タイトル未定2025/02/08 13:57
……
夕食時……
手に入れた”殺人ガニ”こと、超巨大ワタリガニを勇者焼きにし堪能。
なにせ”勇者焼き”は結界での包み焼き。圧もほどほどにかけてあるおかげで料理時間も短縮、火も完全に通っている。まぁ、生でも半生でも大丈夫だろうが、やはり、火が通っていたほうが甘みが立つ。
もちろん、うんま! である。
無言で貪るようにカニを食っていると、
「このカニは殺人ガニですけどね……でも、本当に美味しいわねぇ。甲殻は使えないけど……」
と、カタリーンお嬢様がボソリ。
そりゃ、殻ごと丸焼きの”勇者焼き”だからなぁ。甲殻云々の話は商人視点だろう。完全に火が通っているので殻も真っ赤に変色し、随分と脆くなっている。殺人ガニの甲殻はどのような品に加工されるかは知らんが、硬度命の鎧や武具には使えないだろう。ウチでは”残った殻”は持って帰って鶏のエサか畑の肥料くらいか。
「ふふふ。こんな機会、人生でそうそう経験できないことよ。楽しみなさいな」
うんむ。奥様のおっしゃるとおりだ。てか、おいらはそもそも食材としか思っていないがな! どんなカニも是、食材! 腐らせて甲殻を取るなんて考えられん!
「はい。お母様。わかっていはいるのですけれどもね。マッドクラブ入荷した時は食用に流すか迷うもの」
そうなぁ。正式名称グレート・マッドクラブだったか。巨大マッドクラブ。こちらもワタリガニによく似たカニだ。親戚と言ってもいい。が、より固く足が太いせいか、鎧の素材として人気がある……ような? もちろん大変に美味である。そりゃ、食用でしょ。
「カミュもちゃんと食ってるか?」
ヴァートリー側にいるカミュに話しかける。頭角を現し、支店(ポリシアヌ本店)でも売り場マネージャーのような? 重役を任されているようだ。お嬢様の側使いも務めており、日々、商売、商会について学んでいる。
「はい。カニのミソでしたか、すこし生臭いけど、カニ肉の方は美味しいですよ」
「そう? 獣人族にしたらすこし生臭いかもしれんなぁ」
しかもぉ、色も形状も微妙だしなぁ。カニミソって。カニの脳みそやう◯こだと思ってる人もいるくらいだ。実際は肝膵臓と呼ばれる器官だ。字のごとく人の肝臓や膵臓に似た働きをする器官とされている。
「……カニ肉も炙った方がうまし」
と、火魔法でチリチリとカニを焼くラグ。その隣でキュシナスちゃんも火魔法の挑戦をしているようだが苦戦中。火の玉作って留めるのは、飛ばすのとは訳が違うからなぁ。おっと! ここでは飛ばしてくれるなよ。ふふふ
「カミュも酒、飲むのかい?」
夕食の席とはいえ、ヴァートリーの一員として参加しているから、半分業務みたいなもんだ。酒は飲んでいない。
「酒ですか。嗜む程度……でしょうか。まだワインの美味しさがわかりません」
はっはっは! おいらだってワインの価値はわからんもの! マリウス先生にいつもブチブチいわれるもの!
「そうか、そうか。じゃ、父ちゃんとちょこっと飲もう。日本酒が合うぞぉ~~」
「で、では、少し……」
カミュも離れたところにいる息子だ。たまには良かろうさ。獣人族だから深酒はしないがな。
ウチで今のところ好んで飲むのはいないもんなぁ。獣人族だからというのも関係してるのだろうが。おいらが反面教師になっている? とは考えたくもないがな!
カミュも”飲む”というよりも、商談のためや、社交場のときだろうし、ビルックに関しては料理を引き立てるアイテムくらいの認識だろう。雹たちはさっぱし姿を見せんし。ん? そういえば、リンテが梅工房の元締めやってんな。梅酒も作られていると聞く。てか、悲しいが梅干しよりも梅酒のほうが需要が大きいだろう……。飲むのかな? 息子もいいが娘というのも良いもんだ。今度聞いてみよう!
こんな時用に準備していた、ちょっとお高いクリスタル製のお猪口をカミュに。そのまま持たせるつもりさ。そこに酒を注ぐ。舐めるように日本酒を口に含むカミュ。ま、独特の味だしなぁ。
「カミュ君、次はおじ様にお酒注いであげて。嬉ションするぐらい喜ぶから!」
しません! 漏らしません! と……。い、いたのね! ルカちゃん! が、ナイスフォローだ! こちらの文化には”差しつ差されつ”というのはないからな!
「……ルカ姉ぇ。お父ちゃんにここで嬉ションされると困るのだが?」
と、困った顔のラグ……。おふぅ……
「い、いや、しないから……。でないから……おっとっと」
すわ! お猪口を構える!
ゆっくりと瓶から注がれる酒をお猪口で受ける。まぁ、慣れていないしな。おっかなびっくり注ぐカミュもかわいいもんだ。集中しているのがすぐわかる。耳ピンだもの。多少、こぼれても構わんて。おっとっと!
”ぐびり”
息子に注がれる酒はひと味もふた味も違うなぁ!
うんうん。じゃばじゃば嬉ション出そうよ! 次は誰がおいらに付き合ってくれるのだか。楽しみだねぇ。
「おう! カミュ、ちゃんと飯食ってるか!」
「お? カミュ、父ちゃんと酒飲んでんのか? お前、酒好きなの? 大人だな!」
ははは。そうなぁ、正に酒は”大人の味”だわね。
ハセルとニコ。カミュを呼びに来たのだろうね。ニコの後ろにはアル君とリンカ君。ぺこりと頭を下げる。彼らもカミュと仲良くしてくれている。
「カタリーンお嬢様、カミュ、借りますね」
と、ニコ
「ええ、どうぞ。兄弟で楽しんできて」
「ありがとうございます。よし! 飯食いに行くぞ!」
と、きれいなお辞儀を繰り出すニコ。
「では失礼します」
カミュも。商会の仕込みもいいのだろうね。ピシリとお嬢様に頭を下げる。
ハセルを先頭にずんずんと”蒼隊”や会頭殿が屯ってる賑やかな方に。晩酌相手が取られちゃったね。楽しんでおいで。
「ふふふ。おじ様、カミュ君、取られちゃったわね。私が付き合ってあげるわよ」
「ははは。ありがとうね。ルカちゃん」
「私もお付き合いしますわよ」
と、ルカちゃんとカタリーンお嬢様。こりゃ両手に華だわね。ははは。
「……どれ。私がお酌をしてあげよう!」
「お! ありがとうなぁ、ラグ。おっとっと……」
「……どう? お父ちゃん嬉ションでそう?」
「い、いや、でないから。は、ははは……」
でも、嬉しいよラグ。おいらは果報者さ




