12.芦屋理央
「桜の花よりも君の方が綺麗だよ」
頬を桜色に染めるその姿が可愛らしい。
静かな風が通りすぎた、桜の花びらを散らして。
「お酒の中に花びらが入っちゃったね」
「気にならないさ」
俺はそう言って杯に口をつける。
「美味しいの?」
「うん、でも君の方が美味しそうだよ」
「あの〜、それって誰とやりたかったんですか?」
イヤ、別に誰とってわけじゃないよ。ただの妄想だから・・・・・
桜の花言葉は華美、精神美。日本人の美徳そのものだと思う。
「アルコールって美味しいの?」
綺麗な桜を見て飲む酒は家で飲むものとは味が違う、たとえ安物の缶ビールだとしても。
「うん、美味しいよ」
力説しても彼女たちには解るはずがないので簡単に答えておく。
夕月、奈々、曜子。3人とも未成年の高校生、ビールの味を知ってたらそれはそれで問題だ。
当たり前だが夕月達はビールを飲まずに曜子が用意したジュースをそれぞれ飲んでいる。花を見るのも良いがこうやって集まって料理を食べたりすることは確かに楽しい。
「今日の料理は私と奈々ちゃんが作ったんだよ」
重箱に詰まってる色とりどりの綺麗な料理を指さして夕月は誇らしげに言う。
「そうなんだ、2人ともありがと。ホントに美味しいよ」
雰囲気のせいだけじゃない。料理も本当に美味しい。
夕月は幼い頃から家事をしていた為に料理の腕はピカイチだ。
どこに嫁に出しても恥ずかしくないぐらいだと俺は思う。
「ヨウコも料理覚えたい」
「うん、今度曜子ちゃんにも教えてあげるね」
面倒見の良い夕月は曜子と約束する。だが、俺は曜子が料理を作る姿を想像出来ない。
「失礼なこと考えなかった?」
曜子が俺を睨んだ。人の心が読めるのか?
だが、可愛らしいエプロンをして包丁を持ってる姿は愛らしいかもしれない。
「エッチなこと考えてない?」
ホントに人の心が読めるのか?それにエッチなことは考えてない。
「夕月に教わったらすぐに上手になれるよ」
話を締めくくった。
そういえば学校の奴らも花見をすると言っていたのを思い出した。
正直、ここで鉢合わせしたくない。可愛らしい女子高生達をはべらして桜を見ている姿を見られたらなんて誤解される事やら。
「っよ、リオ」
そう考えたときに限って見つかるモノだ。
振り返ると信次が居た。
「居たのか?」
「ああ」
彼はそう言うと俺たちのシートに腰をかけた。こいつなら俺は歓迎する。
「随分、可愛らしい子達をつれてるな」
「そうか?」
信次は俺の手元にあるビールを空け飲み始めた。
夕月達がこっちを見ているので紹介することにした。
「阿部信次。学校の友人かな」
「リオの友人です。美人さん方よろしくね」
夕月達もそれぞれ名前を名乗るだけの簡単な挨拶をしていた。
「さて、そろそろ戻らないとやばいから行くね。あっちは行かない方が良いぞ」
そう言って指を指した方向に信次は帰って行った。
つまりはその方向に仲間達がいるということだ。
親友だけあって俺が望んでることを信次は知っていた。