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馬車にて 後

 

 ……


 かたかたことこと……

 車輪が路面の凹凸を拾う。が、高性能な緩衝器ダンパーがその衝撃を殺し客室にはわずかな振動を伝えるのみ。

 板バネとオイルシリンダーの緩衝器ダンパーの仕事だろうね。ドワーフ族とノーム族の技術の融合、よくもまぁショックアブソーバの再現に成功したもんだな。魔導研究所のほうでポンプの開発も叶った。次はエアサス(エア・サスペンションの略ね)かな。

 最高の技術なんだが、これも軍事、大砲の緩衝器の技術が元だものなぁ。やはり”戦争”は技術を大きく進めるのだよなぁ。

 

 「でも、すごい馬車ね、これ。ぜんぜんガタゴトしないし。お尻もぜんぜん痛くないね!」

 と、お尻をぴょんぴょんバウンドさせ、楽しそうなキュシュナスちゃん

 「……そうだろう。そうだろう。そこらのお貴族様の馬車よりも頑丈で乗り心地もいい。……乗合馬車など比較にもなるまい!」

 「うん。私が移動で乗ってる乗合馬車、遅くて狭いし。お尻も痛いし。これって、ラグの馬車?」

 「……うんむ! 移動を楽にするために金子かけた!」

 「すごいなぁ」

 「……自分の足で走ったほうが楽だがな!」

 「え? それって移動、楽になってないじゃない……」

 ふふふ。その通りだわなぁ

 「……仕方あるまい。馬車は馬の世話もしないといけない。……馬の世話は大変。……めんどっちぃ」

 「それもそうね……。馬は高価だし」

 しかも、この馬は”魔馬”だものな。飼い葉よりも肉を食わせんといかん。

 「……ふっふっふ。この馬車は変形する! ……宿代わりに使えるぞ」

 「へんけい? なにそれ?」

 「……うむ。変形。それは浪漫!」

 「? だから、なにそれ?」

 そうね、キュシュナスちゃん、ラグが何を言ってるかわかんない状況よね。トランスぅフォーーメーーショぉーーン!

 

 「……お父ちゃん、コホーネ村にはどれくらい居るの?」

 「うん? そうなぁ、お父ちゃん的には未来永劫で、いつまででもいいが、用事はほぼ終わってるだろう。すぐに発つんじゃないかな。いても三日くらいじゃないかなぁ?」

 なにせ、ダンジョンにいかんといかんしぃ

 「……うんむ! トワ兄にエビの金子、貸し付けるか!」

 「ははは。たっぷり利子とるんだぞぉ」

 ……

 

 フィリキの町から程よく離れたので、馬車を降りることに。なんかさぁ、ねぇ~~。こんなかわいい馬車、場違い感、半端ないしぃ? それに、外を走るも気持ちがいいもんだ。

 

 地球にいるときはダイエットで走ったりもしたが、全然楽しくなかったなぁ。なぜって? 疲れるに決まってるじゃん。しかも、隣を走る車が吐き出す排気ガス。加齢とともに足腰の性能も落ちてくるしね。重い腹の贅肉がずっしりと足腰にのしかかる……。はぁ……ってなもんだ。

 

 今は勇者ボディと魔力のお陰でぜんぜん苦にならない。

 この世界、なんといっても景色がいい。郊外といっても車もないし工場だってない。原野が広がるのみだ。目新しいものもたくさんあるしな。渡る風も気持ちがいい。隣を走る馬もかわいいしな。十分に楽しい。

 そして……。前をゆく、馬から自転車に乗り換えたティスカちゃんのペダルを漕ぐフリフリおしりもワンダホ~~~~♡


 「……お父ちゃん。よそ見しているとコケるぞ」

 おいらの隣を走るのはラグ。

 「い、いえ? ちゃんと前を見ているが?」

 お尻を……

 「……えっち」

 「お、おふぅ。だ、大丈夫よ?」

 よくわかったなぁ。女の勘? これも成長?

