領主と宿臣と忠臣と
いらっしゃいませ~
「いかがしました? サーラサ様?」
「ハスヤか……ちとな」
……其の方の行いで……全く面倒なことよ。
「それでは、執務室に参りましょうか」
数週間前に、貴族案件として挙がって来た調書と報告書。貴族故、町の法で裁くことが出来ぬ。王へ裁可を仰ぐこととなる。
内容は獣人族の一家を馬車で轢き殺し……放置……。所謂轢き逃げだ。
言葉は悪いが、遺族もいない。皆死んだと聞く。それに獣人だ。ともなれば、王への報告は不要。事件も無かったことに……
とは、ならなかった。スルガから上がって来た報告書。子供が生きていた。
しかも、生死をさまよう……いや、ほぼ、死んだような状態で。
さらに、その子の後見人に”勇者”が収まり、その超常の御力にて完全に復活されたという。
困った……
しかも、その補償を勇者から求められていると。
「な、なんですと! そ、損害賠償ですとぉ! ぇ、エリクサー? 獣人に? 正気の沙汰じゃぁない! 払わん。応じぬぞ! 払えるわけない! ……勇者か……ま、まだ若造なんでしょう?」
その事情を聞かせてやる。そう、ハスヤ本人に。今後の身の振り方を。
「うむ。勇者が後見になると。そのうえで、正式に抗議、請求になる。先ほどもお主に対する調査命令を延期してきたばかりだ。今は忙しいと突っぱねられるが……。王族の耳にでも入れば、無視はできまい」
「……ぼ、坊ちゃ……サーラサ様、ど、どうしたら……どうすればいいでしょう? 王族が出て来れば……」
そう……我が領の宿臣……幼少の時より世話になってきた家の一人だ。情けもある。もちろん、王の耳に入れば……斬首だろうな。獅子族とも聞く……それが本当なら……獣王国としても黙っておるまい。外交問題に発展する案件だ。
「……此度の事件の陣頭指揮に命ずる。見事解決し、褒賞と恩赦で相殺となす。どうだ?」
「あ! ありがたきご配慮! この、ハスーヤ=ギンビス。身命をもって事にあたりますぞ!」
「うむ、そちは代々仕えていてくれる宿臣。こんなことで失いたくないからな」
「あ、ありがたきお心使い……幸せにございます。サーラサ様ぁ」
「現状は、今、スルガがこの街にいる、”勇者”に助力を求めに行っておる。神殿の封鎖、街の治安維持等の指示はロランが動いてくれてる」
「な! なんですと! 衛兵隊長ごときと、冒険者ギルド長? 領主様は我々、宿臣をお見縊られると!」
? 何?
「そんなことはないぞ」
「現に官僚の招集はなされて無いかと。軍部の将軍、このような時のための駐留軍の将軍。騎士団長を招集して、事に当たるべきだと! この町! ひいては領で当たりませんと!」
! なるほど……一理あるか。だが……
「しかし、この案件には――悪魔には、勇者の力が必要 「まだ、出現してないのでしょう?」 ああ……未だだが。かなり危ない状況だという」
「専門家の判断ですか?」
「いや、スルガの判断だ」
「領主様が彼らを信用なさるのは解ります。この街の麒麟児と言われてた者たちです。ですが、そこが間違ってるのです。スルガ隊長はまだしも、よその組織の人間に関わらさせる。情報が筒抜けになり、失敗しようものなら悪い噂が立ちます。ましては”勇者”? 放浪の果てにここに来たのでしょう? 今まで手を出さなかった領主様の御心に感謝してることでしょう! 招聘すれば諸手を上げて駆けつけること間違いないですぞ! この街の重臣たちに諮りましょうぞ!」
……過信しすぎ? ……勇者の力さえ。そう、それに、こちらからの要求は一切行っていない。彼らだって”人族”危機状況になれば助力を惜しまないだろう。うむ! が、
「待て、ハスヤ。勇者の件は極秘扱い。国からの命だ。言動に注意せよ」
「でしたら、尚更、私たちの手で行うべきです!」
そう考えると、そうだな。一々もっとも。
「うむ! 招集を掛けよう!」
「それでは会議室に参りましょう! 誰かある緊急招集命令を!」
「うむ!」
