出発準備~宴
いらっしゃい!
魚をすこし多めに出し、我々もご相伴に預かることにした。
セージさんの腕は確かだからな。前回頂いたものより、鮮度が格段に上なので身離れも良く大変美味しい食事だった。
マグロとかなら寝かせたほうが良いのかもしれないが…まだお目にかかっていないからなぁ。
シーサーペントの切り身を出した時の皆の顔の引きつり具合がなかなかに笑えた。味は予想通り、カジキ系の上物って感じだ。何にでも使える上質な魚肉だ。そう、まさに”肉”だな。なんでも貴重な高価食材だそうだ。
卸してくれと言われたが、個人用にお土産程度渡して断ったよ。アヌヴィアトにいる子供たちやエルザさんたちにも食わせたいからな。
談話室で茶を頂きながら商会の方々と歓談する。パリっとした服に着替えたカミュも合流。見違えたな。ふふ、雪は限界かな…
「雪、寝てていいぞ。絶対、絶対置いていかないから安心しろ。」
「…うん。」
「大丈夫だよ雪。」
「うん。」
まだ雹兄ちゃんのが強いなぁ。まぁ仕方ないわな。
「ありがとうございました。ミッツ様。本日よりここで修業させていただくことになりました。」
「おめでとう。カミュ。君の努力の成果さ。このチャンスを生かすんだぞ!」
「は、はい!ミッツ様の顔に泥を塗らぬように精進します。」
「こんな顔、泥塗られたって構わんよ。ただ、失敗を必要以上に恐れるな。いいね。」
「はい。肝に銘じます。」
「よし。がんばれ!カタリーンさん、ジョルジュさんよろしくお願いします。」
「ええ、カミュもうちの社員。しっかり育てていきますよ。」
「この逸材。どう仕上げていきましょうや。」
「お手柔らかに。」
ジョルジュさん眼が怖えぇよ。その後、倉庫に案内され荷積み作業だ。
眼前には多くの奇異な植物やら、良く見知った物も並ぶ。
「壮観ですね…これだけあるのに臭いが漏れてない?」
「ええ、香りをなるべく閉じ込める袋に入れていますの。」
「透明なのにすごいですね…」
「なんでも、海の魔物の浮袋を加工したとか?わが国では作れない一品ですわ。」
「へぇ。」
「それにお値段も大変お安いの。香辛料入れに最適ですわ。」
「外洋の国ですか?」
「ええ。まだ船舶協会も明らかにしていない国なのよ。全く、勿体付けて…まぁ、それ相応の苦労もあるでしょうから仕方のないことですけど。」
「ええ。今回海に行って実感しましたよ。あんな海に漕ぎ出すんだもの、相応の利益は確保しないとね…」
「…遊びに行ってシーサーペントに襲われるなんて普通無いですよ…」
…クラーケンにもね…
「ははは…そうそう、一通り頂いても?代金は伝票で。」
「結構ですわ。個人使用分くらい。普通の運送に比べれば格段に損量がないのですから。時間経過、雨、湿気…一切考えなくていいなんて…反則ですわ!」
プリプリ怒り出すカタリーンさん。
「まぁ、こちらの世界に拉致られた補償みたいな?」
「そ、そうでした…申し訳ありません!言葉が過ぎました。お許しください。」
「こちらの世界…やはりミッツ様は勇者様なのですね!神父様が言ってました。」
カミュ君残念!
