コホーネ村にとうちゃぁ~~く
……
走行してるうちに……。……なんて!
コホーネ村へと到着! 街道も空いていたし、そもそも”蒼隊”は隠そうとせずに突っ走るからなぁ。”街道の怪物隊”。いや、”幻の軍隊”とか? おいらがそんな事いってるとまたトワ君にオタクって言われるなぁ。てか、”商隊”だったわ
「え? ここ、コホーネ村? もう着いたの? 乗合馬車だったら、3~4日かかるのに? 半日で?」
「……どうだ! すごいだろう! ……これが”蒼隊”の実力だ!」
と、ふんぞり返るラグちゃん。
「ヴァートリー商会の”蒼隊”の噂は聞いていたけど……。それと、本当にこの馬車もすごいのね。お尻も腰もぜんぜん痛くなかったわ!」
「……うむ。ビルック兄はもっと速いぞ。お父ちゃんも!」
大きく見開いたお目々でおいらを凝視するキュシナスちゃん。こんなおっさんが”蒼隊”より速いなんて信じられんわね。
「……その馬車は、前にも言ったが金子をかけているからな! お貴族様の馬車に負けない極上の馬車だ。……ゆったり乗れただろう?」
「そうよね……。乗合馬車はこうはいかないもの。ある程度、お客さんが集まらないと出発しないしね。王都に向かう人気の馬車なんか、人でぎゅうぎゅうよ」
それもそうだわな。乗合馬車だって商売でやってるんだ、採算がとれないとなぁ。馬車内もすし詰め状態だろうね。
「それに、盗賊にも遭わなかったし。無事に到着できて良かったぁ~~!」
ん~~! と、背を伸ばすキュシナスちゃん。
そうね。この世界の脅威、魔物以上に同じ人間の”賊”のほうが大きいものなぁ。
「……ふふん! 盗賊なんぞ粉砕して……蒼隊の飲み代だ!」
「え、ええ!? そうなの? の、飲み代……?」
大将首に賞金が懸かっていたらね。そうでなくとも、ウチの魔木部隊の美味しいご飯になるだろう。
「ラグ様ぁ、列に並びますよ~~ご準備を~~」
「……うんむ!」
列に並んでいると、キコキコと自転車をこいでシュトラーシュテー殿がやってきた。相変わらずド派手な髪色だのぉ。車輪に巻き込まれないように長い髪はアップにされている。
「おお、ここにいらっしゃったか、使徒様」
「ん? どうしたの? シュトラーシュテー殿?」
「いやなに。アンコウが売っていたら、あんこう鍋をお願いしようと思いましてね」
おねだり?
「ん? そりゃ、構わんけど、それでわざわざ?」
「ええ。アレは美味ですからね。お願いしましたよ! ”使徒”様!」
と、すぐに行ってしまった……。うん。あんこう鍋が食いたいのはわかった。いいアンコウが入荷していたらそれくらいはこさえようさ。
「ね、ねぇ、ラグ。シュトラーシュテー様といったら、あの有名なハイエルフの杖屋さんの?」
「……ん? あれ? 紹介してなんだか? ……我が、付与魔法の師、そして、あの有名なハイエルフの杖屋さん? の、シュトラーシュテー師だ!」
「ええ!? ラグの師匠ぅ……。レイストリン卿だけでなく? ず、ずるい! ずるいよ!」
「……何も狡くはない。キュシナスも弟子入すればいい。が、付与魔法はただの魔法と違う。エルフ族の秘術。知識と魔法の修業をたくさんしなければ無理。……魔力も恐ろしく使う」
と、手に持っていた杖をキュシナスちゃんに向けるラグ
『うひょ~~~~!』
タイミングよく、声を出す骸骨壱号……。まぁ、付与魔法の成果? だわね。
「修業かぁ……。今の私じゃぜんぜん足りない?」
「……うんむ。足りんな! ……付与魔法は知識もだが、それなりに魔力量がないととても危険だ。魔力をみな吸われて干からびちゃうぞ。……キュシナスの干物のできあがり!」
「そ、そうなの? ひ、干物? 魔力を吸われちゃう? し、死んじゃう?」
「……うむ。付与を与えるには魔石を加工してこさえる。その時点で魔道具、いや、呪物のようなもの。……制御できねば喰われる!」
”ごくり”と唾を飲むキュシナスちゃん。ついでにおいらも、”ごくり”。なるほどと納得できる話だな。喰われる……か。こっわ!
