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初級技能者の執行者【クラスメイトの皆はチート職業だが、俺は初期スキルのみで世界を救う!】  作者: 出無川 でむこ
第二章 荒れ狂う極寒の都市『スノーガーデン』編
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第46話 結婚分かんないや、でもなんか幸せそうならOKの話

現在14話まで改稿済、よかったら見てくださいね。

我たちはヨウイチに頼まれ、町へ情報収集に向かうことになった。

町はフィルネル王国ほどではないが、それなりに賑わっている。

人もたくさん歩いていて、皆の口からは白い息がもくもくと出ていた。


寒そうだなぁ。


我は平気だけど、人間は大変なのだ。

先頭を歩くアクレアは、ヨウイチと同じようにフードを深く被り、マスクで顔を隠している。

我はその後ろ姿を見ながら首を傾げた。

アクレアは寒いのだろうか?

この国の人はみんな厚着だけど、アクレアはその中でも特にぐるぐる巻きだった。


「あくれあ、寒いのかー?」


我が聞くと、アクレアはちらりと後ろを振り返った。


「いや、私がスノーガーデン出身なのは知っているだろう? 少なからず、この町には私のことを知っている者もいるんだ。

なんせ、この町では私は既に"存在しない人物"だからね」


その顔は見えない。 だけど、声が少しだけ硬かった。

怒っている? 悲しい? よく分からない。

我は人間のそういう複雑な感情は少し苦手なのだ。

でも、アクレアがこの町を好きではないことくらいは分かった。

だから我はもう一つ聞いてみることにした。


「この町は嫌いなのかー?」


するとアクレアは少しだけ笑った。


「"町"は嫌いじゃないさ。この町は綺麗だから好きだよ」

「じゃあ好きなのだ?」

「そうだね。雪景色も綺麗だし、人も悪くない」

「じゃあ何で怒ってるのだ?」


我がそう言うと、アクレアの肩がぴくりと動いた。


「怒っているように見えるかい?」

「見えるのだ」

「ははっ、正直だな」


アクレアは苦笑した。

そう言いながら、アクレアはぎゅっと拳を握り締める。 そして遠くに見える王宮をじっと見つめていた。


……なるほど。


嫌いなのは町じゃないのだ。 きっと王宮の方なのだ。

我はそう思ったけど、何も言わなかった。

ヨウイチがよく言うのだ。 『話したくなったら向こうから話してくれる』 だから我も待つことにした。

フードの奥で、アクレアはどこか懐かしそうに笑った。


それよりも――。


「我、お腹空いたのだ」

「さっき朝食を食べただろう……」

「龍はいっぱい食べるのだ!」

「いや、お前は今人間だろう」

「細かいことは気にするななのだ!」


王宮へ近づけば近づくほど、人々が忙しそうに準備している姿が目についた。

何かあるのだろうか?

