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赤いソースの先は?

 

 ……

 

 お店の開店には少々早いが、ノーム印の焼きそば、たこ焼きをご馳走になる。

 

 漁港ならではか、たこ焼きは、お出汁の効いた生地に具材はタコ、揚げ玉、紅生姜。

 野菜類は入っていないが、ブリブリの大ぶりのタコがごろりと。そのタコの食いでがなんとも。しかも、この生地が美味いなぁ。野菜の旨味がないのにこの生地の旨味はなんだろうか。

 

 焼きそばの方も葉物野菜は入らない。モヤシと玉ねぎが少々。青物野菜は入手しづらいというのもあるわね。ノーム族は野菜も食うはずだが……。が、豚肉とタコやらイカやらが入っていてとても美味い。海鮮ソース焼きそばといったところか。おいら、焼きそばに玉ねぎは入れない派だが、悪くないな。スパイシーの中にこの優しい甘みがいい。贅沢を一ついえば早急にアオサノリが欲しいところだ。

 ソースを醤油に置き換えた焼きそばもあるそうだ。注文のときに変更できるらしい。次はそれをいただきたいな。オイスターソースも紹介しておくか。そうすりゃ、上海焼きそばになるかな?

 

 「美味しい……。これは、是非にも王都ポリシアスに欲しいわねぇ」

 むぐむぐと焼きそばを頬張るカタリーンお嬢様。ソースで口の周りが……少々残念お嬢様になってしまっている。ほら、上手にすすれないからさ。

 その点、会頭殿や奥方はマーレン町で食べているから慣れたもんだ。綺麗にすすっていく。

 キュシナスちゃんに至っては、どこぞのやんちゃ坊主みたいになってるが……。まぁ、気に入ってくれて何より。たこ焼き、熱いからやけどしないようになぁ。ソースのシミは落ちづらいから後で”洗浄”かけてやるか。

 そして、マリアさんだ! 恐ろしいことに、たこ焼きにノーム特製激辛デスソースをちょんと付けて食ってる……。さらに! 焼きそばにも激辛デスソースを一回し。あのノーム族の推奨する食べ方だ……

 マジか……。一定数、激辛好きという人種は存在するものなぁ。おいらも辛いものは好物だが、このデスソースは舌のみならず、食道、胃袋、いや、体が受け入れを拒否るからな。まじで毒物あつかいなのだろう。

 

 マリアさんの様子を見て、おいら同様、目を見開くラグ。

 「……。……キュシナスもこの特製ソースをつけるといい」

 と、何を思ったか――完全なる悪さだが――小皿に入ったデスソースをキュシナスちゃんに差し出すラグ……。その小皿には毒々しい赤い液体が満たされている……。こら! 余計なちょっかいださないの!

 「イヤよ! ラグのその目、絶対なにか企んでいるときの目だもの! しかも悪い方のぉ!」

 「……ぅむぅ!」

 ほれ。すでにバレてるぞ。ヴァニラちゃんたちにも笑われてんぞ

 「だって、ティスカさんやジンジャーさんもそれ付けていないもん!」

 「……む! ……ジンジャーたちのせいでバレたか!」

 「い、いや、ラグ様のせいでしょう……」

 「ああ。怪しすぎますって。しかも、それ真っ赤だし……。でも、試してみるか……」

 ……激しく同意。 『む!』 じゃなかろうに!

 

 焼きそば、たこ焼きを堪能し、その後は技術部の工場やら冷凍倉庫の建築現場を見て回ったさ。

 冷凍倉庫も着々と完成に近づいているのだが……。新たな新素材やら、新しい魔導機関やらとで完成はまだ掛かりそう。てか、ここがある意味、実地試験場になってるらしい……。

 異世界鯖街道に期待だったがなぁ。先に王都、ポリシアヌや『魚村』、『肉町』の方が完成が先かもわからんね。その辺りの構想はラグや執行部で決めてもらえばいいだろうね。

 

 「ああ! ミッツ様だぁ! お帰りなさい!」

 んぉ? 小さい女の子がかけてきた。あの子は、

 「こんにちはチコちゃん。お元気そうね!」

 「うん! 元気!」

 にこにこと頷くチコちゃん。

 元気ハツラツね! うんうん攫われた影はもうないね。良かった、良かった。

 この街の凄腕の服屋のアージュさんの娘さんだ。ウチの出入り業者だ。もう人攫いとは無縁だろうね

 「お父さん、お母さんのお手伝いに来てるの!」

 あれ? 工場の方でお父さんとお母さんは見かけなかったが? はて?

