ある日、街の中、獣人さんにであった…
いらっしゃいませ!
何事もなく、宿屋?そんな訳ないか!
ただいま小僧を絶賛追跡中。
鞄をかっぱわれた…治安!おいこら治安!どうなってるんじゃ!
そこ!爆笑してないで本気で走れ!お主なら追いつくだろ!
人が行きかう路地を縫うように走って行く小僧。やたら小回りが利く上、足が滅茶苦茶早い。
「期待を裏切らんなぁ~グッジョブ!おっさん!」
と親指を立て、爆笑しながら並走するトワ君。うっさいわ!
まぁ、鞄の中はさっき買ったお菓子?や飴玉。あとは、なんか謎の種の炒ったやつしか入ってないからいいんだけどね。
トワ君が「もったいない!」って言うから走ってる…が。”収納”擬装用に買った中古の革の袋か?フラグか?君が勿体ないと言うモノはどっちだい?
…お、あそこか。繁華街といってもちょいと一本路地に入るとガラリと雰囲気が変わる。さらにその奥、辺りを見回してから建物と建物の間にするりと入る小僧。
しかし…魔力のおかげ?おいら、スタミナも、スピードも…地球じゃ考えられんな…。地球だったら、とっくにダウン。下手すりゃコケて大怪我だわ。
と、今は、下手人を捕まえねば!どれ。
「はぁ、はぁ、はぁ」
”ごそごそ”
おいらからひったくった鞄を開け、中を覗き込むひったくり小僧。うん?よく見ると…尻尾?獣人族かぁ。道理で足が速い訳だ。
「ちぇ、菓子しか入ってないぞ。」
更に鞄をひっくり返し、他に何かないか振る。埃と、種のカスくらいしかないだろうが。
「お菓子!ちょうだい!」「わたちも。」
「まぁ、次に…」
逃げてたのは獣人?猫系の豹かな?尻尾の模様から言って。
そして、ひったくり小僧の帰りを待っていたのは、お菓子をねだる、幼い女の子が二人。双子?姉妹?猫系のふわふわだ。で、もう一人。大きな豚耳?豚系の青年か?オーク?
少ない菓子を、皆で分けて、貪るように食べる子供達…
はぁ。胸が痛いわ…
「はい。そこまで。」
「っ!」
「「ああ!」」
「ぷぎぃ!」
…ぷぎぃって。かわいいな…子豚ちゃん。
ありゃりゃ。ひったくり小僧の猫耳がへにゃへにゃだ。
ひったくり小僧、改め豹君。周囲を見渡すが、おいらとトワ君をみてぴん!とたってたモフモフのしっぽがだらりと…他の子もいるし。逃げられないと悟ったのだろう。てか?ユキヒョウかな?
「す、すいません。窃盗は奴隷落ち…。こ、こいつらとは今、知り合っただけ…見逃してください…俺だけ出頭するから。」
覚悟を決めたようだ…。はぁ。とにかく事情を聞いてみるか…
「とにかく場所を変えようか。」
「おじさん!頼むよ!!」
「「おじさん」」
…泣かないで子猫ちゃん。
「レッグ連れてかれたらどのみち終わりだから…ぼ、僕も自首するぷ。」
…子豚ちゃん。ああぁ。心が痛い…が、このまま放置すればいずれは…。
トワ君を見る。肩をすくめる。
「大丈夫だよ、衛兵には突き出さないよ。信じられないだろうけど話聞かせてくれるかなぁ。」
「「「「…」」」本当?」
ああ…心が痛いなぁ。
皆、素直そうな良い子なのに…。助けても…偽善だよなぁ。
が!偽善結構!やらん偽善よりやる偽善だ。やらにゃぁ、損!損!ってかぁ!
「こっちおいで。」
「「「「…」」」は…い」
さてどこにしようかなぁ~飯屋。
子供達を連れて、大通りに戻り、ウロウロとしていると、
「お!旦那。どうした?」
「?」…誰だっけか?
