ここって、どこよ?異世界?んな、まさか…ね。
いらっしゃいませ!今日から開店?雑多で読みずらいと思いますが…お付き合いください。
「い、痛っつ。痛ったぁ!」
鋭い痛みがこめかみに走り目を醒ます。
キリキリ……。ギリギリ……
両サイドから締め付けられる……まるで、アイアンクローを食らっているようだ?
……懐かしいな……あ、あれ? なんでかけられてんだ? 中学生以来か? あれれ?
それに異様に尻が冷たいな……。ここ。
痔になるなんていうが……はて? だんだんと集中力、というか思考と共に記憶が戻ってきたようだ。確か……
おいらが座ってるのは、まっ平らな大きな石の上だった……
まるで石でできたベッドだな。ズキン! 痛っつぅ。再び頭痛が襲う。
頭を振りながら改めて周りを見渡す。
ここは……。
どこだ……。
ふっ。落ち着いて周りを見回す……。うそです! 大嘘です! そんな余裕は無いですって! 冷や汗、流し、流し、ビビりまくって周りをキョロキョロ見回す……。
薄暗い室内。よく見ると同じ石台の端に、ほうけた顔の高校生くらいの青年が一人。座っていた。
同時に、この石台をぐるり取り囲む全身鎧(板金甲冑?)の姿が目に入る。
その手には剣? まさか本物? 切っ先がみなこちらに向けられている。
その後方に猿のようにキャッキャと騒いでいる、ド派手な服を着た人間? かいる……。
「*+~**+‘~!」
雑音……。ただ、雑音。聞いたことのない言語? といってもおいらにゃぁ英語少々しか理解は及ばないがね。ふっ。
何を言ってるかさっぱりわからん! 頭痛に響くわ! ええぃ! うるさいわ!
「**!”*+‘~…………れ、……こえ……異世界人? 勇者なのか?」
「おお! 成功じゃ! オウン魔術師長! ようやった!」
「ははっ! ありがたきお言葉。これで勝つるますな!」
「おお!」
「さすが魔術師長!」
「これで、王国は安泰でございますな」
不思議なことに、全く理解の及ばなかった言語が日本語に置き換えられる? いや、翻訳? 勝手にピースがはまるような? 不思議な感じだ。
何となく言葉が理解できる? まぁうるさいのは変わらない。
どういうことだ? おいら混乱してる? コスプレ集団にでも拉致られ、変な薬でも打たれたか? は? こんなおっさんをか? 理解できんわ。
すると、ファンタジー映画にでも出てきそうな、いかにも”王様”って感じのおっさんが出てきた。同い年位だろうか?
「よう召喚に応じられた。異世界の者ども。ワシはディフェンヴァキュア王国、オード・ラウンジル・デルフェヴァキュア・Ⅲである。その方らに命じる、我が国に押し寄せる魔物、それらを引き連れておる”魔王”を討伐せしめよ! 期待しておるぞ!」
……はぁ? 一体何を言ってるんだ? このおっさん。頭沸いてるのか? それに王だって?
「わらわはこの王国の王妃である。魔物の脅威で我が王国、国民は困窮しておる。その方らの力期待しておるぞよ」
はぁ? なにってんだ? この婆ぁ? ここは可愛いボンキュボンのお姫様だろ? ネズミー映画みたいなバタ臭いのは嫌だが(偏見)…
……何言ってんだ? こいつ等、国王様だか知らんが偉そうに……まぁ偉いか……王様は。
王妃も王妃、金銀パールプレゼントかい! 貴金属に埋もれてらっしゃる。センスないな。金属アレルギーになぁれ!
盛ればいいと思ってる……確かに山盛りの美学はあるが……それに……臭い。香水やら体臭やらの混じった、すえた匂い……やっぱりこれ、現実か?
夢は匂いはわからんというし? ……おいら自身もここまでは拗らしていないはず……だぁ!
ということは、この部屋にいるのは、貴族という奴か? 会社でいうところの経営陣だろう?
