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馬車にて 前

 

 ……

 

 「それじゃぁ、お世話になりました! 出立!」

 ギシリ! トワ君の合図で動き出す馬車。

 お世話になったフィリキの町とも今日でお別れだ。

 はぁ……。マジで海洋国に引っ越したいわ。

 お玉さんパワーでどうにかならんのか? コホーネ村やらには勝手・・にホットラインやら繋げてるだろうに。う~~ん。マジでどうにかならん? ザルバック村のように多くの人の通行をせずとも? おいら専用でもいいからさぁ。

 

 またすぐくるからね! 元気でやるんだぞぉーー!


 ……

 

 「楽しかったなぁ」

 はふぅ~~。しばらくビルックともお別れだ。なにせ、ダンジョンに入るのだものなぁ。

 「……うむ。美味しいものがたくさん食べられた。……ヴァニラがまたデブった」

 「ラ、ラグ様ぁ」

 そ、そう? おいらにはわからないけどぉ

 そう、おいらはラグの商会の馬車にお世話になっている。出立時は馬車にと言われたからな。別にいつものように徒歩でもよかろうと思うのだが……。ま、ノウィック殿の顔を立ててね。

 

 ラグの馬車は丸まっちい小ぶりなものだが、中は中々に広い。ゴロリとできる寝台もついている。居住性もよし。

 女性専用? だけあって内装も華やかだ。ジンジャーちゃんが手綱をとり、ティスカちゃんは騎馬で並走してるから、馬車内は、おいら、ラグ、ヴァニラちゃん、そして、新入りのキュシナスちゃん。

 

 キュシナスちゃんは初めて乗る高級馬車に興味津々といったところか。車窓の景色を楽しんでいる。

 「それで、キュシナスちゃんもダンジョンに潜るのかい?」

 「へ? ダンジョン?」

 ダンジョンと聞いてびっくりするキュシナスちゃん。そりゃ、ダンジョンと魔法使いの相性は悪いと言われてるものなぁ

 「……まだキュシナスはダンジョンに入れないだろう。……お子ちゃまだし」

 「そんなに変わらないでしょ! で、でも、ラグ、ダンジョンに入るの?」

 そう心配そうに聞くキュシナスちゃん

 「……うんむ! 行き先はお肉天国! 『肉ダンジョン』だ!」

 「はい? お肉天国? 肉ダンジョン? なにそれ?」

 「……知らぬか? 肉がわんさか出る、とてもありがたいダンジョンだ!」

 「へぇ……。お肉が? わんさか? そんな所あるの? トラヴィス国ってお肉たくさん取れるの?」

 と首を傾げる。

 「……甘い。……タダでわんさかくれるわけあるまい。猛牛を倒さねば牛肉もらえぬぞ。魔猪肉は魔猪を倒さねばな!」

 「じゃぁ、ダンジョンの魔物のドロップってこと?」

 「……だからそう言っているだろう」

 やれやれと肩を竦めるラグ

 「言ってないでしょ! お肉天国しか!」

 はっはっは。かもなぁ

 「……肉・ダンジョンだ。察しろ。で、お前はどうする? 電池弐号よ」

 無理を言うなよ……ラグよ

 「その、電池弐号ってものすごく気になるけど……。ダンジョンかぁ……。ヴァニラさま……さんも行くの?」

 キュシナスちゃんも魔法使いマニアっぽいな。著名なヴァニラちゃんを”様”付けで呼んでたっけ。今はヴァニラちゃんにいわれて”さん”にいてるようだが……なかなかね

 「私? 肉ダンジョン? 行くわけないじゃない。そんなとこ」

 おいらも声を大にして言いたい! 『行くわけないじゃない』 『そんなとこ』 と!

 「……が、お父ちゃんは行く」

 「はい……」

 おぅ……行くさぁ。『行くわけないじゃない』 と言えない、おいら……

 ヴァニラちゃん、笑ってないで助けてよ。ヘルプ・ミィーー!