「……付与魔法はおいておいても、シュトラーシュテー師の話はたいへんにためになる。長い人生訓。レイストリン師の話よりも。……講義にでるといい」
知らずところでレスト殿、流れ弾被弾……南無……
「う、うん。ねぇ、ラグ、私決めた。『肉ダンジョン』じゃなく学校に行く!」
「……うむ。それがよかろう。……私の方でキュシナスが程よく生活できるように手配しよう!」
「ありがとう!」
うんうん。おいらの出番はなさそうね。
と、そこに、なぜだか先を歩いていたハセルが戻ってきた
「ラグ。何食うんだ? 干物? 腹減った……」
おぅ……。獅子耳へにゃりのハセル君。どうやら、先の付与魔法の際の『制御できねば喰われる』 の”食う”に反応したようだ。さすが、”爆食王”。剣の素振りしながら走ってきたし、それこそ程よく腹も減ってるのだろう。
「……極上のキュシナスの干物」
おいおい……
「え?」
「キュシナス? 食えないだろ。 「……うむ。……腹壊す」 「ラグ!」 はぁ。腹減ったなぁ~~。父ちゃん、なんかない?」
はっはっは。
「屋台の串焼きあるが。食うか?」
「食う!」
「……食う!」
ラグもかいな……
……
入村審査もさくっと終了。無事にコホーネの村に入れてもらえた。顔パスといってもいい。帰路だし、おいらの顔が利く数少ない場所だからね。
すぐにジロッテさん、一家の若い衆も案内役として集められる。ま、セツナっちがいるからなぁ。極力、彼女だけで村を徘徊させるのは避けたいところだ。リスクが大きいもの。
……
そのまま街中をすすめさせてもらい、役場の前の大広場へ。
大広場には村長さん、お役人さんがすでに待機しており、歓迎の挨拶を受ける。
引き続き、整列する隊員の前にトワ君が出てきて、無事にコホーネ村到着の挨拶を。
うんうん。よくできた頭領さんだ。蒼隊の隊員、アツミ君ら文官軍団、おまけで何故か村長さんやらジロッテさんたちも整列し耳を傾ける。勇者様の人徳がなせるってやつか。
「よぉし! コホーネ村には……おっさん、5日もあればいいか?」
挨拶も終わり、滞在期間の申し送り。
「ん? いいんじゃない? あ、ちなみに、おいら、金子そんなにないぞ?」
もう真珠、殆ど手元に残ってないからなぁ。ピンク色の上物はとってあるさ。孤児たちが成人したら持たせるのにね。悲しいかな、いくらあっても足りんだろう。戦はないが、麦がなぁ。今年は気候の影響で乗り切れそうだが、根本解決には至っていない。年々、麦の収量は落ちるだろうしなぁ。となれば、煽りを食うのは農民、子供ってなぁ……はぁ。おっと、無事に到着したばかりだし、湿気た顔してられんわな。
「……トワ兄、私が金子、貸してやろう!」
「おう! 金利たくさん取ってやれ!」
「……うむ! トイチで」
容赦ねぇーー! くくく
「おい! ……休暇、一週間くらいにして真珠拾いにいくか? トラエビ爆買いできないじゃん」
せんでよかろう……。
<勇者殿、我が金子くらいだすが。真珠は結構な量がある>
不憫に思ったのか、ルージュ殿からありがたい申し入れが
「ありがとう、ルー。でも大丈夫! ちょっと行って拾ってくるわ。なぁ、おっさん!」
「ええ……。おいらも行くのかい?」
「そりゃ、いくだろう! おっさんがいないとちょっとじゃ行けないじゃん。なぁ、スラミ!」
”びゅるり”と、今日は背面、背中の襟口から出てきたスラミちゃん。びよん、びよんとご機嫌だ。まんまとトワ君の口車に乗せられたらしい……。単純脳筋スライムめぇ! ん? 単細胞生物だから単純なのは仕様か! なら、仕方なし!
出てきたスラミちゃんにどっきり! ビビるキュシナスちゃん。
「ね、ねぇ! ラグ! ミッツ様から、なにか出たぁ!」
い、いや、冬虫夏草みたいに、おいらから生えているわけではないが……。いや、魔力食われてるんだ、同じか? 魔力が切れるときが縁の切れ目? そのまま……
「……ん? 問題なし。お父ちゃんの相棒のスライムのスラミちゃんだ!」
”びゅるん!” ”びゅるん!”
「ス、スライムのスラミちゃん?」
「……うむ。お父ちゃんの従魔だ」
「だ、大丈夫なの? ミッツ様、喰われない?」
「……さぁ? どうだろうか?」
おふぅ……。多分大丈夫……だろう。ねぇ、スラミちゃん
真珠拾いかぁ。でも、トワ君、フィリキでかなりの量のトラエビを放出してたしなぁ。宴会もけっこうやったしね。そりゃ、販売したことになっているが、”蒼隊”らの経費に消えてるだろう。なら仕方なしか……。
「いいんじゃない? 一週間でも。おいら、ずっとでも構わんぞ?」
そうなればビルックも一回くらい顔をだすだろう。
「じゃ、一週間なぁ。皆も節度を持った行動をな!」
チミのトラエビ爆買いは節度を持った行動と言えるのか!? いや、いえまい!
トワ君の挨拶、滞在日数が決まり、その後はアツミ君の挨拶と続き、滞在先の振り分け等が行われる。なにせ、人数が多いからね。村の協力無しでは難しい。お礼にたくさんお金落としていくからね!
……