 「偉いなぁ。お父さん、お母さんも元気かな?」

 「うん! 元気だよ! チコね、お裁縫の修行しているの! 裁縫匠になるの!」

 その意気や良ぉし! がんばれ! おっちゃん、全力で応援するぞぉ!

 「おお! じゃぁ、沢山修業しないとなぁ」

 「うん! 今度? あさって? 来年? ミッツ様のところに修行に行くの!」

 「え? 本当かい?」

 は、ははは……。明後日って……

 「うん! あ! 糸、持っていかなくちゃ! ミッツ様、バイバイ!」 

 おっと、明後日って聞いて少々びっくらこいたわ。さすがに明後日はないわな。ふふふ。来年か? マーレン町に修行に来るのかいな? 

 「うん、気をつけていくんだよ。あ、チコちゃん、お菓子持っていきな」

 ”収納”からオラが町自慢のバタークッキーを麻袋に入れて手渡す。お母さんたちと食べてもらえばいいだろう。

 「ありがとーー! バイバ~~イ!」

 「はい、バイバイ」

 手をぶんぶん振って駆けていくチコちゃんを見送る。がんば!


 「……お父ちゃん、あれは?」

 「ん? チコちゃんかい? ご覧の通り裁縫匠を志す女の子さ。以前、この村を訪れたときに人攫いに捕まってなぁ。そのときにね」

 と、『チコちゃん誘拐事件(ep1897 かえして)』について語ってやる。

 

 「そんなことが……」

 と、顔をしかめるキュシナスちゃん。君ももっと気をつけないとダメよ。一人で行動しててよくもまぁ無事だったわ。

 「ええ、あのときはこの周辺、大いに騒がせましたね」

 と、マリアさん。カタリーンお嬢様も頷く。海洋国内でそれなりの騒ぎになったようだね

 「が、出会えて良かったよ。人攫い共を排除できたしね。昔からこの地に根付いた商人だったよ。長年、住人に気づかれることなく、悪事を働いていたんだ。正体を知って皆、驚いていたそうだよ」

 「そのとき、関連するいくつもの商会も消えたと聞きました」

 「一掃できて何よりですよ」

 「人攫いか……許せない!」

 と、プンプン! と感情をあらわにするキュシナスちゃん。

 「……が、結構いるぞ。人買いとかな。……私だって攫われたのか売られたのかは知らん。私の種族は”収納”故、そういう事件も多い。……同族の妹たちは攫われて売られたそうだ」

 と、無表情で語るラグ。リックとシャンのことだろう。カミュもぐっと拳を握る。カミュはどうだったのか……。そして大人たちはなんとも言えない表情だ。

 「ラ、ラグ……?」

 キュシナスちゃんにしたら衝撃な事実だろうなぁ。顔色が真っ青に。

 「……今でも、攫おうとするものや、私を”売れ”と言ってくるものは後を絶たない。なぁ?」

 と、ヴァニラちゃんに視線を向ける

 「ラグ様……」

 「……今はお父ちゃんがいるからいいがな! ……それに弾き返す力も得た!」

 そっとラグの頭を撫でてやる。おいらにできることはこれくらいだ。

 

 「……まぁ、昔のこと。……ふむ。ウチに修行に来るのか……一人で来るなら、居候先にリンの家を紹介するか……」

 キュシナスちゃんはユット殿のところだもんな。

 「ん。それいいな。リンちゃん、服屋さんだものな」

 「……ただ、チコがリンの影響を受けて帽子屋になっちゃうか心配……」

 「ま、まぁ、それはそれでいいんじゃない?」

 ちと、重い話になっちゃったな。現実ではあるがな。熱い茶と甘い茶菓子で心の休憩するか。

 ……

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