我が辺りを見回していると、アクレアも同じことが気になったらしい。

近くのベンチで休憩している男性を見つけると、小さく呟いた。


「聞いてみたいところだが、私が行くのは少しまずいな……」

「なんでなのだ?」


我が首を傾げると、アクレアは肩を竦めた。


「私は見た目が良すぎるからね。こういう時は妙に警戒されたり、面倒なことになるんだ」

「自分で言うのだ?」


我はアクレアをじっと見上げた。

フードを被っているし、顔も隠れている。

目立つようには見えないのだ。


「ああ。基地でもよく言われるだろう? 顔がロリだとか子供っぽいだとか」

「あー、言われてるのだ!」


我は思い出した。

確かに基地ではよくそんなことを言われていた気がする。


「否定はしないのかい?」


アクレアが呆れたように言う。


「事実なのだ?」

「事実じゃない!」


即答だった。

我は少し驚いた。

どうやら地雷だったらしい。


「私はちゃんと大人だ。それに――」


そう言ってアクレアは胸を張る。

ふふん、とでも言いたげな仕草だった。


「ほら、見ろ。ちゃんと"ないすばでぃ"だろう?」

「おおー」


確かに大きい。

我は素直に感心した。

だが、それが大人である証明になるのかはよく分からない。


「その反応は何だい……」


アクレアはがっくりと肩を落とした。

どうやら期待していた反応ではなかったらしい。

人間は難しいのだ。

我はよく分からなかったが、とりあえず納得しておいた。

するとアクレアは我の頭にぽんと手を置く。


「その点、ファフニーは子供に見える。君が聞いた方が相手も警戒しないだろう」

「任せるのだ!」


我は胸を張る。


「よし、行ってくるのだ!あの人に聞けばいいのだな!」


そう言って我は駆け出した。

後ろからアクレアが何か言っていた気もするけど、気にしないのだ。


「おじさん、何してるのー?」

「おう? 可愛らしいお嬢ちゃんじゃないか。今は色々準備で忙しいんだ」

「準備とは?」

「なんだ、知らないのか?」


男は顎を撫でながら説明してくれた。


「もう少しで、この国を統治するヴォルディ家の娘、スカラ様と、東の国の王族であるニルヴァフ様との結婚式が開かれるんだ」


どうやら、この騒ぎは結婚式の準備によるものらしい。


結婚式。


確か人間の雄と雌が家族になる儀式だったはずだ。

ヨウイチとアイリスもいつかやるのだろうか?

うむ、ちょっと気になるのだ。


「ほう、違う国の王族同士での結婚か、珍しい事ではないのか?」

「あぁ、そうだな。本来であれば国内で済ませることだけどよ、多分、ありゃあ政略結婚だろうよ。お姫様もまだ若いというのに、大変だろうよ。」


そう言って、王宮を目を向けて煙草を吸う。

なかなか、色々喋ってくれるのだ。

忘れないようにしなければ……。


「なんで大変なのだ―?」

「そりゃあ、大国同士の結婚だ。表上では国同士の均衡を保つためや対立をさける為とはいえ、実際のところ。自己や国の利益のために、当人どうしの意向を無視してさせることは結構残酷なもんよ。まぁ!まだ嬢ちゃんにはこの話は早いか!ッカッカッカ!」



そう言って、大声で笑う男。

誇り高き竜に向かってなんて無礼なやつだ!

しかし、ここで暴れたらご主人に飯抜きにされてしまうのだ。

とりあえず我慢、我慢だ我。


男はベンチに置いてあったお茶を一気に飲み干し、立ち上がった。


「さて、お嬢ちゃん! 俺は仕事に戻るぜ!」


そう言って我の頭をくしゃくしゃと撫でる。


「むむっ」


突然だったので少し驚いた。

だが嫌な気分ではない。

むしろ少しだけ気持ちよかった。


そう言って男は我の頭をくしゃくしゃと撫でると、自分の持ち場へ戻っていった。

我はその後ろ姿を見送りながら、自分の頭をぺたぺたと触る。


「また撫でられたのだ~」


最近、人間たちはよく我の頭を撫でる。

何故なのだろうか。

我は誇り高き黒龍なのだぞ?

本来なら崇め奉られてもおかしくない存在なのだ。

……まぁ、ご主人ほどではないが、少し気持ちよかったから今回は許してやるのだ。

我が一人でうんうん頷いていると、後ろからアクレアが呆れたようにため息を吐いた。


「完全にペット扱いされているな……」

「違うのだ! 我は黒龍なのだ!」

「その割には随分嬉しそうだったけどね」

「むっ……」


反論しようとして言葉に詰まる。

確かに少しだけ嬉しかったのだ。

すると今度はアイリスが小さく微笑んだ。


「良かったね、ファフニー」

「アイリスまで言うのだ!?」

「ふふっ……」


アイリスは口元を隠しながら静かに笑う。

馬鹿にしている感じではない。

本当に良かったと思っている顔だった。


「我は別に撫でられたかったわけじゃないのだ」

「でも嫌じゃなかった」

「……それはそうなのだ」

「なら良かった」


アイリスはそう言って、そっとファフニーの頭を撫でた。


「むぁっ!?」

「可愛い」

「我は可愛くないのだ!」

「そう?」

「そうなのだ!」


我が抗議すると、アイリスは少しだけ楽しそうに目を細めた。

その様子を見ていたアクレアは肩を竦める。


「駄目だな。誰がどう見ても愛玩動物枠だ」

「違うのだぁぁぁ!!」


我が必死に抗議していると、不意に前方が騒がしくなった。


「きゃあああ!」

「スカラ様ー!!」

「こっち向いてー!」


あちらこちらから黄色い声が飛び交う。

我は思わず声のする方へ顔を向けた。


「む?」


いつの間にか大勢の人が集まっていた。

道の両脇には人だかりができていて、皆どこか興奮した様子で同じ方向を見つめている。

何かあるのだろうか?

