やっぱ!ドワーフだろ!(トワ氏談)
いらっしゃいませ~!
「やっぱ!ドワーフだよな!」
今すぐスキップしそうなほど、ご機嫌のトワ君。
そうか?…謎のテンション、爆上げだな。
「あ、ああ。楽しみだねぇ~」
一応、相槌を打っておく。態々水を差すこともあるまい。
ただいま乗合馬車に乗車中。馬ぁ…どでかいな…運送業開店の暁には”馬”と思ってはいたが…よく考えると、エサや、厩…牧?放牧地みたいのがないと駄目だよな。
レンタルみたいのがあれば…どちらにしろ世話の方法を学ばないとなぁ。借りるにしても買うにしても。
でも一日やそこらじゃ隣町に着かないだろうなぁ。
…
繁華街から馬車で小一時間、工業地帯に到着した。うん。歩いた方が早かったな…馬車。ちょこちょこ止まるし…渋滞もある…。しかも!お値段もそこそこ高い!乗合馬車…もう二度と乗ることはあるまい…。
地図によると…この辺なんだがなぁ。
工業地帯?よく言ったものだ。家具の木工所、鍜治場、この臭い…革の鞣し場もあるのだろうなぁ。動物の解体場などもあるかも知らん。
「あのぉ~すいません、グローヴィンさんの工房はどこですか?ここら辺だと思うのですけど」
と、道行くぽっちゃりミセスに話しかける。
「ああ、そこだよ、そこ。」
ミセスが指をさす方向…おふぅ。ぼろいな。営業してるのかな?音もしないけど。もっと”かんかん”するものだろう?
「ありがとうございます。」
「はいよ」
さて、さて。
”カランカラン”
とドアベルが大げさな音を立てる。ボロ…とも思ったが、厚く重い木の扉。良くみると、石レンガ?の建物?重厚で格好良いな。
「おじゃましま~す」
すると奥から大声で
『邪魔するなら、でていけぇ!』
…ごもっとも。
ドアベルに負けない、割れ銅鑼のような怒鳴り声の返答が。
よく見ると、そこにはずんぐりむっくりのひげもじゃ親父が鎮座していた。
ドワーフ…族だ。白雪姫やらに出るような可愛らしいタイプではなく、バトルハンマーを担ぎ戦場に赴くような眼光鋭い、筋肉の塊だ。でっぷりと出た腹。おいらの腹と違って、みっしりと筋肉が詰まっているのだろう。おいらの?脂肪ですが、なにか?
「あのぉ、一応、お客ですが…」
「一応なら要らん!」
…だな。
「…では、お客で!」
いいなぁ!このオヤジ!好きだなぁ。…お髭も綺麗に編んでて良く整理されとる、かっこいいなぁ。」
「ふむふむ。いい目をしとるの。お主。」
あ?心の声が漏れた。髭あこがれてたんだよな…。
密度もないし、顎ともみあげ、口元もくっつかないんだよ…おいら。…伸ばしても怪しい仙人のようになっちゃうんだよな。所謂ドジョウ髭ってやつだ。恰好悪くて伸ばせなかったんだよ…
「ええ。私も伸ばしたいんですが…どうも見栄えが悪くて…憧れてるんですよ。」
「そうか、そうか。」
親父、大層ご機嫌ですな!
「ドワーフは髭が自慢じゃ。だから褒められるのは嬉しいのじゃよ。」
カッカと笑う老ドワーフ。かっこいいなぁ。少しはトワ君の気持ちもわかって来たぞ!
「…おおぅ…マジドワーフだ。…酒好きなのかな?」
トワ君ぶつぶつ言ってないで会話に混ざればいいのに。交渉事は任せてくれてるのは解るけどね。…それに、なぜにこんなにドワーフ好き?おいら、エルフのほうが…
「もちろん好きじゃ!」
お!小声でも聞こえるのか?
「変な顔するな。ドワーフと言えば酒じゃ!」
「そこは鍛冶じゃなく?」
「酒だろう。力が漲って鍛冶にしろいい仕事ができるじゃろが!」
「なぁ、なぁ。ドワーフのおっさん!これ飲むか!」
と、消毒用として別にしていた蒸留酒?のビンをだした。
「ほぅ!こりゃ、ディフェン王国製の火酒か!なかなか手に入らんのだぞ?いいのか?」
目が怖いよおっさん、て、なぜに酒をだす?
