脱出!トンズラキメるぜ!
いらっしゃいませ!
召喚の間に、リッチさん、おいら、トワ君で膝を突き合わせての悪だくみ…いや、違った、報復じゃ!
そう! 召喚陣の破壊! その引き金にリッチさんが手を上げてくれた。まさに、冥途の土産にと。
「とりいだしたる魔剣一振り。この剣…まぁいいか。おっさん頼む!」
と黒い方の禍々しい魔剣を出すトワ君。…だよなぁ。
「よしきた! 充填! ニッカドパワー!」
その濁った魔石の部分に手をかざし魔力を注いでいく。
「充電池か!」
《フ…フ…フ》
ううん? リッチさんも何やら楽しそうだ。
「~~ん。よっと。うぉおお!やべ~!臨界突入!結界、結界!よろしくぅ!」
「よしきた! 任せろ!」
《いや…我が…やろ…う。そのほ…うが解…除も楽…だ…》
リッチさんが剣に掌をかざし、結界で覆っていく…
「よし! 勇者パワーでクリスタルにぶっ刺す! おっさん、魔力くれ! 身体強化だ!!」
「おっしゃ!ニッカド~~~充填!!」
トワ君にガンガン魔力を注ぐ。うっすらと光を発するトワ君…
可愛い顔に細マッチョ…勇者ここにあり! だな。…くそ…かっこいいじゃん!
《ついで…に怨…嗟も込…めてよいか?》
…。
「「…いいんでない?…」でも、俺じゃなく。剣にお願いします!」
剣の結界がドス黒く染まっていく…
ありゃ? 人面? 点が三つあると顔に見えるというが…シミュラクラ現象だったっけか。…いや…
”ううぅぅぅ…””うぎぃ…”…違う…なんか憑いてる…
「り、リッチさん…なんか憑いてますよ。」
《…怨…嗟が…固まっ…た…もの。魂…では…ない。安…心し…てほし…い。》
「安心て…」
「…まぁ、気を取り直して…行こうかね。すぅうう~~~はぁあ~~~。どうりぃやぁ~~~~! くらえぇ!」
おおきく振りかぶって! 投げたぁ! …なんちゃって。
”バキガッキン!”
投げてはないが、さすが勇者、トワ君の強烈な突き!砕くまではいかないがクリスタルの中央に剣身の2/3がぶっすりと突き刺さっている。
「ふいぃ~~手、痛てぇ~~~! 硬いものは傷がつくと脆くなるって言うし何とかなるんじゃね?」
《クリ…スタ…ル…が崩壊せ…しめず…ともこ…の魔法陣群…は消失す…るであ…ろう…この魔法…陣は高…次元。今代では…再…現は不…可能であ…ろうよ》
「じゃ、保険に、周りの魔石にも充填して爆弾にしておくか?」
《これ、す…べてだと…国が消し…飛ぶぞ…》
と焦るリッチさん。清い昇天じゃなくなるな、これじゃ。
「じゃ、もったいないから、2個爆弾にしてあとはパクっていこう♡」
スキやのぉ~勇者殿…
「了解!ほんじゃ充填開始。おわったら結界よろしく! リチウムぱうわ~~~~!」
《ウ…ム》
困ったオーラがでとるよリッチさん。結構感情伝わるなぁ~。skillのおかげか?
…。
「では、明日の夕方、日没の頃。ドカン! と頼む! それまでに俺達、脱出するから。」
《ウ…ム任さ…れよ》
なんかうれしそうだな…ウキウキオーラが漏れとるぞ。リッチさん。まぁ、自爆スイッチはロマンだもんな。我慢できずに押しちゃったり。釘刺しておこうか。
「おいら達もいるから約束の時間守ってね。おいら★になっちゃうよ。頼む戦友!」
《ウ…ム。ロマ…ンだな。それも…》
っつ!転生者か、召喚者が混じってるのか! やばい! 勘弁してよ~
《安…心せ…よ。》
「「よろしくお願いします!」」
「じゃ、またあとで!」
《ウム…》
すぅ~っと消えるリッチさん。
先刻まで死を覚悟した相手。話せばわかる相手で良かった…土下座パワーか?