 「……キュシナスの好きにするといい。先に帰って学校に行くのもよし。魔法の修業に打ち込むのもよし。……好きなだけ学べるぞ。ん? キュシナスは一人暮らしってできるのか?」

 「そりゃ私は農村の出だし? 家事は特に問題ないわよ。でも、住むところかぁ……。家……貸してくれるの?」

 「……うむ。貸してやろう。……一人暮らしが寂しかったらセツナ姉の家に行くといい。あすこも人がいっぱいいる。女の人しかいないから安全だ」

 「セ、セツナ様のところぉ!? そ、そんな、恐れ多い……」

 「……ん? セツナ姉もキュシナスのこと気に入ってるようだったぞ?」

 「そ、そうかな? へへへ……。でも学校かぁ~~」

 「……うむ。只だし、昼飯もでるぞ。行くといい」

 い、いや、学校は飯食う所じゃないのだし。

 「ただ? 只ってお金かからないってこと? 学校が? 嘘だぁ~~」

 「……うそ? ……そうキュシナスが言ってるが、お父ちゃん」

 「はぁあう! す、すいません! ミッツ様!」

 「いや、そこまで恐縮せんでも。ラグの言う通り、今のところは学校も給食も無料だよ。が、人口も増えたし、子供も増えるだろう。これからもどんどん増えるだろう。どうなるかな。そこいらへんはどうなってるんだい? ラグ?」

 「……問題ない。教育は国の基礎。それだけ地力が上がり、豊かになっていくのだから。先生たちの給金が足りぬなら、私が出そう! が、もうちょっと商会の人員が増えたら。ヴァートリー以上の商会にしてみせよう!」

 「おうおう! その意気やよし! 期待してるぞ!」

 「……うんむ! ウチには売れる物はいくらでもあるが、売れる人がいない。ヴァートリーに任せてる部分が大きい。御池屋を大きくするぞぉ! なぁ! 電池弐号よ!」

 「は?」

 全く話についてこれないキュシナスちゃん。いきなり話をふられ、目をパチクリ。まぁ、そうなるわぁ。

 「……そのためにも学問は必要だ! 電池弐号よ! じゃないとずっと電池だぞ」

 「い、いやいや、私、”でんち”じゃないし? ”魔法使い”だし? 魔道士目指して修業するのだけれども? それで『サロン』で依頼受けてお金稼いで……。ラグだってそうでしょう?」

 「……うん? 魔道士? 私は商人さんだが。『御池屋』の会頭だ! 魔法は身を守るための手段に過ぎん。『サロン』の依頼なんぞ受ける気はなぁし!」

 「は、はいぃ? 依頼受けないの?」

 「……だってそうだろう。会頭様だぞ? そんな暇はなし! それに獣人族の小娘が商売なんてな。……大金を持ってれば襲われてしまうだろう。町の外にもおちおち出られん!」

 「いや、そうだけど……。そうなのかな? そうなの? 商人? ラグが? あの、レイストリン卿の後継者の?」

 「……うんむ! 私は正真正銘、商人さんだ!」

 ぐいんと誇らしげに胸を張るラグ。キュシナスちゃん、ラグが商人さんと聞いてプチパニック。

 「……で、その商人さんにキュシナスは魔法勝負を挑んできたと。……恥ずいな!」

 「うぐ! 商人さん……」

 「……で、負けてるし」

 「あうぅ……」

 「ラグ様、それは……」

 追い込んじゃダメだって……

 「……キュシナスよ! 師の後継者になりたくば、まだまだ席は空いてるぞ。アルテサ師と違って、レイストリン師は人気ないから、弟子希望であれば、師は泣いて喜ぶぞ」

 「そうなのかい? ”砂魔法”やら”土魔法”もかなり有用性のある魔法だと思うがなぁ」

 「……地味」

 は、ははは……。そうね。

 「……それに、魔力消費量が大きい。一時固めるくらいなら問題ないが、砂を動かすとなると、どうしても魔力量に依存する」

 「なるほどのぉ~~」

 なにやら考え込んでいたキュシナスちゃん、

 「でも……アルテサ卿のほうがいいなぁ。一応、私、炎使いだし?」

 と、ぽつり。レスト殿ショぉック!

 「……であろう? お子ちゃまには親切丁寧なアルテサ師がいいだろう。弟子の指導者も多い。レイストリン師の講義は慣れるまでよくわからん。意味不明だ。まぁ、考えておけ。トラヴィスに入るまでな」

 「うん……」

 ……

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― 新着の感想 ―
なるほどな~体系立てて自身だけでなく多くの優秀な弟子を育てるアルテサは柳生タイプ、あくまで自身の技を突き詰め常人の範疇を超えた孤高なレイストリンは宮本武蔵タイプですな。
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