エルザさん…欲こきすぎ。
いらっしゃいませ~
門を出てひたすら走る。悪いな!走ってばかりで!
「父ちゃん帰ったら焼肉?」
「ハセル…すっかりお気に入りだなぁ…」
普段から肉焼いて食っているが、どうも下味付けてタレで食う”焼肉”は別のようだ。まぁ”料理”だもんな。
「家焼肉?」
「とに…良く飽きないな…お前ら、普段から食ってるだろうに。肉。」
「トワ兄!違うよ!今までは焼いてお塩だったけど、肉に味付けて、美味しいタレ付けて食べるなんて…じゅる」
雹も語るなぁ。ははは
「焼肉と焼肉は違うぞ!トワ兄!…あれ?」
「ぷぷぷ。納得だ…が。」
「ハセ…一緒じゃん」
「じゃぁ、お塩のは肉焼きだ!」
「…そか。肉の在庫足りてんのかな…」
「…ちと、狩ってくか…」
「ああ…心配だね…」
「おっさんとこに牛、俺のとに兎5…猪あった!1な。」
「4~5匹狩るか…」
「良さげなところで休憩、狩りにするよ。」
「トワ君に任せるよ。」…
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉー!」
現在の状況?説明いる?そうさ…絶賛どでかい猪に追い回されているのさ…なぜだかおいら、毎回囮なのだが…そろそろ労わってほしいお年頃である…
「せい!」
掛け声とともにジャンプ!何年ぶりかの幅跳びだ…”どっごおおおぉ”
「びきぃいいいいぃぃー」
ふっ決まったぜ…牛の”正々堂々”な戦い方を誉めておいて舌の根が乾かぬうちにこの『猪ぶぅぶぅ。落とし穴にはまって、さぁ大変戦法』…罵るがいいさ!…怖いんだもの。
「おっさん、ナイス・ラン!」
大猪にとどめを刺したトワ君が声をかけてくる。もっと労われ!
「これで、3匹?こいつデカいから、もういいか…」
「これ、下の獣人に丸ごと上げようぜ。」
「かまわないけど。どうしたの?」
「…余裕になるかと思ってさ。生きるためのね。」
「いいんじゃない。さすがトワ君だ。」
「てことで、もう一匹!3時の方向だ!」
「…まじ?」
「ああ!でかいぞ!ジ○リの監督も真っ青だ!ごー!おっさん!」
「…おいらじゃなくいてもいいじゃね?」
「ゴー!」
「…。」
とまぁ、こんな感じで、あと2匹、収納に入った。ふぅ。
「お!アヌヴィアトの外壁が見えてきたぞ!エルザさんとこ寄っていこう。」…
夕暮れ時…城壁が朱に染まる…今日もいい天気だったなぁ。あれ?まだ雨に降られてない?
「なぁ、トワ君、雨降ったっけ?」
「一回だけみたなぁ。そういや少ないな…」
「父さん、あの家の敷地、降らないよ?」
「はい?」
「家を出ると地面が濡れてる時、結構あったよ?」
「むむむ…そう言われればそうかも。」
などと家族団欒を楽しみながら、順番待ちをしていると、
「貴様ら!獣人の分際で!」
「はぁ~ったく…」
と振り向く…あれ?うちじゃぁ無いのね?10人くらい後ろで、いざこざが起きていた。絡まれてるのは獣人の商人か?
「ちと、行ってくるわ。」
「俺も行こう。」
「「俺も!」」結局全員かい!
「ちょっと、失礼、何を騒いでるのかな?」
「関係な…い…のヴァ―トリー…」
「それは関係なしで。お互い商人、この往来で大声張り上げて、人種非難、何事かと思ってね。」
「私は、このキャラバンの隊長、羊角人族のクロヤと申します。こちらの方より、この街に獣人は入れないと言われ、問答となり、お騒がせたようです。申し訳ない。」
「いえ、そちらの方の言い分は?」
「い、言い分も何も、あ、当たり前のことを言っただけだ!」
「商業ギルドに加盟してます?」
「当たり前だろう!」
「じゃぁ、あんたはバカか?この街に獣人の商会もみとめられ、営業している。ギルドに加盟してな!」
「そんなの関係ない!」
「名前…商会名は?ギルドに問い合わせる。」
「…」
なんだよ…匿名のいじめか?何処の世にもいるのぉ。卑怯者が。
「そう…仕方ない、”鑑定”ヒルク…ヒルロッカ商会…ね。」
「貴様!勝手に、なにを!」
「うちのチームにも獣人族いるんだが…文句あんだろ?いってみろよ。ほら。」「…」
「以後、気を付けなよ…ギルドでも言われてんだろ。差別禁止って。」
「…悪かったな…」
「俺じゃァない。あっちだ」
「…っ、悪かった…」
…。
「助かりました。しかもヴァ―トリーの”赤”に、こんなに若い同胞がいるなんて…精鋭部隊でしょう?」
「いえいえ。これ、借り物なんですよ…はははは。」
「そ、そうなんですか?」
「それで、クロヤさんはどのあたりを回っているので?」
「ここを中心とした、村や開拓村ですね。」
「人族の村…ですか?」
「両方ですよ。開拓村だと獣人の方が多いくらいですよ?なにせ、効率が違いますからね。」
「そうでしょうね。なるほど…結構多いのですか?開拓村は?」
「ええ。領主様主導のものと、個人出資のものがありますね。」
「個人?」
