10.芦屋理央
「芦屋くん、今日は暇そうね?」
横に座る美人が話しかけてくる、俺は必死に無視を決め込んでいたが本を読む集中力が無くなってきた。
「こう見えても意外と忙しいんですよ」
一年先輩の明日香さんと話してる。現役で入った彼女の方が先輩だが年は俺の方が上だった。
「バイトとかしてないくせに?」
「ええ、本職がありますから」
適当にあしらう。俺はこの人が苦手だ。
午後の講義をサボって図書館で読みかけのミステリを読んでるところにこの先輩が現れたのだ。
「で、何処か行かない?」
「だから予定が入ってるんですって」
本を読んでるときに友人からメールがきた。だから予定が入ってるは本当。
「リオ、お待たせ」
やっと、来た。
「遅かったな」
非難がましく待ち人を睨む、だが真面目に講義に出てた彼に非はない。
「っあ、東雲先輩」
俺の横にいた明日香さんに気づいた。
東雲明日香。夕月の幼なじみの東雲光輝の姉。
東雲明日香と知り合ったのは合コンの席だった。
「あそこにいるのって東雲のお嬢様らしいぜ」
隣に座ってる奴がこっそりと教えてくれる。
「東雲ってあの東雲?」
ただでさえ珍しい名前だ。この町の有名な代議士をすぐに想像する。
「ああ、多分あの東雲だ」
正直、合コンは気乗りしなかった。だが、俺は夕月の世話があるかので、仲間内では付き合いが悪い方だった、そう言ういきさつでたまには出席しないと疎遠になってしまうと思い参加した。
「で、信次はどの子を狙ってるんだ?」
合コンに誘ってくれた友人に尋ねる。信次は現役で入った為に俺とは同級生なのだが年齢は俺の2個下、だけど仲良くなりお互いにため口で話してる。
「左端の大人しそうな子かな」
ウェーブのかかったロングヘアーの女の子だった。正直、俺もその子が良かった。
「芦屋くんって妹さんと2人暮らしなんだ?」
「ええ、手のかかる奴ですけどね」
狙い通りに行かないモノで俺の横には明日香が陣取っていた。
信次も狙った子は別の奴と話してるし、お互いに失敗。
「今度、どっかに連れて行ってね」
「難しいかな、妹が嫉妬しますからね」
と、断ったはずなのにまだつきまとわれている。
正直、お金持ちのお嬢様は苦手だ。
信次と夏物の服を見に行くつもりが明日香さんまで付いてきてしまった。
「すまん」
「別にいいさ、気にするな」
「この埋め合わせはこんどするから」
「ああ、わかった」
アイコンタクト、言葉に出さずに信次と会話した。
人間って不思議なモノで変なときに心って通じるモノだ。
「っで、2人はどんな物買うの?」
安物の量販店で買うつもりが連れてこられたのは何故かブランド店。
「見に来ただけですよ」
気に入った服はあるが高すぎる。
「バイトの給料が入るまでは僕も無理かな」
お互いに買うことを拒否してる、このお嬢さまとは金銭感覚が違うことがわかった。
「でもさ、それぐらい良い服を着ないと夕月ちゃんに恥をかかせるんじゃない?」
っえ・・・・
今、なんて言った?