コホーネ村で
……
たこ焼き、ソース焼きそばをいただき、技術部を視察する。
裁縫匠を目指すチコちゃんにも会えた。攫われた時のショックもないようで。本当によかったわ。
魔蟲布をあつかう、腕の良い職人ということで狙われる可能性もあるが、もうウチの出入り業者! 蒼隊、斥候隊、何よりヴァートリー商会の目が光っているからね。おいらも安心さ!
そして、ここに来たんだ、海の研究所の――水族館に。ここは観るだけでも楽しい。順に水槽を見て回る。
初見のキュシナスちゃんも大はしゃぎ。初見ではないだろうが、カミュもね。お嬢様のそばに佇む姿、動じない風だが、尻尾がゆらゆら。楽しんでいるのだろう。ふふふ。ラグも水槽にかじりついて……尻尾が魚の動きに合わせてゆら~~り、ゆらり。……獲物を狙う目だな!
はぁ~~。おいらもアクアリウムやりたいなぁ。出かけてばっかだから管理はできないがなぁ。引退したらだなぁ。……それよか、いつになったら引退できるのだろうか……。
前に見た時からそう時間は経っていないが、魚種が増えた気がする。新たな”新発見”という報告もなされる。謎多き海、こういった研究環境がなかったからか明らかになることが多いね。今、”知識の爆発期”といってもいいのではなかろうか。
最近の成果としては、近場にいる有毒生物の系統分けがなされたとか。そりゃ、漁村じゃ有毒生物の存在は知られていたさ。が、その生物の毒に何が有効だったかまでは手が回っていなかったらしい。毒消し自体の霊薬も希少でお高いからなぁ。ほいほい試せなかったのだろうね
この毒には排出系の毒消しやら、中和させる毒消しやら、その生物専用の毒消し等の開発もされたと。ウチの研究所で助言で、海洋国主体で指導、配備にのりだしているやら。
ここまで細分化されていると盗賊さんたちの、まさに命を賭した献身的なご協力があったのかもなぁ……南無……。
海老好き勇者様のご意向も十分に研究員に浸透しているようで、特別チームを編成し、新たなエビの発見、併せて、食味、養殖に向けた生態調査も行われていると。
ずらりと並ぶ水槽にはトラエビ、伊勢海老似のエビ、カラフルなゴシキエビ、そして幻のエビといわれるウチワエビの仲間の”具足海老”もいるな。おお? ホッカイエビみたいのもいるな。ラインが入ったきれいなエビだ、水槽で飼いたいなぁ。
後々はエビ用の大きな養殖実験用の生け簀を……なんて話がでているようだが、程々にしてもらいたいわ。倉庫街、なくなっちまうぞ。
「さてと……」
ゆっくりと頷く。
もう今日は営業終了でよかろう! 営業が終われば……
周りの面々の顔をぐるり、見渡す。そしてその流れのまま見上げる、『湯(銭湯)』と書かれた看板を!
「……お父ちゃん、風呂にはまだまだ早いぞ。……美味しい昼ご飯を食べねば!」
「そうでございますね。まだだいぶ明るいですよ。ミッツ様」
ディゴさんもラグの味方かぁ。ん? 昼ご飯?
「い、いや、さっきのたこ焼き、焼きそばで、お昼もういいんじゃないの? お父ちゃん、お腹全然へっていないぞ?」
と、腹を撫でる。けっこう食ってたよね? 感じるぞ? 今もたこ焼きの存在を!
「……あれは、午前のオヤツ。……いや、味見?」
あ、味見となぁ!
「い、いや、そう? あれだけ食ったのに?」
「……そう?」
ぱんぱん! と、自分の腹をたたくラグ。もう空かいな?
……皆も結構食べたと思うのだが……
諸君! あれはパンと同じ小麦粉でできてるんだぞ? お嬢様もデブる……何でもありません! 会頭殿もまだまだ! って顔だなぁ。若くなってからに!
