孤児院引っ越し大作戦 Ⅵ
いらっしゃいませ~
…教会の壁を飛び越え、壁裏の植え込みに神官を隠す。潜入作戦発動!
襲われた報復という訳じゃないけど、襲撃失敗とみて、人質の子に余計なことをされてもつまらんと当初の予定通り、セツナっちと侵入した。
スパイっ子改め、ナティちゃんとの約束もある。助ける…と。
今は、中庭に居る。さてと…
「大体地下だよね…こういう場合?」
「あ!丁度いいのがいるわ…」
セツナっちの目線の先には人族の女性。やけに肉感的なシスターだな。そそられる…
「おじさま、好み?ああいうの。」
「い、今はそんな 「はいはい。動揺しないの。大方お偉いさんの相手でもしてたんでしょう。お盛んなことで…」 …しょっく!」…
「動くな…死にたいなら構わないが…」
喉に短剣を当てる。コクコク。
うう~ん…いい匂い。
「おい…おっさん…。」
セツナっちに尻を小突かれる…解かってまっさ。
「ここに獣人の子供がいるだろ?案内しろ。言うことを聞かないと殺す。大声をあげても殺す。嘘をついても殺す。目的が果たされれば解放しよう。解ったか?」
コクコク。
「案内を頼む。」…
…?こんなとこに?そこは偉い人物に与えられるような豪華な部屋だ。逆に探索対象になりにくい…が…
『やめて下さ…い』
…小さな声がドア越しに聞こえた。そういうことか…下種が。
「セツナっち行く?」
「ええ。行ってくるわ」
ドアの隙間を抜けるように入っていく…”きぃ”
”どん!””どさ”
…やっちまったか。部屋の中に肥え太った全裸の肉塊が…傍らに小さい猫娘を抱きしめるセツナっち。
「こいつの役職は?」
「こ、この教会の神父様です…」
「ほうほう」
「下種ね。こんなのばかりなの?」
うん?セツナっち?トコトコと肉塊の傍らに膝を突く。タオルを手にし、おもむろに…
「…あ」
「まったく。こんなのがあるからよ。…”ぶっ” 「へぎぃ!」 よかったわね。粗末なのが長くなって。」
こ、これが…竿抜き?もう起たなくなるという…ホントに収納されてんだな…倍以上長くなったぞ。
「い。いだ、なんだ、いだい、 「あら、寝てればいいものの…ふん!」 ”ぶぶちゅ” ひ、ひくぅう」
で去勢かね…ナム。泡をふいいて再び夢の中に。その夢は恐らく悪夢だろうな。
「次行くわよ次!どしたの?」
「玉ヒュンで…」
先ほどから、こんなのばかり…ああ…腰が引ける…
「まったく。そこの。次!」
コクコク…こんどは孤児院?
「ここが孤児院?人がいた気配がない…。」
「ここ本当に孤児院?」
「…はい。」
「人族の孤児がいたと思ったけど…」
「いえ…ここには…神父様達の…」
「神父の部屋にいるってことね。貴女みたいに…」
「…はい…」
「…胸くそだな!」
「まぁ、よくある話よ。聖職者に。」
「そうなの?」
「美少年少女集めて…って良く聞くでしょうに?まぁいいわ。で?」
「…こっちです。」
入ってすぐの階段をおりる…異臭?
「生きてんだろうなァ?」
「…ひぃ」
暗い異臭の漂う地下道を進む…
「ここか…」
ここまでくる間、扉は無かった。”ぎいいぃぃ”むぁっと鼻を突く糞尿の悪臭。
「ライト!」
…部屋の中にはガリガリに痩せた獣人の子供が10人。そのうち2人は動かない…
「何で…」
「どうなってんのよ…本当に、ここは?この世界は…よくもこんなことが出来るわね…さっきの豚、殺して来ればよかったわ。おじさま?」
{ひい}
おびえる獣人の子供たち…あ、ああ…
「何で…」
こんな酷い…
「大丈夫じゃないね…ごめんね、ごめんね。今、助けるから… 「…いや」 「ママ…」 ごめんね…”ずびぃ”」
駄目だ…
「ん…洗浄!洗浄!洗浄!せんじよぉーー!」
「おじさま!もう良いよ…」
「ふう、ふう。すまない…この子は?」
鼓動が…胸が張り裂けそうだ…
「まだ生きてるわ。二人とも…」
「セツナっち!回復魔法は!」
「…ごめん…使えないの…昔は使えたんだけど…」
「ここに使える人は?」
「…いません…」
「はぁ?教会だろうに?」
「此処は…売春宿と…変わりませ…ん。」
んな!