我も気になって、ぴょんぴょんと背伸びをした。


「見えないのだ……」

「ほい……」


アイリスがそっと我を持ち上げる。


「おおー!」


一気に視界が高くなった。

その先には、立派な馬車と二人の人影が見えた。


「あ、王女様よぉーーー!! ステキー!」

「スカラ様! こっちを見てー!!」

「おい! あっちはニルヴァフ王子じゃないか!」

「キャー! やっぱりあの二人はお似合いよねー!」


どうやら何かあったらしい。

我も人混みの隙間からひょこっと顔を出して見る。

すると、立派な馬車の近くに二人の人間が立っていた。

一人は紫色の髪と赤い瞳を持つ女性。

雪の国の王女らしく、まるで氷像のように綺麗な顔をしている。


もう一人は背の高い男だ。

身体も大きく、いかにも強そうだった。

二人は市民たちへ手を振りながら歩いている。


「ほえー、あれがスカラ王女とニルヴァフ王子なのだな」


我がそう呟くと、我たち三人はしばらくその様子を眺めていた。

皆とても嬉しそうだった。

結婚というのは、人間にとってそんなに良いものなのだろうか。

……よく分からないのだ。

すると隣にいたアイリスが小さく首を傾げる。


「……結婚式はまだなのに、二人はもう一緒に過ごしているの?」


その疑問にアクレアが答えた。


「それはですね。スノーガーデンの王族同士の結婚では、結婚前に九日間を共に過ごす習慣があるんですよ。その期間を『聖なる結婚』と言います。スノーガーデンでは、結婚相手がこの国で暮らすのに相応しい人物かどうかを、王族や親族達が見極めるんです」


「……なるほど」


アイリスは小さく頷いた。

人間というのは結婚するだけでも大変なのだな。

そんなことを考えていると――


王女はにっこりと微笑んだまま通り過ぎていく。

だが、その隣にいるアイリスはまだ王女を見つめていた。

普段のアイリスなら、こんな風に誰かをじっと見続けたりしない。

何か気になることがあるのだろうか。

我が首を傾げていると、アイリスの眉が僅かに寄った。


「……なんだろう」


何か見えたのだろうか。

しかし次の瞬間、アイリスは不思議そうに瞬きをする。

まるで自分でも理解できないものを見たような顔だった。


魔眼の調子が悪いのだろうか。

我にはよく分からない。


ただ――。


アイリスの視線の先にいる王女を見ていると、何故だか胸の奥がむずむずした。

嫌な感じだ。

敵を前にした時とも違う。

でも、どこか落ち着かない。

まるで本能が何かを警戒しているような感覚だった。


そのとき。

スカラ王女が再びこちらへ視線を向けた。

にっこりと、完璧な笑みを浮かべる。

その瞬間――


「きゃああああ!!」

「今こっち見たわ!!」

「スカラ様ー!!」


周囲の歓声がさらに大きくなる。

だが、アイリスの視線は動かなかった。


「……」


そしてその直後。

頬の角度も、口元も、目の開き方も変わっていない。

それなのに――


“感情だけが、遅れてズレたように消えた”