「それじゃぁ、屋台でもまわって魚でも食うかぁ」
キュシナスちゃんもカミュもまだ食えそうだしなぁ。そんじゃ行くかぁ
……
……
コホーネ村に到着して一週間。だらだらと過ごす。
トワ君の金子も目処がついたか、海への真珠拾いは敢行されることはなかった。お姉ちゃんにタカったのだろう。お姉ちゃん、大金持ちだもんな。おいらは平和で良き哉、良き哉。
タコ釣りも満喫したさ。
タコ釣り、これが実におもしろい。魚影が濃い(魚がたくさんいるってことね)から、ちょいちょい釣れる。
海中で餌のカニを踊らせれば、ぐぃいと重くなる。ぐいんと腕をしゃくり、あわせれば、ちょうどいいサイズのマダコが次々と揚がる。半数はこのまま、生のまま”収納”に。半分はもちろんゆでダコに加工してね。
岩場の釣り場にはノーム族の連中が。漁師の子らと混ざってね。背丈が同じくらいだから? 随分とノーム族の連中と仲が良い。友達みたいにわいわい。子供らはノーム族が配っただろう干し肉を齧りながらタコ釣りをしている。ノーム族の連中はゆでダコの足をもぐもぐと。微笑ましいね。
たこ焼きを紹介してからノーム族もタコを随分とお気に入りらしい。手先が器用だから釣りも上手だ。この調子でこの辺りのタコがとり尽くされちゃったり。それほどの腕前だわ。
そして、茹でる鍋はトワ君印の年季の入った”ゆでダコ用寸胴鍋”ではなく、ノーム族の大きな寸胴鍋がスタンバイされていた。魔導コンロの上でぐらぐらと煮立っている。毎日、この鍋で大量のタコが茹でられてるのだろう、赤紫色のめっちゃ濃いタコ汁が。たこ焼きの生地にも混ぜてると。たこ焼きの生地の旨味の秘密の一部だろうね。
ずらり並んだゆでダコ。壮観である!
そうそう、漁師さんの間でおいらがカキ好きという噂がどのように広まったのか、毎日のように大量に差し入れしてくれたっけ。”無限収納”がなかったら、みな腐れてしまうところだったわ。
その場で生カキ、夜のおつまみでバター焼き、酒蒸しと楽しませていただいた。結構な量のカキ、食べて精力がモリモリと漲って――こないなぁ……。年かなぁ。タウリンやら各種ビタミン、亜鉛等々……。身体が衰えた分、差っ引くとチャラってことかなぁ。残念。
抜け毛なんかにもいいっていわれてるよね。お、おいら、セーフよ。体は健康体だ、よしとするか。
……
途中、ビルックとニッキさんが食材の仕入れできたなぁ。まだ公爵様、王都にお帰りにならないんだと。たいへんに羨ましい限りである。おいらだって、ずっと海洋国滞在でも構わんぞ?
デリカ君たち、若衆の近況――まぁ、別れたばかりだがな。料理、肉体の修業に明け暮れているやら? どうにも、ムキムキは確定のようだな。
彼らの加入により、『精霊の遊び場亭』のレストラン化計画も動き出すやら。今でもランチタイムの営業をやっているが、より座席、メニューを増やしたいと。キラキラした目でビルックが語っていたなぁ。『美食倶楽部』もある、忙しかろうに……。
連中にしたら、じっとしてる方が辛いのだろうなぁ。体を壊さないように取り組んでいただきたいところだわ。もち、おいらも全面協力させてもらうさ。
せっかく来たビルックだし、お父ちゃんと一緒に市を巡ろう! と、思ったのだけれどもぉ……。ディオス殿にビルック取られちゃったよ~~。ま、仕方なしだなぁ。魚を手に取り、料理法やらソースの工夫やらをビルックに叩き込んでくれている。この世界の匠の技を存分に学ぶといいやね。おいらも香草使えないからたいへんにためになるわ。
おまけで、カツオのタタキの影響か、刺し身の”炙り”が流行っていたな。”タタキ” ”アブリ” って呼称でね。様々な魚種が試されているやら? 特に他所の町から来る人にとっては生で食うよりも受け入れやすいのだろうね。
アイさんとニッキさんも? の、うどん、そばの修業も順調のようだ。何やら大姐殿も加わり、毎日、粉まみれになってうどんを打ってるそうな。
うどんの店を出すとなると、それなりの量のうどんを打たないとだわなぁ。まぁ、あの連中なら容易いか。それに、店ができたら、うどん屋を志す若者も集まってくるやもしれない。海洋国のうどんの聖地になったりね。
うどんといえば、地名が付くだろう。『讃岐うどん』 『稲庭うどん』 とか。フィリキだから、『フィリキうどん』 とかになるのかな? いや、『カマ・アゲアゲうどん』 かぁ!? よく尻をぐいんぐいん振ってるから確実に打つうどんのコシも強いだろう……。きっと……恐ろしい……。ま、おカマはいいや。
もち、技術部の方にもちょいちょい顔を出したさ。銭湯もあるし――じゃなかった。これ以上、拡張しないようにと念押しにね。まじで倉庫街占領する勢いだもんなぁ。コホーネ村、海洋国のためにはなっているが。ま、ここは代官のノウィック殿の手腕に期待だね。
お玉さんと、小さくてもいいから、物資用の転移門。どうにかならんかの協議もしたが、”物質”には、相応の”魔石”がどうしても必要だそうな。そうそう上手くいかないわなぁ。それこそ、アヌヴィアトから鉄路で結ぶのもありだよなぁ。途中でレールかっぱわらわれる心配はあるが……。浪漫だよなぁ
さてと。出発か……