「もちろん、あとで、飲んでくれ。」
「ちょっと味見を…」
”きゅぽん!””ぐびぐび…”
…おいおい。ラッパかよ。おいらも舐めたが、アルコール度数50度以上あるぞ。これ。
「おお~すげぇ!ドワーフ!マジすげ!」
???なぜに好きなんだトワ君!理解に苦しむわ。
「カッカッカ!ドワーフにとっちゃ酒は水みたいなもんだ。だが、火酒はいい。腹にどん!と響く。ワシはグローヴィンじゃ。」
「俺はトワ。おっさんは…ミッツだ」
「よろしく」
って、何飲んでんだ?ジュースか、ああぁ…蒸留酒の小樽、あれはワイン樽か?酒盛り始めんなよぉ~
「おお!おお!小僧…いやトワというたか?”収納”持ちか。これは…」
「飲むだろ。」
「もちろんじゃ!ところで…おぬしら…何しに来たんじゃ?酒盛りは大歓迎だが…」
「あれ?…?…ドワーフ見にきた?」
おい!おっさんなんか別にみたくないわ!もっとこう…ボイン、むちっとした…
「…いやはや。なぜかトワが暴走しちゃって…今日は装備の整備をお願いしに来ました。あ、これ紹介状です。」
でエルザさんの書状を渡す。ぶっとい指で器用に封を切り一読。
「ほうほう、嬢ちゃんとこの紹介か…フム。まぁ、これが無くても仕事は受けたがの。」
「今回は整備で来ましたが…新たに打ってもらうこともできますか?」
「うん?ワシの打ったものか?」
ん?剣呑。気のせいか?
「うん!おっさんが打った剣とか最高だな!」
「はっは。嬉しいの。トワ欲しいか。」
「ああ。自分に合ってないような気がすんだよなぁ。今の魔剣。しっくりこないんだよなぁ…」
「フムフム。どれ、出してみよ。」
「うん、これ」
「あ!魔剣の類みたいだし気をつけて 「大丈夫じゃ!鍛冶師じゃぞ?ワシは!」 …ですね」
釈迦に説法だわな。お!職人の顔だ。
「フムフムちと振ってみろ。」
魔剣を手にし、バランス?刃?の状態を確認し、再びトワ君に返す。
「ん!」
”ひゅん!ひゅん!”
あ、あぶ!店内で振らすなよ…危ないわ!
「ふむ。ちと、手を見せてみよ…ふむふむ。いいじゃろう。ちとまっとれ。」
トワ君の掌を観察。自分の手首を握らせたりと、色々とみているようだ。そして再び、魔剣を受け取り、隣の部屋に行ってしまった。なにやらごそごそとやっているようだ。
期待に目をキラキラさせている若人君。
「どれ。もう一回じゃ」
握り手のところの素材がかわってる?
「うん。」
”ひゅ!ひゅ!”
「お?おおお!持ちやすい!バランスもいいぞ!おっさんすげーな!隠れた名匠か!匠だ!」
キラキラした目で樽親父を見てる。
「すごいな!さすが鍛冶師!」
「ふん。ワシにかかればこんなもんじゃ。」
ふんすと胸を張るオヤジ。何処までが腹かわからんが。
「?はて?別に隠れてはおらんが…おぬしら、わしの”銘”でここに来たのと違うのか?」
「ん?道具屋のねーちゃんに紹介されたんだけど?」
「はい。エルザさんがここの仕事は問題ないと教えられてきました。」
「まぁボロっちいところだから心配したけど、おもろいドワーフのおっさんがいて良かったよ。これぞドワーフって感じだしな!」
トワ君…ボロって。ほんとドワーフ好きなんだな。まぁ当の本人もまんざらでもないようだ。
「カッカッカ!いやぁ愉快。愉快。いきなり訪ねてきて、いきなり酒盛り。で、ワシのこと知らんときた!おぬしら面白いの。ワシはこう見えてもこの国の鍛冶ギルドのギルドマスターじゃぞ?」
なんですと!こんな小さなボロ…鍛冶屋が?
「ぼろくともここの鍛冶場の炉は特級じゃぞ」
エスパーか!
