異国の孤児院 3
いらっしゃいませ!
「さぁて、商会に行くかぁ。」
さて、今度はカミュ君だな。
店舗の前にたたずむ狐っこ。カミュ君と、最後に残った獣人の子…猫人族だと思ってたけど…ピューマか?肉食系の迫力があるな…
「おはよう。早いね。」
「お、おはようございます。きょ、今日はよろしくお、お願いいたします。」
ぽん!と背中を叩いてやる。”けぇふぅ”
「そんなに緊張してたら実力だせんぞ?そっちの子は?」
「ほら、」
「おはようございます。俺はライオット。13才です。俺も昨夜色々考えたんだ…俺の夢はカミュ兄と一緒に行商に出る事だった…腕力には自信があります。冒険者志望です。」
「それで、ライオット君がここに来たのは?」
「カミュ兄が修行してる間…俺も修行をしたい!ミッツ様、同行を許してください!カミュ兄や兄弟を守る力が欲しいんです!」
「おじさん弱いよ…」
「いいえ!紅の旅装束の話は知っています。雹さんやハセルさんの身のこなし…トワさんの気配…どれも俺が欲しいものです!」
「おじさんには求めるものは無いのね…」
「…」
目をそらさないの!もう、素直なんだから。
「ほら、虐めんなよおっさん。返事困ってるぞ。」
げらげら大爆笑のトワ君!くそぉ!
「なら、笑うな!泣くぞ!…で、神父様はなんと?」
「ミッツ様の承諾があれば好きにしていいと…ただ、独り立ちするまでの生活費をどうするのかと…お前に用意できるのかと…でも、でも、こんなチャンスは絶対にないんです!なんでもします!連れて行ってください!」
「ふぅー。そうか…もう一度、神父様と話してみようか…。今日はとりあえず夕方まで一緒にいるといい。」
「はい!お願いします!」
「さて行くか。それにしても、昨日はちゃんと寝たか?」
「一応は…でも緊張して…」
「ははは。ほら深呼吸、深呼吸。」
景気つけに、”ぶっ”一発放屁!
「すぅうーーーはぁ。すぅ!!!!!臭ぁ!」
「ははは。よっしゃ。いこうか。」
「おっさん…マジ臭いんだけど」
「父ちゃん…くさ!」
「くさ…」
ちょいと気合が入りすぎたか…
”からん、からん”
「おはようございます。ミッツが来たとお伝えください。」
「おはようございます。承っております。どうぞこちらへ。」…
「お嬢様、ミッツ様がいらっしゃいました。」
『はい、どうぞ~』
中から、カタリーンさんの声が。
「失礼します。おはようございます。カタリーンお嬢様。」
「おはようございます。ミッツ様」
「「…」」
「…まぁ、いいでしょう。お子様が増えたように見えますが?」
「ええ。この子は引き取りました。」
「昨日今日でホイホイ増えるものじゃないんですけど、普通。」
「ですよね~まぁ、縁なんてどこに転がってるかわかりませんねぇ~」
「ミッツさんが言うと、妙に説得力があるわねぇ。」
「で、お仕事の前に、その縁、未来の種を推挙したいと思います。この子です。」
ずいぃとカミュ君を前に出す。
「カミュ、14歳です。なんでもします!雇ってください!」
「…ミッツさん?」
「推薦はする。この子達は、裏路地の孤児院の子だよ。昨日偶然に立ち寄って、熱心に夢を聞かされてねぇ。ちょいと力をってね。」
「カミュ君は商人希望なの?」
「はい!昨日、ミッツさんが家に立ち寄られて…こんな機会は二度とないと思いお願いして機会を頂きました!」
「入れろとは言わない。テストを受けさせてやってくれれば。中々に賢いぞ。カミュは。」
「…はぁ。わかったわ。ミッツさんが”未来の種”って言うぐらいだし。ジョルジュ、昨年、一昨年の採用試験、と紙もってきて」
「はい。」
「カミュ君、今から私の出す問題をやってもらうわ。」
「はい。」
「抜粋して出すの?なら、両方やらせてやってよ。いい機会だ」
「うちのって結構、難しいのよ?」
「こういう機会じゃないと孤児の子には実情が解らないだろう?後学のためにね。」
「…わかったわ、別室で筆記、内容は、文字と計算ね。及第点とれたら…面接だけど、中々いい面構えね…頑張って頂戴。ジョルジュ、サラと一緒に試験監督をお願い。」
「はい。では、カミュ君、こっちの部屋へ。」
「は、はい!お願いします!」
「リラックス、焦らずにだぞ。商人は焦ったり狼狽えたらおわりだ!」
「はい!ミッツさん!行ってきます!」
「おうおう!行ってこい!」…
「全く…予想の上を平気で超えてくるんだから…」