まるで仮面の中の何かが、一瞬だけ呼吸をやめたように。


「……っ」


アイリスが小さく息を呑む。

次の瞬間には、スカラは何事もなかったように人々へ手を振っていた。

完璧な笑顔のまま。

しかし、その“戻り方”だけが妙に滑らかすぎた。


「どうしたのですか?」


アクレアが尋ねる。

アイリスは少しだけ考えるように視線を逸らした。


「ん、何でもない」


そう答えたものの、アイリスは再びスカラ王女へ目を向ける。

その横顔は普段と変わらず静かだった。

だが、長い付き合いではない我でも分かる。

今のアイリスは、“確かに何かを見た”。

それをまだ言葉にできていないだけだ。


何かを見たのか。

それとも、見えなかったのか。

そのどちらでもないような顔だった。

王女はにこりと微笑んだまま通り過ぎていく。

だが、その隣にいるアイリスはまだ王女を見つめていた。

普段のアイリスなら、こんな風に誰かをじっと見続けたりしない。

何か気になることがあるのだろうか。

我が首を傾げていると、アイリスの眉が僅かに寄った。


「……なんだろう」


何か見えたのだろうか。

しかし次の瞬間、アイリスは不思議そうに瞬きをする。

まるで自分でも理解できないものを見たような顔だった。


魔眼の調子が悪いのだろうか。

我にはよく分からない。


ただ――。


アイリスの視線の先にいる王女を見ていると、何故だか胸の奥がむずむずした。

嫌な感じだ。

敵を前にした時とも違う。

でも、どこか落ち着かない。

まるで本能が何かを警戒しているような感覚だった。


「むずむずするのだ……」

「どうしたのですか、ファフニーさん?」


アクレアが不思議そうに聞いてくる。

我は王女を指差した。


「あの女を見ると、なんだかむずむずするのだ。


何だか嫌な感じがするのだ」

するとアクレアの顔色が変わった。


「こらっ!」


慌てて我の腕を掴み、指を下ろさせる。


「王族に向かって指を差すなんて厳罰ものですよ!」

「むぅー……」

「むぅーじゃありません」

「わかったのだぁー」


我が渋々手を下ろすと、アクレアはほっと息を吐いた。

その隣では、アイリスがまだスカラ王女を見つめている。

何かを考えているようだったが、結局何も言わなかった。

やがて王女達の姿は人混みの向こうへ消えていく。

周囲の歓声も少しずつ落ち着き始めた。

結局、あの嫌な感じの正体は分からないままだった。


その後も情報を集めようと町を歩き回った。

だが、目ぼしい話はなかなか見つからない。


「むぅー、疲れたのだ……」

「まだ少ししか歩いていないでしょう」

「我は頭を使ったからお腹が空いたのだ!」

「それはいつものことでは?」


アクレアが呆れたように言う。

するとアイリスが小さく頷いた。


「私も少し休憩したい」


その言葉に意外だったのか、アクレアはしばらく考え、休憩が決まった。

我たちは近くの酒場へ入り、軽く食事を取ることにした。


――酒場


席を着くなり、アイリスとファフニーは大量のご飯を注文し始め、その光景を見て苦笑いする。

若干のため息をしたあと、アイリスを見つめ口を開く。


「アイリスさん、先ほどスカラ王女様を魔眼で何か見てましたよね?」

「あ!それ気になってたのだー!」


そう言って、ファフニーはご飯をもぐもぐしながら元気よく言う。


「うん……」

「一体、何が“見えた”んですか?」


アイリスは少し考えるそぶりを見せ、話し始める。


「王女の魔力の流れが変だったの……」

「魔力の“流れ”?」

「うん。普通の人はただ流れてるだけなんだけど、スカラ王女のは……周囲の魔力が“無数の目”みたいにこっちを見てた」


アイリスはこくりと頷き、続きを話す。


「……?」


どういう事か、アクレアは理解していないようだった。


「あー、あのムズムズの正体は、我たちを監視しているってことだったのかぁー」

「そう……ファフニー、分かってて偉い」

「ふふーん!」


アイリスが頭を撫でると、誇らしげに胸を張る。

しかしアクレアは、監視されているという言葉を聞いてから、しばらく考え込む。


「……アクレア?」

「いや、すまない。ちょっとした考え事だ。気にしないでくれ」


そう言って、アクレアも食べ物に手を付けていると、近くの席にいた男たちの会話が耳に入ってくる。


「おい、聞いたか? また血黒病で死人が出たらしいぜ。もう何件目なんだ。この国は大丈夫なのかよ。しかも時期が時期だ。あと四日で結婚式だぞ」

「あぁ。誰かが玄武王を怒らせたからだ、なんて話も出てるぞ」

「おいおい、そりゃ初耳だぜ。どういうことだ?」

「そこまでは知らねぇが、なんでもあの山――『雹狼山』に誰かが登ったって目撃情報があるらしい」

「おいおい! あそこへ向かう道は二十四時間体制で監視されてるはずだぞ!


