商人て…怖い。
いらっしゃいませ~!
ふぅ。習慣というべきか…すっかりこの世界に来てから、日の出位に目が覚める…”魔の森”での集中特訓キャンプの影響もあるのだろう。それに、町も日の出と共に目覚める。
もう少し…30分もすれば、騒がしくなるだろう。
よし!今日も生きてるぞ!張り切って行こうか!
隣でまだ寝てるトワ君を残して、中庭の井戸に。もちろん建物の中にも水道は引かれているが、清々しい朝!これは、外で顔を洗うのが良いだろうさ。
”ばしゃばっしゃ!”
…ふぅ。気持ちが良い。木の棒の繊維を裂いた原始的な歯ブラシに塩を取り、口にふくむ。ささくれだった木の繊維の刺激と、青臭さ…毛のブラシが欲しい…
「おっさん、おはよー」
トワ君も降りてきたようだ。
「おはよう。こんな歯ブラシでもあるとないとじゃ、全然違うねぇ」
「そだね~歯に挟まるけど…スッキリだ。岩塩しょっぺぇ~」歯茎もキュ!だ。
「さぁ、今日は商業ギルドか?仕事もしてみる?」
「そだね~良い天気だし。いい仕事があればいいな。」
朝食後に出発だ。
「おはようございます。ミッツです。マシュー副ギルド長いらっしゃいますか?」
「はい。聞いております。こちらへ。」
と、談話室?に案内される。
出されたお茶をすすりながらマシューさんを待つ。
うん?いいお茶だなこれ…旨し。
「いやいや~、待たせたね。こんなのでも忙しいのよ。」
とマシューさんが入ってきた。今日も別嬪さんだ。
「「おはようございます。」」
と立ち上がり、ご挨拶。
「おはよう、座って、座って。楽にして。リア!お金持ってきてー」
ソファーに座りなおす。
「じゃ、ちゃっちゃと行くよ。これがギルド証。がっちり身分証明できるよ。他国の貴族街、王城もいけるよ。その気になればだけどね。ここんとこの(+)が特別待遇ね。これであちこち入れる。悪用しないでね。それにあなたたちならすぐA+よ。」
なにやっとんじゃ…
「B+?へ?そんな信用重いですよ!」
「運送やるんでしょ。便利よ。」
「いえ、国内のみだと思ってました。…ありがとうございます。」
「いいわよ。期待の新人さん。少なくとも1年はここを基地にしてね。…私が移動するときは連れていくかも。(ぼそ)」
聞こえてますが…
「そうそう、ここに血を一滴垂らして。本人認証なの」
おおお!ファンタジーなアレだな!有名な奴!仕掛けはどんなだ?…何気にハイテクだよな…現代日本でもこんな簡易にDNAの判別などできまいよ。
トワ君と指に針を刺して血をぽたり。ぴかっと光って元の証へ。ギルドの紋章か?浮き上がって見える。ホロ?ふぁんたじ~。
「よし、これであなた達の物よ。本人しか使えないわ。ギルドにお金が預けられるの。金利は付かないけど出し入れ自由よ。手数料なし。
…あ、”収納”あったわね。でも、”信用”になるからできれば、金貨10枚くらいは常時入れておくようにしてね。」
ふむふむ。手数料なしならいいかな。預けるお金、無いけどね…ははは。
「で、こっちがゴブリン・キングの魔石の褒賞ね。あなたたちの名は明かさず、討伐されたと商人に安全宣言。その点は功績点とさせてもらってるわ。冒険者ギルドから問い合わせがうるさい、うるさい。”頭”取られて、面子つぶされた格好だし。いい気味。なので加点しておいたわ。」
…おいおい。
「…やっぱギルド同士、軋轢あるんだ。」
「そりゃそうよ。魔物由来の素材の吹っ掛け率、許せん位よ!腹立ってきた」
…地が出てきたぞ…この別嬪さん。…まぁ、ツンとしてるのも良いが…こっちもいいなぁ。
「…おっさん…発作か?」
悟られたか!このぉ!妖怪サトリめ!