「おいらは、おまけ。勇者様はトワ君ね。」
「まぁ、同じようなもんだ。気にすんな。他言無用だぞ。」
「まぁ、どこ行ってもバレバレだけどね。」
「そうなんだよなぁ~直ぐバレる…」
「無自覚で?」「?」
「思想、考え方が違うので、話せばもしや!と感じます。黒髪黒目ですし…」
「「なるほど…」そういや、染める話はどうなったっけ?」
「あれはハゲるから却下したぞ。」
「そうだった…ヅラはやだもんな」
「まぁ、好きに生きるさ。立ちふさがる奴は斬る。」
「…斬っちゃダメだって…」
端からトワ君が”収納”していく。
途中カミュ君が「これが伝説の”無限収納”か…」とフリーズしてたな。
「さて、これで、この地での仕事はお仕舞。お世話になりました」ぺこり。
「まだよ。通行証、養子縁組証急いでるけど明日になっちゃうわ。昼にはできると思うけど…」
「でした、でした。お手数おかけします。代行諸費用はいかほど?」
「サービスしておくわ。今後ともよろしく。ふふふ」…。
「…高くつきそうですね…そうだ!カニでチャラにしてくださいな。」
「カニ?」
「ええ。焼いても茹でても旨いですよ」”ずん”
「ぐ、グレート・マッド・クラブ…」
「ミッツ様…これをどこで?」
「ええ。海で襲われましたので返り討ちに。なんでも鎧になるとか?ですが大変美味ですよ。これ。」
「食したので?」
「ええ。丸焼きにして食べました。」
「おじさん!ものすごい美味かったぞ!」
「そうですか…鎧の加工の際、身は腐らせると聞きますが…」
「その辺は加工の妙でしょうか?私は存じません。ただ、焼くと脆くなって鎧にはなりませんね。」
「なるほど、究極の選択ですな。鎧を取るか、美食を極めるか…」
「その価値はありますよ。大変美味なカニでしたよ。」
「半身だけ食すという選択肢もアリか…ふむ…」
「な、何を言ってるの?ジョルジュ。マッド・クラブよ!鎧一領、いくらするとでも!」
「お嬢様。余裕がなくなっておりますぞ。まだまだでございますな。」
「な、なによ!あなたが食べたいだけでしょ!」
「否定はしません。ですがミッツ様よりの御下賜、ありがたく食すのもありではありませんか?」
「…姉さんならどうすると思う?」
「食すでしょうな。」
「…わかったわ。今夜はそれで社員一同集めて酒宴にしましょう。こんな機会そうそうないでしょう?カミュの入社祝い。ミッツさん達の送別会、皆の慰労会も込みで。関係商店も急ですが招待しましょう。輸送隊も詰めていたわね。ジョルジュ酒類の手配、通達任せるわ」
「流石です。お嬢様。良いご決断ですぞ。」
「あそこまで言われれば、私だって食べたいわよ!もう」
何やら話がまとまったようだ。
「ミッツさんも参加くださいね?」
「はい。解りました。焼きガニも私どもの方でやりましょうか?」
「こんな大きいの…」
「勇者パワーでポン!ですわ。」
「…良いのかしら…」
「良いんですよ。みんな楽しく騒げるんですから。剣を振るばかりが、ましてや一国のエゴのために振るわれるよりも数千倍有意義でしょう?」
「…そうですね…」
「ミッツ様…当事者ではありませんが、誠に申し訳ない。」
「いいんですよ。もう、こちらの世界の人間です。なら、面白おかしく生きていった方がよいでしょう?」
「ええ、ええ。ごもっともでございます。」
「時間停止ですのでちゃっちゃとやっちゃいましょう。勇者様よろ~」
「ほいほい。”結界”カニ!ここからな。」
「ほい。ファイア10分発動!、あち、あちちちちぃ!」
ごうごうっと結界内に炎の渦が巻く…
「す、すごいですな…」
「ええ。でもいいのかしら…勇者の力を運搬や、紅茶入れたり、カニ焼いたりで…」
「ミッツ様も言っておられたでしょう?人生面白おかしくするための手段と。」
「…ええ。」
「彼らのように聡明で無ければ、今頃あの王国の恫喝が周辺国家に、当商会にも及んだでしょう。あの力をもって。」
「そうね…」
「なんと素敵なことではないですか?みんなの和のために使われるんです。紅茶でも、カニでも結構ではないですか。」
「ここで踏ん切りが付けられない私はまだまだなのでしょうね。」
何やら難しい話のようだがそろそろだな。
「そろそろカニ?」
「…可愛くないぞ、おっさん…もう、5分くらいいったほうがいいとおもう。」
「了解!カニよ焼けよ!ふぁいあ!」
「父ちゃんカッコいい!」
「…雹さん、いつもこんなんです?」
怪訝なライオットくん。楽しいだろう?