魔物だか、魔王に襲撃され、国家が困窮していると言う割には大変ふくよかでいらっしゃる。
苦労、困窮は中間管理職(下級貴族?) と末端(国民?) かぁ。どこもいっしょだわな。
はぁ。まじかぁ。魔王を倒す? 断固拒否する! ……口にはできんけど。
そうだよ! 怖いよ! ビビってるよ! 魔王? 魔物? 闘えるか! そんなの! 包丁以上のものなど持ったっことないわ!
……こんなにビビったのは公取(公正取引委員会)デビュー以来だわ。
誰一人喋らない……静まり返った中。
「はぁ? 何言ってんだ爺さん! ここどこだよ! ふざけんな! それに白いの! (厚化粧白塗りおばけ=王妃w)キモいんだよ! バカ殿か? 説明しろ!」
お~、勇者がいたよ。my勇者! やるな若いの!
”ザッツ!”
はぁ?
「っ!」
おいら達をぐるり囲んでいた全身甲冑の置物のような奴らが、こちらに向けていた剣先を近づける。
本物? ……ちょいと指先で切先を触ってみる。”ぷす”……
「……」
……おふぅ。
血がぷっくり。痛い……やっぱり本物かいな。日本だったら銃刀法違反だわ。痛いし臭いし夢じゃないな。これだけ実感しちゃうと。これがラノベの王道、異世界召喚と言われるやつかぁ。
……
先ほどからぶちぶち愚痴ってる、おいらは、御池 充、花も散り尽くした、齢48歳、独身! ちょいと (かなりという説もある。メタボっ腹……うっさいわ!) お腹がでている、加齢臭香るナイス? ミドルだ。
髪は白髪の家系故か、まだ黒く、ハゲてはいない。そりゃ、多少は前線が後退しているさ。この年になると戦線を維持するのが大変なんだよ。
しかも清い体のままってのが自慢だ……ほっとけ! 彼女? 結構いたさぁ。今もいるよ? でも致そうとすると、直前で気が乗らん。萎える……変な潔癖症なんだろうか? ED……?
それはいいや、で、お仕事は中規模の建設会社の営業マン。最近は24時間働けんなぁ。
そんなおいらのこだわりは、営業は足元からってのが信条で、靴だけはいいものを履いている。海外有名どころや、浅草、下町工場へ直に買い付けに行く。
仕事内容は公共工事でお話合い(所謂、談合)なんかをしてる人だな。悪い人じゃないよ。談合云々の正否については言及しないけどね。
で、お客は、お役所様、大手様、関係ない仕事まで押し付けられ、(……ここ大事。これで談合が優位に進めるのよ。むふふふ)下請けからは安いだのと突き上げられ、(あんま五月蠅いと切るぞ!)こそこそ公取(公正取引委員会ね)の目を盗み、業者間での調整、仕事GETのためなら土下座だっていとわない。談合マン……じゃない、営業マンだ。
上司だ、部下だともう、お腹一杯なサラリーマンです。もう首にして……ライバル社からお誘い受けてるから。ハイ。
そんなおっさんがなぜにこのような場所に交じってるかというと……。
…………
……
ある日の都内。都庁である都営団地の改修工事の入札の為の現場説明会が行われ……と言っても書類見て解らなかったら聞いてね♡ってな具合だが……発注金額幾らよ? と聞いても無駄だけどね。
そんな説明会が終わり、扉が開けられる。参加した業者がバラバラに出るが、これからが本番だ!
ぞろぞろと、近くの喫茶店に。俗にいう、『談合喫茶』だ。大抵、仕事が発注される事務所の近くにはある。
何のためだって? そりゃ、これから、話し合い。何処が取るとか。所謂、談合だ。
「ふぃ~。御池ちゃん、なんで図面もってんのさ?」
この人A社さんね。
「ふん。おいらがしこしこ現地で数量拾って書いたんだ。ほれ。隠しサインもまんま残ってるわ」
お役人様が現場に行くことは無い。おいら達みたいな業者が、見積もりを上げるのさ。ブロック塀何メートル。ブロック何個必要でってね。そこに、お役人様が単価を掛けるって訳だ。今回みたいに、図面も描くことがある。ほら、ここまでお役人様が認めてくださってるんだ。お前の処でやれよ! ってね。
「ちっ。お役所も仕事しろよなぁ~。御池ちゃんの図面まんまコピーして現説なんてさ」
こっち、B社さん。
「ふふふ」
そう! 今回もおいらの勝ちじゃ!
