いざ! 宴会!
……
今夜は宴だ~~♪ やほ~~ぃ♪ やほぉ~~~~ぃ♪
と、いうわけで、宴会にしゅっぱぁつ! 『美食倶楽部』に入るとフィットニアさんに遭いそのまま導かれ、宴会が行われる会場へ。
……
「……」
絶句……
言葉もないかな。きらびやかな別世界だわね。キュシナスちゃん。未だ、おいらだって慣れてないもの。
会場には着飾った人々、蒼い服を着たウチの身内の者も多い。
招待されただろう、貴族家、商家の当主が御婦人を連れてね。仲よさげで羨ましいな!
そして、よしてほしいが、おいらのご入場で、会場にいる方々が談笑を止めて一斉にペコリ。お、おふぅ……。おいらもペコリとご挨拶。トワ君や、ゴテイン殿ならば、右手を上げ、歓声にも包まれるところだろうが……。おいらにはそんな度胸も器量もない……。
そして、もはや、お決まり? びっくりするキュシナスちゃん。すぐに、尊敬の眼差しをおいらに向けてくれたが……。ただのおっさんよ?
「さすがに目立つの~~。あの姉弟は」
会場をぐるり見渡せば――
別々のところにいるのだが、トワ君、セツナっちは存在感が段違いだわね。トワ君は御婦人に囲まれて……いるわけではなく、ハセルやニコたちと一緒にいるな。セツナっちはライル様の御婦人や伯爵様、アツミ君の奥様のアイリーンちゃん、会頭殿の御婦人、娘御のカタリーンさんたちと。
ちょこんとルカちゃんも席についてる。遊びに来たみたいだな。ひらひらドレスで、足をプラプラさせて。ご機嫌なのだろう、ニコニコして。こう見るとかわいいのだけれどもなぁ。
「すご……い……。人にご馳走……」
「……うむ! ご馳走がたくさんだな! 美味しそう!」
「ふふふ。そうだね。コックが会場におおいね。その場で料理を仕上げるオープンキッチンかな」
「村のお祭りよりすごいわ……」
くす(笑)。そうなぁ。でも、アットホームな村のお祭りもいいものだ
「……それはそうだろう。キュシナスよ」
「はっ――! い、田舎者だもの、仕方ないじゃない!」
「……構わない。私だって元々、町を徘徊していた孤児だ」
「こ、孤児……? ラグが?」
びっくりだわなぁ。……ま、その辺りは今後のお付き合いで知っていけばいいだろうね。
「お。そろそろ始まるみたいだぞ」
……
主催者のフィリキア伯の挨拶から始まり、ライル様の挨拶、そしてトワ君の乾杯の音頭と続き
「かんぱぁ~~い!」
{かんぱぁ~~い!}
そして宴が始まる。くぅ~~! これは美味いワインだな。ルージュ殿の秘蔵の一本か。すぐに二杯目が配られる。蒸留酒やら水割りもあるが、皆、極上ワインを選択するようね。美味しいものなぁ。どれ……おいらももう一杯、ワインをいただこう……おぅん? ぐいと服が引っ張られる……。あれ? キュシナスちゃんと爆食漫遊の旅にでたのではないのかい? ラグよ……
「……お父ちゃん。……一緒に回ろう。私たちと」
「そ、そうね」
今日もお酒は一杯だけかぁ。可愛い娘のお誘いだ。拒否する選択肢はなし! 酒と娘は天秤にかけられん! ま、まぁ、明日、出立だしな。二日酔いは格好悪いしな!