「ああ。愉快だろう?」
「微妙。」
「ふふふ。」
ちゃんとフォローしとけよ雹!って、あちちちちぃ…
「ちーん!上手に焼けました!たぶん…」
「よし!このまま”収納”する!」
シュンとカニが消える。
「あ!消えちゃった!」
残念そうな雪ちゃん。
「雪、後で出してやるから楽しみにしてるんだぞ。美味しいぞ。」
「うん!」
…トワ君も上か…綺麗なお兄さんは好きですか?ってやつだな。あ、お姉さんか…くそぉ~。
「さて、宴が始まったら出しますので。では、とりあえず休憩したいので失礼します。」
「良かったら、談話室をお使いくださいな。」
「そうですね…お言葉に甘えます。」
夕食時までの間、談話室で過ごす。
「お兄ちゃん、夕食楽しみだね!」
「そうだね。今のうち寝ておいたら?ご飯の時眠くて食べられなくなるぞ。」
「うん。」
ソファーの上で丸くなる雪。直ぐに寝るだろう。
「さて、思わず宴会になっちゃったけど…明日、証を受け取り次第、出発する。ライオット君。本当についてくるの?」
「お願いします!」
「わかった…まだ時間はあるな。じゃぁ、今から行ってくっか。トワ君つきあって。」
「おっけー」
「雹とハセルは留守番な。ここなら危険は無いと思うが…武器は置いてく。油断すんなよ」
「「応!」」
「んじゃぁ、いってきます。」
…商会をでて教会へ。トワ君とライオット君を引き連れて。
「ライオット君。カミュはこのままいくと首脳陣…経営陣に組み込まれそうだぞ?行商などせずに。」
「それなら、それで。俺は兄貴にいつでも力を貸せられるように強くなりたい。兄貴がえらくなれば俺はもっと強くなきゃダメでしょう?」
「…そうだな。体だけじゃなく、脳みその方も鍛えてやる。ちゃんとついて来いよ。」
「はい!」…
「というわけで。ライオット君の同行、我が家での修行を許そうと思います。師には元冒険者の師範と絶技の剣士がおります。あわせて教育も受けさせます。ご安心ください。」
「いいえ…好機をつかむことができたようで何よりです。私どもでは成人までが限界ですから…カミュもあのヴァートリー商会に採用が決まったとの事。本当にありがとうございます。」
「いえいえ、チャンスを呼び、物にしたのはこの子達の頑張りですよ。」
「そうですね…本当にありがとうございました。」
「3人もいなくなると寂しいわぁ。」
「何をいってるんです。めでたい門出でしょう。」
「ライオット、頑張るんだぞ。」「はい!」
養子縁組の結納じゃないが、倉庫に粉物を大量に寄進し、夕食にと猪肉を置いてきた。
「忘れ物は無いかい?当分は戻れないぞ。」
「大丈夫です。皆に挨拶してきました。今日からよろしくお願いいたします。」
「分かった。今から呼び捨てにするな。」
「はい!」
「それじゃ、帰ろうか。」
商会に帰る。ついでに、ライオットの旅支度もしちゃおう。服やら、外套、日用品もなぁ。
「すいません。この子に合うマントとかってあります?旅装一式揃うと助かります。」
「はい。大丈夫ですよ。こちらへ。」
「あと普段着、下着も上下5枚お願いします。そうだ、トワ君、雪連れてきてよ。あの子のも頼もう。」
「了解。」
「あ!起きてたらね」
…暫くするとトワ君に抱っこされて降りてきた…父ちゃん…羨ましくないわい!
「雪、こっちおいで。すいません。この子の分もおねがいしまーす」
「トワ兄ちゃん…」
「ん?このおっさんは怖くないぞ。”父ちゃん”だぞ?安全だぞ?ぷぷぁははは、雪が怖がってるから凹んでんだ。よし。買い物は俺がつきあってやるよ。」
「うん」
二人の後姿を見送る…マジ凹むわ…まぁ、焦らず焦らず。買い物を済ませ…って、雪がフリフリリボンのお洋服…
「…トワ君の趣味か…」
「違うわ…でも、可愛いだろ?おっさん。」
「…うむ。可愛いな。よし、買おう!ちゃんと普段着も買った?」
「ぬかりなし!」
「おっけ~さて、宴会場にいくか。」
雹とハセル、ライオットと合流、宴会場に向かう。
「ミッツ様。俺もでていいの?」
「子供が遠慮すんな。なぁ、ハセル?」
「そうだぞ?食える時に食うんだ!」
「おいおい。いつも食わせてない感じだな…虐待か?おっさん」
くすくす笑いながら突っ込むトワ君。
「バカ、一番の大食いが。」
ぽかりとハセルの頭をたたく雹。
「痛て!ごめん父ちゃん。」
「ははは。今のはトワ君が悪い。ハセルもライオットもたんと食って大きくなるんだぞ。力は強靭な肉体に宿るんだ。いいね。」
「「うん。」」
さぁ。宴だ!…なんか、贅沢ばかりだな…俺の足が疼きだしそうだ!(痛風で…)
本日もお付き合いいただきありがとうございました!