「ついでに、仮の養子縁組の書類、超特急で作ってくださいません?」
「…その娘の分?」
「ええ。養女です。で、この子の分は出国手形をば…」
「その子は?」
「これから、冒険者としてのノウハウを叩き込む予定。将来的にはカミュと行商をやりたいのだと。」
「ふぅ~ん。まだ未成年だから、冒険者登録はできないものね…」
「する気はないよ?あんなとこ。商業ギルドか、貴商会に所属させようと考えてる。」
「…そう…大した自信ね…昨日会ったばかりなんでしょう?」
「ふっ、何年付き合っても判らないものは判らない、ただ、この子達には機会を与えたいと思ってね。それが、私の名誉で賄えるんなら安いもんだ。」
「…決して安くは御座いませんわよ…もう…」
「機会だけだよ。あとはその子の努力、情熱だね。無理に合格にすることは無いよ。おたがいに変な禍根になるからね。そこはドライに。」
「ええ。家の戦力候補ですもの手は抜かないわ…」
「それでは、お茶を淹れましょうか。喉も乾いてきましたし。お嬢様も期待してるでしょう?」
「…あら、おわかり?」
「一向に茶が出てきませんから…」
「これは、失礼しました。」
「いえいえ。ご期待に沿えるように真剣に淹れさせていただきますよ。茶葉は、エルザさんのお気に入りの茶葉で…カタリーンさんにもこれという茶葉はあります?」
「ええ。」
「では帰りに少し分けてくださいね。研究しますので」
…焼き菓子を齧りつつ、小休止。雪に手をワキワキとしながら近寄らんでください!可愛いだろう!ふはははは!
…なんてやっていると、
「お、お嬢様…」
「どうしたのジョルジュそんなに慌てて…カミュ君撃沈しちゃった?」
「い、いえ…この短時間で…満点です…過去の問題なので漏れているかもと疑い、新たに作問しましたが…全てにおいて完璧な答えを出しました…凄まじい頭脳ですぞ…」
「はぁ?あの難問を?この短時間で?」
「ほう、やるなぁ、カミュ。後で誉めてやろう。肉おごってやるか!」
「なぜに上から?まぁ、あれだけ努力してたんだ当然だろうさ。性格もまずまず。真っ新な逸材。貴女の手札にいかが?」
「…どんな秘密が…何かしました?ミッツさん?」
「昨日会ったばかりですよ?ですが、彼は以前から自力で理解しようと努力し、もがいていたんです。昨日、九九は教えましたよ。もっとも違うアプローチで理解していたようですが。それに、貴商会の問題、一朝一夕で解けるようなもので?」
「…」
本来なら、学者辺りが良いのだろうが…この世界じゃ食っていけないもんね。
「で、合格はいただけるのでしょうか?」
「…」
「まぁ、アヌヴィアトに連れて行っても 「合格よ!こんな逸材、姉さまに取られてたまりますか!」 …いやそういう事じゃなくて…」
「ジョルジュ。彼を私付きの補佐候補に。個室、服の用意を。サラと共に教育を」
「彼、行商希望なんだけど…」
「もったいないわよ。とりあえず全ての部署を回してみて決めるわ。」
暫くして、ジョルジュさんに連れられて、カミュ君がきた。
「カミュ君。貴方は合格です。ですが、まだ未成年。私のそばについて商売について学びなさいな。それで様子を見ましょう。」
「はい!よろしくお願いします!」
「では、今日からここに住みなさいね。部屋は用意しています。後程、服などの支給品を渡します。それと、今からあなたを呼び捨てにします。いいですね。」
「はい、カタリーン様」
「結構。では、サラ後はよろしくね。」
「はい。ではカミュこちらに」
「はい。サラ様」…
「なかなかの適合力ね…未成年でしょうに…」
「彼らは孤児だ。貴女が思う以上に強かだよ。」
「そうね…まさに千載一遇のチャンスですものね。さて神父様に仮の採用通知を書きましょうか。」
「スパイスの積み込みどうします?」
「昼食後にしましょうか。なんか疲れたわ…」
「ははは。では、味噌汁でもこさえましょうか。作り方とか見ます?」
「ええ!是非!」
…ぞろぞろと厨房へ移動。幼い割には大人しくしている雪ちゃん…まだまだ馴染んでないから緊張してるんだろう…
「雪、雹とここでお休みしてていいんだぞ?」
「…父ちゃん、私も行く…」
「そうか。いい子だね。」
そおっと雪の頭を撫でる。まだお耳が、へんにゃりだな。ゆっくりゆっくり慣れてもらえるようにね。
本日もお付き合いいただきありがとうございました。またのご来店をお待ちしております。