「コホン。で、これが魔石代ね。7500000Kね。」
ほほう!結構いったな!…でもあの恐怖、命がけ…多いのか?そう思うとびみょーだな。
「冒険者ギルドじゃ、そんなにいかないわよ。300行けばいい方よ。うちに卸される時は700くらい、うちから出すときは800~900くらいかな。今回はギルド員への宣伝と、大きさ質とも良かったのでプラス査定ね。」
フム…原価の2倍はまぁ、許容範囲か?ただ右から左でではおおいな。独占のなせる業か。
「じゃ、なんで冒険者はギルドに持ってくんだ?」
それはね…と邪魔しちゃいかんな。トワ君のお勉強だ。
「ほら、こんなものポンポン持ってくる冒険者はいないのよ、実際。なら、いざって時に冒険者ギルドが後ろ盾になってくれる方がいいでしょ。規定にも素材は全てギルドへってことになってるし。」
「ふ~ん」
「それに、ぽんぽん持ってこれる冒険者は独自に”クラン”謂わば、小さい冒険者ギルドね。”冒険者ギルド”と区別するために”クラン”となってるわ。それ設立して直接商人と取引してる訳。専属もありね。」
「クランかぁ、多いの?」
「少ないわよ。この大陸でも真っ当なのは2つね。真似事のような自警団に毛が生えたような、~団みたいのは多くあるけど。少人数で冒険者ギルドと同等の信用を得るのよ?並大抵じゃないわよ。Sランク以上ね。」
「なるほど、教えてくれてありがとう。」
「はぁ、あなた達は礼儀正しくていいわよ。トワ君可愛いし」
くぅ、年上キラーか!
「そうだ、トワ君たちって冒険者ギルド未加入でしょ?私の商会で買い取るわよ。色も付けちゃう!」
「俺たちエルザさんとこでって約束したんだ。良くしてくれたし、それに…目利きも確かだし、なぁ?おっさん!」”げらげら”。
…うっさいわ!まだあの壺の事を言うか!
「え、ええ。エルザさんのところでお世話になる予定でして。問題なく捌けるって」
「エルザ?」
「雑貨屋の… 「あ!ヴァートリー商会の!そういえば、娘が雑貨屋登録してた!あっちゃ~やられたぁ~」…?」
がっくしマシューちゃん。ヴァートリー?そんなに強力な店?
「ヴァートリ―商会?そんな店じゃないぞ?」
「ええ。それに此処、商業ギルドで紹介してもらったんですけど?」
「はぁ?誰よ!そのバカ!うちのライバル紹介してどうすんのよ!くっ、エリザヴェート・ヴァ―トリー”血のヴァートリー”っていって大陸でも1,2の大店の娘よ。」
な、何よ…その物騒な二つ名みたいの。てかめちゃ大店なのねエルザさんのパパん。
「ねぇねぇ。そんな大店のお嬢さんがそんなとこにいていいの?誘拐されちゃうよ。」
ふむ、その通り。
「一応、ボディガードは付いてるわよ。凄腕の。それと、彼女の”家”よ。」
「家?」
「うん。身代金どころか破滅しかないわ。理不尽な脅しには絶対屈しないのよ。昔は何人も当主が処刑されたりしたそうよ。お貴族様の伝家の宝刀『不敬罪』ってね。その都度、相打ち?その後、経済的に追い込んで当代の王に報復するのよ。」
なにそれ…商人?マフィア?