「こんちわ。隊長さん、非番?」
隊長さん…あ、衛兵の?まじ?。甲冑着てないとわからんな。普通のおっさんだ。
「こ、こんにちは。ご機嫌よろしゅうぅ?では。また今度。」
「?どうした。」
ガシリと肩を掴まれる。逃げられない…。てか、おいら、罪人じゃないしぃ。
「おっさん。キョドりすぎ…不審者だぞ。」
あれ?skill発動せんのか?
「そうだ。スルガさん。この辺で個室の飯屋ってあります?できるだけお安いとこで」
「ああ、そこの角の飯屋だ。安くてうまいぞ。」
「ありがとうございます。ではまた。ごくろうさまです~」
子供達を促し、紹介された食堂にぞろぞろと入っていく…
「オヤジ!奥使うぞ!日替わり人数分!あと、衛兵盛り2人前!エールは…1杯な。」
「へい!毎度!」
隊長さん…ついてきたんだ…衛兵盛りって…。
今ので子供たちの目が死んじゃった…ご飯期待してキラキラしてたのに…
「さて、聞かせてくれるかな?旦那。」ニコヤカニ…
「…ここだけの話にしてくれます?もちろん飲食代は出しますよ。」
「わかった。了承しよう。で?」
なんかワクワクしてないか?隊長さん。
「私もこれから聞くんですよ…鞄をカッパわれたのが始まりです」
「ほう。ヒョウの獣人のガキ…おまえ、結構、目立ってるぞ…裏の連中も探してるようだ。」
「!え!」
”がバッ”と顔を上げる豹君。
「なんで?」
とトワ君。
「そりゃ、上納金とろうと思ってるんだよ。元締めみたいのが居るんだろう?ほかの面子にも示しがつかない。あいつは上納金納めないで好き勝手に稼いでる!ってね」
「ご名答。旦那の言う通りだ。痛めつけて言うことを聞かそうとするだろう」
豹君震えてる…怖いよなぁ。何にも後ろ盾もないし、たぶん親もいないだろう。
「おまちどうさま!」
「こちらになります~エールは?」
「おう!こっちだ。とりあえず食おう。暫くここ借りるぞ。」
「はい隊長さん。大丈夫ですよ~」
「さぁ、たべようか。」
「美味しそうだよ」
「「「「…」」」」
おふう…お通夜みたいだな…
「食え、食え。話しの続きはあとだ。」
腹が減ってたのであろう…。我慢の限界。戦場のような食事が始まる。
すごい勢いで料理が消えていく。子猫ちゃん達、どこに入るの?
しばし…
「んぐ、ぷはぁ。で、旦那、どうすんだ?」
「今のところはなんとも…とにかく話しを聞きたいなぁ。…さて、君たちは親はいるのかな?何処に住んでるの?」
分かってはいるがね…確認だ。俯く子供達…。
「「「…」」」…。
「…俺たちには親はいない…捨てられた…たぶん。最初は、何とか残飯漁りでしのげていたんだけど…寝るところは、決まってないよ…人のいないところ…」
豹君の頬に涙がつぅーっと。
「「わたちたちが混ざったから」」
双子ちゃん泣かないで。子豚ちゃんも手を固く握ってる。
フムフム。双子ちゃんが合流して、残飯漁りじゃ回らなくなったのかな。
「孤児院とかはどうなの?」
と、トワ君
「お、俺たち獣人だし、一杯だって。せ、せめて炊き出しがあればいいんだけど…大人が入れてくれない」…
スラムの大人が独占してるのか…。ちぃ。あの時減らしておけばよかった…おおっと、物騒だなぁ。
「確かに、どこの孤児院も一杯だっていってたなぁ。補助金が減らされたとかなんとか。ディフェンの王国が勇者召喚成功させたって話だしなぁ。要求が強くなるだろうなぁ」
と、チラりとこっちを見るスルガ隊長。バレてんなぁ…鉄面皮!
にしてもまた豚野郎の国かぁ。ホントにつぶしたほうが良かったのでは?
