さよなら…
いらっしゃいませ~
追)段落処理済 にしても暑いですね~もう…いや。19.5.27
爆発で城の半分が吹き飛び、その衝撃で今なお崩落を続ける城。煌々と輝く青い光の柱。それをみて、多くの者達が跪き、祈りを捧げる…天罰を恐れるかのように…。
町民たちとは違い、笑みと共に見守る人物が二人。
豚の城の崩壊を満面の笑みで観続けるトワ君。ロマンを噛み締めているのであろう。
おいらも自然に笑えてくる。でも人死に出てるかもしれないと思うと…いや、敵に情けは無用!
「やったなぁ~おっさん。でも、リッチさん、だいじょうぶか? あれ?」
「まぁ。そのまま昇天しても本望だろうさ。さっきの青い光…どうしても邪悪なものには見えん…使う側の問題なんだろうな…」
「ああ、それは感じたな…これでこの国の切り札はパァだな。ざまぁ。」
「ああ。当分は変わらんだろうが…徐々に変わらんと先はないな。じゃ、見つかるのもなんだし。そろそろ行くか。」
「応~」
…最初は冒険者や、住人が採集などで使うのか、獣道のような道が多くあったのだが、極浅いところまでしか続かなかった。
ネペンティス大森林…通称”魔の森”鬱蒼と茂る森。ただでさえ、遭難し、人など簡単に死んでしまうだろうその森には、多くの凶悪な魔物のが多く徘徊し、巣窟と言っても過言ではない。浅場にしか入った形跡がない。本当に恐れられているのであろう。
う~ん。冒険者ならもっと踏み入りそうなものだが…。まぁ、名誉、金より命だな。堅実で何よりだ。
”ばっさ、ばっさ”
とショートソードを鉈代わりに先を目指す。もちろんトワ君の戦利品だ。どこからパクって来たのやら…
「なぁ、おっさん。思ったより人、入ってないな…」
気づいたな。
「ああ。余程恐れられてんだろうさ。おいら達もぐずぐずしてらんね~ぞ。」
「そうだね…そろそろキャンプ地も決めないとだし…」
「水場の近く…ってか、今更無理だな…水なら収納にあるから…初日に手を付けるのは痛いな…まぁ、最悪、おじさん汁があるが…」
「素直に魔法水って言えよぉ…。まぁ、そこはほら。トワえもんにお任せだよ。のび〇君!」
うん? 珍しいな。トワ君がノリノリだ。爆発ハイか? …一体、何が始まんだ?
「はぁ?トワえもんって。おいら、のび〇君じゃないし。」
「ピココン! ピシャシャャシャァーン♪ テッテケテッテッテーッテッテェーー♪」
「…」
はて?そんな効果音だっけか?
「…なんだよ。のび〇君。その目は…」
「そんなんだっけか? 何代目の音だよ? てか、のび〇君じゃないって。」
「変わってんの? 音? これ違った?」
「…まぁ、いいや。ノリノリのトワ君も珍しいからな。では僭越ながら…こほん。ん・ん。トワえもぉ~ん。なんか道具出してよ~。魔の森怖いんだぁ。」
どうよ! モノマネなら、これ位のクオリティは欲しいぞ! トワ君! もとい! トワえもん!
「…上手いな…おっさん。なんか異常に恥ずかしくなってきたわ…やめ、やめ。水の心配はいらないよ。水が出る魔道具かっぱらってきた。ちなみに魔法コンロ? 火力調節機能付きも。」
「…一体…どこから…まぁ、ここはグッジョブといっておこう! ナイス! トワえもん!」
「…勘弁してくれ~黒歴史だわ、それ。」
口を尖らせて抗議するトワ君。うんうん。可愛いものよ。
「ははは。了解。さぁ、野営地探そうか。食える野草とかもあるといいな。」
「イノシシとかは?」
「う~ん…命奪う系は明日、明るくなってからにしよう…しっかりと、現実として受け入れたいからな。狩猟生活か…昔、あこがれたけど…現実だとなぁ。」
「…だね。猟師のTV見たことあるけど…あれが現実になるんだな…解体とかできるかな?」
「せんといかんだろうなぁ。草ばっかじゃ持たんだろ。…大量の血を見たら…おいら、ばったり倒れたら勘弁な。」
「ずっこいな、俺が先に倒れる!」
などとアホなことを言いながら足を進める。ん?急に低木類がなくなり土が見え始める。
「ふぉおおーーー良い木だな…」
そこには例の木に似た大木が枝を大きく広げていた。例の木? そりゃぁ、あれだよ、気になる木だよ。アメリカネムノキ。
「おっさん、この~木なんの木だな…」だよね
「…アメリカネムノキな。モンキーポットともいう。」
「マジ? なんで、猿? ポット? 猿が茶でも淹れるのか?」
「淹れないよ…。なんでも、大きな実ができて種を取ろうと猿が手を突っ込むとほら、掴んで抜けなくなるという。トラップだな。」
「ほんとかよ~」
「知らん。そう聞いただけ。ま、強欲で愚かな人の話…この国の王みたいだな…正に…。ちなみに、たまに売ってるぞ。日本でも。」