「おっさん。ありがとな。正直死んだと思った。」
「だよね~ファンタジーだね! リッチだよリッチ。」
「あんまり無理しない 「でも、あの時はこれしかなかった。ちょっとカッコよかっただろ!」 ええ! 土下座だし! 光る土下座ってちょーウケるんですけど!」
「しゃ~い、にんぐ!土下座ぁ~~!」
「あははは~強そうだな…ほんと…さんきゅー…です。」
「ああ。まさか城からとんずらする前に 『先に行け!』 使うとは思わなかったわ。冒険始まる前だぞ?まだ…。いやぁ~まいった。まいった。これもすべて豚のせいだ。腹立つ! こんな短期間で死にかけるってどうよ?」
おいら達は豚の悪口を言い合いながら寝室に帰った。
ちなみに衛兵は戻ってこなかった。お眠のようだ…良い身分だな、おい! まぁ、戻ったところで、リッチさんに…南無…
…。
”ずぅうどぉおぉぐぅん、どどぉおどずぅうううーーーーん! どずずずぅぅぅん…”
体幹を上下に揺さぶる、ものすごい振動! 激震!! 壁に掛けられた絵画は落ち、奇麗に並べられた食器類が粉々に。城はレンガ造りなのか、外壁の所々に大きな亀裂が走り、モルタル?が剥がれ落ちる。
はい。これは地震などではありません! 夕食時を狙った爆弾テ〇です。
散歩と偽り城から出て、待機していたところに。約束通り”大爆発!”もちろん監視役が付いていた。
驚く監視役が城に走って行くのを見送る。首トン? 気絶させるのって出来るかどうかわからなかったし、最悪…殺さなければと思っていたから都合がいい。そのまま城壁に上る。
「す、すげぇなぁ~城持つか?これ。崩れそうだなぁ。」
「おっさん! 早く!」
「オーライ!」
トワ君に促され、城壁の上を走る! 頭の中には有名な怪盗の孫のBGMが流れている。
お堀をトワ君に投げ飛ばされたのを除いて…も、漏れるがな…今の処、怪我一つなく無事に逃亡できている。
城下町を門に向かって疾走中。何事かと町人たちが表に出て、城の方に視線を向ける。
おいら達など、視野に入っていないだろう。
それにしても、トワ君、速ええなぁ。あ、屋台でなんか買ってる…余裕あんな、クソ。
「おっさんも食うか?」
と謎肉の串焼きをおいらに差し出す。ん? マレーシアで食べたサティみたいだな。
「脇腹痛くなるからいらない」
「そ。見てみろよおっさん。あれ」
「ん?」
と、後方を振り返り城を見る。
城…半分無いがな…シルエットが歪だ。あの辺に召喚陣があったのか? 水色の光の塔が天に向かって伸びている。綺麗だな。おい。
「あれは、水晶、逝ったか?」
「たぶんね。内包されてたあんなものやこんなものが天に還ったんだろう。」
しっかし、ゴッソリいったな。中世コンクリート使ってるのかな? レンガ主体だったら、残ってる部分もだめだなありゃ。建て直し決定! だな。
ざまぁ~~~ざまぁ~~~
…でも領民に負担が行くんだろうな…いや! 拉致られた異世界初心者! ここは深く考えずに喜ぼう! ざまぁ~味噌漬け!
「このまま東門突っ切るけど大丈夫?」
「大丈夫。いこうか。」
再び駆け出す…自由はもうちょいだ!
…で東門到着!あれれ?門衛いないじゃん?城に行ったのか?ぶったるんでるな!
「…目撃されないと意味がないけど…陽動が…どうする? おっさん。待つか、門壊す?」
「まぁ、良いんじゃん。このままで。とっとと行こうぜ。手がかりまっさら。どろん! ってことで。」
「それもそうだ…おっさん、このままいこう。レッツゴー”魔の森”へ!」
「…覚悟は?」
「とっくに。」
「…では出発!おいら達に異世界の祝福あれ! たのんます! 神様!」
…こうしてこの世界に来てやっとこさ、自由を手にいれた。まぁ、今までも好き勝手してたけどね。
さあ。正真正銘、今から異世界ライフが始まるんだ! …その前に…やることがあるがな…。
少し時間は遡る…決行日一日前。
謁見の間。
「オウンよ…勇者の仕上がりはどうか? 他の者から、自由にさせ過ぎと文句も上がってきておるぞ。」
「はっ。真面目に鍛練を行ってるようにございます。」
「で、あのゴミ…の排除は?」
ゴミ…もちろん、ミツルの事である。
「はい。排除はしない方向で。彼の勇者の”手綱”にしたく存じます。」
「ふぅむ…人質…というわけか? で、その役、十分に果たせるか? あの男が? 女にも見向きもしないのだろう?」
にやりと笑う、魔術師長の老人…
「黒目黒髪の勇者であれば。必ず。」
合点がいったのか。こちらも嫌らしく笑う王。
「なるほど…のぉ。」
「ひと月後に、聖王国から心身を縛る”呪物”が届きますれば…女人と併せて用いれば。まず、あのゴミを先に堕とし、勇者へと…。さしもの”勇者”といえ堕ちる事にございましょう。」
「ふむふむ。楽しみであるなぁ。あの若者がワシに傅くのは! くはっはっはっはっは!」
「お父様ぁ。あの生意気な”勇者”私に下さらない?」
「全く…お前は…。ま、いいだろう…やってみるがよい。」
「ほぉほほほほ! …はぁぁ! 楽しみねぇ!」
性の衝動にギラつく目で高笑いする姫…。歪な性癖の持ち主だ。
そして、口元をゆがめ舌なめずりする王妃…彼女もまた…。
「で、宰相よ。協力金の方は集まっているのか?」
「はぁ…真、申し訳ございませぬ…大々的にお披露目がされていないので…。ですが、ひと月後!御披露目を盛大に行えば、各国も、こぞって持ってくることでしょう!」
「ふぅむ。ワシらを信用できぬ、今もって持ってこぬ国は、お披露目後、協力金の額を3割増しにしておけぃ!」
「はっ!」 <つづく>
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