 「ねぇ! ねぇ! ラグ! なんでそんなに速く走れるの? 私にも教えてよ!」

 と、馬車の窓からキュシュナスちゃんが顔をだす。

 「……ふむ? 魔力回しの修業してからだな」

 「魔力回し? あのラグが朝やってる瞑想だっけ?」

 「……瞑想だけじゃない。後で教えてやる。……お父ちゃんに手伝ってもらうと上達が早いぞ。……それより、キュシナスよ。あまりそこから身を乗り出すと馬車から落ちて死んじゃうぞ」

 「ひ! そ、そうね、速いもんね。死んじゃうね。この馬車、揺れないから忘れちゃうわ」

 と、頭を引っ込める。ガコンと揺れれば投げ出されかねん。

 

 キュシュナスちゃん、小さくてちょこちょこ動くし、なんかこう、華奢というか……。なんていうの? いい表現法がないな。まぁ、人族の娘だ。見ていてほっこりしてしまう。ほら、ウチの娘たちは獣人族ばっかりだからね、骨太、がっしりといった感じ? 自立心もあるっていうの。その辺りは違うわね

 ウチのナツちゃん、アキちゃん、ロッカちゃんは小さくとも心身ともめっちゃパワフルだし。まぁ、パワーファイター型の虎人だものなぁ。今日もケットシーの長を相手に狩りの練習してるかなぁ。長、生きてるか?


 「ラグもだいぶ”魔纏”走行に慣れてきたね」

 おいらは魔力は入れていない。が、骸骨壱号と尻尾をブンブン振っておいらの隣を走っている。

 「……うむ。疲労感がすくない。走りながらも普通に喋れるし」

 「うん。すごいね。日々の鍛錬の成果ね」

 「……いや、すごいのはアレ」

 「うん?」

 

 ラグが前方を指差す。そこには、己の肉体だけで馬車と並走するハセル君の姿が。こちらはブンブンとデカいバスターソードを軽々振りながら。一応は獣人族特有の身体強化魔法も使っているのだろうが、あの脹脛ふくらはぎの爆発しそうな筋繊維!

 「……脳筋・筋肉変態モリモリ男」

 「こら。でもアレも日々の鍛錬の成果だなぁ……」

 頭の中に仮想敵でもいるのか、剣の打ち込む角度を変えたり、踏み込むスピードに緩急をつけたりと。しかも、走りながらだ。

 「あれだけ動けば、食うわなぁ」

 「……うむ」

 ”爆食王”の称号に裏打ちされたあの身体といったところか。

 

 「ねぇ、ラグ、ティスカさんが乗っている乗り物って何?」

 キュシュナスちゃんの声。ラグに落ちるぞって言われて顔は引っ込んだままだ.が、声からワクワクが伝わってくる。そりゃ、見慣れない自転車だ。興味もひくだろう

 「……それは、自転車というものだ」

 「ジテンシャかぁ。ねぇ、私も乗れるかな?」

 そりゃ、興味津々だわね。自力で馬車と並走できる乗り物だ。

 「……キュシナスは鈍臭そうだからな。……無理だろう」

 「ええ!? 私、鈍臭くないよ!」

 「……車輪は二個しかないぞ? 鈍臭いとまっすぐ走らぬぞ? ……コケる」

 「だぁ~~かぁ~~らぁ~~鈍臭くない!」

 ははは。まぁ、仲良くな

 「ん? ……ひょっとしてぇ、ラグ、乗れないのぉ?」

 「……ふふん! 乗れますがなにか? が! 乗る必要はなぁし! ……あんなものより私のほうが早い! 見よ! キュシナスよ!」

 ばひゅん! と、いきなり速度を上げるラグ。あっという間に先頭の方へと駆けていく! ド速いのぉ。”魔纏”と、杖の補助だろうなぁ。もともと兄弟内でも一番の魔力持ちだ。

 「わ! わわぁ! ラグぅ!」

 にゅっと窓から身を乗り出し、恐ろしい速さでかっ飛んでいくラグの背を見送るキュシュナスちゃん。馬車から落ちてくれるなよ

 「行っちゃった……」

 話し相手が行っちゃったお陰かちょいと寂しそうな? まぁ、残り物がおっさんじゃ仕方ないわね

 「ま、すぐに戻ってくるだろうさ」

 「で、でも、なんでミッツ様も馬車にお乗りにならないのですか? 修業ですか?」

 「修業というよりも走ってるほうが気持ちがいいからね。じっとしてるものね」

 

 まぁ、なんだ。この馬車、乗り心地はいいが、女性専用っぽいし。どうにも尻の座りが悪いとは言えん。キュシュナスちゃんの表情は、『はぁ? 何言ってんだこのおっさんは?』 って感じだがな。

 この世界、移動の基本は馬車だものな。近場なら徒歩もあるが、大抵の町、村間の距離は馬車基準になっている。お貴族様の馬車で極力野営をしないようにの工夫だわね。


 「勇者様は違うのですね……」

 「は、ははは。かも?」

 ……

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