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うまし!

 

 ……


 「うんむ……。ずいぶんとまぁ腕が上がっているな……。店できるわ」

 思わず言葉が漏れる。

 まじで。おいらよか確実に肉を焼くのが上手い! どう? お父ちゃんとお店やらん?

 完全に閉じ込められた肉の旨味! 焼き目の香ばしさよ。添えられた塩をぺろり。うん? サラサラだから海洋塩だと思ったが、岩塩かな。まろみのある塩だ。アラリアの岩塩の一種かな?

 肉に直接、塩をかけてもいいのだが肉汁がでてきそうじゃん。なんか、もったいないじゃん。

 

 どれ! 肉片を口に放る。そして、咀嚼! 塩辛い口内が、びゅっと吹き出る肉汁と脂で満たされ、舌の味蕾が開く! くぅ~~! 美味い! 塩味で上品な魔猪の脂の甘みがより引き立つ! それに、熟成させているのだろうな。香りもいいし、柔らかい。うん、大根おろしが欲しいな~~。ポン酢であっさりと。この際、黒い大根でもいいか! いや、わさびと塩もいいな! おもむろに”収納”からわさびと鮫皮の張ってある”わさびおろし”をだす。スリスリスリっと!

 

 「……うんむ! 美味い! どうだ、キュシナスよ!」

 「う、うん! 美味しい!」

 フォークを握りしめ、満面の笑みを見せるキュシナスちゃん。うん。いいね! いいね!

 

 「うぐぐぅ……美味しい……」

 「ぐふぅっ! 美味しすぎ! ふ、太るぅ……」

 ヴァニラちゃんとティスカちゃん……。ステーキを口に入れ、太ると悶絶。何も無理して食わんでも……。

 「文句あるなら食うなよ。ハセル様にも魔猪殿にも悪いだろうが!」

 と、美味そうに切り分けられたステーキを頬張るジンジャーちゃん。魔猪殿ぉ?

 「アンタはいいわよね! 太らなくて!」

 「ほんとうよ! 前はすぐに太ってたくせに! ずるいわ!」

 「ふふん! お前らは運動が足りないんだ、剣振れ、剣。ヴァニラもな!」

 「私は魔法使いよ!」

 ははは。賑やかでよろしい。

 「……キュシナスもたくさん食えよ。大きくなれんぞ!」

 「うん!」

 「お肉もいいけど、沢山の料理があるから楽しんでね」

 「はい! それで……ミッツ様、その緑色のってなんですか?」

 と、わさびおろしの上のすりたてわさびに関心をよせたようだ。周囲には肉の匂いを中和するように爽やかな芳香が。

 「……毒だ」

 「い、いや、ラグ?」

 毒じゃないよ? これは、お父ちゃんの大好きな”わさび”よ。

 「ラグ様……でもまぁ、大人の味かな?」

 「いいですね! わさびと塩! さすが、ミッツ様!」

 うむうむ! ちこう寄れぃ! ちこう!


 ステーキをもう少し楽しみ――ビアがあればもっと食えるのだが……白米もいいが、やっぱ、ビアだよなぁ。監視人ラグがいるからなぁ。それにティスカちゃんたちの前で飲むわけにもいかんか。このシチュエーションで ”んぐんぐ、ぷっはぁ~~” なんかやった日には二度と口をきいてくれないだろうなぁ……。

 と、一休み、一休み。若い子はペースが早いからね。お? ビルック? 大鍋を抱えて。忙しそうだな。汁物かな。ミディさんは総監督として各テーブルを挨拶周りをしている。

 いいなぁ。いずれはビルックも回るようになるのだろうなぁ。ミディさんとビルックの姿を重ねる。

 本当にミディさんとライル様には感謝だな。まず獣人族が貴族の前に出ることはないだろう。が、ここ『美食倶楽部』であれば。

 ビルックの料理に取り組む姿、それに優しいが芯のある心。その人柄をライル様も買ってくれている。きっとね。

 

 「……お父ちゃん、ビルック兄か?」

 おっと、戻ってきたか。

 「ん? そうね……」

 「……問題なし! 私たち兄弟も応援する!」

 「お、おう。頼むな。で、ちゃんと食べているかい?」

 「……うむ! オミヤもたくさんゲットしてきた。……お父ちゃん、預かっておいて」

 と、”収納”とマジックバッグから、金属製の容器が……またやってきたのか……。おばちゃんタッパー!

 「お、おう。預かっておくね……」

 「……よし! もう一回行くぞ!」

 「あ、待って、ラグ!」

 ……オミヤ預けに来たのかい。ま、ほどほどになぁ。ラグの後ろをかけていくキュシナスちゃんの金髪三つ編みの背中を見送る。全部まとめてあるせいか、思ったよりも揺れないのなぁ。痛くないのかな?

 「おいらはトワ君と合流しようと思う。ディゴさんもしっかり食べてきてよ」

 フィリキ最終日。もう少し、楽しませてもらおうかね

 ……


 …… 


 「それでは、お世話になりました。ライル様、フィリキア様」

 『海洋国』に来て世話になったお二人に頭を下げる


 「なぁに。またお立ち寄りください。ミッツ殿」

 ライル様から差し出された手を握り返す。


 「我が領はいつでも歓迎しますよ、ミッツ様」

 続けてフィリキア伯爵と握手。お世話になりました。実直な領運営、お貴族様なのに控えめな性格。ゴリゴリ前にでる御方じゃない。が、一本心の通った御方だ。おいらもフィリキア伯は嫌いじゃない。

 「ええ。また近い内に来ますよ」

 おお! さすが、上位貴族の方々。顔色一つ変えることなく微笑んでおられる。トラヴィスのイヴェルタさんならものすごい嫌な顔をしていただろう。ふふふ。あのしかめっ面も中々に見応えがある。癖になりそうだわね。ルルたちは上手くやってるかなぁ。


 「父さん。また来てくださいね」

 ビルックとは軽くハグをね。全然、柔らかくない、ハードボディだこと。お父ちゃんびっくりよ。

 「ああ、もちろんだよ。それと、新たに加わったデリカ君たちやメイドの子たちのことも頼むよ」

 「はい!」

 『精霊の遊び場亭』を代表してニッキさんが門まで来てくれたのだが……。なんで両のかいなを広げられているのでしょう……満面の笑みで。すっと、右手を差し出す……

 「んもぅ! ここはハグでしょ! ハグぅ!」

 ぷんすかニッキさん……。腕を抱きかかえる形に変形させ、すぱん! すぱん! と勢いよく大胸筋に叩きつける。人体ってこんな音するんだなぁ……。いや、ご遠慮させていただきます! 脊椎が粉砕されてしまいます!

 「は、ははは……。ビルックたちのことお願いしますね」

 「ええ! まぁ~~かぁ~~してぇ~~♡」

 

 大丈夫だろうか……

 

 ……

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― 新着の感想 ―
人も増えたしいつか宿とレストラン拡張工事中に精霊さん達が本拠地に来てくれるといいですね。食材やら新料理文化に触れたミディさんが帰らないって泣きそうだけど。
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