「妙に詳しいな…。うん? そう言われればそうかもなぁ…」
「おっさんの趣味に、観葉植物もあるのだよ。アクアリウムもやってるぞ。」
「…まじか…アクアリウムってなんだ? 熱帯魚?」
「…まぁ、それも含むね。水槽内に自然を再現というか…まぁ、そんな感じだわ。」
「ふ~~~ん。まぁ、興味ないな。」
なら聞くなよ…。
「…ここで、野営しようか。勇者様、周辺になんか居る?」
「う~ん…この辺りは大丈夫そうだな…ここにしよう。馬車と、結界石出して、と。」
”どん”
と、大きな馬車が出現した。
「おい。トワえもん。どっから持ってきたんだ…それ。」
「トワえもんいうな。軍事倉庫見つけたって言ったじゃん。備蓄倉庫の中の食料と、武器庫、軍事兵器? 門破るやつ…衝車? だっけ。そういうのもパクって来たよ。当たり前じゃん。」…。
「何が当たり前だか知らんが…助かるな。あの国のだし、良しとしようか。ナイス。」
大きな馬車…前線への物資輸送車かな?大きな窓はなく、矢を放つ”穴”が、狭間、銃眼?て言うんだっけ?物資を積むためにがっしりとした造りになっていて内部は広い。
「これ、…いいな…キャンピングカーみたいに改造したいな…」
「男の夢だね。キャンピングカー。おっさん、大工仕事は?」
「日曜大工レベルだよ…ウッドデッキはつくったな。まぁ、でかいスノコだけどなあれ。」
「じゃぁ、落ち着いたら改造しようぜ。ベッド積んだり。屋根に上れるようにもしたいな。」
「いいねいいね。で、この結界石どうやって使うんだ?」
「知らね。いっぱいあるっし、囲むように置いてみようか?」
…なんとなく結界石を置いていく。全部。こんもりと。魔石? なのかな? 試しにおいらの魔力を注いでみる…魔力の入っていく感じが、魔石と違う? 何らかの鉱石なのだろうか? クリスタル? 謎石だな。
おお? 光が増したぞ? 良くわからないが、効果アップ! と思うことにしよう…割れてないよね。
一応? 安全の確保はした。コンロを一台出してもらい、お湯を沸かす。温かい茶でも飲もう。
それにしても、この魔法コンロ…火力も強いし、IHのように天板はフラット。日本のコンロよか良いな…燃料も魔力? 魔石? おいら、魔力もたくさんあるから、とってもエコだわ。
お茶をすすってるとか細い声が耳に届く…
《勇者…ど…の入れてく…れぬか…》
あ、リッチさんが来た…。威圧がなくても暗闇では怖いな…暗闇に薄っすら光る骸骨だぜぇ、眼赤いし…チビりそうだ…。結界石の外にいる。うん! 効果ありだな! …盟友で試すな!
「リッチさん、ごくろうさま!」
「お見事でした! ごくろうさまです。見事に半分吹っ飛びましたね。あれじゃぁ、城、建て直さんといかんわ。」
《フ…フフ…一矢報…いる…ことができ…た。礼を…言う…》
ご機嫌だな。表情無いのに。ひしひしと伝わってくる。
「で、どうでした? 王は?」
《論ず…るに値…し…ない屑…であっ…た…わ。しゃ…べる…猿だ…な、いや…、猿に…失…礼か…》
「辛辣だのぉ」
「ヤっちゃったの?」
《我の…姿を見…た途端…ぎゃぁぎゃぁ…騒いで…卒倒…してお…ったわ。祝福…の…一つでも…授けようと…おもったが…、あのよ…うなもの…に良い…ように…され…てき…た鬱憤はあ…るが、城や、勇者召…喚の切り札…をなくした…王国、はてさ…て…どうなる…こと…やら。小…国群に…もかなり恨…みを持つも…のもおる…であろ…う。》
祝福(呪い)って。まぁ、わからんでもないが…
《では、そろ…そろ我…らを葬送し…てはく…れぬか。これ…は布…施じゃ》
そういって、リッチさんは拳大のクリスタルのかけらを10個差し出してきた…
《同…じ大…きさの魔…石より多…くの魔力…が貯め…ることが…できるだ…ろう。貴殿な…ら活用で…きよう。…爆弾…にしても…。》
浪漫の解るお方だ! が…これでお別れ…か。
「ありがとう…切ないなぁ。魔力…」
…魔力があれば”存在”できるのではないのか? 仲間に…だが、言葉は続かなかった…
《フッ…貴殿はやさ…しい。我…ら…は意識の…集合体。長く…この世に…おったものも…いる。それに…こ…の世に良…い影…響はもた…らさぬ。そろそ…ろ眠…るとし…よう》
「ああぁ、次の生を受けることができたら…幸せになれると…いいね。来世あるかわからないけど。」
《来世か…面…白いこ…とを言う…》
「最後だ。食事する? ワインもあるよ。安物だけど。」
《配慮…感謝す。子供も…多くいるでな。あれば…菓…子を…頂け…ぬか》
…クソ爺ィ!
