魔法使いのキュシナスちゃん
……
勝負あり!
フィリキの街をブラついていたら、魔法使いキュシナスちゃんがラグに魔法勝負を挑んできた!
が……。ずっぽりと地中行きになって終了……と。
勝負もついたし、魔女っ娘を誘って近くの食道に入りお茶にすることに。
「大丈夫かい。驚かせて悪かったね。おいらはミッツっていうんだ。美味しい焼き菓子もあるぞ~~」
「あ……勇者様……? ミッツ様? それに先程の”洗浄”魔法……」
おっと、不用意に”収納”から出してしまった。びっくりよね。
冴えないおっさんだけど、勇者セツナ様と同行し、そして魔道士ラグのお父ちゃん! その正体は消えたおっさん勇者様! なんてな!
「それで、なんでいきなり、”魔法勝負”なんだい?」
「そ、それは……」
「……ふむ。名を売るには手っ取り早いからだ。名が売れないと割のいい指名依頼も来ないからな」
「わ、私は、半年前に生まれた村からでてきました。『サロン』では誰も勝負してくれないし……。魔法には自信あるのに! そこに、勇者様が海洋国に来てると聞いて。そして、あのレイストリン卿の後継者、”砂の魔道士”ラグも。年もそう変わらないし、”火”魔法なら、なんとかなる……と思った……から……」
段々と語気が弱くなる魔女っ娘。まぁ、負けちゃったもんね
「まぁ、”砂”ってば、優しいニュアンスだもんなぁ」
「……その”砂”で、我が師は最強、最凶の呼び名をほしいままにしているのだが?」
「う、ううぅ……」
そうね……。いかにも攻撃魔法の”炎”やら、”風”を差し置いての”砂”だ。まぁ、使い手のレスト殿自体がかなりぶっ飛んでいるがなぁ……
「それで、キュシナス。あなたはこれからどうするの? ウチの町にくる? 絶対に裏切らないなら、連れて行ってあげるわよ」
「こら」
まだ諦めていなかったのかいな……セツナっち。もらっちゃダメだって。まぁ、かわいい生き物には違いないが……。RPGに出てくる、初々しい駆け出しの魔法使いって感じ? ”炎の矢”一本でやってるから駆け出しには違いないか……
「セツナ様……。ゆ、勇者様の国……へ」
「ええ、魔法の指導者も多いし。魔法使いの高みを目指すなら”来る”の一択ね!」
お? おお? キュシナスちゃんの目に力が宿っていく! キラキラと輝きが増して!
「はい! 連れて行ってください! セツナ様! ついていきます!」
「よっし! 来い! キュシナスちゃん。私がしっかり面倒見てあげるわよ!」
「こらこら……」
「あら。おじさまは反対? 若人の夢を叶える手助けよ?」
「まだ子どもだろうに? 親御さんが心配するだろう?」
「村から出てきてるんだもの大丈夫でしょ」
「はい! 後で両親には手紙だして知らせます!」
セツナっちを見る目はもうキッラキラ! これもなにかの縁だわなぁ
「……ふむ。本当に来るのか。じゃぁ、これから仲間だな。よろしくな。キュシナス」
と、手を差し出すラグ。
「こ、こちらこそ、よろしく、ラ、ラグ……さん」
その手を取る魔女っ娘。うんうん。これで新しい友、友情の始まりだね!
「……ラグでいい。おしっこチビッたことは忘れてやろう! キュシナスよ!」
「んな!!!」
もう……余計なことは言わないの! ほぉら、ゆでダコのように真っ赤っ赤だわ。魔女っ娘改めキュシナスちゃん。ラグと仲良くなるかぁ? 友情芽生えるかぁ? ふぅ……なんとも……
そこに、おずおずと衛士の一隊がやってきた。
「あ、あのぉ、ご歓談のところ申し訳なのですが……」
真っ赤のキュシナスちゃんを他所に話しかけてきた。
「ひぃ! ミ、ミッツ様ぁ? つ、つ、つぅ……つ、通報があったのですが……」
おいらたちと目が合わされば、隊長が生贄となり、隊の全面に押し出される。そんなにビビらんでも……
ここは、優しく答えてやる。ニッコリ! 営業すまぁ~~いる
「ご苦労さまです。少々騒がせましたが魔法使い同士の勝負、腕試しのような? とくに人的な被害もないですし」
ちょこっと道に穴が開いちゃったけど。ちゃんと埋め戻したし?
「そ、そうでございますか……! こ、これはセツナ様! お騒がせしましたぁ!」
「うん? いいわよ。何もなかったでいいでしょ? 文句言ってるのがいるの? 連れてきなさいな」
「は、はひぃ! 失礼こきましたあ!」
最敬礼し、脱兎のごとく帰っていく衛士の一隊……。セツナっちよ……脅しちゃダメだろう……
「……さすが、セツナ姉」
「何もしてないのに。失礼こいちゃうわね! 私も串焼き食べていこう! やけ食いよ!」
い、いや、立派な脅迫案件ですから!
「……付き合おう! オヤジ! 串焼き、30本! とりあえず?」
「へ、へぇい!」
こらこら! 30とりあえずって! 夜の宴会に向けての腹ごなしはどうしたんだい? ラグよ……
お茶と……串焼き、ワインを平らげ、再び街ブラを。
キュシナスちゃんの宿へと向かっている。解約手続きをね。ほら、今晩宴会だろう。ラグは忘れてるかも知らんが……。そして、明日は出立だ。であれば、宿を『精霊の遊び場亭』に移そうってね。
「……で、キュシナス。お前は、借金持ちか?」
お、ぅ……
「いきなり失礼ね! あなた!」
ふふふ。だいぶ調子は戻ってきてるようね
「……失礼ではない。大事なことだ。借金あると国からでられんぞ。ウチにこれなくなるが。金子の持ち合わせがなければ貸してやるが。……トイチで……」
おい……。仲間にトイチはなかろうに
「な、ないわよ。借金なんか!」
「……ならいい。ん? あすこの屋台、いい匂いがするな。ルー様!」
くんかくんかと鼻を動かすラグ……
<うむ! 参るか! いくぞ! 相棒!>
「ラグちゃんと行ってきなさいよ……」
「ラグ、今夜は宴会だろう?」
ルージュ殿は謎生物だからともかく、さっき散々串焼き食っただろうに……
「……軽く入れておいたほうがたくさん食える。これ、常識」
「本当かいな……」
「さっき、たくさん食べたでしょ! まだ食べるの」
そうなぁ。ラグの大食い初見じゃびっくりだわなぁ。知ってるおいらでもびっくりだもの。
「……くっくっく。キュシナスよ、一つ、私の秘密を教えてやろう! 私の胃袋には”収納”がある! 全然余裕だ!」
おいおい……
「え……。ほ、本当? それ? お腹の中に”収納”魔法?」
「……うんむ! でもなければ、こんなに食えるわけなかろう!」
「そ、そうなんだ……。”魔道士”を名乗るということはそういうことなのね……。お腹の中に”収納”かぁ……」
「……うんむ! キュシナスよ、励めよ!」
い、いや、騙されちゃダメよ、キュシナスちゃん。ラグはただの大食いだから……
そんなやり取りをニコニコしながら見守るセツナっち。結局、キュシナスちゃんを手に入れたな……。まぁ、夢を叶える一助、ならいいか……
……