「…なんてこった。抱いていくか…」
「おじちゃん、お姉ちゃん助かるの…」
「ああ、みんな痛いところは無いかい?」
「お、おじさん…この子…」
手が明後日の方を向いて腫れあがっている…
「おじさん…足…」
その子の左足がひざ下が無い…
「ど、どうしたんだい?こ…こんな大けが…」
「ここの大人が…おじさんも仲間?」
仲間…そう、一応は人族だ…異世界…詭弁だわなぁ…
”ぐち”!後ろから肩口に食いつかれる
「がるう…妹をかえせ!」
「あ…ああ。」
目の前の集団からも唸り声が聞こえる…
「ごめんなぁ~」
「おじさま!しっかりして。みんな、私たちはナディ?だっけ?彼女に頼まれて来たの!少しの間で良いから…信じて。お願い。」
「そうよ、私も助けてもらったの。悪い人族倒してくれたの。」
先ほど助けた猫人族子も援護してくれる…が…ひどい…
{…}
後ろから襲い掛かった少年がおいらを解放してくれた…
「おじさん…ごめん…」
と…謝るのはこっちの方だろう…憎かろう…
「ごめんよぉ~。ごめんよ~」
その少年を抱きしめる。
「ごめんよ。」
…はぁ。
おいら、本当に役に立たんなぁ。闘えないし、魔法も初級のみ…神よせめて癒せる力をください!傷ついた身体も、心も…。
お願いです…
そうだ!視力を捧げます。こんなものしか…ですので…。
収納からナイフを出して左目に突き立てる
”ずじくぅ”
何の躊躇もなく。眼球に侵入する切先。
「な!何やってるの!おじさま!しっかりしてよ!」
「はなして、セツナっち。いいんだ。」
スゥっと離れるセツナっち
「あ、あ…あれ?…力が…抜ける?な、なんで???」
おいらの魔力操作で魔力が抜けたのか、いや、神の御力か。へたり込むセツナっち。
「神よ!我が神よ!観ておられるのでしょう!我が願い…聞き届けたまえ…我が視力の代価に力を…」
心が冷えている?全然痛くない…。
次は右目に”すちぃ”ナイフを突き入れる…。
ああ…これが…”見えない”ってことか…脳が記憶とすり合わせてるのか…セツナっちの声と顔が重なり…見える気がする。不思議な感覚だ。
「な、なんて…ことを…ミツルさん!ミツルさん!!」
彼女の叫びを聞きながら…膝を突き全身を投げ出し…すべてを込めて祈る…神の気が満ちてゆく…ああ…感じますぞ!
<…まったく、無茶して…ご都合主義は無いんだよ…ここには。君がこの世界を生きていく様を覗くのが唯一の楽しみなのに…。
目が見えないでどうすんのよ?予定に無いよ…まったく。引きこもり生活なんて見ててつまらんし。
はぁ。もう面倒だし、この星…割っちゃおうかな…>
はいぃ?
「そ、それは、困ります!困りますって!」
力が入ったか、”ぶぴぴぃ”眼窩から血が噴き出るのが解る。痛くないのにわかるんだなぁ?
<それだけの事なんだよ?神の娯楽を奪うって。君にもいずれ判るよ。>
おいらは娯楽か!
<そうだよ?何か問題でも?>
「いえ…神のみぞ知る…ですね?」
<…くす。まぁ、それでいいや。解ったよ。癒しの力あげよう。目玉は…”ごそごそ”これでいいかぁ。>
…体が温かい…脳に直接作法…回復魔法のプロセス?が直に書き込まれていく…
「あ、ありがとう”ぶちゅちゅ”ごひぐううういだだだ…痛い!痛い!いた!神様ぁ!い、痛い!痛いですってぇ!」
眼窩にヌルリと何かが挿れられる…あ、熱い!痛い!熱い!痛い!繊維?が結びつく?いてぇ!!!
