6.東雲光輝
「夕月さんって男の人と2人暮らしなんだって」
日向と街をぶらぶらしてると曜子に夕月、それから夕月の友達の奈々と出会った。
「男の人って京司さん?」
俺は夕月の兄を知っていた。水鏡京司、大学生でこの前、親父に無理矢理連れて行かれたパーティに出席したときに久々に再会した人だ。
「違う、書生なんだって」
書生って、今時の言葉じゃないな。意味もわからないし。
「僕たちもその人に会ってみたいな。おじゃましてもいいかな?」
俺は特に興味はなかったけど日向が行きたいと言う。
「えーと、いいと思うけど」
夕月はためらい気味だった。でも、結局は快くとまでは行かなくてもオーケイの返事を貰うことに成功した。
夕月の案内で部屋に通された俺たちは適当にテレビとか見たり話をしたりしていた。
しばらくして風呂場から芦屋理央が現れる。
「ごめんね、見苦しいところをみせて」
年上のくせに俺たちに丁寧な言葉で話す話し方が気に入らなかった。俺はこいつとは気が合わないらしい。
「びっくりしましたよ」
まだ興奮が冷めてないみたいな奈々、顔が真っ赤だ。
「風呂上がりなら言ってくれたらよかったのに」
頬をふくらませる夕月、小さい頃は無愛想な女だったけどこういう表情は少し可愛いかもしれない。
「みんながこんなに早く帰ってくると思わなくて」
曜子たちに食事をしてこいと言ってお金を渡したらしい。自分は家で食べるつもりらしく台所には調理の途中の食材があった。
「ご飯は食べてきたの?」
「ううん、総菜を買ってきて家で食べることになったの」
「そうなんだ、日向くんたちもご飯はまだなのかな?」
「ええ、僕たちも分も買ってきました」
「それなら、私も一緒に食べますね。いまお茶を沸かしてきます」
そういって芦屋理央が台所に戻っていった、手伝うと言って夕月も席を立つ。
「なんか、不思議そうな人だね」
日向が俺にだけ聞こえる声で話しかけてくる。
「ああ」
そうとしか答えなかった。気に入らない人だねとはさすがにここでは言えないし。
曜子は手作りの肉じゃがに興味をもった様子だった。
「それ、美味しそう」
俺たちはそれぞれ買った総菜をテーブルに広げる。みんなそれぞれ自分の好みの物を買ってきたが買い物に行ってない芦屋理央だけは自分で作った物をテーブルに並べてる。
「よかったら、どうぞ」
芦屋理央の前に並べられた総菜は見た目だけは美味しそうだった。さすがに、夕月の世話を任されてるだけある。
曜子は肉じゃがを分けて貰い口にしてる。美味しそうな顔をするのでちょっとムッときた。
「あたしもそれ欲しいかな」
奈々も芦屋理央の料理が気になるみたいだった。
「ちょっと待っててね」
席を立つと小皿に少し盛って奈々の前に差し出す。夕月との親友だけあって芦屋理央とも顔見知りだ。初対面の曜子に対してと対応が違った。
確かに初対面の曜子に皿に盛って渡すのはどうかと思うけど。
「理央さんの料理って美味しいからあたし好きですよ」
「ありがとうね。そう言ってくれるのは君だけだよ」
そういって奈々に対して笑顔を見せてる。
「私だって美味しいって言ってるよ」
頬をふくらませる夕月に「私は君の料理の方が美味しいと思うよ」って芦屋理央は言う。
やっぱり、俺はこいつが気に入らない。