「う~ん。じゃ、今回の工事、また、御池さんとこかな? ちょっと取りすぎじゃないかい? ふふふ」
こちら様は、大手建築会社の専務さん。今回のまとめ役ね。紳士だけど……怒るとめっちゃ怖い人だ。
「だよなぁ。入札荒らすと次呼ばれんもんな」
C社さん。
「今回はメンバーにも恵まれてやがんな。こっちに少しまわせよ?」
D社、地元さんだ。
「御池さんとこ今回取れば3連勝かい? 名義変えた方がいいんじゃね? うち頭やってもいいよ。今なら15…いや、10%でいいよ? 実績ほしいし?」
名義ってのは連続して、同じ会社が、予算満額で落札すると怪しまれるから、他所が代理で取って、丸投げってこと。もちろん表に出るのだ。実績になる。
E社さん。新参の会社だ。実績の為に名義をほしがる。
「ちっ、どうせ金額もわかってんだろ……担当者もびったりだしな……」
憎憎しげに古参のF社。
「おいおい。社長。潜ったら仕事回しませんよ?」
大手さんが釘を刺す。
潜る……札を貰っておいて従わず、それより安い札を入れる事。ね。
「わかってるよ。うちは御池君とこからはもらえんしな……」
「F社さん、お宅の専務が無意味に御池君に土下座させたからだろ。しかもあれ逆切れだろ? 妬んでさ」
「しょうがないね。ははは」
そう。おいらとF社の確執は業界でも有名だ。
「ここまで大きいのとられちゃ、笑い事じゃなすまないんだが……それに、随契枠、殆ど持って行ってんだろ?」
「ほんと? 御池ちゃ~ん、仕事まわしてよぉ~」
「やたら担当者と仲いいしな……」
「専務首にするから、関係修復してくれないか? 本気に」
そう、業界人なら知っている。F社のくそ専務の悪行を! 今まで被害にあった人も数知れず。
おいらがデビューしたての時に、なん癖つけて『仕事ほしけりゃ土下座だぁ!』ってな。土下座させておいて、結局仕事まわしてくれん、ケツの穴の小さいハゲだ。
まぁ、それ以降、おいらから仕事は回さんし、入札も協力せん。……といっても大手さんの顔立てて、札もらってるけどな。
「ええ~専務さんが土下座してくれたらいいですよ。夕食時のファミレスで」
一生忘れるか! 混雑するファミレスで、大声で怒鳴られ……くそ!
F社、利益半減どころじゃないみたいだな。ざまみろぉ。土地売ったって聞いたな。くっくっく!
「あいつがするか! 刺されるぞ?」
”ははははは”。
だよねぇ。一族経営、社長の弟だから切るに切れんのだろうが……切れ! ばっさりと!