「あ、ああ、こんなものしかないけど…」
パーティーの時におやつ用にパクった焼き菓子をあるだけ差し出す。
《助か…る》
すぅっと消えるクッキー。
《では…》
こくり。トワ君に視線を送る。彼も頷く…
「じゃ、いくぞ」…。
手を合わせてなにやら呟くトワ君。
「おっさん…魔力回してくれるか?」
「ああ、微力ながら、おいらも祈らせてもらうよ…」
全力でトワ君とリッチさんに魔力を流す。自家発電! オーバー・ドライヴ!! 真っ白な光が、おいら、トワ君、リッチさんを包む。
《…オオ…オ!》
「方法は、俺流でやらせてもらうな?」
《異世界…流か?貴…重な体験だ…》
「よし、んじゃ、さらばだ!」
《うむ。》
リッチさんの足元に大きな魔法陣が…いつの間にトワ君…よく見ると…魔法陣を構成する文字は、漢字? お経なのか?
そして魔法陣内の草花が活性化されたのか、花が咲き始める…生に…命があふれる…
静謐な雰囲気が一気にあたりを包む。魔法陣から白い光が立ち上のぼり…そして
「♪…♪~~~~♪」
トワ君が静かに…歌いだす。その歌はだんだんと声量を増し、辺りに響き渡る。小さい人影…妖精?蛍のようなものが飛び始め、乱舞する。
「♪!~~~~♪~」
おいらでも知ってる歌だから…邪魔にならないように…祈りながら一緒に歌ったよ。冥福を祈りながら…
《オオ…オぉ~お…おおぉ~》
トワ君の歌…もはや、全身からか。朗々と前世界、日本でも有名な鎮魂の歌が紡がれる…
《お…お…ぉ~~~おお…おぉお…》
リッチさんが、光り輝き、容が溶け、光の塊となる。その光の塊から、天への柱、階段となり、小さな光が少しづつ、少しづつ歌に合わせて天に還っていく…
よく見ると光は、それぞれ、うっすらと人の形をしている…。
くっそ、なんて数だよ…クソ王国め! 順番に昇っていく魂たち。あるものはおいら達に頭を下げ、あるものは手を振り。小さい子は抱き着きそして離れていく…
…暫くこの状態が続き…そして最後の一人…小さい人影が ≪ありがとう…≫ そう告げて天へと昇って行った…。
すぅっと歌が終わり、と同時に魔法陣が消え、普段の静かな森に戻っていく…。
涙を流しながら送ったトワ君。絵画から抜け出した神や聖人のようで…声をかけると穢れそうで…ただ、ただ、おいらは彼を見つめていた。
もちろんおいらは号泣さ。年取ると涙腺崩壊してるんだよ。ほんと涙もろくなったなぁ。でも無事に送れて良かったよ…冥福をお祈りいたします。
その時…爆発時
王、私室。
”ズン!”
今までに体験したことも無い衝撃が城を襲う。でっぷりと肥えた体でさえ、浮き上がるほどに。
そのまま床にたたきつけられる王。
その体に趣味の悪い壺やら、飾り物が襲い掛かる!
