
「追々だな。今日は御馳走だ。楽しんでくれ。」
「私など参加しても…」
「うちのファミリーだ。気にすんな。彼の神も”楽しめ”って仰っていたろう?」
「…わかりました。」
「気軽にいこう!」
「はい。」
宿への帰還の途中、商会に寄り、カイエン、ミミル。あと二人の熊人族の日用品、普段着、下着などを揃える。熊人族の服は後で。マリアさんはお留守?だったのでそのまま宿に向かう。
カイエンか…まんま武人だな…彼の神の差配だろうなぁ。人生楽しくなれば良いな。ありがとうございます!
本日もお付き合いいただきありがとうございました。またのご来店をお待ちしております。
 