「おっさん偉かったのか!じゃ、剣作ってくれないのか…おっさん…」
トワ君…がっかり。
「おう、おう。トワの剣は打ってやろう。整備も受け持つぞ」
ぐいっと酒をあおる。オヤジ
「ほんと!」
「ありがとうございます。この後は?」
「ふむ。今日は休業じゃな」
ではっと、干し肉をだし…本題、本題。
「こちらに出しておきますね。」
と槍十本
「ふむ?」
「おっちゃんこれも」と魔剣。
「料金はいかほどになりますか?」
「タダでええぞ。酒もたんともらったしの。ただ、新しい剣を打つときは材料と金が必要だな。ちとまっとれ。おーい!、おーい!」と奥へ。
暫くしていい匂いが…
「またせたの」
大盛りのぶっ太いソーセージ。
「腸詰じゃ。つまめ。」
「「いただきまーすー」」
”ブッツリィ”
!はぁ?”じゅわわわわぁ~~”上等な肉汁が!コショウか?この香り…う~んなんだ?適度のスパイスとハーブ。塩の塩梅もいい。この皮が秀逸だ。硬さがいい。
「うまいですねこれ!」
「うまい。うまい」
「だろう。自家製じゃ。かぶり!で肉汁を楽しみ、くいっと口の中の油を酒で流す。至福、至福。」
どん。樽追加って、トワ君ぽんぽんださないの。トワ君酒のんでないだろうな…
「トワも結構いくの。火酒うまいか?」
飲んでるんかい!
「うぅ~ん。まだわからないや、ワインのほうがいいな。」
…ほどほどにね。
「そだ、ドワーフのおっさん、キノコ食うか?キノコ。ソーセージのお返し」
と”収納”からぼろぼろと。鑑定済みなんで毒はないけど…
「ほうほう、良くいろいろ集め…うん?…!…おお!こりゃぁ!”至宝火炎茸”か!なんと!…く、食っていいのか?ゴクリ…」
「おう!食え!食え~」
…あれ、カエンタケ?ってたしか猛毒?食っていいのか?真紅のナイフみたいなキノコだな。トワ君どこで採ったんだ?それが20個くらいある…
「カエンタケ?おかしいな鑑定したのに毒キノ 「何をいっておる!このキノコは幻のキノコじゃ。特に我々ドワーフが好む。先ずは”ガブリ””ごりがり!ごりバキ…ビキ!”…旨い…旨いぞぉ。うむ…”ぼりぼり”」 …はぁ?」
…生食なのか?しかし、キノコらしからぬ、咀嚼音…なんかすげー音してんぞ。
「ドワーフのおっさん…変な音してんぞ…」
「うむ、うむ、新鮮だのぉ…古いとこうはいかん。この歯ごたえ…トワも試してみるか?で、ここで、火酒を煽るのじゃ”ぐびぃ””ぼばふぅ!”くぅふぅううう~。た、たまらん!」
はぁ?爆発せんかったか今?お?おおぅ。鼻から白煙?が漏れているぞ。
「お!おっさん…大丈夫か!」
「ふひいぃぃ~何年ぶりだ…旨い…」
「…まだあるぞ?」
「良いのか?”ごくり。”…トワは食わんのか?」
「爆発すんだろそれ…めちゃ硬そうだし…。火酒もまだ早いし…いらねぇ。」
「かっかっか!高く売れるぞこれだけあれば…金貨10枚はいくのでは…」
「金貨10!」
こんなキノコで?
「そうじゃぁ。めったに採れんし、我らドワーフが買い占めるしの。わしら小金をもってるからの、そこそこ高くなるのじゃ…それにこんな鮮度はまずない…採れたてじゃ。良い”収納”じゃの。鮮度込みでの査定じゃ。」
バレたか…まぁ信用できる人っぽいからいいか。
「じゃぁ、剣作る力にしてくれ!また見っけたら持ってくるよ!」
「では、後で仲間と楽しませてもらうかの…普通はちょっとずつ、大事に大事に楽しむのじゃぁ。一本丸食いなんて…ふうぅ…何年振りか…」
うん、是非にお仲間で楽しんでほしい。しかし…爆発するとは…そりゃ、胞子飛ばす時に似たようなことをするキノコは存在するが…流石、異世界…
本日もお付き合いいただきありがとうございました。またのご来店をお待ちしております。