王故か、最後に、落ちて来た王冠の一撃を頭に食らい卒倒する王。贅を極めたそれは、王の頭頂に普通の治療では消えない大きな傷を残すことになる。霊薬や、凄腕の魔法使いが居なければ、以後、かつらが必要だろう。
近衛の騎士が、扉をけ破り、王の救出に動く。雑多なガラクタに埋もれる王を引っ張り出し、担ぎ、急ぎ、謁見の間に運び入れる。
頭部からおびただしい出血を流している王。そこで、処置として貴重な霊薬が使用され、傷がふさがったところで、気付け薬で目を醒ます。
「い、痛つつぅ…一体…何…何が…うぅん? 血! 血じゃぁ! わ、ワシの血じゃぁ!」
「ご安心ください、霊薬にて完治しております。大きく頭部を割られておりました。」
「な?なにぃ! 霊薬を使っただとぉ!」
己の命を救ったものに対する態度ではない。烈火のごとく怒りだす王。霊薬はとても高価だ…。
「はい。緊急でしたので…。」
「き、貴様ぁ! 勝手しおってぇ!」
「は? はい? こ、このような時のために… 「ええい!五月蠅いわぁ! 牢にでも入れておけぇ!」 は? そんな、ご無体な!」
「ええい! それ以上騒げば…斬れ!」
「はっ!」
「ひ!」
「王よ。落ち着き召されよ。そのものを斬っても仕方ありますまい。すぐさま、霊薬を使う覚悟。忠なるものでございますぞ。その者を除くとなると。」
「ふん…。解ったわい。で、ザックよ。一体何が起きているのじゃ?」
「はっ! おそらくは…召喚の間…が破壊されたかと…」
「な? なぁにぃ! そんなバカなことがあるか!」
”ざわざわざわ”
「そ、そんなことが…」「ありえん!」
王の周りに侍る、有象無象が声を上げる。
「今なお、”召喚の間”があったあたりから、天に上る光の柱が。」
「き、貴様ぁ! よくもぬけぬけとぉ!警備は何をしておったのだぁ!」
「はっ、あそこは、第一騎士団の管轄。我等は立ち入ることはできません」
「ぐぅぬぅ…であれば!ぶ、ブルケイは? ブルケイは何処じゃぁ!」
「ま、まだ顔を見ていません…」
「何をやってるのじゃ! あ奴はぁ! ザック! お前は召喚の間に赴き下手人を捕えよぉ!」
「…はっ、が、恐らくは…」
「行け!」
「はっ」
ザック騎士団長が出て行った後。謁見の間をウロウロと歩く王の姿が。
「忌々しい…どこの手の者じゃ…まさか勇者か! 誰かある! 勇者と屑を引っ立てい!」
「「はっ!」」
《そ…の必要…はな…い。勇者を…名…乗る小僧…は我…の贄と…なっ…た。》
謁見の間にいる者の頭に直接響く声。同時に室温が一気に低下する。鏡には霜が降り、抵抗力のないものは倒れる。王もまた。
「は…はぶぅ…はぐぅ…な…ナ…な…」
王の真正面、手を伸ばせば届こうかというところに、黒い靄のようなものが渦を巻き、その中心から、漆黒のローブを纏った髑髏が姿を現す。爛々と眼窩に赤光を放ちながら。
「はぐぅ…」
”バタリ”宰相が倒れる…兵たちもまた…
もはや、王を守る盾は無い。
「う。う~ん。」
そのまま気を失う王。
《なんと…まぁ。話し…すらまま…ならぬ…とは…起きよ。》
リッチが、手を翳すと、強制的に覚醒させられる王…
「は…は? はぶぅうぶぅう…?」
生気を失った青白い顔で辺りを見回す。もう、彼を守る盾は無し。
「ぶぅぶ…ぶぅ…」
《我…は、こ…の国に…食い物にさ…れて…きた…”召喚陣”…に縛ら…れし、哀れ…な者達…の意思…怨念…ようやっ…と、時…が満…ち、召喚…陣を破…壊せしめ…そ…の首魁…である貴様…の顔を見に来…たが…会…話もままならぬ…とは。これ…で…は豚…ではな…いか…。興覚め…だ。そ…の命…いただこう。 「ひぃ! ぶひぃ!」 …とも思…ったが…。汚ら…わ…しい。欠片…若さ…を頂いて…いく…としようか…》
「ひ!ひぃぃぃ!ゆ、ゆる、許して…わ、ワシ以外なら…どれでも…好きに…」
《つ…くづく…呆…れる…》
リッチが王の眼前に手を翳す…肉のない骨の掌を…
すると王の体がぶれるように何かが分離し、骸骨の掌に吸い込まれる。
《で…は、先に…地獄で待つ…とし…よう…か。》
そう言い残すと、部屋を支配していた冷気と共にリッチの存在自体が消える。
「は…はぶぅ! はぶ…だ、誰か…誰かあるぅ!」
”がし! どか! どがぁ!”
足下に転がる宰相の顔を蹴り、起す。
鼻の骨が折れ、曲がった鼻から鼻血を垂らした宰相が見たもの。
それは、頭髪がまばらに禿げ、顔に数多の皺を刻み、手足の筋肉も削ぎ落された、優に20歳は歳を取ったであろう王の姿であった。 <おわり>
お付き合いいただきありがとうございました。またのご来店をお待ちしております。




