漁村に到着!魚ぁ~魚ぁ~
いらっしゃいませ~
海岸沿いの街道を走る。たまに魚商の馬車とすれ違う程度だ。休憩なしに走って、視線の先に村が姿をあらわす!あそこが、リブリール殿が言っていた漁村だろう。約3時間で到着した。
漁村と聞いていたが…かなりの大きさだ。町といってもいいくらいだ。門にも多くの商人が並んでいる。仕入れ先なのだろう。
「次の方…ヴァートリー商会の方?良くこのような辺鄙な村に…」
「休暇で。途中、リブリールさんに紹介されて。これ身分証ね。」
「…確かに」
「宿屋とか食堂は充実してます?」
「ええ。最近魚商が多く集まりまして。大分賑わっておりますよ。」
「そろそろ町認定されそうですね。」
「規模は既に町ですが…ここは開拓村ですので。一定期間は”村”ですね。領主や、国は歯がゆいでしょう。」
「そりゃ、うまい汁だけって訳にも行きませんもの」
「まったくですな。ようこそ、魚村へ。」
「さかなむら?」
「ええ。村の立ち上げの際に、どうせ魚しかないから魚村で良いだろうと。村長がおっしゃったようで。ほら皆さん漁師ですし?まぁ良いだろうと…」
「なるほど…」
…脳筋村か。
門を抜け、すぐに鼻腔を刺激する生臭さ…。
門から近くの店舗へと渡されたロープにずらりと吊らされている干物たち。…おいおい。干物汁垂れないか?これ。
「おじ様、臭いわ、ここ」
「お!出てきたか?一緒に行動するか?食事も期待できるぞ?」
「…そうね。お魚美味しいし。それにしても一杯あるわね…干物。」
そういって皆で上を見る。
「一匹位とってもばれないなぁ」
「こら、ちゃんと買うんだぞ?小遣いあるだろ?」
「うん」
「すごい風景だろう?どうだ!」
筋肉ムキムキの30代くらいの浅黒い、たぶん漁師の男がたっていた。いかにも海人って感じだな。180cmはあるんじゃね?
「ええ、ですが、それよりも、干物の汁が垂れないかとそちらのほうが気になります。」
「ふっ、はははは。綺麗な服着てるもんな。一応、2日以上干したものじゃぁないと駄目って事になってる。最初の頃はびちょびちょだったが…」
「…臭そうですね…」
「はっきり言うなぁ。俺らは生活の一部だからいいが、おたくみたいな商人さんにはな。まぁ、来てもらわんことには売れないし。俺はフランツだ。」
「私はミッツ。この娘はルカ。こっちは相棒のトワ。息子の雹、ハセルです。」
「トワだ。よろしく」
「「よろしくお願いします」」
「おう、よろしくな!で、買い付けか?馬車は無いようだが…」
「いえ、遊びを兼ねて。偶の息抜きにきました。海産物も好物ですので。」
「ん?ミッツさんはどこから?」
「アヌヴィアトからです。」
「???アヌヴィアト?そんな町あったか?」
ん?そか、遠いものな。
「ノリナ国の商都ですよ。」
「ひょーーー!えらい遠いな!外国じゃねぇか!」
「ええ。仕事で王都まで来たので足を延ばしてここへ。」
「そいつは大変だなぁ、おう。泊まるところは決まってるのか?」
「いえ、これからですよ。初・魚村ですので。」
「そうか、そうか。これも何かの縁。俺んちにこいよ。部屋だけはあるぞ。使っていない離れもある。魚も売るほどあるしな!はははは。」
「ご迷惑では?」
「大丈夫、大丈夫。さぁ、こっちだ。」
「お世話になろうぜ」
「ああ。お世話になります」
「おう。任せろ!」
ひょんなことで出会った、大男に連れられて街中を歩く。
「よぉーフランツの旦那!お客かい?」
「フランツさん、今日は飲んでいかないの?」
「おう!さっき会ったんだ。今日は家飲みだ!」
「網元!明日は?」」
「予定どおり休みだ!出るのは明後日。いつもの時間だ!ゆっくり休んでおけよ!」
{おう!}
「フランツさんの家って網元だったんですか?」
「おう。と言っても、この街には12人いるがなぁ。」
「ほう。」
「その12人で街の運営とか決めてんだよ。代表者が村長だな。」
「網元さんで話合って決めるのって漁獲量とかですか?」
「いんや、飲んで終わりだな。魚は取れるときに獲れるし、獲れないときは獲れないしな。はははは」
そんなことはないんだろうけどね。愉快な兄ちゃんだ。
「さて、着いたぞ!おーーーーい!帰ったぞぉ!客人が居るから、今日は御馳走だ。海女のおば…姉さん方も呼んでくれ。」
どこも一緒だな…ははははは。
「はいな。いらっしゃいませ。こんなむさ苦しいところへようこそ。」
ナイスバディの30前くらいの美人さんだ。
「おう、ミッツさん、俺の女房のリッツだ。」
ハゲて爆ぜてしまえ!
