4.芦屋理央
「今日はこれから客を連れてくるからしっかりもてなしてね」
夕月が電話越しに偉そうに命令する。
「はい、わかってます」
これも仕事。俺は感情を出さずに答えた。
「私に恥をかかせないでね、わかった?」
住まいが変わっても、俺の主は夕月らしい・・・・。
「って、そんなこと言ってません・・・・・」
夕月が友達を連れて帰ってきた。中学生の時と違って高校生活を楽しんでるらしい、ホントに安心したよ。
「リオくん、お友達が遊びに来たいって言ってるんだけどいいかな?」
家で怠惰な生活を過ごしてた午後に夕月から電話が入った。
「かまわないよ。一応は君の家なんだしね、俺は出かけてたほうがいいかな?」
夕月と一緒に暮らしたときに、俺は友達をこの家に連れてこないって決めている。だからと言って夕月に同じ事を強要しようとは思ってもいなかった。
「ううん、奈々がおみやげを買っていくから一緒に食べましょう」
奈々とは夕月の一番の友達、素朴そうで可愛い女の子の姿が頭に浮かんだ。
「そか、あまり気を遣わないでって言っておいて」
俺はそう言って電話を切った。一応は夕月に居候させてもらってる身だ、客のもてなしぐらいはしようと思っていた。
「ただいま」
「おじゃまします」
夕月は丁寧にチャイムを鳴らしてから入ってきた。別に自分の家だから気を遣うことないのに。
「おかえり、いらっしゃい」
2人を玄関まで出迎える。夕月と奈々の2人がいると思っていたが、後ろに知らない顔が一つあった。
「えーと、都築曜子です」
目があったがすぐにそらされる、人見知りする子なのかもしれない。
「初めまして曜子さん、妹がいつもお世話になってます」
にっこりと笑って挨拶、子供の受け入れてもらうには笑顔が一番の武器だと最近になってわかった。
「夕月さんのお兄さん?」
夕月の対面や自分がめんどくさくならないように夕月の兄という設定にしてある、ホントの兄妹じゃないことを知ってるのは夕月の担任の教師と今そこにいる月島奈々だけ。
「新しいお兄さん?・・・」
っあ、いきなり嘘がばれた。
なるほどね、都築さんの家は水鏡家と知り合いだったわけね。
いきなりばれた嘘、どうやら原因は俺にあったわけじゃなかった。
「私と夕月さんの関係か」
当たり前だけど興味あるよね。といっても、この曜子って子になんて説明して良いのかが難しい。
「書生って言葉知ってるかな?その言葉がしっくりくるかな」
「書生って家に寄宿させてもらいながら学校に行かしてもらう人ですか?」
答えたのは奈々。どうやらこの子は物知りらいし。
「うん、そうだね。家賃代わりに家事や雑用をする人たちだね。といっても別にうちはそこまで貧しいわけでもないけどね」
一応付け加えておく。まぁ、夕月や曜子にとっては貧しいだろうけどね。
「そう言う成り行きで今一緒にいるんですよ」
俺はそこまで言うと紅茶を一気に飲み干した。奈々が選んでくれたケーキは美味しく、一個では足りないぐらいだった。
「改めてよろしくね、一応彼女の保護者を任されてる芦屋理央です。まさかあなたが京司さんと顔見知りとは知らなくて嘘を言いました、ごめんなさいね」
今度はホントのことを言った。
「あの〜、私の色目を使って微笑まないでください」
・・・・・・・・。
この子は何を考えてるんだろ・・・・・・・。
っあ、夕月も奈々も呆然としてる。
「心配しなくても大丈夫ですよ。私は女の子に興味はないから」
っお、今度は曜子ちゃんが唖然とした。でも、夕月いくら俺が変なことを言ったとしても紅茶を吹き出すのは汚いぞ。
なんだかぱっとしない午後のような気がした。