「で、どうするるよ? 御池ちゃん?」
「そうだなぁ~名義、現場監督A社さんでいくかぁ? 17%でどうよ?資材は大手さんとこ一括、地図、半分に割ってBさん、Cさんとこでどうよ? うち、今回は20もあればいいわ」
「う~ん、結構きついぞ20は」
「なら、うちでやるしかないわ」
「……ちょっと内訳みせてよ?」
「だぁ~め。決まったらねぇ。お、飯時だ、食っていこう。名義さんお会計よろしく!」
「なんだよ、悪徳業者めぇ! 刺されろ!」
「ははは、俺らだろ、悪徳は」
……てな具合で話し合いが進む。この時点で入札予定金額の満額、落札業者、下請け業者、我が社のピンハネ20%がほぼ決定ってわけだ。
「御池ちゃんさあ~うちこいよぉ~」
「おいら、範囲が狭いから使いづらいぞ? 今回たまたま重なっただけだって」
「狭い? K区役所なんか、ほとんど御池ちゃんの見積もりじゃん」
「ああ、あそこね。伊達に女子プロ接待してるわけではない!」
そうなんだよ……エリートさんて女子プロレス好きな人多いんだよ……
「そんなことしてんのかよ? しかし、よく来るな?」
「そりゃ内緒だ! おいらはゴルフしないからなぁ。今度、アイドル巡りもすんぞ。今勉強中だ。なにせ人数多すぎ……」
1チーム覚えるだけで脳内メモリ使い切ってしまうわ。
「今度、俺たちもまぜてよ」
「だめよ~♪ 伝手なのよぉ~♪」
「そういや、年始の挨拶一緒にいったら、帰るまで、見積もり依頼がっぽりもらってたな……どこ行っても声かけられてさ、あれ随契?」
随契……随意契約。少額の入札なしのお仕事の事ね。
「ふっ。随契にするのだよ」
「きたねーなぁ」
「努力といってくれたまぇ」
……
などと、雑談しながら食事をする。その間に意思表示……。大手さんが紙に業者名を書いて回す。正々堂々勝負! という時は〇、上司にお伺いは保留。てな感じだ。
今回の場合はおいらの一人勝ちだからすんなりいくだろうさ。おいらと同じように見積もりだしていたり、金額を掴んでいたら対抗馬として立つのも可能だ。
大体こんな感じで進むんだよ。とまぁ話し合いの件は良いだろう。
ルンルン気分で帰路に就く。ボーナス&歩合もつくから今年は幸先良いな。
それでもアホなF社専務は文句いって来るんだろうなぁ。まぁ、その後うちの社長がご機嫌取りで高級海鮮連れて行ってくれるからいいが……てか、おいらが汗水ながして稼いでんだぞ?
”ぷるるるるる…”
ん? 電話かい? F社の社長か? 出たくないから……プチり! いま電車に乗ってることにしよう。
2時間くらいたった頃か……S区役所で名刺配りしてると再び電話が……。仕方ない……
「はい。御池です?」
『忙しいとこ悪いね。今日の件で話がしたいんだけど……』
やっぱりかぁ……
「はぁ。無いですよ。悪いけど……。さっき決まったでしょうに」
『大手さんも来る……頼むよ。話だけでも……』
「大手さんと話してみます。行くとしたら一緒に行きますよ」
『頼むよ』”ぷち”
ちっ……めんどくせぇなぁ。早速、まとめ役の大手さんに連絡を入れる。
「大手さん、今いい?」
『はいはい。いいですよ。Fさんの件?』
「そうそう。何言ってきたの?」
『それがねぇ……かなりキツいみたい。ほら、地元、三池さんと一緒でしょ? 随契もほとんど持って行っちゃてるでしょ? 下請け維持するのもキツイみたいよ』
「ふ~ん。で、今回に噛ませろって?」
『そんな感じかなぁ。で、顔出してよ。うちも行くからさ』
「A社さん納得しないでしょう?」
『Aさんも呼んでるよ』
「わかりました。大手さんの顔立てますよ。貸しですよ~」
『ははははは。怖いな。お手柔らかに』
……
大手さんの顔をたてて事務所近くの喫茶店に集合。ネオン輝く銀座にある談合喫茶だ。もう、飲みに行こうぜ! と言いたくなる。
もちろん、大手さんの奢りで! ケチじゃないぞ……一見様お断りだからね。入りたくともってやつだ! 大手さんに付いていくんだ!
