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第二騎士団長 Ⅰ

いらっしゃいませぇ~

 なんてことだ…。大国ディフェンの大魔導士、オウン魔術師長が殺害された…右腕と首が綺麗に飛ばされていた。不謹慎だが、見事な切り口だ…只者じゃぁない。

 頭は無残に、蹴り飛ばされひしゃげてしまっている…

 恨み持つ者の仕業だろうか…その線からの特定は難しいだろう。この方はあまりにも多くの恨みを買っておられる。国の為というが…本心はな…。

 

 俺はザック…これでも第二騎士団の団長を拝命している。本隊は物資の補給に寄町した隣街に待機させている。ふう、どうしたもんか…そこにニアが浮かぬ表情で降りてきた…可愛い顔が台無しだ。子爵のご令嬢と聞くが、嫌味が無く、綺麗というより可愛いお嬢さんだ。

 

 「団長!上の部屋で枢機卿がお亡くなりに…外傷はないようです…」

 ここでの儀式については聞いている…性懲りもなくまた召喚ごっこだ。今度は悪魔だと。まぁ、勇者召喚は失われてしまったからな。あの時もリッチが現れ警告して行ったというのに…全く意に介さない。

 今回の悪魔召喚については何故か教会のお偉いさんが出張って来た…召喚道具一式持参でな

 …零れ聞いたところ、獣人の子供を生贄に捧げるとか…噂も”子供狩り”という悪行とともに広がり、獣王国からも”抗議文”というより、”脅迫文”が来ているそうだ。これ以上の愚行を重ねるのであれば一戦致すと。

 

 それにしても、はた迷惑な。我が国内で”枢機卿”…聖王国の重鎮が亡くなるとは…国際問題になるのだろうな。ここの警備も壊滅。生存者の話も要領を得ない…

 たった二人?あり得んだろう?勇者じゃあるまいし。片方は獣人だそうだし。

 

 …そもそもが、我が国の失策…何代もの勇者召喚の犠牲…生贄たちを一切弔ってこなかった事による、怨念の爆発!リッチの発生。

 まぁ、王の都合で無下にされてきた命…納得などできようはずも無い。

 その際、我が国の切り札の召喚陣と”最後の勇者”の消失…それによる国威の低下、貴族の離反を招き…と言っても王のわがままだが…教会の甘言に乗り、今度は”悪魔召喚”。

 獣人差別に拍車をかけ…”子供狩り”がトドメになった。多くの獣人の殺害、出奔を招く。

 …国の根幹を支えてるのに…開拓村は獣人なしでは回らないぞ…

 挙句の果てに今度は同じ人族の子供を”悪魔”に捧げるなどと言い出した。この国はどうなるのだろう?いや、すでに終わっているのかもしれん…。

  

 「隊長…たくさんの子供の足跡を見つけやした…まっすぐ森へ向かってまさぁ」

  「もしか。いくのぉ?よごれるわぁ。」

 コイツはルオ。斥候職の元冒険者だ。でこの娼婦のような女…ラキア。占星術師?占いとかいうが…役に立つのか?文句ばかりで面倒な女だ…

 「それでは追跡隊を編成する。犯人を捕縛できれば褒賞もでよう。行くぞ!」

 

 勇者か…本当に亡くなったのか?誘拐然に連れてこられ、王にも屈せず…そうそう。巻き込まれたミツル殿を必死に守ってたな…そうでなければミツル殿は即、殺されていただろう…ミツル殿の優しい笑顔、少々おどどした小父さんだったなぁ。

 

 「どうしたんです?団長?」

 「いや、ちょっと”勇者”様の事を思い出してな…」

  「勇者様ですかぁ?リッチと相打ちとか?あまり強くなかったんですね…」

 「アホかお前は…戦いの無い世界から来た…攫われた少年が、1月程度の修練でリッチを討ったのだぞ!この国を救った英雄に向かって…おまえは一人でリッチの前に立てるのか!」

  「すいません…」

  「団長…準備はできたぜ。本当に野営の準備もいるのか?」

 こいつはガイ。ルオ、ラキアと冒険者パ―ティを組んでいたそうだ。冒険者らしいガサツなやつだ。内乱や、出奔で多くの団員もいなくなった…でなければこんな奴らなぞ…いや、言うまい。