「100年くらい前かな、お子様が誘拐されたの。でも身代金は払わずお子様は殺害されちゃったのね。当時は闇ギルドの仕業ってことだったのだけど」
「非難されたりしなかったの?金の亡者とか。」
「それがね、商売は真っ当、どんな相手でも、この場合獣人とか、貧しい人ね。ちゃんと偏見なしに商売する商会なのよ。極端な話、王様が買い物をしてるわきで孤児がお菓子を買ってるって感じ?まぁ防犯上ありえないけどね。もちろん貴族の気風も心得てる。どこからも支持を受ける珍しい商会なんだよ。」
「へぇ、そんな事あるんだ。ある意味すごいな。」
「で、市民やら貴族やら、商会やら…裏の組織…至る所から情報が集まって、裏で糸引く対抗商会と、それを庇護する王国が明るみにでたのよ。”情報”は武器だからね。で、有り余る財力を使って、闇ギルド、事件当時加盟してたメンバー全て粛清。他国に逃げてもね。一人残らず。対抗商会は販路、仕入れ先をつぶされて倒産、その後追い詰められて首をくくったとか。」
「怖いですね…それだけお金をかけるんなら最初に払っていれば…」
「で、王国は?さすがに手が出ない?」
「先に昔話ね…国はね、その王国から息のかかった商会ともども撤退。で隣接する国で経済封鎖。」
「そんなことしたら、武力行使…あ。」
「そう、相手がいないのよ…それぞれの店を攻撃するわけにはいかないでしょ。他国にあるんだし。戦争になっちゃう。情報戦もお手の物。攻めて来たら、王国の周りが連合国になって攻めてくる…まさに手も足も出ない。口出しても口は商会の方が達者。
周りは敵になる…八方塞がり。で、王族に貴族を争わせるように、情報や物資流したりとそれはもう…」
「…マフィアだ!」
「いや、マフィア以上だな、一切の情がない…」
「そうでもないのよ…一番ワリを食う農民たちには、何らかの援助があったみたいよ?普通の生活は送れたそうよ。そのため、王族批判は下々まで。最後は、国庫が干上がった王族の大増税宣言に国軍、貴族蜂起。でお・し・ま・い。」
「おおぅ。そこまで」「…」
すごいな。まさに”血の報復”か…商人流の。
「で、その王国の復興にも手を貸したとも。で、こんなとこに手をだすとこある?」
「「ない」」
「そりゃぁ、清廉な商売でも恨みを買うが、闇、裏の組織はまず動かない。血の報復があるからね。それに一流のボディガードがいる。どんな馬車でも”血の十字架”あ、商会旗ね。掲げれば護衛がいなくても盗賊も近づかない。これまで、これからの商売、プラスになってもマイナスにはならないでしょう。」
「偽馬車隊とかでそうだな。」
「いや、すごいよ。壮観で!どこの軍の輸送部隊?って感じよ。あれは普通に襲わないわ。余程のバカじゃない限り」
へぇ~アンタッチャブルだな!エルザさんもアンタッチャブルだな!もがれてしまう…。
「おっさん…エルザさんに手ぇだすなよ。」
なぜわかった!
「ださないよ!」「「ははは」」
「ってわけで、諦めだね~そうそう。召喚陣の件。まだ検証はできてないけど…話の内容から積層魔法陣の復活は不可能だろう、王国の召喚の消失は確実だろうってことになってる。国からも出てるよ。はい、」
「うん?」
「10000000Kね」
「「はぁ?」」
「そう、10000000、少ないくらいだよ…リッチの件もあるし…」
「嘘だったら?」
「嘘なの? 「いや、ホントだけど…」 あははは、こっちでもちゃんと摺り合わせてるわよ。王族の伝承や、研究者ら、長命種に聞いたり色々とね。で、この金額よ」
「はぁ?」
この短い時間で…すげえな!金貨175枚…
「お金持ち~!」
「ってことで。どうぞ」
「…では、50枚ずつチャージしておいてください。」
「はい。まいど~で、今日は帰るの?」
「依頼受けるよな~おっさん」
「うん…あ!、武器、補修に出したじゃん!」
明日取りに行くんだっけか?
「あ!忘れてた!死ねる…明日だっけ?」
「あらあら。」
「適当に見て帰ります。宿も取り直さないと。本日は貴重なお時間、お話ありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ。何かあったら声かけてね。うちでも引き取りオッケーだから~。」
「…では。」
「さようなら」
と、談話室を出て、掲示板のほうにいく。
「エルザさんとこ凄かったねぇ。」
「ああ、そういう逸話が残ってる古い大店なら、いかようにもなるな。」
「手ぇだすなよ。」「…」
「手ぇだすなよ。」
何を期待してんだか…ったく。あれか?
「…尻の毛も抜かれて鼻血もでねぇ…」
「そうそう!さすがおっさん」”げらげら”
…楽しそうでなにより。
本日もお付き合いいただきありがとうございました。またのご来店をお待ちしております。
 




