表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/16

豚鬼皇帝の秘密(後)

「さて、いったいどこから話せばいいかねえ? エロさゼロの姫騎士殿が何度も邪魔をするので、どこまで話したか分からなくなってしまったからねえ……」


「話を脱線させているのはお前だろうがッ!! 私のせいにするんじゃない」


 だいたい、騎士にエロさなど必要ない。戦場でエロかったからと言って命が助かるワケじゃないのだから。……戦場でエロかったら、やっぱり、アレかな? 普通なら殺されるところを捕虜としてお持ち帰りされるのかな? 命が助かるのとその後の地獄と、どっちがいいのだろうか?


「ふむ……、確か色んな違法薬物を使って豚鬼皇帝オーク・エンペラーを強くしたあたりだったな。ウム、ワガハイは色ボケしている姫騎士とは違い、ちゃんと覚えておるよ。流石ワガハイ、褒め称えたまえ、崇め奉りたまえ。科学の神は君たちを見ているようで全く見ていないよ。神に選ばれし存在というモノは、たったの一握り。戦場で敵の首を胴体から分離させる事に命を懸ける貴様らのような存在が、科学の神に認められるワケなど、ないのだからねえ……」


 話の脱線具合が、たまらなくヒドイな。


「いいかね、科学というのは、とても高尚なモノなのだよ。それはもう、浪漫と言ってもいい。一生涯かかっても科学の深奥というモノには辿り着けないモノなのだよ、だからこそ、追い求めるのだよ、のぼり続けるのだよ。そう、ワガハイはまだ、のぼり始めたばかりだからな、この果てしなく続く、科学坂をなッ!?」


「アリシア、落ち着け。気持ちは分からないでもないが、見えない程のスピードで酒瓶で殴りつけるんじゃない。見ろ、蜥蜴丸がピクピクしているぞ?」


 クリスに言われて蜥蜴丸を見てみると、頭から血を噴き出しながらピクピクしている。産まれたての子鹿のようだ。……私は、産まれたての子鹿など見た事がないのだが……、おかしいな、変な電波でも受信したかな?


「科学者だからな、この程度では死なないだろ」


「お前、それ、絶対科学者に対して間違った認識しているだろ……」


 生まれて初めて出会った科学者が蜥蜴丸だからな。科学者に対して間違ったイメージを抱いたとしても、仕方ないというモノだ。全て、蜥蜴丸のせいだ。私は、きっと何も悪くない。


「ワインやウィスキーの海の中で死ぬなど、ワガハイのような科学者には屈辱よ。ワガハイのような科学者は、常に前のめりに倒れなければならない。そう、科学者というモノは、常に理想を高く掲げて生きなければならない。死ぬ時は理想を抱いて溺死するくらいでなければならない。そうでなければ真の科学者とは言えない。科学の神に認められたとは口が裂けても言えない。実際に口が裂けたらまともに喋れないんだけどねえ……」


 そこまでほぼ一息に喋って、コーラを飲み干す蜥蜴丸。暫くコーラの味を噛みしめているようだ。ここは、黙って味あわせてやろう。


「やはり、アレだねえ……。ちゃんとしたツッコミが欲しいねえ……」


「長々と語りやがった癖に、ツッコミ待ちのボケだったのかッ!?」


「ああ、愛方が欲しい。ワガハイにも愛方が欲しい。ちゃんと笑いを理解してくれる、ここぞというタイミングでツッコミを入れてくれる相方が欲しい。何故、ワガハイには笑いの愛方がいないのだろう?」


 お前の性格が問題だと思うがな。


「さて、バカな姫騎士がワガハイの頭をぶん殴ったせいで話が脱線してしまった。話を元に戻すとするかねえ……」


「もう一発ぶん殴ったら、今度はどっちの方向に話が脱線するか、非常に興味が出て来たぞ」


 よい子の皆は、中身が入っているいないに関わらず、酒瓶で人を殴ったりしないように。




「まずはワガハイ、豚鬼皇帝を強くするために色んな改造を施したのだよ。違法薬物だってもちろん使ったねえ。人権がどうこうと、騒ぎ立てる自称人権派達がいなくて幸いだったねえ。もちろん、豚鬼の人体実験やら改造やらをして、誰も人権がどうこうと訴えるなどとはしないと思うがねえ。ワガハイが目標としたのは、とある世界のワガハイの笑いの愛方の持つ最強防御力よ。これは、科学ではなく魔法によって付与されたらしいのだがね。そんな最強防御力をも凌駕する神にも等しい力を豚鬼皇帝に付与しようとしたのだよ。だがね、流石に簡単にはいかなかったよ」