<我慢しろ!それくらい。で、新たな目ん玉ね。ったく、ナイフさすより痛くないだろうに…これっきりだよ…次は…消しちゃうからね。いいね?じゃ~ね!>
だんだんと周りが温かく、明るくなってくる…焦点が像を結び視力が戻る…
「ありがとうございます…」
再び五体投地を行う…なんだかんだ言って本当に優しい…ご都合主義万歳!神様ありがとうございます!
「お、おじさま…」
「心配かけたね…ありゃ?」
視界が…?なんだあれ?みんなの頭の上にバーがRPGの体力バーみたいだな?黄色?赤?緑?良くわからん。この数字は…?
<あ、色は友好度。数字はミッツ1に対しての強さね、セツナっちみてみ?>
「290?」
<ミツルおじさまの290倍強いってこと…ぷぷぷ。ぷくす、弱ぁあ…おっけ~?>
「……おっけ」
泣いていいですか!神よぉ!
<ぷぷぷ…他にもマーキングや、照準…サーチライトの目なんかの機能もある!今は使えないけどねぇさぁ!バージョンアップを待て!で左目は鑑定がついてるよ!コメント楽しみに!補足終了!質問は?>
「はい!魔眼ってやつですか?」
<前任者の手下のだから…神眼?まぁ、なんでもいいや。おっけー?>
…いいのか?
「…おっけー」
<じゃ!>
…今度こそ行かれたようだ…神気が霧散する。
「お、おじさま?」
「なんでもないよ。さぁ治療をしようか…」
先ずは練習を兼ねて…いきなり足の”再生”とか”頭”は…ねぇ。
「君から診よう。う?うおお?」
左目に魔力が集まる?オート?骨格標本、保健体育?くらいの知識しかないが…回復魔法が再構築されていく…
「”修復”」
骨折場所が…”ごっきゅごきばき”
「…痛く…ない?」
異音と共にびくんびくんしているのだが…
「…う…ん全然…でも、気持ち悪い…」…げ
「うん…キモイね…」
ぐるんぐるん勝手に踊るように元の場所に収まっていく手…
「き、君、だ、大丈夫?」
「おじさんがやってるんだよね?これ」
ぐいん”こきり”
「…一応。終わったのか?動く?」
「うん。もう痛くない。…ありがとう。おじさん。」
…ふぅ。
「次は君ね。おいで」
比較的軽い…といっても骨折だが…そういった怪我から直していく。
さて…本命…。足を切られた子だ。斬った奴には同じ目に…おっと、集中集中。
「”再生”」
”ばしゅ!”傷口のかさぶたが飛び散り血が噴き出す。が直ぐ、止まり…うぁ…慌てて”収納”から布をだして子供たちの視線を遮る。
「お、おじさん…な、何か…へん?くすぐったい?」
「…このまま少し…動かないでね…」
だってねぇ…布の隙間から覗く…おいらの魔法だしぃ…集中せんと…
”びゅるんびゅりん””びきぴきこきり”白い骨が伸びてきて…血管が蛇のように…筋繊維?ミミズみたいだ…おぅぇ…少々…かなり刺激が強めだわ…
「お、おじさん。大丈夫?顔…白いよ?」
「う、うん。痛くない?」
「お腹減って痛い。…あ、…痛!…ちょ、っと痛い…」
「終わったら何か出すねから…もうちょい。がんばって!」
「うん」…
「どう?歩ける?」
少々細いけど、新しい足だ。直ぐに慣れるさ。
「おじさん!すげ!すげぇ!生えた!俺の足!」
「触るよ…ここ?感じる?」
「うんわかるよ!」
良かった…
「みんな、ご飯出すから…ゆっくりね。」
保存食、屋台飯をバンバン出していく。
「た、たべていいの」「美味しそう…」”ぐぅうう…”
「ゆっくりだよ。どうぞ。」
…口に忙しく運ぶ子供たちを見守る。大丈夫そうだな。
「さぁ、本番だ。魔力回復」
!ざ…座禅を組めた!前は腹と尻の肉が邪魔で…感動…って、それどこじゃないな!