「おっさん、あのシスターに頼んでみる?」
「むむ。あまり余裕はなさそうだぞ?あそこも…」
「うん?どこだって?」
「ほらデカい教会の近くの…門寄りの小さい教会?」
「あぁ、あそこに行ったのか…」
「ん?まずいの?」
「いや、何を信仰するかは自由だからな。」
「隊長さんも人族至上主義?」
「いや?そんなことないぞ。冒険者時代、獣人とパーティ組んでたし。猫人族の女性とお付き合いしたこともあるぞ。だが、一応はあの教会だ。まぁ、この世界の人族は、生まれたときから、大抵そうだな。国教ってやつさ。」
その情報いらないし。とれろ!ぽろっと!もげてしまえい!
「ははは、なんだ、なんだ?邪悪なオーラが出てるぞ?旦那ぁ。」
「腐れて、とれろ。」
「うん?…まぁ、あそこのシスターはいい人だから頷くだろう…。だが、一杯一杯だろうな。獣人も多いから打ってつけなんだがな…」
「あの、でかいとこのは?」
「う~ん…。あんまりお勧めはしない。俺が言えば入れるだろうが…獣人だから…な。」
言わんとすることは解る…
「う~ん、とりあえず行ってみますよ。乗りかかった船だ。いいだろトワ君」
「おっけ~食い物ならなんとか…」
気が付いたようだ収納やら、パクったのやらは内緒だよ、内緒。
「で、君たちはどうする?」
子猫ちゃんは寝ちゃったかぁ。お腹いっぱいなんて久しぶりだろうし。
「…お願いしたいです…。お願いします!」
「お願いしまスぅ…」
…よしやってみるか。
「ってことで、今から行ってみますよ。」
「ああ、なんか問題あったら話は聞くぞ。」
「「「ありがとうございます」」」
「じゃぁ、お勘定…」
「ここはいいぞ。出しとく。その代わり、頼んだぞ…この街の歪みだからな。裏の連中にも手ぇだすなって言っておくよ。」
豹君の頭に手をおいて、くしゃり。
「悪事はこれっきりだ、いいな。捕まったのがこの旦那でよかったな。」
「はい…」
「ごちそうさまです。では。」
「たのむぞ~」
ここでスルガ隊長とわかれ教会にいく。
本当に話が分かる御仁だ。長い付き合いになるだろう。
ぞろぞろと、子猫ちゃんはおいらの背中と、豹君の背で夢の中だ。かわいいのぉ…父性が…。余裕があれば…って責任とれないな…あっぷあっぷなのに。
”コンコン”
「すいませーん」…
「はい。あら、昨日の…どうぞ。」
奥の奥、背中の子猫ちゃんを見て孤児院に直行のようだ。狭いが、異臭などはない。魔法かな。用意してもらった布団に子猫ちゃんを寝かす。
「パパ…」
あらら涙の跡が…お金を稼いだ暁には…っていかんて。
「本日はお願いに上がりました。」
「はい…わかりました。」
「え?」
「その子たちでしょう。ここにきて昨日の今日で…数奇な運命ですね。」
「ここには孤児は何人いるのですか?」
「小さい施設ですが、獣人が14人、人族が2人。私と、もう一人の獣人のシスターで運営しております。年長の子も小さい子の面倒をよくみてくれますのよ。」
ああ…優しい笑顔だなぁ。
「トワ君。」
「はい。お金は今はないけど…。小麦粉、トウモロコシ粉、岩塩、マメなら結構な量を持ってます。畑が作れる場所があれば、ジャガイモの種芋もあります。」
「え…?」
「とりあえず大きな袋なので…使えるかどうか中身見てもらえます?”どすん””ドスン”塩はとりあえず木箱で1つ。”どごぉ”豆と芋はどうします?」
”収納”から溢れんばかりの食料を出すトワ君。伊達に一人補給部隊じゃない。どれもこれも、豚の処の備蓄だけどね。
「あわあわ…」
シスターもびっくりだ。これだけあれば食糧問題は一挙解決できるだろう。あとは、補給部隊君の在庫次第だわなぁ。