ま、それは後のお楽しみに……お仕事しないとね。
”からんからんから”
店の奥。定位置のテーブルに。うん? F社来てないじゃん……
「なんだ、まだ来てないの?」
「ああ、時間前とはいえ、何考えてんだ? 普通、真っ先に来るもんだろ?」
とプリプリお怒りのA社さん。
「もうちょい待ちましょうよ」
Cさんも来た。そりゃ、自分とこの仕事減るかもしれないからね。心配だろう。
「す、すみません。お、お待たせしました」
約束の時間から10分も遅れてF社の社長と……ちっ! アホハゲ専務が来た。
「F社さん。御社のために集まったんですよ? 皆。遅れるなんてありえませんね。一応、話は聞きますが……心象悪いですよ」
大手さんのお小言。
「まことにすいません」
「土下座かぁ?」
C社さんがおちょくる。F社専務の十八番だ!
「とりあえず話を聞きましょう。コーヒーのお替りもらいましょうか」
……
……内容はお察し。経営きついから仕事ちょうだいね♡ てこと。しかも名義まで欲しいと来たもんだ。
「Fさん……無理ですね。全く話になりませんね」
大手さん、あきれて一言。
「アホいうな。御池ちゃんだっていやだろ?」
「そうですね。無いですね」
”がたり”と立ち上がるアホ専務!
「入札自由にやらせてもらうが、いいか!」
また逆切れかよ……連れてくんなよ……こいつ。何しに来たんだ?
「おい! お前は謝りに来たのだろ! だまってろ!」
「ふん、話にならん。御池! 調子乗んなよ!」
ええ? なんで、おいらが? 大手さんを見る。大手さんもお手あげのポーズだ。
「はぁ? 決裂でいいんじゃないです? 札負けませんし」
「そうだね。大手建設、大手工務店、大手不動産、大手商事にも話しておくよ。たたき合いは構わない、権利だからね。しかし潜ったら……今後F社は話し合いはない。解ってると思うけど、都内……関東圏全てでね。専務……余計な話だけど、君ぃ、引退したら? 話になんないよ? 業界としても害悪でしかない」
大手さんの言葉。死刑宣告にも等しい……
「お、お前は帰れ! すまない、話を……」
兄貴に言われて、アホ専務。ガタリと席を立ち、憎々し気に周りを見回し、ドカドカと足音を鳴らしながら店から出て行った。ガキか!
「無理ですね。何です? あの態度。御池さん侮辱したまま謝罪も無しに、社会人ですか? あれ。話も何もないでしょう。それこそ土下座級ですよ? さて、解散しましょう。あ、皆さん、一杯行きましょう。F社さんは帰っていいですよ」
あちゃ~普段温厚なエリートさんを怒らせちゃダメだって……激おこだわ……
……
「いやぁ~あのバカ専務……どうすんだ。あれ。決定打だな……業界追放?」
とA社さん。
「まさか。名義ごととはね……御池ちゃん札、大丈夫?」
「大丈夫でしょ。大手さんも掴んでるんでしょ? 後で合わせてみますよ」
「御池さんの積算正確だし、そうそうズレないと思いますよ。経費も満額ついてますし?」
……やっぱ掴んでんな。もぅ!
「後でよろしく~。で、来年のJV、どうしよう? うちも行きますよ~」
「なら、うち、3番目いれてよ~」
「ええ~」
”ははははは”。
大きな交差点で信号を待つ。今日も賑やかだなぁ。
ネオンの灯りが誘蛾灯のように人を集める。そう、ここは上級な店ばかりの銀座だ。
「今日のビールはうまいぞ~」
”どぉん!”
へ!
おい! なんでいるんだよ! F社のくそ専務! なんだ! そのムカつくドヤ顔は!
ヤツのタックルがおいらを道路に押し出す。質量では完全に負けている! ちっ!
その時、交差点に直進して入ってきた大型バス。おいらの顔前に突っ込んできた。
いや、おいらがバスに突っ込んでるのか? アホ専務! このタイミングを狙っていたな!
ほんとにスローモーションに見えるのな(笑)。
焦って目を見開く運転手、と乗客。慌ててブレーキ、バスの姿勢制御!
ああ……必死だなぁ。がんば! ブレーキ間に合うか? その頑張りしだいでおいらが助かるぞ!
って! 駄目っぽい? おいおいおいおいおい~轢かれてしまうがな!
感覚が引き延ばされてる? 加速そーぉーーち!
