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出会い

 部屋には、三人の女性がいた。私が入って来た事には特に驚いた様子はないようだ。私が部屋に入ってくる事を知っていたのか、それとも、誰か他の人間が入ってくる事を知っていたのかもしれない。

 しかし、チラッと見た範囲では三人の女性に悲嘆にくれた様子はなさそうだ。もしかしたら、豚鬼オークどもの慰み者になって長いのかもしれないな。


「ようやく来たか、四人目が。どうやら明日か明後日から労働の日々が始まるな」


「じっとしているだけなのは、性に合わないでござる。働かざる者食うべからず、でござるよ」


「部屋と食堂を行ったり来たりするだけはツマンナイよねえ……。ま、問題はどんな労働か、だよ。力仕事は出来れば遠慮したいなあ……」


 声に、暗さは感じられない。おかしい、いったいどういう事だろうか? 頭の中を、疑問符がグルグル回っている。


「まあ、こっち来なよ。ところで、どっちがいい?」


 手前のベッドに腰掛けている茶色の髪の毛の女性に呼ばれて近づく。しかし、どっちがいいとは、何の事だろうか? 奥のベッドに並んで腰掛けている黒髪の一風変わった言葉遣いの女性――武器の手入れをしている。見慣れない武器だな――と、私と同じ金髪で、しかし耳の形が私と違い尖っている女性のどちらがいいのか聞いて来ているのだろうか? 二人を軽く見比べる。胸の大きさで言えば、黒髪の女性の方だが……。


「ふむ、金髪の方かな」


 抱き枕にするには、そちらの方が良さそうだ――。


「何を言っているんだ、あんたは?」


 呆れた顔で茶色の髪の毛の女性に聞かれた。


「え?」


二人のうち、どちらが好みか聞いたんじゃなかったのか――?


「二段ベッドの上と下、どっちがいいか聞いたんだよ、私は。あんたの好みなんか聞いていないんだ」


 …………穴があったら入りたい。頭の中を疑問符がグルグル回っていたせいで、どうやら茶髪の女性が二段ベッドの上下どちらがいいか手で指し示していたのを見落としていたらしい。


「ねえサヤ、私の方が選ばれちゃったね、どうすればいいかな?」


「添い寝でもしてあげたらどうかな? 喜んでくれるかもしれぬよ」


 よく分からないが、部屋の奥側の二段ベッドの下段に並んで腰かけている二人は、笑っているようだ。初対面で嫌われたワケではないらしい。冗談だと受け取ってくれたのかもしれない。


「上下、どちらでも構わないが」


「そっか。私が下の方を使っているんだが、今更移動するのも面倒くさい。あんたが上の段を使ってくれ。あ、鎧は脱げよ。そこら辺の空いている所に置いておいてくれ。誰も盗みやしないよ」


 そう言って指さされた場所を見ると、私の鎧と似た鎧が一つと両手剣が一つ置かれていた。その傍にはこれまた見慣れない防具一式が一つ――おそらくサヤと呼ばれた黒髪の女性の物だろう――置かれていて、その防具一式に立てかけられるように弓が置かれていた。弓の近くには、矢筒。矢も十本以上入っている。しかし、無雑作に置かれているな。ま、私も近くに置くとしよう。


「キャストオフ」


 私の声と同時に、体から魔導鎧が勝手に外れていく。その様子を三人が驚きながら見ている。おかしいな、そんなに珍しい事なのだろうか。

 私の体から離れた魔導鎧は一か所に集まった、私の足元に。それを何とか抱え上げ、三人の武具や防具が置かれている場所の邪魔にならない場所に置く。しかし、この魔導鎧、装着した場合は物凄く軽いのに、体から外すと結構重くなる。何とかならないのだろうか、この欠点は。

 邪魔にならない場所に置くだけで一苦労だ。王城にいた頃はメイド達や他の騎士がやってくれていたりしたからな。彼らの苦労がよく分かる。


「珍しい鎧だな。誰でも使えるモノなのか?」


 興味深げに語りかけてくる茶髪の女性。一緒になってサヤと金髪の女性も覗きこんできた。


「いや、一度魔力を登録しないといけないんだ。そして、登録された魔力の持ち主しか扱えないんだ、この魔導鎧は」


「何だ、着てみたかったな」


「すまないな」


 聖剣クラウソラスも魔導鎧の傍に置く。本当は呼び出しさえすれば魔導鎧もクラウソラスも身に付けられるし、誰の目にも触れない場所に置く事も出来るのだが、そんな事をする必要はないだろう。


「ふうん、結構上質な服を着ているじゃないか。もしかして、姫様だったりとか、上級貴族のご令嬢だったりするのかな?」


 からかうような茶髪の女性の声。ああ、そういえばまだ名前を名乗っていなかったな。一応、一番わかりやすい身分も明かしておくか。


「カダス帝国第三皇女、アリシア・ルン・カダスだ。よろしく」


 さて、身分を明かしてみたが、彼女たちはいったいどういう反応を示すだろうか?

 三人とも、頭の上に疑問符を浮かべているような顔をしている。どういう事だ?


「カダス帝国って、聞いた事あるかい、サヤ?」


「いや、全くないでござる」


「ルーは?」


「私もないなあ。クリスは?」


「二人に聞いたくらいだから、私が知っているワケないだろう?」


 三人は、何を言っているのだろうか? カダス帝国を知らない? バカな、ノーデンス大陸のほぼ七割を占める大国だぞ?

 三人の顔を見てみても、本当に知らないようだ。

 ふむ、茶髪の女性がクリスで金髪の女性がルー、か。本名ではなく愛称かもしれないな。許可を貰えたら私も皆を愛称で呼ぼう。


「全員が全員、異なる世界から連れてこられた、か。そう考えるのが妥当だな」


「拙者たちも最初に会った時はお互いが元いた場所を知らなかったでござったな」


「じゃあ、改めて自己紹介をしようか。パジャマパーティーだ!!」


 拳を振り上げ、楽しそうに喋るルー。そうだな、それもいいかもしれない。明日か明後日あたりから地獄の日々が始まるかもしれないからな。

 私はクリスと同じベッドに腰掛け、サヤとルーと向かい合う形で話を始める事にした。


「そうだな、三人はお互いの事をよく知っているようだから、まずは私の事を話そう。何から話せばいいかな……?」


 皆が、私の方に目を向ける。期待に満ちた眼差しだな。何だか、照れる。

 本当に、何から話そう? 私が何者か全く知らない相手に一から分かりやすく説明するなんて、難しいな。

 国の名前? 大陸の名前? 自分が所属していた騎士団の名前? どれも必要だろう、確かに。


「おお!!」


 私はそこで手をポン、と打った。そんな事より大事な事がある。そう、とても大事な事が!!






「着の身着のままで連れてこられたから、寝間着すらない!!」




 三人がガクリと崩れる音を聞いた気がした。


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