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2122/2127

魔獣現る!

 

 ……


 コホーネ村を発ちしばらく。

 今までは通行人の目を気にしていたが、もう身バレしてるし? 今回は大名行列の如しだ。隠しようがないわなぁ。

 

 真珠拾いも一段落、大物狙いに移行。

 血の臭いを嗅ぎつけて登場したのはハードパンチャーのシャコ殿! 力強く泳ぎ、剛拳をくりだすシャコ! シャコの攻撃を躱しカウンターでハンマを叩き込む”蒼”い衣を纏った軍隊! 互いを晩餐にしょうと、命をかけた戦いが繰り広げられる!

 おいら? おいらは後方支援と回収係だ! おおっと! スラミちゃん! そんなに食べないでぇ! 

 ……

 

 戦闘も佳境に入ったころ。警戒にあたっていたトワ君の緊迫の撤退命令が飛ぶ!

 そう、戦闘の熱気に当てられたか、乱入者が現る!!!

 

 波打ち際から、少し沖。距離にして100mくらいか? いや、もうちょい? 海原だから比較対象物がないから距離感がつかみづらい。

 海面が徐々に盛り上がっていく。あの辺りは深場なのだろうか?

 ドキドキ! 何が出てくるのか……。海竜やら、リヴァイアタンは勘弁よ! そういや、リヴァイアタン、リヴァイアサンは海竜ってイメージがあるが、大きなクジラの姿とういのが定説だわね。じゃなかった! 今はそれどころではなぁい!

 

 ”ざばぁああんぁん!”

 盛り上がった海面が波を生み、 

 

 ”ずごごごぉぉ”

 山となった海水が割れ、

 

 「て、撤収ぅ!」

 さすがのセツナっちも撤収との声を上げ、

 「な! まじかよぉ、姉貴ぃ!」

 イケイケ勇者様も及び腰。

 <ほぅ……。あれは狩らぬのか? 相棒?>

 「あれはダメ! ダメよ! ルー!」

 

 現れたのは……

 大きなお鼻に、円な黒いお目々。もふっもふ♡ としたほっぺた。とぼけたお顔に銀色のもふもふの体毛……。が、肉食獣故、口元にキラリ! 覗く鋭い牙!

 

 「かわいいわね~~」

 「ああ……。じゃなかった! 逃げるぞ! 姉貴! おっさん!」

 

 そう! 現れたのはデカい”ラッコ”だ! なんともキュート! よっぽど食ってる餌もいいのか、もこもこで毛艶もいい。すいぃ~~と、コチラに泳いで近づいてくる!

 

 「ユードさんも撤収! 食われるぞ!」

 そうなぁ、写真撮ってる場合じゃないわな。

 しっかし、でっか! 波打ち際のシャコ、長さが2m近くあるデカブツだが、そのシャコをむんず! と、掴み上げ、ガキバキ! と、頭からむさぼり食う……。大きな牙が難なくシャコの甲殻を噛み砕く!

 波打ち際の浅場だから、ラッコの全体像も見える。が、モリっと小山のように大きすぎて、尻、尻尾のほうまで見えない。どんだけデカいんだ、このラッコちゃんは……

 

 「でかぁ~~~~~~! もっちり、むっちりしていて可愛いわねぇ~~」

 ニンマリと巨大シャコを貪るラッコを見上げるセツナっち

 「ああ、デカいなぁ。でもよく見ると、獰猛だな。牙もすげぇなぁ。シャコ、バリバリだな」

 と、こちらもデレデレのトワ君

 この二人の勇者様は可愛いものにはめっぽう弱い。襲いかかってくれば別だが、狩猟は無しだろうなぁ。が、いい毛皮が取れそうだな……。おっと! 思っても口に出しちゃだめだわな。おいらが勇者様に討伐されちまう!

 

 もしゃもしゃ! ばきばき! もぐもぐ! とシャコを次々と頬張っていく。偶に、グソクムシも生きたまま……。むんず! と掴んで口に放る。バリバリと咀嚼音が。グソクムシの方が硬いのかな。殻を器用に吐き出す。

 

 しかし、まだ大きくなるのかなぁ。そうすりゃ”魔槍の射手”殿を腹の上で叩き割って食べるようになるのかな? 怪獣大戦争ぉ!