……じゃないって! あ! 大手さん! A社さん! ヘルプーーー!
んな!!! 隣に姿勢を崩した高校生? 青年が! そういや、斜め前にいた! おい! くそ専務! なにしてくれとんだ! 将来有望な若人を!
一緒に押されてしまったのだろう、巻き添えだ! ……たたらを踏んでいる……すまん、若人!
せめてこの子だけでもと手を伸ばす。
なんとか助けたい! くそぉーーーー!
空を掻き、なんとか青年の制服をつかんだ瞬間、あれ? この子、光ってね? 足元には幾何学模様の光の輪……へ? 魔法陣? と、暗転
……衝撃は無い、な? いや、一瞬で星になったか? いま、考察している存在は……残留思念? 地縛霊になるのか? おいら? ……やべぇ、意識が……未練ならある! 脱・童貞ぇえーー!!!
…………
……
で、いまここ。前説長くてごめんね。
一言で言うと、仕事の関係で、アホ専務に恨まれ、道路に押されて、バスに撥ねられる瞬間にここに来たようだ。
気が付けばそこは異世界だった……って感じだ。トンネルじゃないが。
痛みは頭のみ。こっちには体ごときたのか? でなければ……モザイク必須だな。
王様に逆らっている、my勇者は、あのときの若人だな。今や剣を突き付けられているが……
ここは年長者の威厳のため庇う! ……しかも、おいらの巻き添えだ守らんと……一歩前へ!
……ふっ。気は焦るが、ビビッて出ない我が足。小鹿のようにプルプルしてるがな……
はぁ。己の小心具合に呆れてしまう。
ああ! 怖いよ! しょうがないじゃない。小者だもの!
「おい! なんだ、剣どけろ。そっちから仕掛けてきたんだろが! 拉致って言うんだよ! こういうの。拉致ってんじゃねえよ! ふん! どうせ殺られるんだったら、死ぬまで暴れてやるよ! 覚悟しやがれ! なぁ、おっさん!」
おおぅ! my勇者よ! ブワっとオーラみたいのがでていらっしゃる! 見えるぞ! おいらにも見えるぞ!
……コホン。さすが勇者、選ばれし者! おいらはどうもオマケのようだな……ほっとけ。
甲冑供は動きを止め、一歩下がる。盾の陰の王は渋い顔。ありゃびびってるな。
一歩も引かないとは…腐っても”王”ってことか。王妃のほうは顔面が引きつり、モルタルのような白塗りがはがれそうだ。
うん! 一理あるよなぁ。タダ死になんて願い下げだ! よし! おいらもオーラ出しちゃる! 我が力! 顕現せよぉ! ……! ……でんがな。
……その前にびびって一歩も足がでんがな……面白いくらいぷるぷるしっぱなし。
しょうがないじゃない。小者だもの! 本日二度目の実感……
誰か助けてよぉ~! 異世界召喚に憧れている君! そう君だ! 今なら替わってあげるぞ!
「……よい。さがれ」
王の言葉に”ザッ!” 一斉に甲冑が剣を収める。兜で表情は見えないけど、安堵オーラが……。
解かるよ解る。怖いよね。……おいらも。
「そ、その方、名は?」
「諸星だ。」
「も、モーボシィというたか。その力。その方らは我が王国の戦力として働いてもらおう。異世界より参ったその方らは特別な力を秘めてるという。期待しておるぞ。魔王討伐の暁には元の世界への帰還の道も開けよう。オウン魔術師長よ。あとの面倒はそちがみよ!」
声は震えてる……さすがに隠せないか。そういう肉団子王、豚王でいいや。と白塗り王妃は速足で去っていった……。
それに続き、色付き猿(貴族?)共もゾロゾロと退室していった。
はてさて。どうなることやら、いきなり始まる異世界生活。即、退場だけはなんとか避けられたようだが……助けて! 神様ぁ~! 仏様ぁ~!
……
多くの作品の中、読んでくださりありがとうございます。ぼちぼち更新していきます。またのご来店を。