赤い輸送隊がやってきた。
いらっしゃいませ!
ふぅう。
もう、何が何だか…今日一日で今までの人生の驚きを足しても足りないわよ…
姉さんが”勇者便”なる提案をしたときは何と罰当たりな!と思ったものよ…会議も大荒れだったわ。
当の本人は会議に出ないだけじゃなく、
『決定!乗り遅れたくなければ便乗なさいな。帰り荷は海洋国家でスパイスね。以上 …追伸。これで心躍らず、利が見えないものは引退なさい。いまなら退職手当上乗せしてあげるわよ』
…この書状だけ。
全く…お父様だけですわ爆笑していたのは…重鎮の方々も渋い顔をされたっけ。そういう点で姉さんが次期当主の器と言われる所以なのでしょうか?
今日のワイン…これから運び込まれるスパイス…会議の出席者の予想をはるかに上回る利益がもたらされるでしょう。姉さんの勝ちってことね。
で、当の勇者様は「天職でしょ?」ですって。そりゃ、無限の収納、時間停止。運送事業は根底からひっくり返るわよ。しかも、物凄く速い…どんな手を使っているのかさっぱりだけれども。アヌヴィアトから何日よ?全く。余裕をもって荷下ろしの予定立てたのに。もう…。
しかも、変態欲深侯爵様も暗殺ギルドのエースともども斬り捨てたですって?うちの支店長が狙われてるって話があったから詰めていたけど…元からいなくなれば安心ね。全く、色と金、酒に美食…本当に欲の塊だったわね。これでこの国も少しはよくなるでしょ。
それにしてもドワーフの職人たち。普段依頼してもまったく話にならない堅物のくせに…私なんか結局怒鳴り散らされて撤退なのよね。あまり追い詰めると国から出てしまうし、まぁ、もっとも、縛られるのがイヤで鍛冶国から出てきた職人たちだから。
他の支店にも影響あるから大きく出られないんだよね。特に姉様は昔から忍耐強く対応されていたっけ。私がポカしたらけちょんけちょんにされて追放だわ。
それにしてもハセル君だっけ?あの可愛い獅子族の子。雹君もかっこよかったわね。あのモフモフの尻尾と来たら…いけない、いけない。それにしても、あの子が老師の剣を持つにふさわしい漢になる訳?もっとも獅子族の戦闘力は洒落にならないくらいだと言うし…。
はぁ、上物のワインの売り先。蒸留酒は船会社ね…今度はどこに出航するのかしら…スパイスも掃けたから次の予定も…いけない、ジョルジュが待ってるんだった…さて、夕食だ。沢山作らせたけど足りるかしら?はいはい解ってますよ。ビア一樽開けなさいな。まったくもう。
「さぁ、この国の特産の海の魚です。焼き物、揚げ物と蒸し物を用意しましたご賞味くださいませ。」
{いただきます!}
フォークとナイフが用意されている。当然だな。だが我らは、箸を使う。
「美味しいね!海の魚!それに箸、食べやすいね。父さんが良く言ってたもんね魚には箸だって。」
家の家族は皆、箸を使う。マイ箸持参だ。
「だろう。海の魚は臭みが無くて旨い。さらに新鮮なら生でも食えるぞ!」
「”ばりばき”父ちゃん、海のカニって美味しいね!」
「…ハセル…殻外して食うんだぞ…カニって。」
「そう?美味いからいいや。」
「いいのかよ…ハセ…すげえ、顎と胃袋だな。」
ここは教えんと…沢蟹と違うからな…
「おいで、ハセル。ここをこうして”ばきり”…ほら、この白いところを食べるんだぞ。」
「”ぱく”うん。美味いよ父ちゃん。」
「エビは楽ちんだぞ。尻尾をもいで”ばキリ”殻をむいて”ぱきぱき!”このブリんとしたのを…ほれ」
「”ぱく”美味しいね!エビっていうんだ!」
「ほら、やってみ。」
お飾り枠で置いてある一番でかい伊勢エビモドキに手を伸ばす…こら
「じゃ、このデカいのを”ばき!””ぱりぱり”父ちゃん剥けた!食べる?」
あら、気配りできるのね父ちゃん感激!