「ふぅうう。”解析”…」
寝込んだ熊耳の女の子の額に手を置く…ん…あれれ?
「へ?…空腹?だけ?…大物だなこの子。…ご飯だよ~」
耳元でささやいてやる…
”がばり”
「この臭い夢じゃなかった!食べていいの?」
「…ゆっくりだよ…」
セツナっちも驚いてる。
「と、冬眠?」
「かもね?」
熊耳っ子を撫でる。
「気を取り直して…」
もう一人の子、犬系?の子の額に手を置く
「”解析”…”修復””回復”…何か…”再生”」…
「ふぅ。どうかな…」
「落ち着いたみたいね。凄い魔法ね…トワのより、的確な治療ね。」
「トワ君のはある意味”力業”だからね。ひと段落したら帰ろうか。」
「まさか…このまま?」
「…腹に据えかねてはいるが…子供たち優先で行こうよ。そうだ、他にもいるかだけ確認しよう」
「…了解…ねえ?無限収納ってこの教会はいるかしら?」
「…まさか…」
「ええ、天罰で消しちゃえ!ってね。」
「どうかな?人は元気ならはじかれると思うけど…入ったら死んじゃうぞ?」
「そうなの?」
「実験した。Gで。セツナっちのは?」
「一応生きてるのは入らないはずだけど…人族の孤児もいるし…諦めるか…」
…あとで子供たちに聞いたところ、他にはいないとの事だった。
「さぁ、此処から出るよ。ちゃんとついてくるんだよ。おじさんの家についたら一杯食べて、寝られるからね。」
「怪しい人攫いね…まるで。」
「…セツナっち…今言っていいことと、悪いことがある。」
子供たちドン引きだぞ!おい!
「あら、失礼しました。」
そのまま孤児院側から脱出。誰にも会うことなく出られた。入り口に捕虜だった神職の男を放置して侵入は終了。あとはお家にお帰りだ。
は、ははは…さっき食事出して失敗だったか…。うつらうつらしてる…そりゃ、腹膨らめば眠くなるわな。それに緊張してただろう。追手が出るかもわからんし、ここは急ぎ帰らないと…
「もう少しだからがんばろう!」
「おじさま一人にする訳には行かないか…慰謝料回収は今度ね…」
弱くてすみません!
「さぁ、大きい子は小さい子をみてあげて。悪い教会のおじさんが追いかけてくるかもしれない。急ごう!」
{うん!}
「…ところで…君はどうして?」
解放したはずの人族の女性。敵対心は0だな。むしろ好意?信仰心?
「神さま…」?
「おいらが?とんでもない。」
「ご自身の目を傷つけての御業の数々、奇跡を目の当たりにしました…神よ…」
「おいらを拝んでも何にもならんぞ?解放したんだ何処にでもいくがいい。」
「わ、私は教会の外に出たこと無いです…何でもします。お連れください…」
「うちは、獣人が多い。それでも?」
「?とくには?なにか?」
「獣人は悪いものって教えられただろう?」
「私たちもこの子たちと同じ扱いを受けていました…特に思うことはありません。」
「…どうしよう?」
「あなた、今の教義を捨てられる?家に来たら街には出られないわよ?」
「教義ですか…特になにも。ここに神がおわすのに…どうして?。街はいままでも行ったこと無いです…」
神じゃないって。
「わかったわ。仕事をあげるわ。孤児院で働きなさい。違う宗派だけど、おじさまが贔屓にしてるようだから問題ないわね?裏切ったら追い出すから。」
「解りました!お願いします!」
「名は?」
「ステラです。」
「わかった。ステラよろしくな。」
「はい!神様!」
「…神様じゃなくてミッツだ。」
「…はい…ミッツ様」
…十人の孤児ぷらす。むちむちシスターが加わった。セツナっちのゴミを見るような目が…。乳ばかり見ていません!お尻も平等…ヒィ!
本日もお付き合いありがとうございました。またのご来店をお待ちしております。




