第2章 まっすぐな瞳
『乾杯!』
グラスが重なり
柔らかな音が広がる。
お酒を飲むのは久しぶりだ。
恵美子とは、お茶会が多く、
余り夜は会わない。
恵美子は私と違って
小さな子供が三人もいて
まだまだ母親が必要な時期だ。
それに比べて
私の方は、娘は未成年と言えど、
今年から社会人になった。
数年前に、娘に背中を押され
新たなパートナーと共に
新しい人生をスタートさせたが、
仕事がハードだったからか…
それともお互いの気持ちがすれ違ったのか…
私は高齢で、流産した。
そしてまた娘と二人の生活に戻った。
いや…元には戻っていない…
娘は自立し自分の人生を歩み始め
私は後遺症が、残った。
薬を投与している事を話したくないため
夜は友達と会うのは避けていた。
お酒は極力体に入れないために…
薬を飲んでいる為も、あるが
自分自身が弱くなるのが一番怖いからだ。
その日は、恵美子と落ち合う前に
娘と大喧嘩してきていた。
私が一番耳を塞ぎたくなる言葉。
娘からの暴言だ。
その日は、初めて娘が私に手を挙げた。
そして言われた言葉がチクリと胸を指す。
『あんたは、自分が評価されたいから、いい学校に、行かせたかったんだろ!私は行きたくなかった!』
娘の本音を初めて聞いた衝撃は、私の予想を遥かに超えて
私の中に痼りを残した。
『真知子❔聞いてる❔』
私は、どうやらぼんやりしていたらしい。
道端の声で現実に戻された。
シャンパンの泡は消え、透き通るグラスに変化していた。
『あっ…ごめん…』
私は、香りが無くなったシャンパンを流し込んだ。
『実は娘と喧嘩ばかりしているから、同じぐらいの
年代と話したら、娘の気持ちがわかるかな❔と思ってコイツ連れてきたんだよ。』
そう言って道端は後輩を紹介してくれた。
『初めまして!田口です』
まっすぐに瞳を捕らえて話す彼に
私は苦手だと思った。
なぜだか派手めで整った顔…
表面上の軽さとは反対に、心を見透かされているようで
一瞬動けなかった。
『初めまして!真知子です』
私はすぐさま仮面をかぶった。
これが田口との出会いだった…