「折角だから一口頂戴。」
「うん!」
「”ぱく”うん、美味いな。ハセルが剥いてくれたからな。ほら、食べなさい」
ほろりと来る。
「うん。食う!」
美味そうに頬張るハセルを見ながら酒杯に手を伸ばす。
「父ちゃんこっちは食えないの?」
エビの上半身をぶらぶら。
「どれ、貸してみろ…この大きいのを”びきり”外してここを食うんだ。大人の味だぞ?」
「どれ。…苦美味いけど…要らない…」
「大きく成ったらな。足にも身が入ってるんだぞ。”ぽきり”ほら。」
「ほんとだ!”ぽき””ぽき”」
…そこでこちらを窺う、カタリーンさんと目が合う…
「いやはや、騒がしくて申し訳ない。マナーも教えんといかんな」
「いえいえ…良いお父さんですね。昔の家族の食卓を懐かしく思います。今は皆バラバラですので。それに皆さんの木の棒、それが”箸”の本当の使い方なのですね。器用に使われますね。フォークなどと違って魚を食べるに適した食器ですのね。」
お恥ずかしい。
「箸は故郷の物で一番使い慣れていますので。子供たちにも使わせています。野営時に棒2本で済みますし。手先が器用にもなります。」
「なるほど。ワタル様のいたエルフの里に伝わる箸、使い方が良く解らなかったんですよ。」
「教えましょうか?」
「是非!!!”チリん”箸持ってきて。」
「っと、腸詰は何処に出しましょうジョルジュさん。」
「ここへ。」
「では、お願いします。沸騰前…沸騰させないようじっくり茹でるのがコツですよ。」
「心得ておりますとも!ビアを。」
樽ごと運ばれてきた。
「冷やしても?」
「?冷やすのでございますか?」
「ええ。アイスコート…」
樽の外側だけを凍らせる。”びきびき”
「さぁ、試してみてください。」
「…すごいですな…では、”ごっつごっつごっつっ…ぷふぁぁああ」
「どうです?」
「やめられませんな!風呂上がりに行きたいところですな!」
「それが最高ですよ。ちょっとのぼせた頭で、一気に冷えたビアを流し込む。エールじゃ味わえない至極ですな。」
「ええ、ええ。今から 「ジョルジュ。あなたは…」 …これは失礼しました。早速茹でて参りましょうぞ!」
そのあと、お嬢様に箸の使い方をレクチャーした。仕上げに一番箸の使い方が綺麗なトワ君が手本をみせて、ざっくりだが使えるようになったようだ。余程気に入ったのか、毎日使うと言っていたよ。
ソーセージも茹で上がり、皆で齧り付く!極上の一本だ。皮の中が肉汁であふれている。口の油分をビアで流す。
「おっさん、最高に旨いな!このソーセージ」
「物が同じでも茹で方が最高だ。芯まで熱がしっかり通り、皮の中が肉汁であふれている。」
「なるほど…ジョルジュさんのこだわりかな?」
「いえいえ、当家のコックに腸詰も自作するほどの好事家がおりましてな。調理もこだわっているのですよ。そろそろ焼いたものも来ると思います。そのものが言うにはこれほどの腸詰は売り物ではまず無いと言って居りましたな。」
「なるほどコック殿の差配で…ビアの友の覚醒、まさに至宝というわけですね。コック殿に乾杯!」
「ありがとうございます。最高の賛辞、彼も喜ぶでしょう!」
「いや、マジで美味いな…茹で方一つでこうも違うとは。」
「ソーセージに合わせて塩水を加減しているんだね。そうすることでダメージを軽減してるんだよ。」
「ふ~ん。深いねぇ」
「はははは。なんでもね。ワイン然り、ビアだってね。」
…こんな感じで、大いに楽しめた夕食だった。甲殻類臭くなったので寝る前にお風呂を頂いた。おいらは飲み過ぎたので魔法だ。雹も入らないで一緒に魔法で綺麗になってたよ。そんなにイヤか?風呂。
部屋に戻り、寝ることにした。良く眠れそうだ。…
「いい御身分ね…うらめしや?裏に飯屋?」
お化け特有?のポーズで現れる悪魔っ子。悪魔?お化け?紛らわしいわ…
「…ルカちゃん。飯屋じゃないよ…悪いとは思ってるよ…明日はここをでるから。」
「冗談よ。解ってるわ。私達の為でもあるんでしょ。寝る前にビア頂こうと思って。」
「前の飲んじゃったの?」
「あるわよ?違う銘柄のあればと思って。」
「悪い。同じのしかないな。明日聞いてみよう。」
「それは残念。じゃ、消えるわ。お休みなさい」
「お休み」
手をひらひらせて消えてく悪魔っ子。何ともいえん寂しいものがあるな…取りつかれているのだろうなぁ。
本日もお付き合いいただきありがとうございました。またのご来店をお待ちしております。




