異国の孤児院 2
いらっしゃい!
「おっさん、カミュ、連れてかなくていいのか?」
「ああ、自分で決めたことさ。尊重しよう。泣かせるじゃない。まぁ、落ちたら連れてけばいいさね。さて、夕食の準備だ。シスター台所へ案内頼みます。」
厨房の調理台に ”収納”より猪のブロック肉、新鮮な野菜を取り出し並べる…ふむ…焼肉と具だくさんスープでいいかな?あとは、パンなりいつものを用意してもらおう。粉出せばいいだろう。
ポンポンと何もないところから出したものだからシスター、目をひん剥いて驚いていたよ。やっちまったな。
「よっと、シスター、トウモロコシの粉です。これでパンを。手伝いお願いします。」
「「は、はい!」」
厨房に肉の焼ける臭いが漂い、さっきまで遊んでた子たちがずらり並んでこちらを窺っている。
「す、すいません…肉なんてなかなか手に入らなくて。」
「そうみたいですね、魚は?」
「ええ、干物は手に入りますよ。ただ、少々塩がきつくて…子供たちにはあまり多くは与えられないんです…塩抜きすると栄養も無くなる気がして…」
「難しい問題ですね…」
「魚は体に良いのですが…どうしても量が少なくなってしまいます。」
「野菜も潮風の影響で限られてしまいます。」
塩害かな?
「…トワ君、トマトって塩に強かったっけ?」
「TVで塩トマトって見た記憶があるけど…品種的にはどうだ?」
「苗まだあったっけか?」
「ああ。あるよ。置いてくか。」
「試しに置いていこう。シスター、トマトという野菜です、試しに中庭で栽培してみてください。」
「あ、ありがとうございます」
「赤い果実の野菜ですよね?」
「ええ。酸味がありますが、火を通せば甘くなりますよ。スープの具にもなります。」
いいながら、トマトをだす。折角だから実食だ。ダイス状にカットしてスープにいれる。うん、美味い。トウモロコシのナンも出来ているようだ。
「みんな待ちきれなさそうだから早速頂きましょう。」
「「はい!」」
「今日はミッツさんのご厚意でお肉があります。感謝を込めて頂きましょう」
{いただきます!}
「美味しい!」「うまっぁーい」
「神父様!おいしいよ!」
ハセルも弁えてちょっとだけにしてるようだ。成長したな。うんうん。あとでたんまり食うといい。
あのユキヒョウの女の子は雹にべったりだ…ひと時も離れない…まぁ、雹も満更でもない感じだから良しとしよう。
わいわい食事を終えるとそろそろお暇する段となる…
「さぁて、お嬢ちゃんお名前は?」
「…」
「ほら、お名前言ってみな。」
優しく雹が話しかける。
「…お兄ちゃん…私…名前…雪…」
「そか。雪ちゃんか」
「お父ちゃんも…お母ちゃんも…お兄ちゃんも…いないの…お兄ちゃん…本当のお兄ちゃんじゃないことは知ってるの…」
大粒の涙をボロボロ落とす…一体何があったんだろうか…
「そうか…で、雪ちゃんはどうしようか。おじさんの子供になるかい?ここから遠くに行くことになるけど。」
「お兄ちゃんと、お兄ちゃんと一緒にいたい…ついていく…行きたい!」
「そうか…というわけでこの子引き取ろうと思います…神父様」
「そうですか…本来ならばしばらく様子を見るのですが…」
「神父様、ここにいるより良いとおもいますわ。これだけ感情が戻ってきてるんですもの。」
「そうですよ。雹君も大事にしてくれるのでしょう?」
「…ん…良くわからないけど…俺の妹になるか?父さんの娘になるんだぞ?」
「うん!」
「解りました…突然でしたがこれも神のお導きでしょう…」
「ええ。ここには呼ばれた気がします。神気を辿らねば縁はなかったのですから…」