 

 距離をとりしばらく”超巨大お化けラッコ”の観察。チラチラとこっちに視線を向けてくるが、陸地に上がってくる気配はなし。腹も膨れたか、もにゅもにゅと、ほっぺをモミモミ。毛繕い……。

 う~~ん! キュ~~ゥトォ~~~~ォ♡

 なんちゅ~~破壊力! セツナっちもトワ君もメロメロだ!

 

 毛繕いが終わったらご帰還だ。くるりと回れ右! しゃばしゃばと泳いで帰ってしまった。来るときは潜水だったが、ざばり! と出てきたが、帰りは仰向けで船のように浮かんだまま、すぃーーっと。どこまでキュートなんだ! あの生き物は!

 

 「……いいもの見たわね、トワ……」

 「……ああ。姉貴……」

 満足したのだろう、大きく頷き余韻に浸る勇者姉弟。その笑みはほんわかだ

 「それで、セツナ様、あの魔物は?」

 カメラの背面のモニタに映し出された画像を見ながらのユード殿。本当にカメラ使い熟しているな。帰還してからの”写真展”が楽しみだね。

 「ユードさん、私の世界じゃ”ラッコ”っ呼ばれていている”動物”でね。あんなに大きくはないわよ。大きさはだいたい体長130センチくらいかなぁ。人気の動物よ。あれだけ大きければ魔獣になるのかしら?」

 これくらいと、腕を広げるセツナっち。

 「ほうほう。”ラッコ”と……」

 と、メモをとるユード殿

 「ラッコのおかげで、辺りの気配はまったく無くなったな。よぉし! 真珠拾いするか!」

 「うん。いいと思うさ、金欠勇者殿」

 「そうそう。ちゃんと借金返してね! トォワ!」

 「チッ――! つまらない連中だな!」

 「つまらくてけっこうよ! 文句たれてないで拾う!」

 「ドケチババァ!」

 「はぁ? 海に叩き込むわよ!」

 こらこら……

 ……

  

 採取を少々してから皆が待つ街道に戻る。そりゃ、あれだけでっかい怪獣が出現したんだ。場は緊張しているさ。

 「無事のご帰還、喜ばしいことですが、危険ですのですぐにお戻りください」

 と、アツミ殿。ま、浜に降りてる時点で十分以上に危険なんだがね。まさに死地!

 「ごめんなさいね。でも、あのモフモフ見ちゃうとね。捕まえて従魔にしたいくらいよ。おじさま、どうにかできない?」

 「どうにもできんだろう……。どうにかできても、餌代で破綻する未来しか見えんが……」

 「普通の大きさだったらアリだな。海の階層で飼えるだろ?」

 「そりゃ、飼えんこともないが……トワ君自慢のトラエビ、皆、食われちまうぞ」

 おいらのアワビもサザエもな。北海道じゃ害獣指定されるほどだものなぁ。

 「ん。ダメだな」

 と、ちっとも反省しない勇者様姉弟を見て肩を竦めるアツミ君。おいらも含まれてる? なんか、ごめんね。

 

 「……お父ちゃん、かわいい怪獣だったね!」

 かわいい怪獣……まぁ、字面はおかしいが、事実だからしょうがない。プリティなラッコは。化け物になってもかわいい。仮令、腹の上でガシガシ石に叩きつけられても!

 「ん……まぁ、そうね。父ちゃんの世界じゃラッコっていってな。今日は丸かじりだったが、海の上で仰向けで浮かんで、腹の上で石を器用に使って貝を割って食べたりするんだよ。脇の下の皮がだるだるでお気に入りの石をしまってるんだよ。ポケットのように貝を入れたりね」

 「……おお! ぬいぐるみ制作・販売確定?」

 勝機を見出したか! ラグ!

 「そ、そう? 販売まで? ま、ユード殿も写真たくさん撮ってたし? おいらも全体の絵姿くらい描くよ? あとはブラウンさんの腕次第だわね」

 「……なら大丈夫! ……商売繁盛!」

 安定の裁縫匠の信頼感!

 「しょ、商売? 今、そんな話?」

 と、青い顔したキュシナスちゃん。うんむ。至極真っ当なご意見です! そして、彼女の後ろに並ぶ文官軍団もうんうんと頷く。ご心配おかけいたしました!

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― 新着の感想 ―
ちなみにラッコは愛用の石を持ってて それを無くすと落ち込んで 食事をとらなくなるんだとか(^_^;)
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