  「子供の足跡って…」

 「ああ、オウン殿が集めていた”生贄”だろう。誰かが救出に来た…というところか。」

  「獣王国当たりでしょうか?」

 「さあな。あそこは弱い者には厳しい国だ…放っておくと思うが…」

  「団長…気配はないな。流石獣人という訳か」

 「出奔なら外縁の移動だろう。追うぞ!」…


 「ふぅ…獣人とはいえ、子供の足だろう?こんなにも速いものなのか?」

  「馬でも追い付かねぇとは、なんか秘密でもあるんか?」

  「追い越してんじゃねぇのか?」

  「俺の目を信じねぇの?」


  …その日は野営を行う。多めに結界石を持ってきて良かった。”魔の森”で野営なんてな…。結界石頼りにはできず、もちろん夜番も立てる。もっとも、ここで熟睡できる猛者はいなかろう。

 早朝、食事もそこそこに出発。細い道を一列に進む。

 要所要所で確認し進む…ルオの追尾能力も中々のものだ。昼の休憩を終え、暫く進む。そろそろ引き返そうかとニアと話していると、

  「団長、この先に集団がいる…追いついたな!…流石に獣人か…気づかれてるな…」

 「そうか…刺激しないよう徒歩でいく。ここにつないでいこう。」

  「めんどうくせーな。」

 「貴様!団長に!」

  「へいへい。」

 「子供たちの集団だろう。刺激するなよ。まだ犯人と決まった訳じゃないからな。」

 …気配が希薄だが、確かに”いる”な。警戒してるのが判る…

 「あら?おじさんたち、だれ?何しにここへ来たの?」

 そこには小さい…羊角人族?の女の子がいた。

  「ほう。」

 後方から下種な相槌が聞こえたが…その少女は確かに美しい。妙な色気も感じる…しかし目を引くのは角?子供のうちは有るか無いかわからないのに…しっかりした美術品のような角がある…

 「聞こえなかったかしら?」

 コテンと首をかしげる少女。

 「コホン。大人の人…いるかな?」

 「今は居ないの。お出かけしてるの。留守の間は私が守ってるの。」

 「ここで待たせてもらってもいいかな?そっちには入らないから…」

 「知らないおじさんと一緒にいると…」

 「この結界の先にはいかないし、おじさん、騎士団なんだ。」

 「…約束できる?」

 「ああ。」

 「剣ぬかない?大声出さない?子供いっぱいいるの…虐めない?」

 「ああ。もちろんだよ」

 「そっちの人も」

  「ええ。大丈夫よ。約束するわ。」

  「へへ。約束するよ。」

  「わかったわぁ。休ませて…」

  「…約束するぜぇ」

 「わかったわ。”約束”ね。守ってよ…」

 ニコリと妖艶に笑う少女…ゾクリ…背筋が?

 「!は、は、はははは。大丈夫だよ。ここで待ってるね。」


  

 …この時の自分の直感を信じてれば…引き返しておけばよかった…


 

 キャンプ地から離れ、皆で座る…

 「おい…あの羊角の少女何か感じなかったか?」

  「げへへ。団長の趣味か?」

 「…そういうのじゃない…」

  「…そうだ…団長の言う通り…何か…違う…」

  「そぉう?かわいい子だったわね。」

 ルオも何か感じたのか…恐怖?なのか…根源的な…まさかな。あんな子供だぞ。

 

 暫くすると、

 『ルカ!』

 大きな声が聞こえた。大人が帰ってきた?

 「話を聞きに行くか。まだ犯人と決まったわけではない。くれぐれも礼節を重んじて行動せよ!いくぞ。」

  {はッ!}

 「どうしたのおじ様?そんなに急いで。」

 「襲撃があったのじゃ?馬が繋いであったが…」

 ん?この声は…どこかで…

 「ああ、あれね。何やらセロぺギアから追ってきたそうな?」

 「ダメじゃん…人質取られたりしたらどうすんのさ。」


 遠目に見えるのは…いくぶん痩せてスッキリしているが…間違いない!

 「み、ミツル殿!やはり…ミツル殿か…お久しぶりですね…やはり生きておられたか!私の事覚えていますか?」

 勇者召喚に巻き込まれた人物。死んだと思われていた人物だ。

 「あれまザック騎士団長殿。こんなところで。奇遇ですね。それで、ご用件は?」

 覚えていてくれたか…聞きたいことは沢山あるが…雰囲気も変わったな。

 「…魔術師長が殺され、他国の…司祭と、枢機卿まで…なんとか足跡を読んでここまで参りました…」

 「それはご苦労様。しかし、私達に心当たり無いのですが…で、どうします?”拘束する!”なんて言わないよね?もちろん反撃しますよ。」

 …できるかよ…後ろの獣人の少年、かなりできるな…虎獣人の男も…たぶん奥にはもっといる。こっちは5人…やつざきに”びくぅ”くぅ…なんだ?死んだのか…俺?