「領主さま、こちらにおいででしたか! ロラン殿が探しておりました」
「分かった。会おう!」
「そのようなものは捨て置きなさい!」
「……控えよ」
「……は、はい」
「案内せよ」
「ロラン、ご苦労であるな。それで?」
「……はい。そちらは?」
「私はハスヤ=ギンビス。この街で財務を任されておる。そのほうが、冒険者ギルド長のロラン殿か。此度はいろいろやってくれたようだなぁ」
「領主様……これは?」
「……控えよ、ハスヤ」
「しかし!」
「よい!」
「……」
「では改めまして……この度のもう一つの案件の当事者でもある子爵がここにいるのはどういうことでしょうか? 謹慎、監禁ならまだしも……」
「この者には財務をまかせておる、此度の事件解決にも大いに力を発揮しよう!」
「……正気で? し、失礼。……本当にそのような?」
「領主様! スルガ南門衛兵隊長が戻りました!」
「話はここまで……一緒にまいれ」
「……はい。」
あとで、ちゃんと説明すればわかるだろう。
「すまぬな……休憩も取らずに……してどうであった?」
やつれたスルガがいる…苦労を掛けたな…
「……そちらの方は? 今回の件は内密では?」
「私は、財務担当方のハスヤという。」
驚いた表情のスルガ……
「サーラサ様? まさか? なるべく少人数で……」
「やましいことでも?」
「やましいことなどあるか! ……本当に? ……よろしいので? サーラサ様?」
「……かまわぬ」
その後も饒舌に語るハスヤ……
ロランたちの働きを知らぬのに……
もう良いハスヤ……そう声をかけようと……
「緊急? 一大事? そんなこと貴様に言われなくとも解っているわ! 貴様の言動が問題なのだ! 貴様が行けば良いだろうが! 俺がどれだけ苦労したか! 失礼する! やってられるか!」
「貴様ぁ! 平民の分際でぇ! 更迭するぞ!」
「どうぞご勝手に!」
「私も失礼します」
「ロラン? その方……?」
「全く話になりませんな! 良いではないですか。サーラサ様」
貴様がだ!
「……我らの力及ばないようにございます。王都に戻ります。……何を言っても無駄なようだ。スルガ行こうか」
「ああ。領主様。失礼します」
「ま、まて、その方ら」
「御前失礼します……領主様。あまり甘言に溺れぬよう。耳障りが良いでしょうが。では」
……
「それではサーラサ様。会議を招集しましょう」
「……」
確かに安直であったか……目が曇っていたか? ……耳に聞き心地の良い甘言に……宿臣。が、犯罪者。冷静に考えれば……
「其の方……犯罪者には変わらぬ。まだ何もしておらんし、相殺はされておらん。今後、口を控えよ」
「サーラサ様ぁ? あぁ……」
「……昔の思い出に少々引きずられてたようだ……。此度の機会は与えるが……解決の暁には隠居せよ」
「し、しかし! さ、サーラサ様!」
「それから書状を認める。ロランは部外者だ。感謝状と金一封をだす。けちるでないぞ。スルガには会議に出席するように取り計らえ」
「……」
「手配を頼むぞ」
「わ、わかりました……」
「領主様……この者が……」
ん? 衛兵?
「うん? スルガはどうした?」
「はっ! 私は南門副隊長ヒゥガともうします!」
「うむ」
「こちらを! スルガ隊長に代わり、隊証、隊剣、隊長徽を返還に参りました!」
「な? なに?」
「隊長よりの口上! 本日をもって隊長の任を退くとのこと、退職金につきましては不要! とのこと。合わせて、A級書記、アツミも除隊申請が出されました! 以上です!」
「す、スルガ……? さ、下がれ」
「はっ!」
「それで……アツミとは?」
近習の者へ問う。
「スルガ隊長が、この領の為にと見出した神童にございます。昨年成人かと存じますが……S級試験に合格、ですが、経験不足とのことでA級書記としてスルガ隊長の元で職務に当たっておりました」
「そのような人材が? ……ワシの耳には……」
この領の為……ワシの……未来のために。
解ってる……己の身、可愛さに報告しなかったのであろう?
