閑話 ザックの冒険 30
おはよう!いらっしゃい!
それから、三日、斥候の哨戒網に鎧熊は引っかからなかった。その間は被害は無し。いたって平和だった。その平安が破られたのは昼食後。一人の伝令が飛び込んできた。
「いました!西の集落跡!し、しかも、2頭!」
「なにぃ!」
「おいおい。何頭いるんだよ…よもや、家族で交代に森から来ていたのか?」
「2頭…だと…」
「どうする?領主殿?ギルド長?」
「…もう金がない…この国の現政権に金を出そうというものはいないだろう…下手すればここだけじゃないかもしれん…第一騎士団では…無理か?」
「無理だろうな…烏合の衆だ。」
「ガトウ…鎧熊の討伐ランクは?」
「Aからです…」
「はっきり言ってやれ。」
「”赤”ですので、S以上じゃないと無理かと…ひ、費用も…一頭2~3000枚…このように大量に出ることもないので…出張費…帝都から呼ぶとなると…さらに時間と費用が…ザック殿に頼むほうが迅速かつ、安いかと…このような状況は。本来であれば、国の案件…”赤”というだけで、軍の案件です…が…」
「ふぅううう…ギルドからの補助は?」
「一応申請はしておきます。これだけ大量の…ですが…今回の件、手数料などもとっていませんので…何よりも…”国”へ…」
「…ザック殿…我が家宝のマジックバッグを進呈しよう…時間進行は約半分、容量もそこそこ。この大型のテントくらいはあると思う。特上物だ。”鑑定書”によるとな。」
「それならかなりの金額になるのでは?売って工面すれば…」
「正規に取引してくれるのはヴァートリーくらいだろう…それ以外なら、良いようにたたかれるだろう…国に担保…いや、召し上げられかねん。どうせ売るなら…どうだ?」
「…わかった…4頭分として受け取ろう…」
「すまぬな。…第一騎士団…奴らの愚行で…うっ…」
「父上!」
「領主様!だれか!」
「心労が祟ったのだろう…さてと…2頭…か。分断するまで待つか…ほかの場所の監視も並行で行ってくれ。もういないと思いたいが…」
「ザック殿。油断召さるな…」
「ん?老?」
「いやなに、少々胡散臭く…それほどのバッグであれば…のぉ。」
…芝居?まさか…
「ふむ。注意しておこう。」
遠目に熊が二頭…大きさは二頭目が一番でかいな。今回のは一頭目と同じくらいか…
「離れないな…警戒してるのか?」
「さて。どうする?ザック殿。このまま森に返すわけにはいくまいよ。」
「そうだな…だが、二頭一遍はきついな…」
「わしが一頭引き付けようか?」
「老…しかし…”後”に何かあったら…」
「ふむ。武力行使はないとは思うが…ああは、言ったが、領主の子息も出ている…代替わりも近いのかもしれんな…少しは信じられるやもしれぬが…さて。」
「なるほど…な。しかし今回の顛末…あまりにも不条理だな。第一騎士団による”人災”だろうに…火付けが成功していたら…考えたくもないな…」
「熊にとっても災難だわな。まぁ、今となっては詮無き事。それじゃ引っ張ってみるかな。」
「そうだな…さてと、無理なら、あの木の…林に。子供らを頼むぞ。そっちに行かせる」
「了解した…まかせよ」
”ずどん””ぐぉおおお!”
「貴様の相手はワシじゃ!」
老の蹴りが熊Aの腹部に刺さる。”憎”稼ぎの蹴りだ。
「”颪”貴様の相手は俺だ!」
”ぶばばぁん!”
”がぐぉおおおおおーーーー!”
熊Bの腕に叩き込むが…相変わらずの堅さだ。兄弟がやられたのを理解しているのか引っ張れない…混戦か…ちっ!老のほうにはローゼが、ラナはこちらに、
「ひっぱれぬかぁ!」
「じいちゃん!右!」
「ぬぉ!」
「ちぃ!」
いなすだけでやっとだ。”どん”鉄球が熊の頭部をとらえる!
”ぐごぉおおおぉ!?”
標的がディアに?走り出した熊Bの前に立ちふさがり、鼻面に盾を叩き込む。
”ぐぉおおお!”
「良し、少しは離れたか!くらえ!」
”がいん”堅てぇ!
”ぐぉおおお!”
打ち下ろしの右爪を肩あてですべらせ、一歩踏み込みシールドバッシュ!少しでも遠くにと巨体をはじく!すきを見てラナが関節に剣を振る。
「ラナ!右!」
「お!おう!くっ!」”ばん”熊Aか!くそ!
「すまん!ザック!」
「構わん!」
熊Aの左側からシールドバッシュを敢行!
「ち!うごかんか!」
熊Bの頭に鉄球がさく裂”ごん!”
”ぐぉお”
「ほどほどにしとけぇ!」
標的がディアに向いてしまう。
「大丈夫!たあぁ!」
数本の鋲が熊Bの顔面をとらえるが。
「効かない!」
「まだだ!くらえ!」
その顔面を盾で殴る!
”ぐぉおおおお!”
目は…だめだが、鼻と口に刺さったようだ。もう、抜けまい!
「やったな!ディア!油断するな!ふん!」
目のあたりを狙って突きを入れるが、弾かれる!厄介な!外骨格が邪魔だ!