 

 「久し振りだな…ザック団長殿。返答次第では斬るぞ。」

 殺気?絶対死の正体は…我が国が召喚した”勇者”。

 「と、トワ君か!見違えたよ…まさに”勇者”の覇気だな…多くを斬って来たのだな…」

 敵対する者、邪なものに向けられるという…”勇者の波動”…

 「ああ、貴殿の国のおかげでな。返答はいかに。」

 ああ…二人で…この世界で抗い、生きてきたのだろう…彼らの世界に比べ死が近すぎる環境で…

 「恥ずかしい話…ここに来たのも惰性のようなものさ…」

 「じゃぁ、遭わなかった事にして消えてくれませんか?お互いのために。」

 そう言う訳にもいかないのは解っているであろう…

  

 「そうはいかねえよ!団長!こいつ等捕まえたら昇給まちがいないですぜ!!」

 「おい!」

  「違いない!こんなとこまで来たのはあたりだったわねぇ!」

  「へっへっへ…チャンス到来だぁ団長…ゃらねぇならどいてぇろや!」

 こいつ等…正体がわからんのか?この殺気!覇気が!

 「やめなさい!アンタたち!約束だったでしょ!ここで武器は抜かないって!」

  「うっせ!どけ!」

 この馬鹿者が!命令不履行で処刑だぞ!

 「おいおい。ザック団長殿?敵対行動ととっても?」

 「やめないか…話し中だ。証拠もない。」

  「関係ねぇな。首だけあれば」

 まったくこれだから…あちらに被害が出てはまずいな…体を元冒険者たちに向ける。

 「はぁ、ルカちゃん減点な…ダメじゃん見る目なさすぎ…」

 あんな子に留守を任せておいて…

 「はぁ?冗談でしょ?おじ様、こんな屑…”契約”は”有効”よ?ほら?」

 ”ドサリ、ドサドサリ”…どうしたんだ?何ふざけて…

 「何か問題でも?その2人も”契約”は”有効”よ?まだ破棄してないけど?」

 契約?俺たち?何が…

 いつの間にか不細工な人形を3体鷲掴みにしている。どこから出したんだ?

 「どうしたの?ガイ、ルオ、ラキア?どうして…な、何をしたの!」

 ニア?なに?ルカと呼ばれていた少女が妖艶な笑いを浮かべ…

 「あなた達、ここに来た時私と”約束”したじゃない。子供に手を出さない。騒がない。剣を抜かないって。”約束”するから大人が来るまで待たせてくれって?」

 ああ。確かに。

  「したよ…だって、子供ばかりだし…当たり前だし…」

 ニア落ち着け。そっと腕に手を置くが…

 「で、そいつらは、暴れて、武器を抜いた。”約束”破ったじゃん。だから…”魂”もらったわよ。”契約”通りに。ほら」

 魂?何のこと…まるで…悪魔?少女が握っていた3体の人形のうち女の人形…良く見れば3体とも騎士の軽装?をこちらに差し出す。

 「ラキア?の人形?なんで…」

  『ニア…ニアぁ…助けて…苦しい…ぐるじぃ』

 し、しゃべった?確かにラキアの声!背中に一気に氷を突っ込まれた感じだ!寒い!恐怖で変な汗が噴き出す!

  「うそ。ひぃいいいいい!ラキ!ラキ!…」

 恐怖に慄くニアの体を抱きしめる

 「ミツル殿…これは…こいつらは…どうなって…」

 すると静かに

 「ザック団長殿。剣は抜かないようにね。騒がないように。そいつ等みたいになるよ。話はこっちで。トワ君。獣人さんたちに入ってもらって。子供たちと一緒に。食事もだして。今日はここで野営だ。」

 指示を出すミツル殿に

 「了解!雹、おっさんを頼む。」

 「私もいこ!」

 と立ち去るトワ君とルカ嬢…人形を抱きしめて…

 「ルカちゃんは呼んだら来てよ?」

 「は~い」

 「さ、ザックさん、こちらへ。」

 行きたくはないが…オウン殿や部下の事もある…気合を入れよう…


本日もお付き合いいただきありがとうございました。

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