「そうでしたね。確かに神の思し召しでしょう。」
「明日、迎えに来た方がいいでしょうか?」
「いいえ、荷物もありませんし…雪、どうしますか?」
「お兄ちゃんと一緒に行く!」
「だそうです。お願いできますか?」
「ええ。お預かりします。雪、帰るよ。」
「…うん」
「今日から、おいらが父ちゃんだ。よろしくな。」
「…お願いします」
まだまだ壁があるなぁ。可愛い娘ゲットだぜ!…奥さんはなかなかにヒットしないなぁ…もう…いいかぁ…ぐすり…
倉庫にトウモロコシ粉、小麦粉。トマトの苗、金貨10枚をお布施して教会をでる。大変恐縮されてたが、子供たちへと言うと受け取ってもらえた。さぁ、お宿に帰るか…。
「…お父ちゃん」
「ん?」
「…ありがとう…」
「うん。なんでもしたいことあれば挑戦してみるんだぞ?」
「うん。雹お兄ちゃんのお嫁さんになるの!」
「…そうか。良かったな雹。」
「…」
「…冗談だよ。仲良くすんだぞ。」
「うん。」
お宿に到着、腹減りハセルが騒ぐ前に食堂に直行。沢山の料理を前に雪ちゃんは機能停止。いつの間にかに居たルカちゃんはエールの催促。おいこら。
雹に促されて料理を頬張る雪ちゃん。可愛ええのぉ。思わずニンマリしてしまう。
沢山の料理を腹に納めて、お風呂へ…やっぱり水は嫌いだそうだ…雹も乗り気でないので二人に”洗浄”をかけてやり、先に寝るようにと送り出す。おいら達はじっくり風呂を頂いたよ。ハセルも風呂好きだからね。
風呂上がりに一杯あおって寝室へ。同じベッドで寝るユキヒョウ兄妹。微笑ましいねぇ。たんと食べて、大きくなれよ~
朝、中庭で型をなぞってると大泣きして雪ちゃんが駆けてきた。
「お兄ちゃーん!」
おいていかれたと思ったのだろう。
「大丈夫。大丈夫だよ雪。置いていかないよ。娘なんだから。ほら涙拭いて。」
手拭いで顔を拭いてあげる。
「…う、うん。置いてかない?」
「おいていかないよ。朝はいつもみんなで修行してるんだ。御用が終わったら、みんなでお家に帰るんだよ。」
「…うん」
「さぁ、朝ご飯だ。沢山食べるんだぞ。」
「うん!」
パンに、ハム、ベーコン、今朝はシチューも…肉多めの朝食…そりゃ、商会経由で話は来ているのであろうが…おっさんにはヘビーだわ。トワ君もすっかり”現地人”だな。若いだけか?ってか、本当の現地人の朝食というものはどうなのであろうか?これって大分ご馳走の範囲だぞ。
「どうした?おっさん?」
「いや、朝から肉肉しいなぁと思って」
「ふ~ん」
「それでさぁ、現地の人…普通の人って何喰ってるのかと思ってさぁ。」
「うん…これってご馳走だもんな。俺らず~っと宿だったしな。冒険者も泊まるから、宿って盛りと肉が多いんだよね。」
「そうそう。爺さんも居るだろう?その辺どうかと思ってさ。」
「おっさんは、野菜多めの飯が良いと…」
「まぁあね。ご飯味噌汁香の物、塩鮭一切れあれば完璧だわな」
「いいなぁ!それ。俺も食いたい…コメがなぁ…」
「次はエルフの国に行きたいねぇ~コメを訪ねて何千里!ってかぁ」
「種子、手に入れたらうちでも…」
「種もみな。家でできれば…むふふだよな!」
「父ちゃん。ベーコン食わないのか?」
…狙われてたのね…雪もか!意外に大食いちゃんか?半分にしておいてやる。
「「ありがと!」」
「雹、欲しけりゃ、追加な…」
「俺はいらないよ…結構重いよ。」
「だよなぁ。」
子供たちのとこには最初から多めに載ってたもんな…まぁ、雪も今だけだろうさ。慣れれば…大食いに慣れないようにしないとな…
本日もお付き合いいただきありがとうございました。またのご来店をお待ちしております。




