鉄板焼の鉄人!
……
宴の主催のフィリキア伯、そして、ライル様(美食倶楽部主催)にご挨拶を終え、テーブルを離れる。
さてと! ラグたちと合流する前にもう一杯! 次は何にしようかなぁ~~
「……お父ちゃん」
おふぅ……。戻って来るの早くない? 焼き肉エリアに行っていたから時間が稼げると思ったのにぃ
「おかえり。で、どうだった? 焼き肉は美味しかったかい?」
「……うんむ! 美味かった。……そこでお父ちゃんに朗報がある!」
「おん? 朗報……とな?」
なんじゃらほい? お酒解禁!? まさかな。
「……うむ。ハセ兄、お店やるんじゃない? 鉄板焼き肉屋! ……一緒にできる。よかったね!」
「おぅ? 今日も焼き係やってるのかい? いいなぁ。ハセルと焼肉屋かぁ。……店開ける前の仕込みで、つまみ食いで肉、全部食われそうだがな」
「……うむ! つまみ食い……それは我が家の”家訓”仕方なぁし! つまみ食い至極!」
「い、いや、それじゃ商売にならないが。肉ダンジョンの近くにお店出さないといかんな。キュシナスちゃんも初めての焼き肉どうだった?」
「は、はい! ミッツ様! あ! ニンニク臭くないですか?」
口の前に手をかざし、はぁ~~。はぁ~~と息を吹き掛け、自分の口臭チェックをするキュシナスちゃん。
「ふふふ。大丈夫だよ。それに皆で食べてるから気にならんだろう」
「……うむ! 焼肉食ってニンニク臭くなるのは必定! ひっさぁ~~つ! ”臭い息!” はぁ~~! はぁ~~~~!」
「うっ……。くっさ! 私も焼肉食べたけど、めちゃくちゃ臭いわよ! ラグ!」
やめなさい。一応、レディなんだから……
「……同じくらい臭うぞキュシナスよ! くっさ!」
こらこら!
「ううぅ……本当?」
「……当たり前だろう。……たくさん食っただろうに」
ラグほどまでいかずともそれなりに食べてきたのだろう。お口に合ってなによりね。
「ま、せっかくだし。おいらも馳走になるかな」
「……うむ。付き合おう! やはり”魔猪”が大人気」
「え? ええ?! あの肉って魔猪なの! ……どおりで大きいと……」
「……それに、美味かっただろう」
「うん。で、でも、また食べるの?」
「……もう臭くなったのだ。気にしても仕方なし! 好きなだけ喰らうといいだろう!」
「それもそうね……」
「ふふふ。たくさん食べるといいよ」
「たくさん……食べられないのよねぇ……」
「うん……」
と、肩を落とすはお年頃護衛のヴァニラちゃんとティスカちゃん。いや、おいら、むっちり好きだから大歓迎よ? まだまだ、ぜんぜん! もっとふっくらしても大歓迎! およびでない? こりゃまた失礼しました!
と、いうわけで焼き肉コーナーにも顔をだす。
鉄板焼き肉馬車を手に入れたハセルの無双だな。
左右に若い、おそらくはフィリキア伯のところのコックを従えて、大鉄板に並べられた肉片をコテで器用にひっくり返していくハセル君。ぱっとひっくり返して、コテでジュ! と押し付ける。なんというコテさばきだ。下味は軽く塩程度、タレや胡椒は後付け方式のようね。で、そのタレに大量のニンニクが入っていると。ラグおすすめの『平和亭』のものかな
焼けた端からどんどんとタレに潜らされ、皿に盛られていく。並んでいた人たちも皿を受け取り口に。そして大きく頷く。肉も山盛りに用意されているが、こりゃ、大変だわ。
「お! 父ちゃんもきたのか! 食ってく?」
チャキチャキとコテを鳴らすハセル君。おお! マジで鉄板焼き屋かぁ!? おいらとお店やる確率が一番小さいと思っていたハセルが? ……いや、”爆食王”だから必然か?
「おう! ごくろうさん。おいらもちょこっともらおうかな。でも疲れないかい?」
なんか面白そうだし、おいらもやりたいかも。
「ぜんぜん?」
普段鍛えに鍛えている手首のスナップ! ぴっ! ぴっ! と肉片が華麗に中を舞う。てか、鉄板、まだ新しはずなのにずいぶんとまぁ油に馴染んでいるな。極上の黒光りする鉄板へと進化してる。そう、育った鉄のフライパンのように。肉がくっつくこともなし。どれだけ使ってきたんだハセルよ? よもや、毎日焼き肉食い放題?
「……ハセ兄。魔猪のステーキがいい。……デカいの!」
「りょうかい~~。切るか? ラグ?」
「……うむ! 皆でつまむから切って」
魔導氷室から別に用意されていただろう、大ぶりの魔猪の肩ロースの切り身が現れる。赤身に脂が適度に入る。そいつを三枚、どどどぉん! じゅぅ~~! と鉄板に並べる。誰が食うんだ……そんなに……。ジュ! と、コテで鉄板に押し付け、そこに蒸し焼きにするのか、親子丼とかに使うような蒸気を逃がす煙突のある蓋が被せられる。大きい肉がすっぽり入ることから特注品だろう。ふ~~ん。煙突があったほうがいいのか? ま、料理人がそれを選んでいるのだ、文句はないがな。
しかし、羨ましいものよのぉ。焼き加減もその高性能な鼻と耳でわかってしまうのだから。ちょこちょこ蓋を取ったり、肉をいじらなくてすむ。
ほぉら、蓋を取れば、適度に蒸し焼きにされ白くなった猪肉が現れる。それをひっくり返せば、綺麗なきつね色の焼色が。肉の筋切りも完璧だな。一切、反ったりしていない。筋切りをしていないと肉が波を打ったようになっちゃうからね。
じっと、ステーキ肉を真剣な瞳で睨みつけるハセル君。まるで剣豪の立会のようだ。ハセルの助手? の若いコック衆もハセルの手元を注視する。その真剣な表情に料理を取りに来たゲストたちも口をつぐみ見守る……。その場には、じゅ~~じゅ! と肉の焼ける音のみが……。てか、何ごと! マジで立会?
タイミングを見てか、右側のコックさんが、一枚の皿を取り出す。頷くハセル。皿はちゃんと温められてるみたいだな、
手のコテを大きなフォークとナイフに持ち替え、素早く肉に。ナイフ入刀! なんて茶化してる場合ではない。一切の淀み無く入れられるナイフ。均等に肉を切断していく。大きい、魔猪の肩ロースが少し大きめな肉片に。それを素早く皿に移しラグの前に。
「はいよ! おまたせ!」
「……うむ! さすがはハセ兄! お見事!」
観衆からも、”パチパチ”と拍手が起こる。
ハセルはすぐさま、残りの二枚の肉の処理に取り掛かるようだ。一片あたりの大きさが先程よりも小さい。集まったゲスト用だろう。うんむ! やるもんだ!