「どらぁあ!」
熊Aの右腕の装甲がドルトン老の蹴りで蹴り砕かれる。
「おじさん!ラナ!爺ちゃん!熊チェンジ!」
アルマは俯瞰で見ているのか、的確な指示が出る。が、熊チェンジって…
「お、おう!」
「了解じゃ!」
ドルトン老と入れ替わり、熊Aの右腕を破壊するべく槍を振る。
「ディア!あっちの頭!」
「了解!」
熊Bの頭に鉄球と老の鉄拳が襲う。
”ぐぉお!”
「おじさん!熊チェンジ!」
「お、おう!嬢ちゃん!」
…しばらくの膠着状態。熊Bが苦しそうだ鼻をつぶしたのが功を奏したか!大口を開けて呼吸しだす。
好機!
「だぁああああ!」
穂先を口にぶち込む。差し込まれんと歯を食いしばる熊B。
「おじさん!左!」
仲間の危機を知ったか、熊Aが、左から薙ぎ払うような強烈な一撃!光を曳いてる?魔力を纏った”技”とでもいうのかぁ!くそぉ!体と熊の爪の間に盾をすべりこませるが、
”ずがごおおおおぉおおおん!”
「ぐばぁはぁあああぁ!」
”ぐぶぼおお!ごごごぉほほ!”
熊Bの苦悶の声が響く…
”ぐふぉ?”
ふっ、タダではやられんさ!槍の持ち手を盾に添える…その盾を殴ったんだ。結果は鉄槍の穂先は”抜けた”首の骨は無事だったようだが三分の一は熊Bの首の後ろから出ている。
「へっ!ザマを見ろ!ぐっく!」
アバラを持っていかれたか。鉄の鎧がなけりゃ、腸ぶちまけるところだった!
「ディアぁああ!槍!」
アルマから手渡され、目の前に予備の槍が投てきされ、地面刺さる。すぐさま、熊Bの首元に渾身の突きを放つ!一本目に添うように刺さり、首が半ばから断たれる。
”ずずぅうううん…”首から滝のように血を流し地に伏せる。やった!
「あと一頭だ!行くぞ!」
{応!}
くっ!わき腹が痛てぇ…くそぉ!
熊Aを囲むように配置し、槍を突く。突然に
”ぐ…ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーー!!!”
くぅ!体の芯を揺さぶる咆哮!バインドボイス!死の咆哮だ!
「ぐぬぅ!」
ドルトン老は踏みとどまったようだが、ラナは盾ごとふき飛ばされる。ローゼは、まともに食らったか!盾が落ち、槍の穂先が地に向く。!ぬぅ!笑ったか!こいつ!目前にローズ。
「”陣風”!」
熊Aとローゼの間に割り込み盾を構えて衝撃に備える!
「こい!!!」…。?
「おじさん!熊!逃げた!」
「何ぃ!」
「ザック殿!奴は逃がしてはならぬ!」
「ああ!頭がいい、追うぞ!ローゼ!動けるか!」
「お、応!…く…くそ、くそぉーーーー!!!」
ドルトン老が追いつくと、林に躍り込みこちらを睨みつける。こちらの作戦を逆にやられた。
「ちぃ!こいつだけは逃がせないぞ!」
ディアの投てきも木々に阻まれ、ドルトン老も木々により動きが制限される。腹をくくるか…盾を構え熊Aの前に進み出る。奴も俺を敵と認定しているようだ。空気が変わる。
「さぁ、行くぞ!」
ヤツの爪攻撃を弾き、爪を、指を狙う!
「ぐああああ!」
”ぐおおおおぉぉx-ーーーーー!”
”がんがんがんんがん!”
立ち上がった熊、狙う場所がねぇ。足を狙うものなら、体で押しつぶそうとしてくる、ふぅ…
「げはぁ!」
ちぃ!折れたアバラが暴れてやがる!血を吐きその様を見て笑う熊。勝利を確信してるのか?畜生が!
「さっきはよくも恥かかせたなぁ!くまぁあああ!”颪”」
「おお!」
木の上から槍を構え飛来するローゼ!あの太い枝を足場にしたのだろう!
「ぅおおおおおおおぉぉーー!」
”どごぉおおおぉおお!びりんびぃぃいい”
右肩あたりから、アバラの外側を伝い腹部に穂先が抜ける!外骨格のアバラ鎧が砕け散る!致命傷にはならぬが、ダメージと、動きの阻害になる、何より
”ぐおおごおおおおおおおおぉおおぉぉぉーーー!”
「痛いだろうがぁ!”颱”!」
砕けたアバラ装甲の隙間に渾身の槍を叩き込む!”ぐぉ…おおおぉぉぉ!”手ごたえあり!心臓、肺などを破壊できただろう。槍をそのまま預け、盾を構え、倒れるのを待つ。
”ぐぉお…”
じろりと、ローゼを見据える鎧熊。
「怯えるな!飲み込め!ローゼ!お前は強い!」
「お、応!俺は強い!わかったか!熊ああああぁぁぁ!!!」
”ぐぉ、おおおおぉぉぉぉ”
”ずずぅずん…”崩れ落ちる熊。終わったな。
「やったな…ローゼ」
「ローゼ!」
「ローゼ兄!」
「…怖かった…めっちゃ。」
「ああ。そうだろう?強者がお前を認めたんだ。その気を…いつまでも忘れるな。これからも強者の前に立つときがあろう。その時に背を押してくれるだろう。」
「うん…」
「ふぅ…皆ご苦労だった…がはぁ。」
肺腑にでも刺さったか…血の味しかしねぇ。
「おいおい。お主が一番の重傷じゃ。どれ見せてみよ。アバラ嵌めるのは痛いぞぉ。」
「お、お手柔らかに…」
その後、情けない絶叫が数回あたりに木魂したとか。
寄りもお立ち寄りください。




