18.芦屋理央
「兄さん、随分やつれたね・・・・」
「そんなことはないよ」
俺は出来るだけ笑顔で答えてみせる。だが、弟はそんな俺と反比例するような表情を俺に向けた。
「やっぱり、無理だったんだよ。帰ろうよ」
「そうしたいけど、出来ないんだ」
「でも・・・・それだと兄さんは・・・・」
「真央、ごめん・・・・」
「それ・・前もやりましたよね・・・・?」
そうだったかな。
少し早く来すぎたかもしれない。
そう思った俺はJRの駅にあるファーストフードの店で時間をつぶすことにした。
携帯で時間を見ても到着まで30分近く時間がある。
『駅にいるから着きそうになったら連絡くれ』
ポテトを口に入れながらメールを打った。
最近になってこの店では禁煙の時間作ったらしく、喫煙者の俺からしたら迷惑な話だった。こっちはタバコ税を払っているのにどうして世の中は喫煙者に厳しいんだろう・・・。
『もう少しかかりそう、降りたらメールするね』
すぐに返事が返ってくる。真央はこういうのに対しては几帳面なのだ。
退屈だった俺は本を読みながら少しうたた寝していた。メールの着信音で目が覚めて改札口まで向かった。
「久しぶり」
ちょっとした荷物を抱えた真央を見つけ声をかける。
「ホントだね。ところでその子誰?」
真央の視線は俺の横を見ていた。
「っえ?」
真央の視線を追いかけると申し訳なさそうに俺の服をちょこっと握った少女が後ろに控えている。都築曜子、夕月の友達だ。
「なんで君、此処にいるの?」
学校が終わってまっすぐに来たのだろう、その証拠に彼女は制服姿だった。
「理央さんの弟さんを見に」
直球だった、真央の顔がちょっとだけ引きつってる気がする。
それに俺の弟は見せ物じゃないぞ。
「そうなんだ、初めまして。えーと、兄とどういう関係の人かな?」
どんなことがあっても笑顔を絶やさない真央、そう言うところは尊敬するよ。
「妻です」
うわっ、あの真央がどん引きしてる。
それにこの子は赤面せずになんてことを言ってくれるんだ・・・・。
「兄さん、ずいぶん若い奥さんを見つけたんだね」
苦笑を浮かべながら真央は言う。
「違うから、この子はゆづきの友達だよ。
で、なんでここに来たの?」
「2人が逃げないように迎えに来たの」
どうもこの子は俺となにかがずれてる様な気がする。
意味がわからない。
「なんで僕たちが逃げると思ったの?」
「家にね、みんな揃ってる。みんなで弟さんを歓迎するんだって」
なるほどね、人見知りのしない真央なら気にしないだろうけど俺なら帰るのを躊躇ってしまうね。
「みんなって?」
ある程度答えはわかっていたが一応尋ねてみる。
「夕月さんに奈々さん。それから兄さんに光輝」
夕月のお友達、全員集合って感じか。
「みんなして僕を歓迎してくれるのか、嬉しいね」
真央はホントに嬉しそうだ。自分を歓迎してくれるのも嬉しいが夕月に友達が出来たことも嬉しいのだろう。
「改めて君の名前を聞いて良いかな?」
「わたしは都築曜子」
「曜子ちゃんか可愛い名前だね。僕は芦屋真央、よろしくね」
「理央さんの弟ならわたしにとっても弟。仲良くしてください」
真央がなにか言いたそうにこっちを見たが、疲れた俺は何も言わなかった。
俺は真央の荷物を一つ持ってマンションへ向かった。
もちろん、曜子も一緒に。