「其の方……知っていてなぜ? 貴重な人材であろう?」
「……」
「申せぬか?」
「……財務局長と人事局長に……」
「……」
「分かった……其の方等の名は出さぬし、保護もしよう」
「あ、ありがとうございます」
忠臣と宿臣……ハスヤ……そのほう信じても良いのだろうな……
「領主様そろそろ会議を初めてよろしいでしょうか?」
「ハスヤ、アツミという書記官知っておるか?」
「……は、はて? 私の記憶にはありません。しょ、招集しましょうか?」
ふん。間に合わんだろうが……佞言は忠に似たりというが……
「ああ。頼む。勇者様にも参考意見を聞きたい……書状を届けよ」
「は、ははっ!」
ふぅ……
「お断り申す。我が軍は国境警備のための国軍。領内の事は自軍でやられよ! そのための、将軍! 領軍! であろうが」
「そんな話が通るか! 悪魔が出ればこの街は……其の方! 責任とれるのか!」
叫ぶハスヤ。国軍の言い分も分かる。
「異なことを。街の責任を取るのが其の方らの務めであろう。お前が指揮を執るのか?……ふっ」
「ぶ、無礼であろう!」
「ふん。名乗られよ! 指揮官殿」
「わ、私は、ハスヤ=ギンビス! し、子爵だ!」
「ふふふ……これだから、田舎貴族は。最低の調べものもできんのか?」
「ぶ、無礼な! 国境けいび……」
「キーキー猿のように……無礼は貴様だ! 国境警備を軽んじるとは! それに私は領地は持たぬとも法衣伯爵、南征赤竜将軍を拝命しておる! 扱いは辺境伯と同等と知れ!
問答無用で切り捨ててもよいのだぞ! この無礼者め! 貴様のような猿の下で剣が振れるか! どうしても協力して欲しければ王都に伺いを立て、国王の命令書を携えてこい! あまりにも愚かなので話にもならん。不問にしてやる感謝せよ、猿! サーラサ殿、これにて失礼する。参るぞ!」
「「はっ!」」
腰を抜かしているあわれな男を見る……奥の手が一つ消えたようだ。
……いや……ロラン……スルガ……ふぅ。
大局を見誤ってしまったのか……近習の者に調べさせたが、ロランはギルドの収拾。終わり次第王都に立つと。……スルガは行方知れず。町を出たとも……この頭、幾らでも下げる……だから……
「それで将軍、今動かせる兵の数は?」
自領の将軍に問う。
「は、はい。500かと……」
額に大粒の汗を大量に書きながら答える……この男も代々仕える宿臣の一人だ……
「なに? ちと……少なすぎはせぬか? 常時2000は確保せよと、領法で決まっておったであろう? 予算だってついておる」
「り、糧秣の備蓄が少なく……」
クソ……知らぬと思ってか!
「ここ3年は豊作だったと記憶しておるが……」
着服か……
「いえ、それは……」
ふぅうう……どこまで……
「拘束せよ……解任する! 更迭だ!」
「領主様!」
「今、将軍に抜けられますと、さ、作戦に支障が……」
「副官がいよう? 他も者でも務まろう!」
「ですが……」
それでもなお、退かぬか?
「いい加減せよ! ハスヤ! この男の罪も、貴様の罪と同様に此度の成功で相殺せよと申すか!」
「……」
「先に国境警備軍にいいようにやられ、軍もない? どうするのだ? ギンビス子爵?」
「い、今から揃えます……」
「とにかく副官と話をつめよ。事後策はそれからだ……」
「はい……」
「は、はっ!」
次から次へと……何故に、ここ迄……。
打てる手がなにひとつ無いではないか……
本日もお付き合いいただきありがとうございました。またのご来店をお待ちしております。




