ハム村にやってきた
……
「そんで、どうすんだ? 頭領殿?」
「うん? どうするとは? 何が? おっさん?」
そろそろ海も終わる。ヴァニキュアを越えれば目的地のダンジョンがあるトラヴィスへと入る。
「いやな、この後の話よ。ほれ、『ハム村』に行くとか言っていなかったか?」
特にお姉ちゃんが。ハセルらものっかってくるだろう。なにせ、”腸詰め天国”だ
「ああ~~。ハム村かぁ。どのみちヴァニキュアで休暇が必要だろう? その間、行きたいやつが行けばいいんじゃない?」
「それもそうか。トワ君はヴァニキュア居残りだろ?」
「うぅ~~ん。どうするかなぁ~~。最近行ってないからなぁ。姉貴はちょこちょこ行ってるし。代わってもらうかなぁ~~」
「そうなぁ。おいらも行くかなぁ~~」
……
結果、ヴァニキュア休暇組とハム村休暇組と別れることとなった。
会頭一家、ハセル、ニコたち狐っ子たちもハム村に行きたいというからね。ラグ、ハセルたちは言わずもがな ”お肉天国!” ”腸詰め天国!” だものな。勇者様二人も同行。もち、ルージュ殿もね。ここまでだといっそのこと皆でハム村経由で移動すりゃ良かったな。ははは
勇者様がハム村に行くものだから、護衛のディゴさんとマルロさんにはヴァニキュアでゆっくりしてもらうことにしたよ。ハイエルフのお二人は老師様と語り合うということなので彼らもお留守番。『ハム村』には肉しか無いからなぁ。肉をほぼ食さないお二人だからあまり関心はないのだろうね。
アツミ君ご夫婦も是非にも他国を観光しながらまったりしてもらえばいいさ。新婚旅行みたいなものだろう。はにむ~~ん・べいびぃ~~(ハネムーン・ベイビーのことね。今や死語?)に大いに期待だな!
……
『ハム村』へと到着したのは、勇者セツナっちの馬車、ヴァートリー商会の馬車の二台。この村には多くの商隊が来ているが、その中でも異彩を放つ。ぐるり囲む勇壮な蒼隊の騎兵隊のおかげだろうな。
久しぶりの『ハム村』だ。景気が良いのだろうなぁ。なんでかって? 町を囲む木塀や、養豚牧場の木の柵が良くなっているもんなぁ。それに、入町審査も商会旗を掲げる馬車が多く並ぶ。お? 敷き藁に使うのか、餌になるのか? 麦わらを山と満載した馬車も来ているなぁ。
……
「良くいらっしゃいましたね。会頭様、カタリーン総括!」
{いらっしゃいませ!}
にこやかに挨拶するのは門衛さん。村としても大歓迎といったところだ。いや、それってどうなん? 門衛さんはキリリ! としてないと。でもま、仕方なしか、なにせヴァートリー商会、その会頭様の御一行だものな。
この村のできるときにも資金協力していたそうな。まぁ当然か。こういう事業には多くの商人が絡んでくるもんだ。国や領主様との関わりもあるだろうし、何よりも領主様は金子出さんだろうし? それじゃぁ困るんだがなぁ。ま、商会としても利益が出るから良いのだろうが……
そうそう、ブオノだったっけか? 大陸一の大手ハム工房の誘致にも一役買っていたらしい。さすが会頭殿。
「やぁやぁ、どうも。少し騒がせるがね」
「お久しぶりですね、ホウさん。しばらくお世話になるわね」
と、会頭とお嬢様。
「いえいえ。商会様のおかげで荷の動きも良く、ずいぶんと街も賑やかになっておりますよ。ハムの職人希望の若者も集まってきておりますよ」
「ほうほう。それは良い流れでございますね」
と隊長さんと挨拶を交わす会頭。
そして……ルージュ殿を頭に乗っけるセツナっちを見つけるや、
「は? はっ――! セ、セツナ様ぁ!」
「セツナ様!」
セツナ様と聞いて屯所の方から控えの隊員さんも総動員! 整列して、最敬礼で迎えられる。会頭とまた違った緊張感に包まれる
「いらっしゃいませ! セツナ様! ルージュ様!」
{いらっしゃいませ!}
ビシリ! と敬礼、対してげっそりセツナっち。
「だからぁ~~。極、極、極普通でお願いします! ラッパも禁止ね!」
<うむ! ご苦労!>
ルージュ殿はセツナっちの頭の上で胸を張る
「うん? また何かしでかしたのかいな? セツナっち」
「何もしていないわよ!」
と、おっしゃる割には衛士の方たちの顔色が……。
「ど、どうぞ! ルージュ様! 今日も良いハムができております! お楽しみください!」
<うむ!>
「へぇ。ここがハム村かぁ。”くんくん”腸詰めの焼く臭いがするなぁ」
鼻をひくひくさせているのはニコだ。
「ええ。この村では工房の腕を見せるということと、旅人向けの集客用にと”ホットドッグ”というものを店先で販売してるんだよ」
と、カミュ。彼はお嬢様と一緒に数回、この村を訪れているそうだ。
「ほう……。店先で……。それは面白い戦略だな。集客の手段……。(店の)腕のアピール……。だが、手が抜けないな……ふむ。いや、村全体の技術の底上げになるからプラスか……」
とは、アル君。ま、まぁ、そんな難しく考えずとも? お気楽に”ホットドッグ”や腸詰めを楽しんでちょ!
「よろしいでしょうか。この村の”ホットドッグ”ということはミッツ様のお知恵ですか? マーレン町やザルバック村にもありますが?」
と、リンカ君。
「うん? おいらはレシピだけよ。ここの腸詰め工房のシンケンさんの取り組みだよ。研究熱心なお方でね」
「父ちゃん、シンケンさんて”腸詰め勇者様”の末裔のお方ですね!」
「そうそう。勇者様のレシピも受け継いでいてなぁ。”ホットドッグ”で使われているマスタードもシンケンさんが探してくれたんよ。だから、こっちのほうが先とも言えるね。それを村が取り入れて村興しの手段にしたのだろうね」
「”腸詰め勇者”の末裔の方が……」
「おいらたち、”マスタード”や”カラシ”、”わさび”は苦手だけどなぁ。鼻がかゆくなるよ」
「そうなぁ。鼻いいもんなぁ」
おいらも死んだら、平和的な? 諡付けてほしいものよ。でも、”食神”は勘弁だなぁ。”食の勇者様”はワタル氏だろう? ”おでん勇者”やら? う~~ん。でも、”おでん勇者”ってば、各素材を引き立て、調和! という解釈も? いや、ヘタレのクタクタに煮られた、忘れ去られし”ダイコン勇者”ってか? おっと! そもそも、おいらってば、”勇者様”じゃなかったわ! はっはっはっはっは!
「アルの言う通り、手が抜けない環境、激戦区ですが、村全体の技術があがってそれが付加価値にもなっていますからね」
「ふむ……。だが、カミュ、そもそも高価なハムだ。そんなに売れるものかい?」
「その辺りは、輸送方法、私たちの販売方法でなんとでもなるさ。例えば……」
うんうん。若者の柔らかい脳漿から出てくる議論は聞いていていいもんだ。こんな彼らが次代、そして時代を担うんだ。今から楽しみだな。