「とりあえず粉はこんな感じです。品質的に使えないでしょうか?」
「い、いえ、全く問題ありません!パンも焼いてあげられます…トウモロコシの粉は栄養豊富…マメまで…本当に…これをいただいても良いのですか?」
粉を手に取り、喜びと、不安。ちょっと恐怖?が混ざった表情のシスター。
「もちろんです…本当は自分たちで…と思ったのですが…独身男2人、家も無く。
で、こちらに頼るしかないと…。ですので、遠慮せずに言ってください。できる範囲でですがこれからも支援させてください。」
「うん。粉物はほんとに沢山あるんだ。遠慮しないでね。お金はないけど。」
何事かと出てきたもう一人のシスター。あら、かわいい。と孤児の年長者かな?数人の子供たち。
お土産買ってくればよかった…後悔…。
「早速なんか作りましょうか?夕食に。厨房に運びましょう。」
と一時収納に。
厨房に案内され、食事の準備。その前に食糧庫のチェックだ。
大きく立派な食糧庫だが、中はおさっし…。ほぼ空だ。
これなら結構入るな。
しかし…こういった施設で定期的に入る”支援金”が絶たれたら。ここも後、ひと月だって持つまい。
「…トワ君もう少し粉出して」
「おっけ~」
食糧庫が一杯…それだけで、やる気も起きようってなもんさ。
気を取り直して、調理開始。パンは間に合わないとのことなので、トウモロコシの粉を使うようだ…年長者の子も手伝ってくれている。
こねて焼くのかな?子豚ちゃん…手際いいな!料理の才能ありと見た!!
おいら達はでかい寸胴を借りてすいとん汁づくり。収納にある適当な干し肉、野菜、猪肉の残りをぶっこんで、灰汁を取り味付けは塩のみ!
この岩塩、けっこう塩味がつよいんだよな。雑味がなくて良いが。
で、水でこねた小麦団子を投入。煮えたら完成だ。ワイルドだろう?
…余計なことしないで材料渡して退室したほうが良かった…と後から気づいたよ…まぁ、ノリだノリ。
その日の夕食は質素だが、温かかく、量も準備できた。子供たちも久々に腹いっぱいになって幸せそうだ。
シスター達は泣きながら祈りを捧げていたよ。
成り行きとはいえ、子供たちの命に関わってしまったんだ…できる限りしよう。
さて、帰るかなぁ。
「じゃ、また来ます。」
子猫ちゃん達が足に引っ付く。トワ君にもちっこいのが沢山くっついてるな。
「「絶対だよ」」
頭をなでながら、
「毎日は無理だけどなるべく顔をだすよ。じゃ、シスターよろしくお願いします」
「はい。お気をつけて。」
「「「ばいばい」」」
バイバイ。…また来る。さ。
豹君が見送りに表の通り迄ついてきた。
「…ありがとう…おじさん。俺、ここでがんばってみるよ…」
「ああ、頼んだぞ。お兄ちゃん。」
「うん。」…。
「おっさん、父性全開だったなぁ。」
「そりゃそうさぁ。でも…全部は救えない、ごく一部なんだよなぁ~」
「まぁ、神様じゃねえし。我がままでいいんじゃね?」
「だなぁ~そんな崇高な人間じゃないし。だが、あの子たちは引き取りたいな…生活が安定したら…」
「おっさん…まぁちょくちょく様子を見にこよう。」
「…そうだね。」
「さぁ、風呂入って、飯食って寝るか!ドワーフがまってる!」
「まだ食うのかよ。てかドワーフって…」
「異世界っていやぁ~ドワーフだろ!酒だしてみよう。ホントに好きなのか。」
「こらこら。失礼にならないようになぁ」
「楽しみだなぁ~」
そうか?…たぶんただのおっさんだぞ。樽型髭の…。おいら的には、もっと…こう…。
本日もお付き合いいただきありがとうございました。またのご来店をお待ちしております。