「神にも等しい力を与えるなど、天に唾するようなモノだ」


「姫騎士の癖に鋭いねえ。が、何故簡単にいかなかったのかは至極単純な理由よ。豚鬼皇帝の体が耐えきれなかったのよ」


「一般的な豚鬼とは全然体格が違うぞ、豚鬼皇帝は。それでも神に等しい力を手に入れる事が出来なかったのか?」


 だが、聖剣クラウソラスの力を簡単に受け止めていた気がするが……?


「その頃はまだ、一般的な豚鬼と体格、力、その他諸々変わらなかったからねえ。一般的な豚鬼と比較して突出していたのは、無駄に肥大していた性欲だけよ」


 嫌な部分だけが突出していたのか……。


「そして、改造に次ぐ改造を施し、ありとあらゆる違法薬物をつぎ込み、これ以上はないと言うくらいまでにまずは豚鬼皇帝を強くしたねえ……。これ以上強くしちゃったら、豚鬼皇帝の筋肉が体を突き破ってこの星をも食らいつくしかねないと言うくらいまでやっちゃったね」


 筋肉が星をも食らいつくすって、それ、なんて言う化物だ?


「そして、気が付けばこの星で誰もが敵わない程の豚鬼へと成長したよ、豚鬼皇帝は。ワガハイは喜んだね。これで、最強防御力をも超えたのではないかと。次は、豚鬼皇帝を次元を超える事が出来る存在へと変える事を目標にしたのだよ」


 遂に、豚鬼皇帝の秘密が解き明かされるのか。少し期待が高鳴るな。


「さて、喉を潤すとするかね。おい、自称イケメンのバーテン、コーラを持って来い」


 自称イケメンがコーラを持ってきたので、私もコーラを頼む事にした。これ以上は、何となく酒を飲みながら話を聞くのはいけないと思ったからだ。周りを見れば軍曹殿以外は皆、ノンアルコールだ。とは言え、今までの間にそこそこ酒を飲んでいるので、皆いい感じに酔ってはいるが。


「さて、話を再開するとするかね。で、何まで話したかね、ワガハイは?」


 もしかして、こいつもいい感じに酔っているのではないだろうな?


「豚鬼皇帝が力を手に入れた所までだ」


 何故、私が毎回説明しないといけないのだ? まったく、皆こういう時だけ私にメンドクサイ役割をふってくる……。


「おうおう、そんなあたりまで喋った記憶があるような、無いような……。さて、力を手に入れる事が出来た豚鬼皇帝は、次に世界を、次元を、時間を超える術を求めたのだよ。色んな世界からヤツは自分好みの女を連れてくる事を願ったのだよ。まあ、簡単に言えば世界を渡る変態になりたい、そう願ったのだな」


 簡単に言えば恐ろしい力を持った変態になりたい、そう願ったのか。傍迷惑な話だな。


「ワガハイ自身は気が付けば星の海を渡ったり次元を超えたりする力を手に入れていたからねえ……、まったく、雲をもつかむような話であったよ。だがね、ワガハイも科学者。不可能と言われる事に挑戦する事に生き甲斐を感じてしまってねえ。また、ワガハイもホラ、男だからね。ちょっとくらいは豚鬼皇帝のスケベ心に共感できるところがあってねえ……。ついつい、やってしまったのだよ」


 何をやらかしてしまったのだろうか、この男、否、蜥蜴は?