おいらはディゴさんに護られ、ラグ、キュシナスちゃん、ヴァニラちゃんたちラグの護衛衆と会場を回る。
それにしても、ずいぶんとまぁ手の込んだ料理が並ぶのぉ。コック衆が毎日のように研究会を催してるようだしなぁ。なにせ、海洋国の生ける伝説のコック、ディオス殿。新進気鋭のミディ殿がいるんだ。いい刺激になるだろう。若いコック衆にとってもこれ以上の経験はないのではなかろうか。
「お、美味しい……」
「……だろう。豪華な食堂だ。好きなだけ腹いっぱい食うといい!」
ふふふ。
「ほう。綺麗だな。エビの赤が際立っているな」
白地の、セロリのような野菜片に茹でたエビのむき身、ゼラチンでも塗布したようにテカテカと光を反射する。
「はい! 食神様! 塩味の魚介スープを煮詰めソースに。それを何度も塗り固め透明感を出しております。一口でどうぞ」
と、ここには若いコックさんが三人。キラキラした瞳でおいらを歓迎してくれるのだが……。ふぅ……
「……うむ。美味いぞ。お父ちゃん」
「わわわ……うまぁ」 (キュシナスちゃん)
食うの早ぁ! まだコックさんの説明中だったろうに。ラグよ、一個ずつ食べなさい。キュシナスちゃんはぷるぷると感動に打ち震えているな。美味しいってことは素敵よなぁ。どれ、おいらもいただこうか。おいらが食わないとディゴさんやヴァニラちゃんたちも摘めんものなぁ。それにコックさんもおいらの感想をほしそうだし……。ふうぅ。困ったもんだ。しがないただのおっさんだよ。おいらは。
エビの身ののった一口ほどの大きさの料理を頬張る。
「ん? これ、菜っ葉かと思ったら芋か。ぬめりはない……茹でた山芋? エビの茹で方もちょうどいいね。固くなっていない。濃いエビの風味、ソースの風味もいい。美味いね」
そして、ソースに薄っすらと乗る爽やかな香り。
こっちの世界は地球でいうところの西洋風の香草文化もある。スパイスの使い方が上手だわね。そして温暖な海洋国には食欲増進効果も加わる。インドや東南アジアの用法になるのかな。
そりゃ、日本にもあるさ。が、日本は臭み消しというよりも素材を引き立てるアクセント、そう、”薬味”だ。ミディさんや、ビルックの指導か、そういう”薬味”のような用法も増えてきた。
「ありがとうございます!」
い、いや、そんなに恐縮されましても……
「いや、こちらこそよ。美味しい食事をありがとう。新たな発見があるよ」
「は、はい!」
「食神様!」
ふぅ。
お? あれはヴォレット殿。い、いや、すっかり忘れてたわ……。だって、ほら、”蒼隊”に混ざってると、見分けつかんから……ムキムキで。は、ははは……。せっかくのスペシャルゲストなのに。すまん!
今は、ウチの初になる代官? 厳密には外交官になるのか? ――そもそもコホーネってばウチの領地じゃないもんな――……のノウィック殿、それと、フィリキのお貴族様だったか? 行政に関わる御方と歓談中だ。一応、挨拶するか。放置プレイじゃ失礼だものな。今更?
「どうですか。ヴォレット殿」
おいらを見留め頭を下げる御三方。
「はい、ミッツ様。この機会を与えていただき感謝しています。これからの領運営にも多くの知恵をいただきました」
父ちゃん譲りの裏表ない実直な性格。うんむ。好感が持てますな!
「ええ、ええ! ヴォレット殿は毎日の会議にも真面目に参加されておりましてな」
と、ノウィック殿
ええぇ! 全会議にでていたのぉ? アツミ君やら、大曲者のライル様が出席している会議……何たることか……脳筋ヴォレット殿にしたらどんな責苦よりも……うん? くいくいと服を引かれる。
「……お父ちゃん……失礼」
おぅ? 何故にわかった? 顔に出ていたか? 言葉が漏れた?
「はっはっは。大丈夫ですよヴォレット殿は!」
ばんばん! とヴォレット殿の肩を叩くノウィック殿。さすが、武人! 文官にしてはガッシリ系のノウィック殿の攻撃にも微動だにしない。
「そこでミッツ様、この後、ノウィック殿とともに、ポリシアス(海洋国の王都)へと赴こうと思います」
「はい? 王都へ?」
「せっかく国よりでてきましたのでこの機会にと」
はい?
「大丈夫かい? 出先での行き先変更なんてして?」
「はい。リストには文をだしておきます。グラファド公爵とも縁を得ましたから、もう少し他国の様子をみてこようと」
親父のゴテイン殿に出さずにリスト殿にか。まぁ、話は早いな
「そう? ウチも引き受けた手前、応援させてもらうよ」
「ありがとうございます。ミッツ様」
「はっはっは。私に万事、お任せくださいませ! ミッツ様!」
まぁ、ライル様もいるし、ノウィック殿もいる。お任せでいいだろう。