「ええ、上手く開墾できれば、人が呼べる。大きくなればお金も動く。ある程度の大きさになるまで、領主におさめる税も無し。ゴルディアがその成功例ですね。ナーナが領主主体。中間に交易都市を造った先々代のゴルディナ卿の手腕の素晴らしさってところでしょうか。」
「なるほど。場所的にも強く出れるな…ナーナが完全に孤立するし…」
「ええ。王一族も召し上げようと画策してるようですが…今のところ失敗してるのでしょう。」
「そりゃ、熟した果実だけ…って訳にはいくまいなぁ。」
「いかにも。」
「そういえば、ディフェンの方で如何わしい噂がながれているとか?」
「悪魔…でしょうか?」
「耳がお早い…国境付近の村々で実害とかは?」
「まだ聞きませんね。」
「まだ…ね。」
「次!」
「そろそろですね。私はミッツと申します。何かあれば声かけてください。ギルドで解るようにしときますので」
「その時はお世話になりますね。ミッツ殿」…
「ただいま戻りました、お嬢様。」
「ご苦労でした…って、何のご冗談?ミッツ様…ん…このまま就職ってことですね!歓迎いたしますわ!」
とっても良い笑顔です。お嬢様。
「…冗談です…みなさん、こういった感じだったので…ついノリで。」
「おっさん、勝てないから…」
「うん。…冗談はさておき」
「冗談ではないんですけど?」
「…エルザさん。話が進まないので。先ずは、書状2点、小荷物2点。確認願います。」
「はい…確かに。」
「次に、黄色ワイン300樽…大分、欲こきましたねぇ~」
「商売と言ってくださいな。」
「どこへ降ろします?」
「支店の酒類倉庫です。そこに特級30樽もお願いします。今からでも?」
「ええ。今日中に処理できれば明日の出発準備が楽ですから。」
「ミツゥーヤ、今から支店に行きます。準備を。」
「はい」
「待ってる間にお茶を淹れましょうか。」
「まぁ!嬉しい。」
「紅茶に、このスライスした果実を一枚。砂糖はお好みで。どうぞ。」
「はぁ~美味しいわねね。疲れが取れるわ。この果実は…酸っぱいだけで食用には向かないって話だったけど…」
よくご存知で。
「酸っぱいですが、ハチミツや砂糖に漬けて食すと、疲労回復に良いんですよ。」
「試してみるわ。」
やっぱり、お茶には美しい女性がいいね。優美というか…おっと、準備が調ったようだ。
…酒類倉庫にて
「…ホント速いわね…しかもこの量…普通ならひと月以上は掛るわ…」
倉庫の半分以上を埋め尽くした黄色ワイン。
「特級はどこへ?」
「こちらに…ああ、間違いないわ…損傷なく綺麗なままで…」
うんうん、頷いてるエルザさんを横目に…
「こんなに仕入れて大丈夫ですか?」
「何本”当たり”が出るかはわかりませんが、この程度いかようにも捌けますわ。黄色は一番の売れ筋ですから。町や村なんかで飛ぶように売れますよ」
「なるほど。」
「それにしても…本当に”収納”は、反則ですな。それに、短期間で走り抜ける技術…物流が根底からひっくり返ります。まぁ、当代限りとはいえ…というか、歴代の勇者の方々は輸送業なんてしませんでしたけどね。」
「あははは。戦場でくだらないことに使うのなら、自分たちの為に…ってわけですよ。もっと崇高な国にでも呼ばれていたら進んで”正義の味方”やってたかもしれませんが。」
「ふふふ。言えてますなぁ。あの国では。」
「そうそう、あの国の情報、何か入ってます?特に国境付近の開拓村とか?」
「表立っては…ただ怪しい者たちが多々目撃されているとか。生贄候補…でしょうか?」
「流石。たぶん。貴商会で大きな魔石、クリスタルの受注とかない?輸送依頼とか?」
「特には聞いていないですね。聖王国に何やら依頼したと…」
「何か情報入ったら教えてよ。商売抜きで。」
「ええ。この状況。商売云々なんて言ってられないもの。政情不安だけでも問題なのに…悪魔まで…何を考えているのやら…」
「自国の民にどんだけ負担を掛けるのかね、あの国は。」
「国の拠り所がなくなってしまったから必死なのでしょう…散々勇者様や、他国を利用して来た国ですので、自身でどうしたらいいのかわからないのでしょう。」
「愚かなことで。」
本当に、呆れてしまう。当時は人死にに、物凄く忌避感があったが、今なら城ごと吹き飛ばしただろう。まぁ、実際半分は吹っ飛んだけどね。あの豚の頭をかち割ってやりたい気分だ。
「それでは納品確認願います。伝票はこれ。出荷時チェックしてますので間違いないとは思います。」
「ええ。完璧ね…この様式、うちで使ってもいい?もちろん謝礼は出すわ。」
「この外套にも助けられてます。それに、元の世界の物ですので、私の考案じゃないですからどうぞ。」
「ミッツさんが居なければ伝わらなかった知識ですので、気にせず受け取ってくださいな。明日、出発前に店の方に寄っていただけませんか?手紙を追加したいので。」
「かまいませんよ。それでは明日。」
…さて、お次はマシューさんとこに顔出していくか。
本日もお付き合いいただきありがとうございました。またのご来店をお待ちしております。