「おっさん…トワと言います。コイツが雹、で、ハセルです。」
「「よろしくお願いします」」
「…ミッツと申します。この子はルカです。」
うん?…ジッと怖い顔で雹たちを視る若女将。
「…フランツさん、奥様は獣人に対して思うところが?」
「リッツ?お前…」
「…カッコいい…可愛いいぃ」ぼそり。
「へ?」
「ユキヒョウ族の方初めて見ました!ふわふわですね!獅子族の子も可愛い…」
ふぅ。こちら(モフモフLOVE)側の人間だったか。
「…忌避感ないみたいで安心しました…」
「…ああ…」
複雑な表情のフランツ氏
客間と思いきや、案内されたのは離れだった。家族でのんびりっできるだろうと。
…金持ちだな。さすが網元。荷物らしいものも特にないので応接間に行く。改めて挨拶して紅茶を淹れ、フランツ夫婦に振舞う。
「はぁぁ。美味しいですねぇ。ここらではこんな美味しい紅茶無いですよ…」
ほっこり、奥さん。トワ君の淹れる茶は別物だもんなぁ。
「良かったらお替りもどうぞ。」
「で、旦那の予定は?」
「明日は干物とか海産物の物色。フランツさん、泳げたり貝取ったり程度で良いんで紹介願えます?息子たちを海に入れてやりたいので。」
「ああ、おやすい ”ぐぐぐぐぐぅぅぅーーーきゅるぐぐ” うん? 「父…ちゃん…腹減った…」 お?おお!悪い悪い早速飯にしよう!しっかし、すげぇ、腹の音だな。」
「す、すいません、飯抜きで急いできたもので。」
「なぁーに、気にすんな、こっちも気づかずに悪かったな。中庭で浜焼き食わせてやるよ。もう、火も熾きてるだろうさ。行こうか」
中庭に出ると、10人くらいのお姉さん方、それをまとめる大お姉さん。
それとテーブルにはおいらと同い年くらいの人と、60代くらいのお爺さん2人が先に一杯やってるようだ。
「お袋、親父達、客人のミッツさんだ」
「ミッツです、よろしく…」
大姉さんはフランツさんのお母さん、おいらと同じくらいの方は、フランツ氏のお父さん。爺さんは村長だそうな。たまたま遊びに来てたらしい。各々挨拶を済ませる。
「良ぉおいでくださった。ここにゃぁ、魚しかないが楽しんでいってくれ」
「ほっほっほ!良くいらしたの。ワシもご相伴に預かるよ。」
「まったく、飲んべえが…もう少しで焼きに入れるさ。そっちの摘まんで待ってておくれ。」
「ありがとうございます。腸詰、ハムを出したいのですが…」
「本当かい!!!珍しいから歓迎だよ!どこに?」
「商会の鞄に…」
”どさどさ”
「酒も出すぞ!エールと、ビアでいいか?」”どんどん”
「す、すごいわね…流石のヴァートリー商会の”紅”さんだ。魂消たわ」
「すげぇ…?ヴァートリー商会だったんか?ミッツさんたち。」
「はぁこのアホ息子が!」
”ばし!”