それに山へ登ることを許されてるのは王族だけのはずだ!」


「だよなぁ。でも王族が通った形跡はないらしいんだ。だとしたら一般人しかいないだろうな」

「なんて罰当たりな……そりゃ玄武王様もお怒りになるわけだ。ったくよぉ、とんだとばっちりだよな。迷惑な話だ」


男達はその後も酒を飲みながら話を続ける。


「しかし最近は物騒だよな」

「あぁ、血黒病だけじゃねぇ。夜になると行方不明者も増えてるらしいぞ」

「行方不明者?」

「なんでも、一人や二人じゃないらしい。旅人とか身寄りのない奴が消えてるとか」

「おいおい、そんな話初めて聞いたぞ」

「表沙汰になってねぇだけだろ。結婚式前に余計な騒ぎを起こしたくねぇんじゃねぇか?」


男はそう言って酒を煽る。


「まぁ、王都の兵士共は必死みたいだがな」

「そりゃそうだろ。王女様の結婚式だぞ? 何かあったら大問題だ」

「だがよぉ……」


男は少し声を潜めた。


「最近のスカラ様、なんか変じゃねぇか?」

「おい馬鹿、声がでけぇ」


周囲を見回してから、男は続ける。


「いや、別に悪い意味じゃねぇぞ? ただ昔より雰囲気が変わったというか……」

「分かる気はするな」

「昔はもっと優しかったよな」

「今も優しいだろ?」

「そりゃそうなんだが……何て言うかな」


男は言葉を探すように頭を掻いた。


「笑ってるのに笑ってない感じがするんだよ」

「……あー」


隣の男も妙に納得したように頷く。


「確かに最近はそんな気もするな」

「まぁ王族様だしな。色々あるんだろ」

「結婚も控えてるしな」

「東の王子様は随分惚れ込んでるみたいだが」

「見た目だけならお似合いだよなぁ」

「見た目だけってお前……」


男達はどっと笑った。

男達はその後も他愛ない話をしながら、店を出ていった。


「雹狼山に行方不明……一体何が起きているのだろうか。それに血黒病?血黒病……あの流行り病のことか」


不穏な気持ちになりながらも、玄武王がいる場所の手がかりが得られただけでも成果だった。

そして血黒病、行方不明者、時期の一致。どうにも裏がありそうだ。


「雹狼山か……。詳しく調べる必要がありますね」


アクレアは、雹狼山について調べるため図書館へ行こうと提案した。

もしかしたら、玄武王に関する資料も見つかるかもしれない。


私たちはその提案に乗ることにした。


「あー、図書館かー。字ばっかりなのだ?」


ファフニーが不満そうに口を尖らせる。


「静かにしていれば問題ない。情報を得るには一番確実だ」


アクレアが淡々と返す。


「我、いっぱい食べたから眠くなる気がするのだ……」

「図書館で寝るのはやめてくれ」

「むぅー……」


そんなやり取りを横目に、アイリスが小さく呟いた。


「雹狼山……嫌な感じがする」


その声は小さかったが、妙に重かった。


あとは雹狼山の周辺を気づかれずに調査しなければならないが……今は難しそうだ。


「……まずは情報収集、だね」


アイリスが静かに言う。

次の目標を決め、図書館へ向かうことにした。


―――――――――――


私は鎧を着て、さっそく仕事に取り掛かることにした。

すると、誰かがノックしてきた。私は返事をする。


「はい、どうぞ」


扉が開き、紫髪の凛とした女性が入ってきた。

私は立ち上がる。

女性は私に向かって丁寧に頭を下げた。


「初めまして。遠い地よりお越しいただき、深く感謝申し上げます、勇者様。私はこの国の次期王女、スカラ=ヴォルディと申します。本日は何卒よろしくお願い申し上げます」

「私は御剣正義と申します。こちらこそ、よろしくお願いします」


お互いに挨拶を交わし、握手をする。

その手は、まるで氷のように冷たかった。

私は一瞬だけ眉を動かす。


(……冷たい、というより“熱を感じない”な)


私は不思議に思い、尋ねる。


「手が冷たいですね。どこか寒い場所にでも行かれましたか?」


「いえ、問題ございません。生まれつき、常人より体温が低いだけのことです」

「そうでしたか。余計な気遣いでした。申し訳ありません」

「いえ、お気になさらず。勇者様のご配慮、ありがたく存じます」


(丁寧だな……いや、丁寧すぎるか)