「頑張ったよ、ワガハイ。豚鬼皇帝の力を一切削がないようにして、それでいて世界を、次元を渡る力を身に付けさせ、更には時間をも越える力を手にさせたね。色んな違法薬物を使い、拷問し、改造し、他種生物のDNAを混ぜたりなど、それはもう、ワガハイの考えつくありとあらゆる手段を使ったねえ……。合法か否か? そんな事を気にするのは、真の科学者ではないよ。法の壁を越え、改造する事によって仮●ライダーは誕生するのだよ。正義の味方でさえ、最初は悪の組織の改造人間だった事を考えれば、豚鬼を改造する事の何がいけないのかね? 豚鬼に人権、否、豚権などない。ところで、豚権って何? 野球拳の親戚? ウホッ、よく分からないけどワガハイ興奮してきちゃったよ。どうかね、姫騎士? ワガハイと野球拳、やってみない?」


 途中からサラッと怖い事を言いだしたな、この蜥蜴は。改造するだけではなく、拷問もしたと言っていたぞ? しかし、今大事な事はその事ではない。


「……野球拳とは何だ?」


「じゃんけんして、負けた方は服を一枚ずつ脱いでいくゲーム。男同士でやるのもいいが、ごく一部の異常性癖を持った人間以外は誰一人興奮出来ない禁断のゲーム。男と女でやる場合は、最終的には女を丸裸にするのが目的のスケベ心満載のゲーム。ワガハイとしては、体よりも心を丸裸にしたい」


「誰がやるか」


 いじけるなよ、蜥蜴丸。「あんなに長々と語らせておいて……」なんて言っても、嬉々として語ったのはお前で、私は語らせたワケじゃないぞ。


「ふむ、ま、野球拳は次の楽しみにとっておくとするかね。何だね、その『次などないぞ』みたいな目は?」


「別に」


 スルーするのが一番かもしれないな。


「やがて、各種実験を終え、様々な改造を施した豚鬼皇帝は、遂に世界を、次元を、時間をも超越した存在へと変貌した」


 ……色々すっ飛ばした感が半端ない気がするが、きっと、メンドクサイのだろう、説明するのは。好意的に解釈する事にした。ツッコミを入れれば嬉々として連日の経過を説明してくれるかもしれないが、それはゴメンだ。


「だがねえ、ここで、問題が起きたのだよ」


「問題?」


「薬には副作用があるように、強過ぎる力を手に入れた豚鬼皇帝は、とても大事なモノを失ってしまったのだよ」


「大事なモノ?」


「そう、それは豚鬼皇帝のアイデンティティーをも揺るがす程のモノよ」


 豚鬼皇帝のアイデンティティーをも揺るがす程のモノを失った、だと……? それは、いったい――。






「それは、性欲よ」




 全員がズッコケた音を聞いた気がした。


「せ、性欲?」


「そう、ヤツは初めて世界を、次元を超えた日、戻ってきて泣いた。人目を憚らずに泣いた。人などこの時何処にもいなかったが、人目を憚らずに泣いた」


「モノの例えの事など、今はどうでもいい」


 そんな事など、今はどうでもいいのだ。どうなったのだ、豚鬼皇帝は?


「世界を渡った先で、ヤツは自分好みの女を見つけた。森へと引きずり込み、女を犯そうとさえ考えた。だが、出来なかった。実行に移そうとする気力が一切わかなかったそうだ」


「…………」


「何度も色々な世界、様々な次元、異なる時間へとヤツは飛んだ。その度、何の成果も得られずに帰って来ては泣いた。そう、ヤツはあまりにも強大なる力を手にした反動で、“性交不可能ミッション・インポッシブル”な体に変わってしまったのだよ」


 何と、ヒドイ反動だ……。涙が出て来そうだ。


「だが、ヤツも転んでもタダでは起きなかった。ヤツは散々泣き散らかした後、この世界に文明をうちたてる事にしたのだ。それで、様々な世界から問題を抱える者どもを集めて、一大文明世界を作り上げる事にしたのだ」


「ま、それで集められた連中の中に俺達がいるってワケだ」


 今まで黙っていた軍曹殿が口をはさんできた。リョーマも頷いている。


「そして、早数十年が過ぎた。豚鬼皇帝は、遂に己の命の終わりが近付いているのを感じたのだ」


 ずいぶん長生きだな、豚鬼皇帝は。まあ、それだけの時間がないと、オークランドがあれ程の町にはならなかっただろうが。


「そして、ヤツは遂に己の生きた証をこの世界に作る事に決めたのだ」


 それは、いったい何だ――?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