「い、いてぇ!なんだよ!」
御母堂に頭を叩かれる、フランツさん。
「この街の男は本当に脳筋だねぇ。」
「世間知らずというか…フランツには期待してたけどやっぱり脳筋ねぇ」
「何だよ…ヴァートリー商会ぐらい知ってるぞ。この村にもあるしな。」
「…まぁいいわ。この旅装は商会の中でも有名な”紅”隊のものなのよ。特別なの。」
「ヴァートリーっても小さい店だろ?」
「本当にアホね。フランツ。いい機会だからちゃんと覚えるんだよ。大陸1、2の大店だよ。くしゃみ一発でこんな漁村吹っ飛んじゃうわよ。」
「この村のは小さいけど何でもあるでしょ。そういうことよ。」
「アホねぇ」
「…親父達しってたか?」
「「も、もちろんじゃ…」とも?」
この街は女性たちで持っているんだな。
「まったく、一応、網元達に知らせておくわ。ミッツさん、バカばかりだけど悪い奴はいないから、この村のマヌケが手を出したら私達に一報入れてくださいな。」
アホバカマヌケって…散々だな。
「は、はい。その時はお世話になります。」
どれ、竈の様子を視させてもらおう。家にもこういった固定式のバーベキュー台欲しいもんな。石組みの竈の上に鉄の格子が乗せられ、その下でバンバン薪が焚かれている。熾火にするのだろう。
「そうか、良くわからんけど特別か…火ももうちょいで小さくなるな。」
「良く解んないじゃなくて…」
「バカ息子!ミッツさんごめんなさいね。先に謝っておくわ…その”紅の装束”に手を出しちゃダメ!商談以外は。触らぬ神に何とやらよ。解かった?」
「そんなに変な奴じゃないぞ?あ、大丈夫なら生魚でも食え。鮮度も虫も問題ないぞ!」
「ははは、商会の逸話が大きいんですよね…そんな怖いところじゃないですよ?お刺身か!頂こう!」
「おっさん、その前にアイスコートだっけ?頼む」
「はいよ。アイスコート、こっちもかい?アイスコート」”びききびきき”
「サンキュー冷てぇ!さぁ、飲もう!」
お姉さん方も交えて宴会になった。ご主人や、お子も混ざってかなりの規模になったよ。刺身は塩とスダチに似た果汁で頂くようだ。醤油を出したいところだが…今日の処は招待されてるし、現地の食べ方で行こう。郷に入っては郷に従えと言うしな。
ハタ系の魚には醤油より良く感じたよ。焼アミの上にはアワビがごろごろ。叔父の友人が漁師で遊びに行くたびに持ってきてくれたが…この量は…ね。踊り焼に回す分なんて…大抵刺身で無くなるからなぁ。何年ぶりだ?小さいアワビとトコブシが無造作に置かれていた。
「これは?」
「こいつは、このへらで…っと」
殻から外して、水ですすぎ…”ぱくり”
「”ごきゅ、ごきゅ”…てな具合だ」
「な、なるほど、では私も…」
昔はスプーンでやったものだ。殻から外して”パクり””ぐいぐい”心地よい歯触りと濃い海の味…
「旨いなぁ。」
「だろ?そうそう、このビアって美味いな!魚にも合う」
「ミッツさん、私らも頂いているよ。腸詰なんて珍しいものありがとうね。」
「いえいえ。まだありますので。楽しんでください。」
どんちゃん。どんちゃん。お子ちゃま達が退けても暫く宴は続いた…。
本日もお付き合いいただきありがとうございました。またのご来店をお待ちしております。