私は心の中で少しだけ違和感を覚えたが、表には出さなかった。

王女に案内され、城の中を歩いた。

フィルネル王国とは違い、全体的に白を基調としている。

城というよりは、どこか教会のような静謐さを感じさせる造りだった。


「勇者様は、長旅の疲れなどはございませんか?」

「問題ありません。移動自体は慣れておりますので」

「左様でございますか。噂では別の世界から来たとお伺いしています。この世界には少しでもなれましたか?」

「ええ、かれこれ半年ですかね…なれるところにも慣れました。」


(……情報は、もうある程度こちらの動きを掴んでいるか)


「さて、今回は既に聞いていると思いますが、護衛をお願いしております」

「ええ、そうですね」

「少なからず、私たちヴォルディ家を狙う輩もおりますので、そのために勇者様をお呼びいたしました」


私は一度だけ頷く。


「承知しております。ただ一点よろしいでしょうか」

「何でしょうか?」

「“護衛対象”は、王族全体と捉えてよろしいですか? それともスカラ王女個人を指すのでしょうか」


一瞬、空気がわずかに止まる。


「……基本的には、ヴォルディ家全体でございます」

「わかりました。任務として理解しました」

「ご理解いただき、感謝いたします」


私は再び周囲を見る。


(この城、静かすぎるな……)


足音がよく響く。

なのに人の気配は薄い。

“生活している城”というより、“管理された空間”に近い。

他にも気になるところはある、スカラ王女が通っても兵士は視線を合わせない。

それどころか、王女の後ろに誰も立たない。普通護衛は一人や二人いてもいいのでは?と思う。


私は小さく問いかける。


「王宮内の警備は、常時この程度なのでしょうか?」

「はい。外部からの侵入は厳重に防いでおりますので」

「……そうですか」


(“中”は守る気が薄い、あるいは別の理由か)


そう話していると、前方から背の高い男性がこちらへ歩いてきた。

その男は手を振りながら近づいてくる。


「やぁ、スカラ王女……今日も麗しい」


彼はスカラを見つめ、頬をわずかに赤らめた。

その視線は隠しきれず、むしろまっすぐすぎるほどだった。

しかし、対する王女は――


「ニルヴァフ王子、ご機嫌麗しゅうございます。本日はどちらへ?」


クスリと笑みを浮かべる。

だが、その笑いにはどこか違和感があった。

確信はない。けれど、表情の奥が動いていないように見える。


(……笑っている、はずなのに)


「あ、あぁ。少し食事に行こうと思ってな。どうだ? スカラ王女もご一緒にどうだろうか?」

「あら、それは光栄ですわ」

「もちろんだとも! スカラ王女とは色々と話したかったんだ」


どうやら食事に誘われているらしい。

ニルヴァフ王子はどこか初々しく、好意を隠す気もない。


(分かりやすい……いや、真っ直ぐすぎるのか?)


いいなぁ。

私もいつか、あんな風に誘われてみたいなぁ。


(黒杉くん元気かなぁー……いや、今は任務中だ。集中しよう!)


自分の思考に軽く首を振る。

そんなことを考えていると、ようやく王子はこちらに気づいた。


「スカラ王女、そちらの女性は?」

「こちらはフィルネル王国よりお越しになった勇者様でございます」

「初めまして。御剣正義と申します。ニルヴァフ王子、どうぞよろしくお願いいたします」

「おぉ! 勇者様でしたか! お初にお目にかかります! 私は東の国より参りました、ニルヴァフと申します! 遠路はるばるスカラ王女のためにお越しいただき、誠にありがとうございます!」


(“王女のために”……か)


言葉の選び方が少し気になるが、今は流す。

男は私の手を両手で握るなり、勢いよく上下に振った。

あまりにも力強く、視界がわずかに揺れる。


「っ……!あわわわわ……」

「王子、その辺りになさいませんか? 勇者様が戸惑っておられます」

「あっ、これは失礼いたしました……!」


ようやく手が離れる。


(握手というより、挨拶の儀式だな……)


私は軽く息を整える。


やばい、クラクラする……。

あとでキュアをかけておこう……。


そうして、私たちは外出することになった。

よかったら、ブクマお願いします(切実

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